最弱にして最強となる冒険者〜龍神の恩恵を授かりし最弱ランクの闘い〜

uyosiの脳内は茜色

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二章 授かりし恩恵

無意識下の力

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「ネイトさ、ん……」

 作戦に伴い準備していた極大魔法を解除。
 フライヤの周囲に展開されていた冷気は、空気と一緒に消え失せ攻撃手段を失う。

 上空に待機している第三特殊変異体ヴァイスカンドクリフィポックは降りてくる気配を見せず、ただフライヤ含め、村人を瞳に捉えていた(現状では……)

 そんな事に気が回る事のないフライヤは、おぼつかない足取りでネイトを目指す。

 極大魔法の途中解除によってなのか、冷気が地面に分散し、延びる草木が凍りついていた。
 その上を踏み進む。サクッサクッと、鈍い音が立ち込める中。

 …………上空から落下したネイトを目指す。

 落下したネイトの体は綺麗とはとても言い難い。
 無残に腕、足がありえない方向に向き、落下の反動に赤い血が飛び散っていた。
 
 嫌な顔一つせず手を伸ばすフライヤ。
 赤い血がフライヤの手に付着するも、ネイトの温もりを指先で感じ取る。
 
「…………ネイトさ、ん。ネイトさん」

 何度か呼びかけるが返事は帰ってこない。
 
 あられもない姿に村人も沈黙。
 かける言葉がないのだろ。
 
 息を潜め黙る村人の中から一人、クリフィポックの動きを察知してか大声を上げる。

「きたぞ! おい逃げろ!」

 上空に滞在していたクリフィポックが勢いをつけ、フライヤ目掛け猛スピードで迫りきた。

 声に反応したフライヤは──流石と言うべきか、瞬時魔法を展開し、クリフィポックの攻撃上に、氷の障壁を創り出し、間一髪で直撃を防ぐ。

 衝撃により障壁は崩れ落ち、破片は勢いよくちる。
 魔力消費に緊迫した空気中でフライヤは、肩で呼吸を始める。
 
 流石の魔力も残りわずか。
 
 ネイトの安否を確認したいところではあったフライヤの瞳には、怒りが満ち溢れていた。
 かと言って、フライヤ自身ではこの状況をひっくり返せる訳ではない。だが、何もしない訳にはいかなく、無駄に魔法を連打する。

 氷で作られた無数の槍をクリフィポック目掛け放つ。
 それは、クリフィポックの硬い翼により弾かれ、傷一つ負わす事叶わず。
 
 後方へと回避行動を取った事に、クリフィポックと対峙する中心にネイトが横たわっていた。

 決して動く事のない青年。

 クリフィポックはフライヤに鋭い視線を向け、咆哮を上げる。
 
 攻撃を仕掛けるその素振りに、フライヤは出来る限りの魔力を前方に集中させ、障壁を創り上げる。
 フライヤの後方には無数の村人。
 正直守るに値しない価値観ではあるが、見捨てる事はフライヤの性格上難しいのだろ。

 残りわずかな魔力を集結させ──氷の障壁を創り上げた。
 とは言っても、クリフィポックに対して何の効果も持ちそうにない。……一撃は防げても二度、三度と追撃されれば、もう守る事はできないだろ。

 フライヤの表情にはその事実がわかっているようだった。

 歯を強く噛み締め、まるで自分の不運を呪うかのように。横たわるネイトに優しい顔を向け…………「ごめんなさい」と言葉を告げる。

 直後、クリフィポックが放つ風の刃が障壁に直撃。
 一撃は防げたが、二度目には崩壊する確信を表情に見せる。

 だからか、言葉を発する。

「逃げて、逃げて下さい」

 守る事の出来ない現状、最終手段に逃げるよう促す。
 
 その言葉を聞いた村人は、拳を強く握りしめ、逃げるべきか残るべきかを周囲の村人同士で顔を見合わせ、決断に悩まされていた。
 一人が行動すれば、雪崩のように釣られて逃げ帰るだろぉーが、最初の一人が現れない。

 そんな中、村長代理が言葉を発する。

「逃げる? 君が諦めていないのだから逃げる事はしない。君に託してるんだから、最後まで見届けさせてもらう」
「そうですか……それでも逃げて下さい。私が引きつけている間に」

 フライヤは村長代理の言葉を押し退け、逃げるよう催促する。

「私ではこの魔獣はどうにも出来ません。貴方達だけでも逃げて下さい! 早く」
「それでどうなる? 逃げて村はどうなる?」
「それは…………」

 村長代理の言葉にフライヤは言葉を詰まらせた。

 そもそも村長代理の不正が原因で、ネイト含めフライヤはピンチに直面している。
 にも関わらず、村長代理から伝わる言葉には重みがあった。

 まるで《死》をいとわない程に。

 追求する時間等ない。
 判断をしたのかフライヤは『逃げて』と言葉を発するのをやめ、再び鋭い眼光で第三特殊変異体ヴァイスカンドクリフィポックを睨みつける。

 
 か弱き少女の背後で、固唾をのみ、勝手に決心した村人が息を呑む。

 ──迫り来るクリフィポックの追撃──風を操ったそれは鋭い刃に姿を変え、氷の障壁に衝突。
 氷の破片が飛び散り、二度目の追撃を凌ぐ……首の皮一枚繋がった程度。
 
 フライヤの額から滲み出る汗。
 頬を伝い、地面に落ち弾け散る。

 諦めたくなる現状。

 だが──フライヤの瞳には(諦める)と言う三文字は見て取れない。間違いなくどうする事も出来ない状況だと言うのに。

 フライヤは最後の一滴とても言うべきか、障壁に魔力を送り込み、気休め程度に過ぎない補強を行使する。

 息は荒れ、立っているのにも精一杯。

 その光景は村人の目にどう映ったのだろか。

 必死に守る少女のか細い背中。

 
 地面を踏みしめる大きな鉤爪、後方へと唸りあげ、突撃する構えに移る。

 それを感じ取ったフライヤ、今まで以上に表情を強く引き締める。

 …………。


 終わった。
 誰もがそう思った時──熱が周囲に立ち込める。
 直後、目前は水蒸気に視界が消え失せた。


 何故水蒸気が起こったのか。
 それは、フライヤが行使していた極限魔法の分散で、周囲にマイナスになる低音が立ち込めていた。そこに爆発的な熱が展開され、氷った草花が熱により瞬時とかされた。

 ──それが水蒸気へと変化。
 見えない視界……迫り来るクリフィポックの脅威に晒される。

 だが。

 来るべきクリフィポックの突撃は、いつになってもやってこない。

 目を凝らし、薄れる霧の中、ありえない人物がそこに立ち、片手でクリフィポックの動きを封じ込めていた。

 フライヤの瞳には涙が滲む。

 生きていた事に安堵したのか、障壁を解除し、その場に崩れ落ちる。疲れ切った体の限界でもあった。
 
 クリフィポックも又、動きを止められた事に驚いたのか、顔を動かし、青年、フライヤと交互に視線を働かせる。

 そして、クリフィポックは一歩後退し再び突撃を繰り広げる。

 二度目の突撃も軽々しく止められ、クリフィポックの勢いに周囲に広がっていた、水蒸気もとい霧は、風の力により薄れ、クリフィポック、ネイトの姿がはっきりと映る。
 
 姿を見た村人は歓声を上げ、言葉を叫ぶ。

「兄ちゃん生きてたのか!」
「だがあの坊主には勝てん。みてみぃ!」

 ネイトに期待する声は上がらなかった。
 だが次の瞬間、それはひっくり返る。

「《龍伯の息ブレス》」
 小さく聞こえた言葉。
 ──すると、伸ばす右掌の前に魔力が集まる。
 それは色白の魔力の固まりと姿を変え、クリフィポックへと放たれた──上位魔法クラス魔力砲。

 威力は極限魔法をも超える。

 至近距離で放たれた事にクリフィポックは跡形も無く姿を消し、黒白の羽が宙を舞ひらひらと辺りに降り注ぐ。

 その光景をしかと見届けた村人は空いた口が塞がらないでいた。

 決意の現れなのか、村長代理はドヤ顔を作り、涼しい顔を浮かばせる。

 対してフライヤはと言うと、魔力切れを起こし、座ったまま意識を離していた。


 助かるはずもない奇跡の中……第三特殊変異体ヴァイスカンドクリフィポックを葬った英雄となるネイトは、立ったままの姿で、静かに意識を途切れさせていた。

 
 脅威が去った場所に、ビルディスタ所属ギルドマスター率いる討伐隊が後に姿を見せる。

 状況確認。
 速やかに医療魔法者の手によって二名の安否を確認させ、早々にビルディスタに搬送させる。
 そしてこの事件について、一番の首謀者となる村長代理の不正事実について、ビルディスタを統括する長老五人議会にかける事にした。その為、村長代理の身柄を拘束しギルドマスターはいち早く帰還した。

 後に残ったのは村長代理を失った村人に、討伐隊の数々。
 その中には不思議とビルグも含まれていた。

「跡形もないが本当にいたのか? 第三特殊変異体ヴァイスカンド?」

 疑うのも無理はないだろ、残骸どころか、何も残ってないのだから。あるとすれば白黒の羽、それも細切れに千切られた程度に無数にばら撒かれているのみ。

 気配を読み解く魔法術者がいた事に、疑う言葉はすぐに晴れた。
 その事実が明らかになった事で、討伐隊の誰もが抱く。
(どうやって倒したのか)……と。
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