兎沢桃の曖昧な脚本【鮫嶋くんの甘い水槽・サイドストーリー】

蜂賀三月

文字の大きさ
1 / 4

宣戦布告のその後で

「桃、明日も早起きして学校行くの?」
 リビングのソファに腰掛けたあたしに、ママは質問をする。あたし、朝が弱いからママに起こしてもらってたんだよね。
「ううん、もう早起きはいいの。朝早く学校に行く意味、なくなったし」
「……? そう、それならいいけど」
 ママは不思議そうな顔をして、夕ご飯の支度に戻っていく。
最近リフォームしたリビングダイニングはママのお気に入りで、料理をしながらあたしに話しかけてくるのだ。
 これからは、生きもの係の仕事を手伝って鮫嶋くんとの時間を作るのは難しいだろう。たぶんそうとは思ってたけど、愛奈ちゃんも鮫嶋くんのことが好きらしいし。
 あたしはネイルオイルを爪に塗りながら、今朝のことを思い出す。愛奈ちゃんは面と向かってあたしに宣戦布告をしてきた。さすがにそんなの、予想もしていなかったよ。愛奈ちゃんって誰にでも優しいからさ。自分が引いてあたしの恋を応援してくれると思ってたのに。
「……ウケるよね、マジで」
 ただ優しいだけの子じゃない。愛奈ちゃんは本当に鮫嶋くんが好きだからこそ、あたしに真正面からぶつかってきた。恋に対して、そしてあたしに対しても誠実なような気がする。だからこそ、あたしも本気でこの恋を諦めない。そう決めたの。
 甘皮を丁寧に処理して、爪の形を整える。校則違反をしなくても、ほんのちょっとの手間で可愛さは作れる。
 ただ、この恋は可愛さだけでは掴みとれないだろう。鮫嶋くんにとって愛奈ちゃんが特別なのはわかるし。それが恋愛感情なのかはまだわからないけれど……。一緒の家に住んで、一緒の係で仕事をして、誰よりも長い時間を過ごしてるんだもん。そこに割って入るには、生きもの係の仕事を手伝うくらいしかできなかったのに。これからは、鮫嶋くんとの時間をどう作ったらいいんだろう……。
 あたしは頭を抱える。そのとき、ふと壁に掛けてあるカレンダーが目に入った。
「そうだ、文化祭があるじゃん!」
 文化祭なら準備はもちろん当日にだってチャンスは作れる。準備で一緒に長い時間を過ごせば、恋愛対象として意識してもらえる機会だってあるかもしれない。とはいえ鮫嶋くんが鈍感なのはすでにわかっている。できるだけ恋愛を意識させるには……。
「――演劇? それに、恋を題材にした作品ならいいかも!」
 あたしは自分の膝を打つ。文化祭でなにをするかはロングホームルームで決めるはず。そのときに、具体的でわかりやすい案を出してみんなを納得させればいい。演目は……美女と野獣がいいかな。あたしの大好きな演劇だし、主人公が美女って設定ならたいていの生徒はベルの役をやりたがらないだろう。
「あたし、天才!? これはいけるでしょ!」
「桃ー? 誰かと喋ってるの?」
 っと、声が大きすぎた。心配そうにこちらを見るママにペロっと舌を出して謝る。
「ごめんね、独り言」
 愛奈ちゃん。今日言った通り、あたしは遠慮しないよ。あたしに愛奈ちゃんみたいな優しさはないけれど、それは恋を諦める理由にはならないんだから。
 あたしは本棚から美女と野獣の絵本を取り出す。その最後のページを捲ると、野獣とベルのキスシーンの絵が開いた。キスシーンはさすがにちょっと恥ずかしい……かもしれない。けれど、うん。したくないわけじゃ、ない。
感想 0

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。