くそったれな人生に、僕だけの歌を。

しののめ

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1.やりたい事、向いてる事

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「はぁ!?お前!!もう一回、言ってみろ!!!」
律の怒号がスタジオのロビーに響きわたる。

「何度だって言ってやるよ。お前の書く詩はダサい。
なのに、自分の世界観??に酔ってる感じするしキモいし、意味わからん」
美玖が机を叩きながら、そのまま勢いで立ち上がり律を睨みつけてくる。

「他のやつができないから、俺が作曲も作詞もしてんだろ!!ずっとそうだったじゃねぇか!!
なんでやってもないやつに今更文句言われなきゃいけねぇんだよ!!」

「まあまあ、二人とも…みんな見てるし、落ち着こうよ」

と辺りをキョロキョロと確認して、不安そうに“山ちゃん”が言ってきた。

「山ちゃんも言ってやれよ。正直、律の書く曲に魅力ないって。」

「うーん、別に僕は魅力ないって思ってないけど…」

「そうだよな?美玖みくにセンスがないだけだろ!」

「どこかで聞いたようなコード進行に、意味わからん気持ちだけ押し付けてきて
分からなかったら、センスがないとか否定するから山ちゃんも言えないだけだろ…気づけよっ」

「はぁ??なんで遅刻したやつにそこまで言われないといけないわけ?」
山ちゃんだって、別に思ってないから否定しないだけだろ!!
お前こそ考え押しつけんなよ!!!」

「遅刻したの今それ関係ないでしょ…ちっ。」

美玖の舌打ちが合図とばかりに空間に沈黙が訪れた。


沈黙の中で、時計の針の音だけがやけに大きく響いていた。
蛍光灯の白い光が、夜更けのスタジオの空気を乾かしていく。
誰も口を開かない。
さっきまでの怒号が嘘のように、ただ息づかいだけが残っていた。

律は肩から下げていたセミハードケースを無言で床に置いた。
手のひらに、さっきまで3人で練習してたからか、
弦の感触がまだ残っている。

「……俺さ、なんでこんなに必死なんだろな。」

ぽつりと呟いた律の声に、美玖が目を細めた。
その目の奥に、もう情熱ではなく“疲労”が見えた。

「もういいでしょ、律。遅刻したのは謝るけど。
高校のときみたいに、いつでも集まれる訳じゃないんだよ。」

律は眉をひそめ、少し笑うように顔を歪めた。
「俺にとっては、このバンドが全部なんだよ。音楽以外、何も続いたことねぇし。」

美玖は返事をしなかった。
ただ立ち上がって、広げていた歌詞ノートや自分の荷物をまとめ始める。
カバンを閉めたジッパーの音が、やけに冷たく聞こえた。





──高校二年の秋。
最初の文化祭ライブのあと、三人は夜の公園に集まっていた。
律が安物のエレキギターを抱えて、興奮したように笑っていた。

「な、見ただろ!? あの最後の曲、ウケてたよな!」
「ウケてたけど、途中でコード間違えたじゃん。」
「山ちゃん、録音した? もう一回聴こうぜ!」

美玖が缶ジュースを投げてよこし、律は笑いながら受け取った。
その缶のプルタブを引く音が、やけに鮮やかに響いた。
三人とも、本気で信じていた。
このまま音楽を続けて、いつまでも3人で居れるって。

それから毎日のように放課後スタジオに入り、バイト代を機材や練習代に費やし、
深夜まで曲を作った。
誰も止めなかった。
ただ夢中で音を重ねていた。
あの頃は、それだけで未来があった。

「……いつから、こうなったんだろな。」

律の呟きに、山ちゃんが小さく肩をすくめた。
「大学とか、仕事とか、いろいろあってさ。集まる時間、合わなくなって。
でも、律はずっと同じ熱量でいたじゃん。それが、たぶん……ズレになったんだと思う。」

律は苦笑する。
「ズレね。……俺が悪いみたいじゃん。」

「悪いとかじゃないよ。律が本気すぎたんだよ。僕らが、ついていけなかっただけ。」

美玖が背中を向けたまま言った。
「限界だったのよ、私たち。学校もバイトもプライベートだってある。
もう、音楽が“すべて”って言えない」

律は立ち上がると、ギターケースを背負った。
その動作の音さえも、やけに重かった。

「じゃあ、終わりにしよう。俺が無理に引っ張ってたんだろうし。」

美玖は何も言わず、山ちゃんもただうつむいていた。
律は後ろを振り返ることはなく、そのままスタジオを出ていった。
ドアを閉める音が、全ての終わりを告げた。



外に出ると、夜風が顔に冷たかった。
街灯が濡れたアスファルトに滲んで、律の影が歪む。
肩のギターケースが、やけに重い。
中に入っているのは、楽器だけじゃなく、
この数年の3人の全部が詰まっている気がした。



スマホの画面を開くと、グループラインが表示された。

「練習どうする?」
「次のライブどうする?」

そんなメッセージが、未読のまま止まっていた。
もう、動くことはない。



(グループを退会しますか?)→はい

――ポチッ



駅までの帰り道。
イヤホンを耳に刺すと、古いデモ音源が再生された。
高校のときに三人で録った、初めてのオリジナル曲。
音は荒くて、ピッチも外れてる。
でも、美玖の声が、3人の音があの頃のまま響いていた。

“ねぇ、信じていたい あの日のままで
 傷だらけの音でもいい”


律は歩きながら小さく笑った。
「やっぱりだっせぇな、俺の曲…」


風が頬を撫で、遠くで電車の音が鳴る。
その音に混ざって、自分の心臓がまだ鳴っていた。

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