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#5 Save the Princess
ep.44 さらばウィリアム
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リュミエールの背中が見えた。
「こっちだ!」
奥から男の声が響いた。
どうやらウィリアムが避難経路を指示しているようだ。
その指示に従い、一室に逃げ込む。
カートも全力で走り、扉が閉められる前にたどり着く。
「俺も入れてくれ」
ウィリアムはイヤな顔をするが、早く入れと腕をつかんでひきよせ、すぐに扉を閉める。
「助かった」
「君を助けるつもりはなかった。だが、見殺しにするのも本意ではない」
ウィリアムの嫌みだかなんだかわからない言い訳を聞き流し、部屋を確認する。
殺風景な会議室だった。窓がある。長方形の机が部屋の隅に折り畳まれており、イスも積み上げられている状態だった。リュミエールはメリーを降ろし、イスを用意した。座席をぱんぱんと何度かはたいても埃はないようなので、メリーを座らせる。
メリーの目は真っ赤だった。
リュミエールの手をしっかり握っていた。
軽口を叩ける雰囲気ではなかった。
「君たちの仕業ではないということか」
ひとりごとのように、ウィリアムはつぶやいた。
「……いえ、違います」
リュミエールが返してきた。
「フィン殿下は大胆な方ですが、人死の出るような行為は必ず避けます」
ウィリアムには作戦内容を話していないようだった。ウィリアムはリュミエールの言い分にうなずいた。
「たしかに、それはそうだろう。どちらにしろ、警備の甘さを露呈することになったか」
「爆薬をしかけようとしていたぞ」
「なんだと、いつだ! なぜそれを言わなかった」
ウィリアムは初耳とばかりに驚いた。
「いや、俺がちらっとあやしいやつをみかけたから、調べたら火薬の粉がな」
「なぜそれを報告しない」
ウィリアムは激高し、カートの胸ぐらをつかむ。
「俺に言われても困る。警備の責任者はあんただろ。どこにいるのかわからなかったし、少なくとも、俺は今日の親分であるフィン殿下には伝えた。それに、俺が伝えたって、怪しんだだろ」
ウィリアムはぱっと手を離す。
「すまない……気が立っているのだ。君の言い分が正しいだろう」
八つ当たりできるとしたら、周りを見ても、カートしかいない。一軍の将クラスのウィリアムであるが、心を許せるのか、ずいぶんと素直の感情だった。
「殿下、身の安全だけはなんとしても確保いたします」
メリーはそう告げられて、うん、と頷いた。
震える声で、
「……お姉さまを、助けて……」
手のひらで顔を抑える。涙が自然と溢れてくる様子だ。
「また、わたしのために……」
命をかけて、盾になる家族はこれで何回目か、それを知っている、身をもって体験しているリュミエールは優しく、メリーの肩を抱いていた。
カートは窓の景色に逃げた。
カーテンを少しだけ開けて、階下を眺めて驚いた。
「……駅につながっているのか」
駅上宮殿と呼ばれるだけに、駅の真上に建物が造られている。駅を眺められる部屋があるというのは知識で持っていたが、実際に見て、驚いた。
五階相当の吹き抜け越しの窓であった。窓の端には非常用階段が備えられて、駅にたどり着けるようになっている。
ウィリアムは面白くなさそうな顔でカートの肩を叩く。
「君たちがここから、逃げるというのなら、私も一緒だ」
イヤな笑いが立ちこめる。
「俺たちと?」
「違うのか? 殿下をどこかへお連れしてということだろう? だが、私がいるうちはそれをさせない。身の安全を確保するために、一時的にというのなら、話はわかる。だから、私もそれなら退路を確保する手伝いをする。殿下は我々の代表である」
「言っておくが、あいつらは俺たちの友達じゃないからな」
「当たり前だ。ミスト様の態度をみればわかる。もしも謀っているというのなら、この場で君を殴り殺してしまうかもしれない」
「冗談じゃない」
「というわけで決まりだ。とっておきの列車がある」
「なに?」
駅舎を指さす。そこに待機しているのはパレードにつかいたかったのか、装飾を施してある特別仕様の列車だ。
うっ……と、思わずカートは息をのんだ。蒸気が立ち込めていて、いかにも発車寸前なのだ。その意味を示すものはわからないが、ウィリアムは気づいていない様子でもあった。
「ある意味予定通り出発すれば、奴らは追ってこれない」
「待ち伏せって言うことは考えられないのか」
「ないな。行き場所は発表していない」
今回の会場は発表していたから情報が漏れたとばかりに主張する。
カートとウィリアムは立場は違えど、逃げるという意味では、一致していた。
だが、今まで静かだったメリーが口を挟んだ。
「イヤよ、お姉さまをおいてはいけない!」
涙を拭いて、強い口調で断言する。
「し、しかし、お言葉ですが、お体の無事があってこそです。ミスト様は殿下のご無事を願って盾になっておいでです。そのお気持ちに反することは……」
「もう、これ以上、家族を失いたくない! わたしだって、お姉さまとともに戦うわ。わたしは、荷物なんかじゃ、ないの」
ウィリアムは反論しようと口を開き掛け、やめた。
カートも腕を組んで、少し考えていた。
リュミエールを見ると、彼も困っているようだった。指示を待つのが彼の役目だが、メリーがそれを出せないでいる。かといって、リュミエールが主体的に動くのでもなく。
「リュミエール、おまえさんの意見はどうだ」
声をかけて、反応を待つ。
彼の対応如何では、すぐにでも動けるのだ。
「……殿下の御心のままに」
「じゃあ、俺たちが無理矢理連れてくようなら、その剣で俺たちを止めるって言うのか」
「そうですね」
冷静に答えてくる。
そうじゃないはずだと。
「おまえはどうしたいんだよ」
「私は……」
メリーがちらっとリュミエールを見ていた。その視線に何の意味があるのか、カートにはわからなかったが、リュミエールがすぐに答えを出した。
「わたしは、姫様のお気持ちに応えるのみです。反するものを迎え撃つのが私の仕事……」
「バカヤロウ、このわからずやめ」
今どういう状況か、わかっているのかとカートは怒鳴り散らす。
ウィリアムでさえ、利害関係が一致して、逃げることには賛成していた。
それなのに、メリーだけが状況に対応できてない。
「みんな、おまえを助けるために、命はってんだよ」
「うるさい! わたしにだって、プライドがある。足を引っ張るような荷物扱いはもう、うんざりよ。わたしはレコンキスタ・メンバーズを率いて、新しい国をつくるのよ。わたしを誰だと思ってるの!」
「いまそんなこと言ってる場合か……!」
カートはそこまでいって、ウィリアムに殴られた。
「もうやめろ」
ただ、言葉は強くなかった。
「気持ちは分かるが、おまえが今なにをいっても、殿下の心を変えられない」
「なんだよそれ、おまえたち、ほんとに身の安全を確保するつもりなのかよ」
「方針転換だ。責任は私が取る」
ウィリアムが扉を開け、廊下に出た。
この廊下を戻り、ミストたちと合流するのか。あの、戦場となったところへ戻るのか。ちらりと見ると、メリーはリュミエールの裾をぎゅっと握っていた。
リュミエールはメリーの指示のままに動く。
約束が違う。
自分の気持ちを伝えて、わがままをいっても、たしなめるのが彼の役目のはずだった。こう言う時に腰が引けて、どうするのだろうか、とカートは憤った。とはいえ、ウィリアムとリュミエール二人を相手にするのは無理がある。不満ながら、三人について行こうとしたその時。
ボーイが、ウィリアムを見つけて、急いで駆け寄って状況報告をしていた。
「閣下、ホールの賊を一掃しました」
「殿下は?」
「ご無事のようです」
カートはそのボーイの声に聞き覚えがあった。
誰の声だ?
「爆発で天井が崩落している廊下がありますので危険ですから、私が案内します。殿下もご一緒に」
「よし、頼む」
声の主を直感的に閃き、冷や汗が走る。
きっと、ウィリアムは笑顔にだまされた。
ウィリアムに続き、メリーも廊下に出ようとしていた。
「待て、行くな!」
カートは思い切り叫んだが、扉は開いてしまう。
扉はあっという間に開かれるはずなのに、とてもゆっくりに感じられた。鼓動が強く高鳴り。思わずメリーとリュミエールの間をかきわけようとする。
「ウィリアム! そいつはスパイだ!」
シエロの邪悪な笑みが向いていたのは、青い髪の少女。
カートはあわてて怒鳴るが、ウィリアムの判断は今一つ遅かった。ウィリアムの脇をすり抜け、シエロは腰の動きで反転して、同時にベルトに隠してあった拳銃を抜く。
一番早く反応したのはカートだった。シエロの腕に飛びつく。なんとか銃を持った腕にからみつこうとするが、あっさり交わされる。反動でカートは床に転がっていく。
銃口はメリーに向いていた。
構えたと同時に撃鉄が起こされ、シエロの高笑いが響きわたる。
引き金を引く瞬間、射線上に飛び出した男の影。
火薬の音が何回も響いた。壁に音が反響して、何回撃ったのか、わからない。硝煙が立ちこめる。
仁王立ちした男の影から、一閃の白刃がきらめいた。
影から現れた光のようだった。
サーベルの先端が瞬時にシエロの胸を貫通していた。
シエロの手から銃がぽとりと落ちた。
銃の落下音が響く前、影となった男の名前が木霊した。
「ウィリアム!!」
影となった男は血を吐きながら、倒れた。
そっと首元を撫でたのは女の手。メリーであった。
メリーは歯をがちがちと鳴らせ、真っ赤な目で今にも泣き出しそうだった。
「……ご、ご無事で……」
青い髪が視界に入ったからか、ウィリアムはまず、メリーの無事を確認していた。
「バカッ……!」
メリーの涙がぼろぼろとこぼれていった。
傍らでリュミエールはウィリアムの胸元から服を引き裂き、傷口を確認し、弾痕を見つめると、首を横に振った。もう、手がつけられないという意味だが、メリーはその時ばかりはリュミエールを見なかった。ずっとウィリアムの青ざめていく顔を見つめていた。
「そ、そのようなお顔をされないで……くださ」
息も絶え絶えに続ける。
「で、殿下は……私がいなく……なれば、自由、で、す」
え? とメリーは聞き返した。
「……総帥たちは、あなたを置いて、先に逃げた。そのような人に、あなたを……嫁にやるわけには、いかない……くそくらえだ。この結果でよかったのかも、しれない……な……」
ニヤリと笑う。
「……殿下を、頼ん……だ……ぞ」
力なく、震える手がリュミエールに伸びていた。金髪の男はその手を握り返した。満足したように、腕は落ちる。
「ふはっはっ、殿下に……看取られる……最期なら、悔いは、ないッ」
血を吐き、ウィリアムは絶命した。
静かになった廊下にいつまでも、メリーの嗚咽が響いた。
「こっちだ!」
奥から男の声が響いた。
どうやらウィリアムが避難経路を指示しているようだ。
その指示に従い、一室に逃げ込む。
カートも全力で走り、扉が閉められる前にたどり着く。
「俺も入れてくれ」
ウィリアムはイヤな顔をするが、早く入れと腕をつかんでひきよせ、すぐに扉を閉める。
「助かった」
「君を助けるつもりはなかった。だが、見殺しにするのも本意ではない」
ウィリアムの嫌みだかなんだかわからない言い訳を聞き流し、部屋を確認する。
殺風景な会議室だった。窓がある。長方形の机が部屋の隅に折り畳まれており、イスも積み上げられている状態だった。リュミエールはメリーを降ろし、イスを用意した。座席をぱんぱんと何度かはたいても埃はないようなので、メリーを座らせる。
メリーの目は真っ赤だった。
リュミエールの手をしっかり握っていた。
軽口を叩ける雰囲気ではなかった。
「君たちの仕業ではないということか」
ひとりごとのように、ウィリアムはつぶやいた。
「……いえ、違います」
リュミエールが返してきた。
「フィン殿下は大胆な方ですが、人死の出るような行為は必ず避けます」
ウィリアムには作戦内容を話していないようだった。ウィリアムはリュミエールの言い分にうなずいた。
「たしかに、それはそうだろう。どちらにしろ、警備の甘さを露呈することになったか」
「爆薬をしかけようとしていたぞ」
「なんだと、いつだ! なぜそれを言わなかった」
ウィリアムは初耳とばかりに驚いた。
「いや、俺がちらっとあやしいやつをみかけたから、調べたら火薬の粉がな」
「なぜそれを報告しない」
ウィリアムは激高し、カートの胸ぐらをつかむ。
「俺に言われても困る。警備の責任者はあんただろ。どこにいるのかわからなかったし、少なくとも、俺は今日の親分であるフィン殿下には伝えた。それに、俺が伝えたって、怪しんだだろ」
ウィリアムはぱっと手を離す。
「すまない……気が立っているのだ。君の言い分が正しいだろう」
八つ当たりできるとしたら、周りを見ても、カートしかいない。一軍の将クラスのウィリアムであるが、心を許せるのか、ずいぶんと素直の感情だった。
「殿下、身の安全だけはなんとしても確保いたします」
メリーはそう告げられて、うん、と頷いた。
震える声で、
「……お姉さまを、助けて……」
手のひらで顔を抑える。涙が自然と溢れてくる様子だ。
「また、わたしのために……」
命をかけて、盾になる家族はこれで何回目か、それを知っている、身をもって体験しているリュミエールは優しく、メリーの肩を抱いていた。
カートは窓の景色に逃げた。
カーテンを少しだけ開けて、階下を眺めて驚いた。
「……駅につながっているのか」
駅上宮殿と呼ばれるだけに、駅の真上に建物が造られている。駅を眺められる部屋があるというのは知識で持っていたが、実際に見て、驚いた。
五階相当の吹き抜け越しの窓であった。窓の端には非常用階段が備えられて、駅にたどり着けるようになっている。
ウィリアムは面白くなさそうな顔でカートの肩を叩く。
「君たちがここから、逃げるというのなら、私も一緒だ」
イヤな笑いが立ちこめる。
「俺たちと?」
「違うのか? 殿下をどこかへお連れしてということだろう? だが、私がいるうちはそれをさせない。身の安全を確保するために、一時的にというのなら、話はわかる。だから、私もそれなら退路を確保する手伝いをする。殿下は我々の代表である」
「言っておくが、あいつらは俺たちの友達じゃないからな」
「当たり前だ。ミスト様の態度をみればわかる。もしも謀っているというのなら、この場で君を殴り殺してしまうかもしれない」
「冗談じゃない」
「というわけで決まりだ。とっておきの列車がある」
「なに?」
駅舎を指さす。そこに待機しているのはパレードにつかいたかったのか、装飾を施してある特別仕様の列車だ。
うっ……と、思わずカートは息をのんだ。蒸気が立ち込めていて、いかにも発車寸前なのだ。その意味を示すものはわからないが、ウィリアムは気づいていない様子でもあった。
「ある意味予定通り出発すれば、奴らは追ってこれない」
「待ち伏せって言うことは考えられないのか」
「ないな。行き場所は発表していない」
今回の会場は発表していたから情報が漏れたとばかりに主張する。
カートとウィリアムは立場は違えど、逃げるという意味では、一致していた。
だが、今まで静かだったメリーが口を挟んだ。
「イヤよ、お姉さまをおいてはいけない!」
涙を拭いて、強い口調で断言する。
「し、しかし、お言葉ですが、お体の無事があってこそです。ミスト様は殿下のご無事を願って盾になっておいでです。そのお気持ちに反することは……」
「もう、これ以上、家族を失いたくない! わたしだって、お姉さまとともに戦うわ。わたしは、荷物なんかじゃ、ないの」
ウィリアムは反論しようと口を開き掛け、やめた。
カートも腕を組んで、少し考えていた。
リュミエールを見ると、彼も困っているようだった。指示を待つのが彼の役目だが、メリーがそれを出せないでいる。かといって、リュミエールが主体的に動くのでもなく。
「リュミエール、おまえさんの意見はどうだ」
声をかけて、反応を待つ。
彼の対応如何では、すぐにでも動けるのだ。
「……殿下の御心のままに」
「じゃあ、俺たちが無理矢理連れてくようなら、その剣で俺たちを止めるって言うのか」
「そうですね」
冷静に答えてくる。
そうじゃないはずだと。
「おまえはどうしたいんだよ」
「私は……」
メリーがちらっとリュミエールを見ていた。その視線に何の意味があるのか、カートにはわからなかったが、リュミエールがすぐに答えを出した。
「わたしは、姫様のお気持ちに応えるのみです。反するものを迎え撃つのが私の仕事……」
「バカヤロウ、このわからずやめ」
今どういう状況か、わかっているのかとカートは怒鳴り散らす。
ウィリアムでさえ、利害関係が一致して、逃げることには賛成していた。
それなのに、メリーだけが状況に対応できてない。
「みんな、おまえを助けるために、命はってんだよ」
「うるさい! わたしにだって、プライドがある。足を引っ張るような荷物扱いはもう、うんざりよ。わたしはレコンキスタ・メンバーズを率いて、新しい国をつくるのよ。わたしを誰だと思ってるの!」
「いまそんなこと言ってる場合か……!」
カートはそこまでいって、ウィリアムに殴られた。
「もうやめろ」
ただ、言葉は強くなかった。
「気持ちは分かるが、おまえが今なにをいっても、殿下の心を変えられない」
「なんだよそれ、おまえたち、ほんとに身の安全を確保するつもりなのかよ」
「方針転換だ。責任は私が取る」
ウィリアムが扉を開け、廊下に出た。
この廊下を戻り、ミストたちと合流するのか。あの、戦場となったところへ戻るのか。ちらりと見ると、メリーはリュミエールの裾をぎゅっと握っていた。
リュミエールはメリーの指示のままに動く。
約束が違う。
自分の気持ちを伝えて、わがままをいっても、たしなめるのが彼の役目のはずだった。こう言う時に腰が引けて、どうするのだろうか、とカートは憤った。とはいえ、ウィリアムとリュミエール二人を相手にするのは無理がある。不満ながら、三人について行こうとしたその時。
ボーイが、ウィリアムを見つけて、急いで駆け寄って状況報告をしていた。
「閣下、ホールの賊を一掃しました」
「殿下は?」
「ご無事のようです」
カートはそのボーイの声に聞き覚えがあった。
誰の声だ?
「爆発で天井が崩落している廊下がありますので危険ですから、私が案内します。殿下もご一緒に」
「よし、頼む」
声の主を直感的に閃き、冷や汗が走る。
きっと、ウィリアムは笑顔にだまされた。
ウィリアムに続き、メリーも廊下に出ようとしていた。
「待て、行くな!」
カートは思い切り叫んだが、扉は開いてしまう。
扉はあっという間に開かれるはずなのに、とてもゆっくりに感じられた。鼓動が強く高鳴り。思わずメリーとリュミエールの間をかきわけようとする。
「ウィリアム! そいつはスパイだ!」
シエロの邪悪な笑みが向いていたのは、青い髪の少女。
カートはあわてて怒鳴るが、ウィリアムの判断は今一つ遅かった。ウィリアムの脇をすり抜け、シエロは腰の動きで反転して、同時にベルトに隠してあった拳銃を抜く。
一番早く反応したのはカートだった。シエロの腕に飛びつく。なんとか銃を持った腕にからみつこうとするが、あっさり交わされる。反動でカートは床に転がっていく。
銃口はメリーに向いていた。
構えたと同時に撃鉄が起こされ、シエロの高笑いが響きわたる。
引き金を引く瞬間、射線上に飛び出した男の影。
火薬の音が何回も響いた。壁に音が反響して、何回撃ったのか、わからない。硝煙が立ちこめる。
仁王立ちした男の影から、一閃の白刃がきらめいた。
影から現れた光のようだった。
サーベルの先端が瞬時にシエロの胸を貫通していた。
シエロの手から銃がぽとりと落ちた。
銃の落下音が響く前、影となった男の名前が木霊した。
「ウィリアム!!」
影となった男は血を吐きながら、倒れた。
そっと首元を撫でたのは女の手。メリーであった。
メリーは歯をがちがちと鳴らせ、真っ赤な目で今にも泣き出しそうだった。
「……ご、ご無事で……」
青い髪が視界に入ったからか、ウィリアムはまず、メリーの無事を確認していた。
「バカッ……!」
メリーの涙がぼろぼろとこぼれていった。
傍らでリュミエールはウィリアムの胸元から服を引き裂き、傷口を確認し、弾痕を見つめると、首を横に振った。もう、手がつけられないという意味だが、メリーはその時ばかりはリュミエールを見なかった。ずっとウィリアムの青ざめていく顔を見つめていた。
「そ、そのようなお顔をされないで……くださ」
息も絶え絶えに続ける。
「で、殿下は……私がいなく……なれば、自由、で、す」
え? とメリーは聞き返した。
「……総帥たちは、あなたを置いて、先に逃げた。そのような人に、あなたを……嫁にやるわけには、いかない……くそくらえだ。この結果でよかったのかも、しれない……な……」
ニヤリと笑う。
「……殿下を、頼ん……だ……ぞ」
力なく、震える手がリュミエールに伸びていた。金髪の男はその手を握り返した。満足したように、腕は落ちる。
「ふはっはっ、殿下に……看取られる……最期なら、悔いは、ないッ」
血を吐き、ウィリアムは絶命した。
静かになった廊下にいつまでも、メリーの嗚咽が響いた。
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