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龍人の村編
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ヒラヒラ舞う雪が地面の茶色を覆い隠し、常緑樹の濃い緑も白へと変わる。起きてから数時間しか経っていないのに、窓の外は雪景色に変わり長い冬の始まりを告げていた。
「雪、凄いわ」
ソフィア様との話の後、私は家族と話がしたいと言ったらアラン先生が通信機を我が家に持って行けば大丈夫だと教えてくれた。準備が調うまでは契約をしない事と、上位魔法を使った疲労が回復するまで安静と言われて私は部屋から出れずにいた。
静かな部屋から雪の降る外を眺めていると、一階が騒がしくなる。ドタドタと大きな物音と共にドアが開きドラゴンちゃんが飛び込んできた。
「キュー!」
「おかえりドラゴンちゃん。心配かけてごめんね」
私に抱きつくドラゴンちゃんの背中を優しく撫でていると、開いたままのドアからリュカ様が顔を覗かせた。
「すまない。止めようとしたんだが間に合わなかった」
「いえ、こちらこそご迷惑をお掛けしました」
ゆっくり首を横に振ったリュカ様の手には小さなトレイと湯気の立つコップがある。
「婆さんが薬湯を飲むようにと」
「あ、はい。ありがと……ござます」
差し出されたトレイごと受け取り改めて見ると、コップの中身が紫色をしていた。ちょっと飲むには覚悟いる色をしているけど、ソフィア様の薬なら大丈夫よね。覚悟を決めて一気に飲み干すと、後から草の青臭さが口いっぱいに広がった。
「にが……ゴチソウサマでした」
あまり苦さに言葉使いがおかしくなる。そんな私が差し出したトレイをリュカ様が苦笑しながら受け取った。トレイを待ったままリュカ様は少し視線を巡らせた後、少し話がしたいと言ったので、部屋に招き入れた。
「ルナ嬢、ドラゴンと契約するのか?」
「はい、家族と話してからですが、そのつもりです」
ベッドに座る私の向かい側に椅子を置いて座るリュカ様は、俯き何か考えている様な雰囲気でただ彼の言葉を待っているとゆっくり顔を上げた彼は真剣な眼差しを私に向けた。
「婆さんから聞いたかもしれないが、その子には危険が付きまとう」
「はい、聞きました」
「その……女性に失礼な事を言うが結婚も難しくなる」
「ソフィア様にもいわれました。でも、正直に言えば普通の結婚を考えた事がないので気にしていません」
「考えた事がないとは、婚約者がいたのにか?」
リュカ様の驚いた表情で言われた疑問は当然なのかもしれない。婚約者がいれば自然とその先を考えるだろう。普通の婚約で良好な関係を築いていたら。でも私の場合は違った。見下され罵倒されいないものとして扱われた。元婚約者は勿論その家族も。
「一人の人間として扱われていなかったので、元婚約者との結婚に夢も希望も感じたことはないんです」
「すまない。辛いことを語らせてしまった」
「いえ、すんだ事です。彼らのせいだけとは言いません。実際、魔法が使えなかったし……でも、私の中で結婚する事は、相手の言いなりに……奴隷になることと同じだったんです」
リュカ様の息を飲む音で、言葉使いを間違えたと思ったが訂正せず話を続けることにした。今更、隠しても仕方がないわ。婚約破棄の現場を見ていた人だし。
「顔を合わせれば魔法が使えない事を責められ、パーティーにエスコートもされず放置されて……それでも解消は許されず……」
気がつくとポロポロと溢れる涙を隠すため俯いて顔を隠した。そう言えばこんな事を誰かに話したのは初めてかもしれない。お母様には心配掛けたくなかったし、お父様は堪えろと言うだけだったわ。お兄様は暴走しそうで言える状況じゃなかったものね。もう終わった事だし他の人に言っても仕方ないのに。
「ごめんなさい。済んだ事なのにこんな話を聞かされても困りますよね」
「いや、俺には何も出来ないが、話をするだけで心が軽くなることもあるだろう。気にするな」
「あ、ありがとうございます」
「体調が悪いのにすまなかった。ほら、ちびドラゴン。お前も行くぞ」
「キュ⁉キュー‼」
リュカ様がドラゴンちゃんを外に連れ出そうとすると、大きな声で抗議をする。嫌だと言わんばかりに私の胸にしがみ付いて離れようとしなかった。
「しょうがないなぁ。ドラゴンちゃん静かに出来る?」
「キュー」
「おい、俺の時と態度が違うじゃないか」
眉間にシワを寄せてドラゴンちゃんと睨み合うリュカ様。ドラゴンちゃんも挑発するように舌を出している。
「どうしたの?」
「キュ」
「え?リュカ様が嫌い?どうして……私が寝ている間はリュカ様がお世話してくれたんじゃないの?」
私が尋ねると小さく鳴いて視線を逸したドラゴンちゃんは、何も言わずベッドに潜り込むと布団に隠れて出て来なくなった。
「何か気に障る事でもあったのでしょうか?」
「……いや、俺の事が気に入らないだけだろう。俺が部屋からいなくなれば出てくるさ。明日には通信の準備が整うそうだ。休んで体調を整えた方がいい」
リュカ様は心辺りがあるみたい。それ以上は何も言わずトレイを持って部屋を出て行った。ドアが閉まる音と同時に布団から顔を出したドラゴンちゃんは、何も言わずに私のお腹に頭を押し付け甘える。まだ、私の両腕に収まる小さなドラゴンの頭を撫でながら、明日の事に思いを馳せていた。
二人を説得してドラゴンちゃんと正式に契約しよう。
この子を守る為にも必ず説得してみせるわ。
「雪、凄いわ」
ソフィア様との話の後、私は家族と話がしたいと言ったらアラン先生が通信機を我が家に持って行けば大丈夫だと教えてくれた。準備が調うまでは契約をしない事と、上位魔法を使った疲労が回復するまで安静と言われて私は部屋から出れずにいた。
静かな部屋から雪の降る外を眺めていると、一階が騒がしくなる。ドタドタと大きな物音と共にドアが開きドラゴンちゃんが飛び込んできた。
「キュー!」
「おかえりドラゴンちゃん。心配かけてごめんね」
私に抱きつくドラゴンちゃんの背中を優しく撫でていると、開いたままのドアからリュカ様が顔を覗かせた。
「すまない。止めようとしたんだが間に合わなかった」
「いえ、こちらこそご迷惑をお掛けしました」
ゆっくり首を横に振ったリュカ様の手には小さなトレイと湯気の立つコップがある。
「婆さんが薬湯を飲むようにと」
「あ、はい。ありがと……ござます」
差し出されたトレイごと受け取り改めて見ると、コップの中身が紫色をしていた。ちょっと飲むには覚悟いる色をしているけど、ソフィア様の薬なら大丈夫よね。覚悟を決めて一気に飲み干すと、後から草の青臭さが口いっぱいに広がった。
「にが……ゴチソウサマでした」
あまり苦さに言葉使いがおかしくなる。そんな私が差し出したトレイをリュカ様が苦笑しながら受け取った。トレイを待ったままリュカ様は少し視線を巡らせた後、少し話がしたいと言ったので、部屋に招き入れた。
「ルナ嬢、ドラゴンと契約するのか?」
「はい、家族と話してからですが、そのつもりです」
ベッドに座る私の向かい側に椅子を置いて座るリュカ様は、俯き何か考えている様な雰囲気でただ彼の言葉を待っているとゆっくり顔を上げた彼は真剣な眼差しを私に向けた。
「婆さんから聞いたかもしれないが、その子には危険が付きまとう」
「はい、聞きました」
「その……女性に失礼な事を言うが結婚も難しくなる」
「ソフィア様にもいわれました。でも、正直に言えば普通の結婚を考えた事がないので気にしていません」
「考えた事がないとは、婚約者がいたのにか?」
リュカ様の驚いた表情で言われた疑問は当然なのかもしれない。婚約者がいれば自然とその先を考えるだろう。普通の婚約で良好な関係を築いていたら。でも私の場合は違った。見下され罵倒されいないものとして扱われた。元婚約者は勿論その家族も。
「一人の人間として扱われていなかったので、元婚約者との結婚に夢も希望も感じたことはないんです」
「すまない。辛いことを語らせてしまった」
「いえ、すんだ事です。彼らのせいだけとは言いません。実際、魔法が使えなかったし……でも、私の中で結婚する事は、相手の言いなりに……奴隷になることと同じだったんです」
リュカ様の息を飲む音で、言葉使いを間違えたと思ったが訂正せず話を続けることにした。今更、隠しても仕方がないわ。婚約破棄の現場を見ていた人だし。
「顔を合わせれば魔法が使えない事を責められ、パーティーにエスコートもされず放置されて……それでも解消は許されず……」
気がつくとポロポロと溢れる涙を隠すため俯いて顔を隠した。そう言えばこんな事を誰かに話したのは初めてかもしれない。お母様には心配掛けたくなかったし、お父様は堪えろと言うだけだったわ。お兄様は暴走しそうで言える状況じゃなかったものね。もう終わった事だし他の人に言っても仕方ないのに。
「ごめんなさい。済んだ事なのにこんな話を聞かされても困りますよね」
「いや、俺には何も出来ないが、話をするだけで心が軽くなることもあるだろう。気にするな」
「あ、ありがとうございます」
「体調が悪いのにすまなかった。ほら、ちびドラゴン。お前も行くぞ」
「キュ⁉キュー‼」
リュカ様がドラゴンちゃんを外に連れ出そうとすると、大きな声で抗議をする。嫌だと言わんばかりに私の胸にしがみ付いて離れようとしなかった。
「しょうがないなぁ。ドラゴンちゃん静かに出来る?」
「キュー」
「おい、俺の時と態度が違うじゃないか」
眉間にシワを寄せてドラゴンちゃんと睨み合うリュカ様。ドラゴンちゃんも挑発するように舌を出している。
「どうしたの?」
「キュ」
「え?リュカ様が嫌い?どうして……私が寝ている間はリュカ様がお世話してくれたんじゃないの?」
私が尋ねると小さく鳴いて視線を逸したドラゴンちゃんは、何も言わずベッドに潜り込むと布団に隠れて出て来なくなった。
「何か気に障る事でもあったのでしょうか?」
「……いや、俺の事が気に入らないだけだろう。俺が部屋からいなくなれば出てくるさ。明日には通信の準備が整うそうだ。休んで体調を整えた方がいい」
リュカ様は心辺りがあるみたい。それ以上は何も言わずトレイを持って部屋を出て行った。ドアが閉まる音と同時に布団から顔を出したドラゴンちゃんは、何も言わずに私のお腹に頭を押し付け甘える。まだ、私の両腕に収まる小さなドラゴンの頭を撫でながら、明日の事に思いを馳せていた。
二人を説得してドラゴンちゃんと正式に契約しよう。
この子を守る為にも必ず説得してみせるわ。
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