婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

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魔物と魔女編

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 支部長室に戻ると、ソフィア様とノリス支部長が厳しい表情で何か話している途中だった。私達に気づいた二人は会話を止めて、ハヤト室長から報告が来たと言った。

「医務室の話しは聞いた。負傷者の浄化は大丈夫だったか?」

「はい、無事に完了しました。一人だけ別室にいた少年の件で気になる事があり……」

 リュカ様が少年の傷を説明していると、ソフィア様が私を手招きして呼ぶので、何かと思いながら近付けば浄化薬の材料を机に並べ始めた。

「報告はリュカに任せて至急、浄化薬を作っとくれ」

「はい、ミューも手伝って」

「は~い」

 一気に作るつもりなのかソフィア様は、支部長室の大きな机の上に三分の一程の巨大な鍋を置いたあと鞄の中から薬瓶を取り出し数え始めた。

「……五十か……瓶が足らんね。ノリス、薬瓶を百個持ってきておくれ」

「はい?……百?え?」

あっ!なるほど。それだけあれば魔物の多発中の今でも余裕が出るから、一般の人が怪我しても使えるわね。
 私は納得して頷いた後、鍋の中に順番通りに材料を入れては混ぜ始めたけど、ノリス支部長は驚いて動かなくなってしまった。

「取り敢えずそんだけありゃ困らんだろうが」

「……は……い!?弟子殿に作らせる気か!魔力が」

「馬鹿は黙りな!さっさと瓶を用意しな」

 あわあわと言葉にならない何かを話しながらノリス支部長が何処かに連絡している。そんなノリス支部長は気にせずに鍋の中身に集中する。薬草と魔結晶の粉末に精霊の粉を混ぜた後、魔力をゆっくり流して材料を融合させる。ドロドロと深緑色だった鍋の中身が透明になったタイミングで私は背中を強い力で叩かれた。

「ッ!!……毎回、思いますけどこの工程要りますか?」

 痛みで目に溜まった涙を小さなガラス瓶に集めると、鍋の中に入れてゆっくりと混ぜ合わせた。

「乙女の涙を他で採ってくるより速いじゃないか」

浄化薬の最後に必要なモノが"乙女の涙"

 未婚の女性、しかも成人前の女性が良いからと言って、ソフィア様は浄化薬を作る度に背中を叩いていた。うー、ヒリヒリする……前より力が強い気がした私は、思わず恨みがましい視線を向けたけど、ソフィア様は笑っているだけ。頬を膨らまし不貞腐れながらも混ぜ続けていると、淡い光を放ち浄化薬が完成した。

「……本当に出来た……」

 完成した浄化薬は小瓶に詰めれば百を越えるだろうけど、こんな大量に市場に出すと価格が暴落する危険があるから滅多にしない。大鍋で作るなんて初めて見ただろうノリス支部長は、口をポカーンと開けていた。

「そのデカイ口をさっさと閉じな」

 ソフィア様の指摘で慌てて口元を手で押さえた時、ドアがノックされ瓶を持ってきたと言って、白衣を着た男女が入って来た。ハヤト室長とは違う医療班の人らしい。ノリス支部長の指示で大鍋の薬を小瓶に詰め始めた。

「支部長が急に大量に瓶がいるって言うから何事かと思いましたよ」

「うるせぇ。いきなり薬が足らねぇなら作るって目の前で作るか?驚くだろうが」

 医療班の女性はララさん、男性はラークさん、平民の姉弟でノリス支部長と昔からの知り合いらしい。仕事の出来る人達らしい二人は、ノリス支部長と会話しながらも手を止める事なく瓶詰めを続けている。私も一緒に瓶詰めしている間に、三人は少年の様子を見に行く事にしたようだ。私にリュカ様が何度も部屋から出ないように言ってから、2人の後について出て行った。

「彼、過保護ね。恋人の貴女が心配なのかしら?」

「ふぇ!?こ、恋人じゃないです!師匠のご家族で護衛の方です」

 突然言われた内容に驚いて否定する私の顔はきっと真っ赤になってる。熱を持つ頬を手で扇ぎながら顔を横に振った。

「あら、違うの?彼の片思いなのかしら?」

「姉さん、お弟子さんが困ってますよ」

 弟さんの言葉に同意の意味を込めて縦に頭を振っていると、お姉さんは少し驚いた表情に変わった。

「噂と違ったのね。てっきり龍人と付き合っているから魔力が大きくなったと思ったのに」

 弟さんが止めてくれてホッしたのもつかの間、次の言葉に泣きそうになってしまう。噂って何!?付き合ったからって魔力関係なしい!

「あら?その顔は噂知らないの?」

「はい知らないです。噂ってなんですか?」

 二人は驚いた様子で互いに顔を見合わせた後で、申し訳なさそうに頭を下げた。

「噂を鵜呑みにしてごめんなさい。最近、うちの領地で龍人が交わると魔力が増すって話があって……」

"交わる"って何?

 言葉の意味が理解出来ずにミューと一緒に首を捻る私を見た二人は、あり得ないって小さな声で呟いた。え?何があり得ないの?

「えっと、お弟子さんはお幾つですか?」

「私?十五です」

「「み、未成年」」

私の年齢を聞いた二人は、 少し青ざめた表情で困った様に眉を下げていた。

「ごめん、今の話は忘れて」

「姉さんが無神経で本当にごめんね」


……何故?二人から謝られたけど、意味が分からず取り敢えず了承する。後でソフィア様にでも聞いてみよう。
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