【完結】僕は君が好き

トト

文字の大きさ
1 / 1

僕は君が好き

しおりを挟む
「大地。大好き」
「俺も太陽のこと一番好き」

 幼稚園児にとってはそれは挨拶と同じぐらい自然に出る言葉。
 小学生に上がっても低学年までは「お前ら本当に仲いいな」と言われる程度。
 だが、それも学年が上がるたびに、からかいのネタになるのでいつしか口にださなくなった。
 それでも僕の心の中は、いつもその言葉で溢れていた。

 そして中学生になり、僕は初めて女子からその言葉を告げられた。

「好きです太陽君、私と付き合ってください」

 その時僕は初めて彼女の言う好きと、僕が大地に投げかけていた”好き”という言葉が同じものであったと気がついた。

「ごめんなさい」

 僕はその”好き”に答えることはできない。でも僕の中の”好き”を好きな相手に伝えることはもっとできない。
 そんな事実に打ちのめされた。

 僕が自分の”好き”に気がついた後も、大地との関係は変わらず続いた。大地にとって僕は幼馴染であり、一番の親友だった。でも僕の中ではその肩書は辛すぎた。
 
 だから僕は遠い高校に進学した。
 初めこそよくメールでやり取りをしていたが、やがてそれも減っていった。
 そして大学生になるころには、一切の連絡を絶っていた。

 その間僕は、来るものは拒まず数多くの女性と付き合った。気の合う同期に可愛い後輩、しっかりものの先輩。しかし大地より”好き”になる相手は見つからなかった。
 そんな出会いと別れを繰り返した僕は一つの結論に達した。

「やっぱり、僕は男が好きなのかな……」

 いままであえてそこからは目をそらしていた。
 大地以外にも、仲の良い男友達はいたが、付き合いたいとは思ったことはなかった。でもそれも、どこかでそんなことを言ったら嫌われる、避けられると思っているからかもしれない、それを確かめるには──。
 僕はその日とうとうゲイバーに足を踏み入れた。
 
 少し薄暗い店内には、思っていた以上に大勢の人がいた。

「あら、坊や、ここには初めて?」

 入ってみたはいいが、その後どうしていいか分からず入り口で固まっている僕に、バーのママがそう声をかけた。

「この席どうぞ」

 そういって、僕を一つの席に導いた。

「この子も今日初めてなのよ」

 そういって隣の席の子を紹介してくれた。

「今日は可愛い仲間が二人もできてうれしいわ」

 そういってママはお祝いだとお酒をサービスしてくれた。

「なんか緊張しますね」

 僕はぎこちなく、とりあえず隣の席の男性にそう声をかけた。

「実はまだ僕、自分の性癖がよくわからなくて」

 初対面の人に何をいっているんだと思ったが、なんとなく隣の男性は気を許せる気がした。

「そうなんですね。実は俺もなんです」

 振り返った顔を見て、危うく僕は手にしたグラスを落としそうになった。

「大地!?」
「……太陽?」

 大地も僕の顔をみてそのまま固まる。

「どうして、太陽が」
「いや、それは僕のセリフ」
「だって、お前彼女がいただろう?」
「えっ」
「高校に入って、だんだんお前から連絡が減って。俺、お前の家までいったんだ。その時彼女と帰ってくるお前を見たんだよ。だから──」
「あっ……、いや、いまはそんなことどうでもいい、大地、男が好きだったのか?」
「いや、その……わからないんだ」
「わからない」
「太陽に彼女がいるって知ったら、なんだか、裏切られたような気持ちになって。でも、そんなことお前に言えないじゃん、だから俺も、彼女が出来たらまたお前と普通にまた話せるんじゃないかって、何人かの女子と付き合ったんだけど、うまくいかなくて」
「…………大地……」
「だからもしかして俺って、女じゃなくて、男が好きなんじゃないかって、でもそんなのクラスメイトで試すわけにもいかないだろ、だから……」

 そうか大地も僕と同じように悩んでいたんだ。

「大地、僕もいままで色んな女の人と付き合ったけど、ダメだった。可愛いと思うし、尊敬できる人もいたけど、大地を思う時のような胸の高鳴りを感じる相手はいなかった。だからきっと自分の恋の対象は女性じゃないのかもしれないと思って、今日ここにきてみたんだけど、どうやらそれも間違いだったらしい」

 大地の瞳の中に僕の姿が映っている。

「僕は男とか女とかじゃなく、大地が好きなんだ」

 きっと僕の瞳にも大地が映っているだろう。

「だから僕と付き合ってくれませんか?」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

嘘をついたのは……

hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。 幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。 それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。 そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。 誰がどんな嘘をついているのか。 嘘の先にあるものとはーー?

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

処理中です...