最低な彼

桃華

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「っ…何で?私を疑ってる?嘘ついてると思ってるから?」

 どれだけ考えても、テルの行動の意味が分からない。
 避妊リングを着けてるって言ったら、みんなに出したし。
 に出してもらえることで、私は自分が愛されていると思えた。
 ユリアじゃなくて、私を選んでくれたのに。わがままは聞いてくれて、私を一番にしてくれるのに。

(なのに何で…)

 拒絶されたと思った私は、大声でテルを問いただした。

「違うって。しておいて、信じられないかもだけど…。レナが大事だから。身体は?平気?」

「え…?」

 確かに激しいなって思ったけれど、男なんてみんなこんなものだと思ってた。
 貪るように体を求めて、欲望のままに精を吐き出す。それが愛されてる証だと思っていたのに。

 目の前の彼は気まずそうに謝って、私の身体の心配をして、労わってくれている。

「ごめん。次からは気をつける」

 そう言って私を抱きしめる彼の胸の中で、今までに感じたことのない心地よさに酔いしれた。それと同時に怖くなった。
 今までの人のように、私の元を去って行くんじゃないかって。
 そうならないよう、私が出来ることなんてやっぱり、セックスコレしかないって。
 そうすることでしか、私は愛してもらえないから。
 悪魔族とハーフの天使族。それだけで、母からの愛情なんて与えられなかった。
 それなのに淫魔の血まで流れている私は、悪魔族からも馬鹿にされる底辺の存在。
 天使族に流れる『聖力』どころか、悪魔族の『魔力』だって流れていない。

 妖艶であること以外に取り柄はない。

 中途半端で、愛情を注がれたことのない私は、テルをどうやったら繋ぎ止められるのか分からなかった。

(どうやったら…ずっと一緒にいられるの?)

 あの時この言葉を口に出して、言えたなら…。今もテルの隣には私が居たのかもしれない。

***

 それからも私は変われなかった。テルは私を気遣ってなのか、ずっと家に泊まってくれた。
 いつものように身体を重ねて、いつものように、シャワーを浴びた。
 その後はテルと一緒に眠る。普段と変わらないと思っていたのに。
 シャワーを浴びて部屋にもどると、テルは服を着て帰る準備をしているところだった。

「え?どうして?」

 問われたテルは、冷静を装いながら最小限の荷物で部屋を出ようとしていた。

「ごめんレナ。ユリアに連絡つかないんだ。こんなこと、今までなかったし一旦家に帰って…」

 テルから発せられた『ユリア』という言葉に、苛立ちを覚えた。
 ユリアがいる限り、私はテルの一番になれないような気がした。

「眠ってるだけでしょ?!連絡が少し遅れただけなんて…そんなのどうでもいいじゃん!?」

 出て行こうとするテルの腕を取った。行かせたくなかったから。
 この部屋を出て行くと、もう戻って来ないんじゃないかって不安だったから。

「…ごめん。直ぐに戻るから…」

「何で?!妹を優先するなんて、あり得ない!!」

 私がそう叫んだとき、雰囲気が変わった。
 いつものような優しいテルじゃなくて『面倒だ』とでもいうような、大きなため息が聞こえた。

「…ここ1ヶ月ずっとレナを優先してきたけど?レナが嫌がるから、ユリアと話すのも最小限だったし、家にも帰らず『ここ』に帰って来てた。それなのに、まだ足りない?」

 そうだ。テルはこの1ヶ月、私のわがままを全部聞いてくれていた。
 でも、それだけじゃ嫌だ。もっと、私が一番愛されてるって確信が欲しかった。

 1秒でも離れたくなかった。私だけを見ていて欲しかった。
 テルの優しさは、全部私に向けて欲しかった。

「そんなの足りるわけないじゃん!ユリアがテルと過ごした時間の方が長いしっ…」

 子供っぽい言いがかりだってことは分かっていたけれど、もう止まらなかった。

「…無事だって確認できたら直ぐに戻るから」

 それだけ言うとテルは私の腕を振り払って、ユリアの元へと行ってしまった。



 結局テルは、二度と私の部屋に来ることは無かった。
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