婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

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魔物と魔女編

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 気絶している室長をリュカ様が背中を叩いて覚醒させると、彼は何が起きたか理解していないようでキョロキョロを視線を彷徨わせている。

「もう一人の負傷者は何処だ?」

 リュカ様の言葉を聞いた室長は、慌てて立ち上がると急に深々と頭を下げて謝罪し始めた。

「申し訳ありませんでした!瘴気に「もういいですから視線を負傷者は何処ですか」」

 何時までも続きそうな謝罪を止めて負傷者の場所を聞き出すと、廊下の突き当たりの部屋に鍵を掛けて隔離してあると言った。

「鍵を掛けて隔離」

「は、はい!瘴気やられで暴れ始めたので隔離しました!」

 私が確認するように繰り返した言葉に続けて言い訳をする室長にフツフツと怒りが沸いてきたけど、それを抑えてリュカ様と一緒に奥の部屋に向かう事にした。

「室長はノリス支部長に状況報告をしてくれ」

「は!」

 リュカ様が少しキツイ言い方で室長に報告する様に言うと、彼は慌てて何度も転びそうになりながら走り出した。室長が廊下の角を曲がり見えなくなると、リュカ様と視線が合う。その目はナイフのような鋭さを感じさせ、今の状況が悪い方へ向かっている事を告げていた。

「俺が前を行く。ルナ嬢は杖を持ったままで付いてきてくれ」

 しっかりと頷いて了承する私の頭を一度撫でたリュカ様は、剣を抜いて両手に構えると真っ直ぐ前だけを見て歩き出し私もその後ろに続く。室長が言った廊下の突き当たりは、昼間のはずなのに真っ暗で新月の晩を思い出す。暗すぎる……瘴気が濃いわ。

「リュカ様、浄化の魔石です」

 後ろ手に伸ばされた彼の右手に魔石を乗せ、杖の先に灯りを灯した。

「灯りが届かないですね」

「濃いな……呑まれたか」

 最悪の事態が考えられる中たどり着いた部屋は、引戸のドアの隙間からすでに瘴気が漏れ出ていた。

「グルルルル……く……る……い……た…………けて」

 中から聞こえた声はまだ小さな子供の声に聞こえて杖を持つ手が震えた。リュカ様の剣を持つ左手にも力が入る。彼はさっき渡した魔石を発動させると、ドアの下にある食事を入れる為の隙間から中に滑らす様に入れた。

「ギャァァァァ!……く……る……い……た…………い……グォォォォ!」

 ドアの隙間から金色の光が漏れると、獣の様な雄叫びと子供の声が交互に響き耳を塞ぎたくなる。直ぐに声は小さくなったが金色の光は輝き続け、浄化が完了していない事を示していた。

「ルナ嬢、あの石はどれくらいもつ?」

「あと二分です」

「……この部屋……二つの気配がするんだ……人間と魔物の二つの気配が」

 人間には無害な浄化魔法も魔物になってしまった人間には毒になる。瘴気に呑まれて半分魔物になっているのか、瘴気に誘われて別の魔物がいるのか分からない状況でドアを開ける訳にはいかないと、リュカ様はドアに貼り付く様に身体を寄せて中の様子を伺っている。

「ルナ、怖い?」

 無意識に震えていた私に気づいたミューが、体を擦り寄せて励まそうとしてくれる。そんな優しい彼女の背中を撫でた私は、手に持つ杖に魔力を流し始めた。リュカ様だって本当は分かってるはず……石だけでは浄化出来ない。でもギリギリまで待っていたのは私が震えていたからなのね。

「リュカ様、魔石だけでは無理です。私も行きます」

「……分かった。三つ数えたら突入だ」

リュカ様の言葉に大きく頷いた私は、彼とは反対側に移動して二人でドアを塞ぐ様に立った。

「一……二……三!」

 合図と共にリュカ様が鍵ごとドアを内側に蹴破ると、部屋の奥に置かれた別の上で子供が頭を抑えて踞っている。その横の床には倒れた黒い影が唸り声を出していた。

「影は俺が伐る。子供を頼む」

 中の様子を見て一瞬で判断したリュカ様は、そう言いながら影に向かって剣を振り下ろしていた。私も急いで子供の元へ行くと、浄化の魔法陣を広げた。

「浄化」

 一際、強く光った魔法陣が消えると、魔石の光も消えてボロボロと崩れていく。静かにベッドで横になった子供の状態を確認すると、瘴気は消えていたけど大小様々傷が見えた。

「え?……これは……魔物の傷じゃない」

 魔法で体調や傷の状態を確認した私は、恐怖とは別の意味で震えが止まらない。これは……

「リュカ様、この子……魔物以外で出来た傷があります」

 リュカ様の息を飲む音が聞こえた。ミューは私の言葉の意味が分からないのか首を傾げたあと、子供の上に乗って顔を擦り寄せている。リュカ様が子供の服を少し捲って腕を見ると、新しいものから古いものまで複数の傷跡が確認出来た。

「ただの魔物討伐だけじゃないんだな」

 確信した様な言い方をしたリュカ様は、子供をベッドに寝かしなおすと傷跡を隠す様に上から布団を掛けた。

「婆さんとノリス支部長の元へ戻ろう」

「そうですね……取り敢えずドアの代わりに防御壁を置きましょう」

 防御壁で入口を塞いだ私は、足元から這い上がる恐怖と怒りを無視して彼の後ろについて歩き出した。

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