ただ一緒にいたいだけ

桃華

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「ミリヤはブルームン王国の誇り高き純血の天使族だ」

「聖なる力を持って産まれたんだから、ミリヤもこの血筋に恥じない生き方をしなさいね?」

 私は産まれた時からずっと、両親からそう言われて育ってきた。
 純血の天使の何がそれ程誇り高いのか、それはさっぱり分からなかった。

 天使族の国ブルームン王国は、イリヤ王子の計らいで色々な種族が集まってきている。
 魔法を使える『悪魔族』は、私とそんなに歳も変わらないような子供ですらモンスターと戦って、街の安全を守っている。
 私たちが街でモンスターに襲われている時、助けてくれたのだって悪魔族の少年だった。大丈夫か気遣ってくれて、私なんかよりよっぽど誇り高く見えた。

 だって、10歳の誇り高き天使族の私は未だにモンスターは倒せないし、治癒魔法だって使いこなせていない。

(悪魔族の方がよっぽど誇り高いよね。みんなのこと、守ってるし)

 そう思っていたけれど、面倒だから両親にそう言われる度に「はい」と、にこやかに微笑んで頷いていた。


 それから二年後12歳の春。ガーディアン養成校への入校式の朝、父は制服姿の私に向かってキツく言った。

「いいか?ミリヤ。世の中には色んな種族がいる」

 ガーディアン養成校はその名の通り、ガーディアンを養成する学校だ。
 傭兵として戦場に向かうこともあるし、モンスターと戦うことだってしないといけない。
 私たちはそんな人たちの傷を癒し、少しでも多くの人を救うことが主な仕事となる。
 私はそんな人たちと共に学べるなんて、とても素敵なことだと思っていた。

 でも、両親は違った。この国の時期国王『イリヤ』が進めた、多種族の入国による国家戦力の強化に反対の立場を変えない人達だった。
 王族と親密な関係のあるこの家は…国家の方針に従って、嫌々私をガーディアン養成校に入校させた次第だ。

「…悪魔族は穢れた血の流れる種族だ。魔法の力を人を癒すことではなく、傷付ける為に使う最低な種族。仲良くなりすぎることは避けなさい」

 だからこそこんな言葉が父親から出てくるんだと、心の底から嫌だなって思った。

 私はちっとも最低だとは思わなかった。街でモンスターに出会った時、助けてくれたのは悪魔族の少年だったし、仲良しのアスカは悪魔族だ。

 それに…誰にも秘密だけど。私の初恋はその助けてくれた悪魔族の少年なのだから。


***


「はぁ…。ロックって何であんなにカッコいいんだろ」

 実戦室の一角にあるガラス張りの救護室から、Sクラスのモンスター『ケルベロス』を魔法で簡単に倒してしまう、ロックを見つめて呟いた。
 いつ見ても鮮やかな身のこなし。石の魔法でケルベロスの動きを止めたかと思うと、その瞬間に氷漬けにして、岩を落として砕く。
 一瞬の隙も見せない。ここからじゃ分からないけど、多分傷一つ負ってない。悪魔族特有の真紅の瞳も、黒い長い髪を束ねているのもカッコいい。
 悪魔族の人って全員もれなくイケメンが多い気がするけれど、ロックはその中でも長身で物静かで優しい人。

(いけない。また見惚れてしまった…。しかたないよね。カッコいいもん)

 昔…私を助けてくれた、初恋の悪魔族の少年はロックだったし。そして…今は私の恋人でもある。

 ガーディアン養成校の入学式で見かけた時に、すぐに気付いた。鋭い切れ長な目元は変わってなかったし、雰囲気も声も覚えていた通りだったから。

 もちろん、すぐにクラスを調べて…そして絶望した。ガーディアンクラスでも優秀だったロックは、Aクラスだったし、治癒魔法も使いこなせない私は最下クラスのDだった。
 それから同じクラスに行けるように、勉強も実技も頑張った。頑張って…頑張って、何とかAクラスに入れたのは15歳。
 同じクラスになってから、話しかけることが出来たのは半年後。
 名前を覚えてもらえたのはその数ヶ月後…っていう風に、少しずつ距離を縮めて…。ようやく告白して、付き合えたのは数ヶ月程前の話しだ。

「ミリヤ声に出ちゃってる。それに、顔にも態度にも出ちゃってる。ダメなんでしょ?」

 私のうっとりとした表情を見ながら、アスカが呆れてため息を吐いている。

「いけない、アスカの前だから気が抜けてた。気をつけないと」

 私とロックが付き合っていることは、周りに知られてはいけない秘密だ。
 もし知られてしまったら、純血主義者の両親に彼は殺されてしまうから。
 そして多分私は閉じ込められて…『純血の天使族の高潔さ』を、洗脳されるまでずっと聞かされる。私に両親のような思想を植え付けるまで…ずっとだ。
 
 だから、誰にも言えない。はずだったけど、幼馴染のアスカとシュウには簡単にバレてしまった。

(私のこと、よく見てるよね…本当洞察力がすごい)

 でもこれ以上誰かにバレるのは本当にダメだ。

「…まぁ、浮かれるのも仕方ないけど。ミリヤの覚悟が決まるまでは…って、約束したんでしょ?」

 アスカとロックは同じ悪魔族で、能力的にも同じくらい。だから二人は入学した当初から、授業でペアを組まされることが多いから、ロックも気を許しているから。
 多分、ロックからも色々と聞いているんだろうって思う。

「…そうだね。息苦しいって思われてそう…」

 そんなことを呟きながら、大きなため息をついた。

 ロックに我慢させてる自覚はある。外で二人きりになることなんて怖くて出来ないし、人前で手を繋いで歩くことも、もちろん二人きりになることも出来ない。

(何で付き合ってるんだろ…って思われてそう…)

「あ、それは大丈夫だって言ってたよ。逆に、たまに目が合うと嬉しさ全面に出すから可愛いって言ってた」

 本人から直接聞いたわけじゃないのに。頬を染めて慌てふためいてしまった。

「あ…!!傷!!すぐに治すね!」

 慌てて視線をアスカの腕に戻した。軽い擦り傷を負った腕に手をかざし、その傷に治癒魔法をかけていく。

「……まぁ……もし両親にバレそうになったら、必ずシュウに話しなよ?純血主義者の暴動は危険だってこと…一番理解してるから」

 シュウはこの国のプリンセス。そしてその父親はこの国の王で、天使族の王なのに、純血主義の思想を変えようと奮闘している人だ。
 そして、うちは代々王家に仕える立場だから。万が一私達のことが知られてしまったら、国王に何とかしてもらうのが一番の解決策。そう、シュウとアスカと話をしていた。
 私の周りにいる人はみんな優しくて、恵まれているなって涙が出そうになる。

「うん……ありがとう」

 話しながらアスカの腕に手をかざすと、淡い光がその腕を包み傷を癒した。

「凄いすごい!前より早く治療できるようになったね」

「そうかな…?それなら良かった」

 まだまだ幼馴染のシュウやファリスに比べたら、無駄も多いし、スピードも劣るけれど。自分なりに、少しずつ成長はしている気でいる。

「…ロック怪我しないかな?もし怪我してたら私が治療するのにな」

 やっと肩を並べられるようになったのに、ロックの治療をしたことは殆どない。
 学校でも外でもあまり話もできないから、授業の僅かな時間だけでも二人きりで…。って思っているのに、それすらできない。

「ははっ…。してないと思うよ?ミリヤがいる時は、アイツ、カッコ付けてるから。ミリヤの中のカッコいい俺のイメージ崩したくないんだって」

「えっ…そうなの?」

「そうだよ?気付かない?ミリヤ以上にアイツもミリヤのこと見てるから」

 嬉しくて救護室から実戦場の外を見ると、アスカの言った通り。こちらを見つめるロックと目が合った。

 そんなことで、私は一日中幸せな気持ちになれるんだから、自分で言うのもなんだけど…チョロいなって思う。
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