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龍人の村編
閑話 侯爵子息の邂逅
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訳が分からないまま牢屋に入れられて数日。その間に何度も魔法を試したが一度も成功する事はなく、見張りの兵士が持ってくるお粗末な食事や水で喉を潤していた。
クソ親父が、呪具って何なんだよ。知らないで使っていたんだから俺は何も悪く無い。
その日も本当の事を訴えても相手にされずにベッドに横になるだけで一日を終わるはずだった。
「おい、緊急だ」
見張りの兵士に誰かが声を掛け、俺の見えない位置で話をしている。小声で話す会話が微かに聞こえる。
「侯爵……連絡が……あり得ないと……」
“侯爵”とだけはハッキリ聞こえたが、何が重要なのか話しの内容は分からなかった。
侯爵って親父か?いったいなにが……
「熱い!グッ!い、痛い痛い痛い」
考え事に気を取られていた俺の指が急に熱くなり激しい痛みが全身を駆け回る。痛みから逃げたくて背中を丸めてみたが痛みが強くなるだけ。自分の声すら痛みを感じ始めていると、兵士が『応援要請』と大声で叫んでいる。誰でも良いから助けてくれ。
「はっ!それが緊急連絡の伝達中に叫び声が聞こえ状態を確認した時にはこの様な姿でありました」
兵士が誰かに状態を報告しているが、そんな事より早く俺の痛みを取ってくれ!あぁ、痛い痛い痛い………
「呪具の後遺症であろう。私では何も出来ん」
あぁ!?何も出来ないだと!役立たずがぁ!!
痛みで苛立つままに言葉を出そうと口を開くが声にならずに息だけが漏れる。一体、俺の身体に何が起きた!
自分の体の変化が理解出来ずに痛みに閉じていた目を開けると全身が蔦で覆われ視界を半分奪われていた。
「な……んだ……何が」
「意識はあるのか。呪具の後遺症だ」
「は?」
“後遺症”と聞いて驚く俺に男は、呪具を長期間使用した反動の様なものだと言われた。
「は、早く痛みを」
「……呪具の痛みは呪具の製作者である“氷の魔女”にしか止められない」
「魔女?」
何なんだよ。魔女だの呪具だの。俺は何も知らないのに勝手な事を言うな!
「あら、この坊やは、まだ自覚してないのねぇ」
何処からか女の声がしたが俺に姿は確認出来ない。ただ、俺に話し掛けていた男が息を飲む音が聞こえた。
「これは魔女殿自らお出ましでしか」
「……何故、龍人がここにいる?」
「里の保護の対価故。この約百年、里は平和を取り戻し復興を果たした」
「……保護……復興……そうなの」
俺を無視して話す二人に苛立つ。里だの関係無いだろう!侯爵の高貴な血の俺を先に助けろ!
「……でも、全ての人間が味方では無いのよ。このクズの様にね」
コツ、コツとゆっくり歩く足音が響き近くで止まる。誰がいるのか分からず黙っていると目の前の蔦と痛みが消え、正面に白銀の長い髪を揺らしながら嘲笑う女がいた。
「誰が高貴な血なの?他人の魔力を奪って生きていた癖に」
「俺は何も知らなかったんだ!」
「知らなかったね……無知は時として罪になるの。特に高貴な血の人の上に立つ人間には命とりなのよ」
無知は罪?何を言っているんだこの女。知らないで使ったけど、ルナの奴は魔力は多いが魔法の使えないポンコツ魔法使いだ。その魔力を俺が使ったところで何の問題がある。高貴な血の俺が使ったんだ。役にたてて感謝するところだろう。
「本当にクズはクズね。その痛み、対の指輪を持つ女の子が受けた痛みが貴方に反ってきただけ」
「は?対の指輪って……ルナか!ポンコツの痛みなら本人に返せ。大体、さっきから偉そうに何者だ」
「あらあら、痛みを抑えた途端にこの態度。この程度の知能で高貴な血なんて笑えるわ」
女の目が真っ赤に染まると足元から這い上がる様な恐怖を感じて無意識に体が震えだす。
「貴方が使っていた指輪は彼女から魔力と知識を奪っていたの。だから、貴方の頭の中は本当は空っぽなのよ」
「は?」
「だって他人の記憶を入れるのよ?隙間が無いと入らないでしょう」
コテッと音が聞こえそうな仕草で首を傾げた女は、恐怖で動けない俺に手を伸ばし頭を鷲掴みする。先ほどまで浮かべていた嘘臭い笑みが消え、真っ赤な目はほの暗い炎を感じさせる。
「そんな脳ミソ要らないわね?」
「ぎ、グワッ!あ、あ、あ」
尋常じゃない力で頭を握られ助けを求めたくても声にならない。口から出る意味の無い音と無表情の女の顔。
「待て魔女殿。もう、貴女一人が汚れる必要は無い」
「……いいえ、こんなクズがいる限りあの悲劇が繰り返される」
一度、目を閉じた女が再び目を開けると真っ赤な目で俺を見てニタリと嫌な笑みを浮かべた。
「“氷の魔女が命じる。契約に従い使用者に罪を与えよ”」
赤い光の見た記憶を最後に俺の意識は途絶えた。
クソ親父が、呪具って何なんだよ。知らないで使っていたんだから俺は何も悪く無い。
その日も本当の事を訴えても相手にされずにベッドに横になるだけで一日を終わるはずだった。
「おい、緊急だ」
見張りの兵士に誰かが声を掛け、俺の見えない位置で話をしている。小声で話す会話が微かに聞こえる。
「侯爵……連絡が……あり得ないと……」
“侯爵”とだけはハッキリ聞こえたが、何が重要なのか話しの内容は分からなかった。
侯爵って親父か?いったいなにが……
「熱い!グッ!い、痛い痛い痛い」
考え事に気を取られていた俺の指が急に熱くなり激しい痛みが全身を駆け回る。痛みから逃げたくて背中を丸めてみたが痛みが強くなるだけ。自分の声すら痛みを感じ始めていると、兵士が『応援要請』と大声で叫んでいる。誰でも良いから助けてくれ。
「はっ!それが緊急連絡の伝達中に叫び声が聞こえ状態を確認した時にはこの様な姿でありました」
兵士が誰かに状態を報告しているが、そんな事より早く俺の痛みを取ってくれ!あぁ、痛い痛い痛い………
「呪具の後遺症であろう。私では何も出来ん」
あぁ!?何も出来ないだと!役立たずがぁ!!
痛みで苛立つままに言葉を出そうと口を開くが声にならずに息だけが漏れる。一体、俺の身体に何が起きた!
自分の体の変化が理解出来ずに痛みに閉じていた目を開けると全身が蔦で覆われ視界を半分奪われていた。
「な……んだ……何が」
「意識はあるのか。呪具の後遺症だ」
「は?」
“後遺症”と聞いて驚く俺に男は、呪具を長期間使用した反動の様なものだと言われた。
「は、早く痛みを」
「……呪具の痛みは呪具の製作者である“氷の魔女”にしか止められない」
「魔女?」
何なんだよ。魔女だの呪具だの。俺は何も知らないのに勝手な事を言うな!
「あら、この坊やは、まだ自覚してないのねぇ」
何処からか女の声がしたが俺に姿は確認出来ない。ただ、俺に話し掛けていた男が息を飲む音が聞こえた。
「これは魔女殿自らお出ましでしか」
「……何故、龍人がここにいる?」
「里の保護の対価故。この約百年、里は平和を取り戻し復興を果たした」
「……保護……復興……そうなの」
俺を無視して話す二人に苛立つ。里だの関係無いだろう!侯爵の高貴な血の俺を先に助けろ!
「……でも、全ての人間が味方では無いのよ。このクズの様にね」
コツ、コツとゆっくり歩く足音が響き近くで止まる。誰がいるのか分からず黙っていると目の前の蔦と痛みが消え、正面に白銀の長い髪を揺らしながら嘲笑う女がいた。
「誰が高貴な血なの?他人の魔力を奪って生きていた癖に」
「俺は何も知らなかったんだ!」
「知らなかったね……無知は時として罪になるの。特に高貴な血の人の上に立つ人間には命とりなのよ」
無知は罪?何を言っているんだこの女。知らないで使ったけど、ルナの奴は魔力は多いが魔法の使えないポンコツ魔法使いだ。その魔力を俺が使ったところで何の問題がある。高貴な血の俺が使ったんだ。役にたてて感謝するところだろう。
「本当にクズはクズね。その痛み、対の指輪を持つ女の子が受けた痛みが貴方に反ってきただけ」
「は?対の指輪って……ルナか!ポンコツの痛みなら本人に返せ。大体、さっきから偉そうに何者だ」
「あらあら、痛みを抑えた途端にこの態度。この程度の知能で高貴な血なんて笑えるわ」
女の目が真っ赤に染まると足元から這い上がる様な恐怖を感じて無意識に体が震えだす。
「貴方が使っていた指輪は彼女から魔力と知識を奪っていたの。だから、貴方の頭の中は本当は空っぽなのよ」
「は?」
「だって他人の記憶を入れるのよ?隙間が無いと入らないでしょう」
コテッと音が聞こえそうな仕草で首を傾げた女は、恐怖で動けない俺に手を伸ばし頭を鷲掴みする。先ほどまで浮かべていた嘘臭い笑みが消え、真っ赤な目はほの暗い炎を感じさせる。
「そんな脳ミソ要らないわね?」
「ぎ、グワッ!あ、あ、あ」
尋常じゃない力で頭を握られ助けを求めたくても声にならない。口から出る意味の無い音と無表情の女の顔。
「待て魔女殿。もう、貴女一人が汚れる必要は無い」
「……いいえ、こんなクズがいる限りあの悲劇が繰り返される」
一度、目を閉じた女が再び目を開けると真っ赤な目で俺を見てニタリと嫌な笑みを浮かべた。
「“氷の魔女が命じる。契約に従い使用者に罪を与えよ”」
赤い光の見た記憶を最後に俺の意識は途絶えた。
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