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6-2.音の行方
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配信を終えて、マイクのスイッチを切る。
部屋に、急に静寂が戻ってきた。
モニターの前には、LEDライトの光だけが残る。
“透澄アリア”という名前で呼ばれるこの空間も、
スイッチ一つで現実から切り離される。
ヘッドフォンを外すと、耳の奥がじんと痛んだ。
数万人のコメントが流れた後の“無音”は、
いつも少しだけ怖い。
「……おやすみ、か。」
自分の配信を締める時の言葉を、
もう一度、つぶやいてみた。
でも、その声はモニターの向こうへは届かない。
机の隅に置かれたミネラルウォーターを手に取る。
ひと口飲んで、深く息を吐いた。
(今日も……声、ちゃんと出てたかな。)
アリア——本名を知る人は、ほとんどいない。
普段は、ごく普通の二十歳そこそこの女の子。
小さなワンルームで、マイクとパソコンを前に、
“声だけ”で世界とつながっている。
配信が終わるたびに思う。
どれだけ「ありがとう」と言われても、
この部屋の空気は、少しも温かくならない。
モニターには、配信後のチャットログがまだ流れていた。
「今日も癒された」
「アリアちゃん、神回」
「この声で生きていける」
スクロールしていく途中、ひとつのコメントが目に留まった。
「近所の人、また叫んでた?w」
アリアは小さく笑った。
「あ、あぁ…またなのか……」
数日前、突然の叫び声が配信に入ってしまったことがあった。
リスナーたちは“幽霊の声だ”“夜中の悲鳴”と騒ぎ、
それが逆に切り抜き動画になってバズった。
(まさか、ほんとに近所の人が叫んでるとはね……)
彼女は苦笑しながら、再生履歴を開く。
ふと、関連動画の欄に見慣れないタイトルがあった。
“untitled 01”。
(……なにこれ。)
サムネイルには、白い壁とギター。
録音は粗く、音はこもっている。
でも、再生を押した瞬間——
アリアは息をのんだ。
ねぇ信じていたい あの日のままで
傷だらけの音でもいい——
(……この声。)
荒削りで、震えていて、
でも真っすぐで、痛いくらいに“生”だった。
思わずイヤホンを耳に押し当てる。
部屋の中で、心臓の音が鳴る。
さっきまで自分が何千人に向かって歌っていたのに、
今は逆に“誰かの音”に聴き入っている。
「……届いてる、じゃん。」
そのつぶやきが、静かな部屋の中で溶けていく。
アリアはモニターの右上の再生数を見た。
“15回”。
「15回って……これ、再生してるの本人じゃない?」
そう言いながら、小さく笑った。
けれど、その笑みの奥には、
どこか懐かしい痛みがあった。
(最初の頃、私もそうだったな……)
誰にも聴かれなくて、
コメントもゼロで、
“この声、誰にも届いてないんじゃないか”って
何度も思った夜。
でも、たったひとつのコメントに救われた。
「声、きれいだね」
その一言が、アリアを今日まで続けさせてきた。
(この人の声……ちゃんと届いてほしい。)
動画の概要欄には、自分のオリジナル曲って書いてある。
(あっ…バンドでやってた時の、セルフカバーってかいてある。)
彼女は、その動画の「高評価」ボタンを押した。
小さく、カチッと音が鳴る。
数字は“0”から“1”に変わった。
「……これくらいしか、できないけど。」
モニターを閉じると、部屋が一気に暗くなった。
外の街灯の光がカーテンの隙間から差し込み、
アリアの髪を淡く照らす。
スマホが震えた。
通知を見ると、ファンからのDM。
「アリアちゃん、今日もありがとう。
声、ほんとに救われます。」
それを見つめながら、
アリアは小さく息を吐いた。
(“救われる”って言葉、
いつも、アリアに返したいんだよね。)
ふと、頭の中に浮かんだのは、
あの“傷だらけの音”の声。
まだ名前も知らない誰か。
でも、どこかで、自分と同じ夜を過ごしているような気がした。
(……また、あの音が聴きたいな。)
モニターの電源を落とし、
アリアはマイクにそっと手を触れた。
「おやすみ、みんな。」
その言葉は、リスナーには届かない。
でも確かに、この世界のどこかにいる誰かに届いた気がした。
部屋に、急に静寂が戻ってきた。
モニターの前には、LEDライトの光だけが残る。
“透澄アリア”という名前で呼ばれるこの空間も、
スイッチ一つで現実から切り離される。
ヘッドフォンを外すと、耳の奥がじんと痛んだ。
数万人のコメントが流れた後の“無音”は、
いつも少しだけ怖い。
「……おやすみ、か。」
自分の配信を締める時の言葉を、
もう一度、つぶやいてみた。
でも、その声はモニターの向こうへは届かない。
机の隅に置かれたミネラルウォーターを手に取る。
ひと口飲んで、深く息を吐いた。
(今日も……声、ちゃんと出てたかな。)
アリア——本名を知る人は、ほとんどいない。
普段は、ごく普通の二十歳そこそこの女の子。
小さなワンルームで、マイクとパソコンを前に、
“声だけ”で世界とつながっている。
配信が終わるたびに思う。
どれだけ「ありがとう」と言われても、
この部屋の空気は、少しも温かくならない。
モニターには、配信後のチャットログがまだ流れていた。
「今日も癒された」
「アリアちゃん、神回」
「この声で生きていける」
スクロールしていく途中、ひとつのコメントが目に留まった。
「近所の人、また叫んでた?w」
アリアは小さく笑った。
「あ、あぁ…またなのか……」
数日前、突然の叫び声が配信に入ってしまったことがあった。
リスナーたちは“幽霊の声だ”“夜中の悲鳴”と騒ぎ、
それが逆に切り抜き動画になってバズった。
(まさか、ほんとに近所の人が叫んでるとはね……)
彼女は苦笑しながら、再生履歴を開く。
ふと、関連動画の欄に見慣れないタイトルがあった。
“untitled 01”。
(……なにこれ。)
サムネイルには、白い壁とギター。
録音は粗く、音はこもっている。
でも、再生を押した瞬間——
アリアは息をのんだ。
ねぇ信じていたい あの日のままで
傷だらけの音でもいい——
(……この声。)
荒削りで、震えていて、
でも真っすぐで、痛いくらいに“生”だった。
思わずイヤホンを耳に押し当てる。
部屋の中で、心臓の音が鳴る。
さっきまで自分が何千人に向かって歌っていたのに、
今は逆に“誰かの音”に聴き入っている。
「……届いてる、じゃん。」
そのつぶやきが、静かな部屋の中で溶けていく。
アリアはモニターの右上の再生数を見た。
“15回”。
「15回って……これ、再生してるの本人じゃない?」
そう言いながら、小さく笑った。
けれど、その笑みの奥には、
どこか懐かしい痛みがあった。
(最初の頃、私もそうだったな……)
誰にも聴かれなくて、
コメントもゼロで、
“この声、誰にも届いてないんじゃないか”って
何度も思った夜。
でも、たったひとつのコメントに救われた。
「声、きれいだね」
その一言が、アリアを今日まで続けさせてきた。
(この人の声……ちゃんと届いてほしい。)
動画の概要欄には、自分のオリジナル曲って書いてある。
(あっ…バンドでやってた時の、セルフカバーってかいてある。)
彼女は、その動画の「高評価」ボタンを押した。
小さく、カチッと音が鳴る。
数字は“0”から“1”に変わった。
「……これくらいしか、できないけど。」
モニターを閉じると、部屋が一気に暗くなった。
外の街灯の光がカーテンの隙間から差し込み、
アリアの髪を淡く照らす。
スマホが震えた。
通知を見ると、ファンからのDM。
「アリアちゃん、今日もありがとう。
声、ほんとに救われます。」
それを見つめながら、
アリアは小さく息を吐いた。
(“救われる”って言葉、
いつも、アリアに返したいんだよね。)
ふと、頭の中に浮かんだのは、
あの“傷だらけの音”の声。
まだ名前も知らない誰か。
でも、どこかで、自分と同じ夜を過ごしているような気がした。
(……また、あの音が聴きたいな。)
モニターの電源を落とし、
アリアはマイクにそっと手を触れた。
「おやすみ、みんな。」
その言葉は、リスナーには届かない。
でも確かに、この世界のどこかにいる誰かに届いた気がした。
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