くそったれな人生に、僕だけの歌を。

しののめ

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2.燻る想い

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ピッ、ピッ。
バーコードの読み取り音が、一定のリズムで夜を刻んでいた。
蛍光灯の白い光がレジ台を照らす。
深夜二時。
外は涼しくひんやりしていて、ガラス越しに見える街はほとんど眠っている。

「ちょっと、律君!!アイス二回通してるよ!!」
声をかけてきたのは、同じバイト仲間の真帆まほだった。
黒髪を後ろで結び、少し年上で、どこか達観したような落ち着きがある。

「あっ、申し訳ございません!」
律はお会計しているお客さんに謝罪を入れ、レジを打ちなおす。

真帆が笑いながら袋詰めを手伝う。

「1500円のお預かりで、310円のお戻しです。
ありがとうございました!」

自動ドアの開閉音が鳴り、静けさが戻る。

「どうしたの?なんか今日は心ここにあらずって感じだね。珍しい…」
真帆が隣のレジのレジ締め作業をしながら、話しかけてきた。


「今日もスタジオ行ってたの?」
「……ああ、まあ。昨日だけど…」
「“まあ”って、なんかあった?」

律は答えず、期限切れ商品用のかごを手に取った。
お弁当やおにぎり、サンドウィッチなどの商品を確認しながらかごに入れていく。
昨日のスタジオでの光景が頭に蘇る…
美玖の声、舌打ち、山ちゃんの申し訳ない表情、閉まるドアの音。
それがまだ、脳裏にこびりついていた。

「解散した。」
ぽつりと、言葉が落ちた。
真帆が一瞬手を止めて、顔を上げてこっちを見る。

「そっか。」
それだけ言って、彼女はまた作業に戻った。
律はその無反応さに、少し救われた気がした。
慰めも、同情も、要らなかった。
ただ、何も変わらない“日常”がここにあることが、今はありがたかった。

真帆とは、このコンビニの深夜シフトでよく一緒になる。
なので世間話程度には互いのことを話したりしている…

「高校からバンドやってるって言ってたよね。曲とか作ってたんでしょ?」
「うん。作ってた。……でも、もういいや。
たぶん、向いてなかった。」

「そうかなぁ。」
真帆はそう言いながら、奥の事務所に向かっていった。

店内には有線のBGMが流れている。
知らないバンドの新曲。
律には、ただ綺麗に整った音にしか聞こえなかった。

特にお客さんもいないので、飲み物を飲むために一緒に事務所に向かう律。

「“たぶん”って言う人は、本気でやめないよ。」
「どういう意味?」
「うちの弟もさ、プロゲーマー目指してて。親に怒られて、一回全部やめたんだけど……
結局、またやってる。“たぶん”とか“もういいや”って言葉で、
本当はまだ諦めきれてないって、自分で分かってるんだよ。」

律は無言でキャップをねじった。
コーヒーを飲むふりをしながら、心の奥で何かが小さく軋んだ。
“まだやれる”と“もう終わった”の間で、言葉にならない何かが燻っている。

「律くんってさ、そういう顔してるよ。」
「どんな顔?」
「“まだ鳴ってる”顔。」

思わず笑ってしまった。
「何それ。詩人みたいなこと言うなよ。」
「夜勤してると、だいたい分かるんだよ。
静かな時間に、ふと目が遠くなるから。」

その言葉が、胸の奥で妙に響いた。
蛍光灯の下で、ぬるいコーヒーを飲み干す。
苦味が喉の奥に残る。
でも、不思議と少しだけ“つかえ”が取れた気がする。

店の外を見ると、東の空が少しだけ青みを帯び始めていた。
新聞配達のバイクの音が遠くを過ぎていく。
夜が終わる気配。
それは、終わりでもあり、朝の始まりでもあった。

「もうすぐ明けるね。通勤ラッシュの人たち来る前に、肉まんの準備しよ。」
真帆があっけらかんと言う。
律はうなずく。
「……うん。」

彼の中で、かすかに音が鳴った。
かつてのお客さんが帰った後のライブハウスの残響みたいに、
消えかけの喧騒が拙いギターのリフが、静かに胸の奥で揺れていた。

「まぁ…細かいことはわかんないけどさっ!頑張りたまえよ!少年!」
「そんなに歳変わんないでしょっ!!!」
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