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6-3.見守る視点
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我が家の部屋の壁は、薄い。
家族で暮らしてる、普通の一軒家だけど豪邸ってわけでもない。
小さな物音でもだいたい筒抜けだけど、それぞれの部屋があるってだけで恵まれてるんだと思う。
兄貴の部屋は隣だから、ギターの音がよく聞こえる。
律が弾いているんだと思う。
パパからギターをもらってからはそうだった。
受験の前日だろうが、深夜二時だろうが、
兄の部屋からは、かすかに弦の音が流れてくる。
最初のうちはうるさくて、壁を叩いたこともある。
けど、いつの間にかそれは、
“家の中の当たり前の音”みたいになっていた。
高校の頃、兄はバンドをやってた。
帰ってくるたび、スタジオの話やライブの話をしてくる。
私は興味なかったけど、
話してる時の兄の顔はちょっとだけキラキラしてて、
“ああ、この人は音楽が好きなんだな”って思った。
でも、最近は——その顔を見ていない。
まるでもっと昔の、兄貴に戻ったみたい。
昔からテレビの中やスマホの画面の中のアイドル達。
実際そこまで興味があった訳ではなかったんだけど、
“好きな物がない”ってだけで友達の中で浮いてしまう。
だから私は、浮かないためのポーズの為に、“推し事”を続けていた。
そんな中、ある日兄貴は自分だけ熱中できる事を見つけた。
今まで何にも興味を持てなかったくせに、
キラキラした目をして、毎日ギターを弾きまくってた。
素人が頑張っても、画面の中の人のようにはなれないのに…と
内心馬鹿にしながら、そんな兄貴に嫉妬してたんだと思う。
今はギターは鳴らしてるけど、
その音に“勢い”がなくなった気がする。
まるで誰もいない客席に向かって弾いてるみたいな。
音が部屋の壁の中で、行き場をなくしてる。
それでも兄貴は、やめない。
律、ってそういう人だ。
頑固で、意地っ張りで、
それでも何かを続けようとする。
たぶん——見栄とかじゃない。
やっと見つけた、自分が熱中できる事を続けることでしか
生きてる実感が持てないんだと思う。
……そういうところ、ちょっとだけわかる。
だって私も、
“推し”の透澄アリアを見てるときだけ、
息をしてる気がするから。
私が受験だろうと、構わず気にせず弾きまくる兄貴に嫌気がさした2年前の夜。
集中したくて、たまたま関連動画で流れてきた。
白くて長い髪の、儚げな女性が描かれたサムネイル。
その時が初めてだと思う。
透澄アリアの声は、すごく透明で、
聴くだけで胸の奥が洗われた。
嘘がない声。
勉強してるノートに知らず知らず、涙の跡を作っていた。
今ではわかる…
初めて聞いたあの時の、透澄アリアの歌声は…
兄貴のと似てるんだ。
音楽が好きでたまらないって、気持ちであふれてる。
——兄貴の曲も、誰かに届いたらいいね。
でも、本人にそんなこと言ったら、
きっと面倒くさそうな顔して「別に」って言うんだろう。
だから言わない。
代わりに、今日もこっそり部屋の壁越しに聴く。
ギターの音が、
ほんの少しだけ前より優しくなった気がした。
そして、私は小さく笑って、
イヤホンを耳に差し込む。
「みんな~今日は新曲のお披露目ですっ!」
スマホの画面の中、
透澄アリアが笑っていた。
配信のコメント欄に流れるハートやスタンプ。
その一つ一つに、
自分の“存在”が少し混ざってる気がする
あの人の声が、
兄貴の部屋の音と一瞬だけ重なった気がして、
私は思わず、息を止めた。
——たぶん大丈夫。
そう思った。
家族で暮らしてる、普通の一軒家だけど豪邸ってわけでもない。
小さな物音でもだいたい筒抜けだけど、それぞれの部屋があるってだけで恵まれてるんだと思う。
兄貴の部屋は隣だから、ギターの音がよく聞こえる。
律が弾いているんだと思う。
パパからギターをもらってからはそうだった。
受験の前日だろうが、深夜二時だろうが、
兄の部屋からは、かすかに弦の音が流れてくる。
最初のうちはうるさくて、壁を叩いたこともある。
けど、いつの間にかそれは、
“家の中の当たり前の音”みたいになっていた。
高校の頃、兄はバンドをやってた。
帰ってくるたび、スタジオの話やライブの話をしてくる。
私は興味なかったけど、
話してる時の兄の顔はちょっとだけキラキラしてて、
“ああ、この人は音楽が好きなんだな”って思った。
でも、最近は——その顔を見ていない。
まるでもっと昔の、兄貴に戻ったみたい。
昔からテレビの中やスマホの画面の中のアイドル達。
実際そこまで興味があった訳ではなかったんだけど、
“好きな物がない”ってだけで友達の中で浮いてしまう。
だから私は、浮かないためのポーズの為に、“推し事”を続けていた。
そんな中、ある日兄貴は自分だけ熱中できる事を見つけた。
今まで何にも興味を持てなかったくせに、
キラキラした目をして、毎日ギターを弾きまくってた。
素人が頑張っても、画面の中の人のようにはなれないのに…と
内心馬鹿にしながら、そんな兄貴に嫉妬してたんだと思う。
今はギターは鳴らしてるけど、
その音に“勢い”がなくなった気がする。
まるで誰もいない客席に向かって弾いてるみたいな。
音が部屋の壁の中で、行き場をなくしてる。
それでも兄貴は、やめない。
律、ってそういう人だ。
頑固で、意地っ張りで、
それでも何かを続けようとする。
たぶん——見栄とかじゃない。
やっと見つけた、自分が熱中できる事を続けることでしか
生きてる実感が持てないんだと思う。
……そういうところ、ちょっとだけわかる。
だって私も、
“推し”の透澄アリアを見てるときだけ、
息をしてる気がするから。
私が受験だろうと、構わず気にせず弾きまくる兄貴に嫌気がさした2年前の夜。
集中したくて、たまたま関連動画で流れてきた。
白くて長い髪の、儚げな女性が描かれたサムネイル。
その時が初めてだと思う。
透澄アリアの声は、すごく透明で、
聴くだけで胸の奥が洗われた。
嘘がない声。
勉強してるノートに知らず知らず、涙の跡を作っていた。
今ではわかる…
初めて聞いたあの時の、透澄アリアの歌声は…
兄貴のと似てるんだ。
音楽が好きでたまらないって、気持ちであふれてる。
——兄貴の曲も、誰かに届いたらいいね。
でも、本人にそんなこと言ったら、
きっと面倒くさそうな顔して「別に」って言うんだろう。
だから言わない。
代わりに、今日もこっそり部屋の壁越しに聴く。
ギターの音が、
ほんの少しだけ前より優しくなった気がした。
そして、私は小さく笑って、
イヤホンを耳に差し込む。
「みんな~今日は新曲のお披露目ですっ!」
スマホの画面の中、
透澄アリアが笑っていた。
配信のコメント欄に流れるハートやスタンプ。
その一つ一つに、
自分の“存在”が少し混ざってる気がする
あの人の声が、
兄貴の部屋の音と一瞬だけ重なった気がして、
私は思わず、息を止めた。
——たぶん大丈夫。
そう思った。
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