25 / 47
第6話 吐露する想い
6-4
しおりを挟む
※本日は1日2回更新です。
19時に最終話を更新予定です。
「おかえりなさい、ロナルド様、クラリス」
「おかえりなさい。楽しかったですか?」
屋敷に到着するとモニカとアランがクラリスたちを笑顔で出迎えてくれた。
「あら、シエルも一緒に行っていたの?」
モニカがクラリスの肩の上にいるシエルに気づいて首を傾げた。
「追いかけてきてくれたんです」
「まあまあ、シエルはクラリスが大好きなのね」
モニカの言葉にシエルが「ちゅん!」と誇らしげに鳴いた。
玄関で立ち話ではもったいないし、夕食にも時間があるので談話室で話をしましょうと誘われて移動する。
クラリスはいつも通り、モニカとアランの間に座り、ロナルドは向かいのソファに腰かけ、シエルはロナルドの膝の上に降り立った。
「シエル、だめよ、こっちに……」
「君が良ければこのままで。シエルは可愛いからな」
ロナルドがそう言うので、クラリスは呼び戻すのを止めた。もともとロナルドには懐いていたが、今日一日でシエルはより一層懐いたようだ。
「クラリス、お出かけはどうだった?」
「とても楽しかったです。動く銅像がいたんですよ」
「大道芸の方ね?」
「はい。ロナルド様が教えてくださって、いきなり動いてとても驚きました」
「ふふっ、何かのお祭りが近くなったら一緒に行きましょう? もっとたくさんの大道芸人の方々がいるのよ」
「はい、楽しみです」
ロナルドに自分の出生のことを話すこともできて、その上で「必要な人」と肯定してもらえて、クラリスは自分でも驚くほど心が軽くなったのを感じていた。
でも、だからこそきちんとしなければ、とクラリスは顔を上げた。
「モニカさん、アランさん」
突然、強張ったクラリスの声に二人が「どうしたの」と顔をこちらに向けてくれた。
「お、お二人にもきちんとお話をしておきたくて……私の、こと」
毅然と言い切るつもりだったのに語尾が震えてしまった。
それでもモニカとアランの目を順番に見つめてクラリスは先を続けた。ロナルドが心配そうにこちらを見ている。
「……母は身分ある方の愛人でした。私は、望まれて生まれてきたのかも分かりません。でも、誰かを傷つけて生まれてきたことは事実です。私は不義の子で……いらない子でした」
母にも伯爵夫人にも真意を尋ねたことは一度だってない。でも、伯爵夫人は――ミランダは、間違いなくクラリスの存在に、母の存在に傷ついていた。
「み、身勝手なのは、分かっているんです。私みたいな人間が、本当は望んではいけないということも分かっています。……でも、私は、モニカさんとアランさんが好きです。……だから、だから……ここに、いても……いい、でしょうか……っ」
みっともなく震えて、弱弱しく小さくなっていく声にだんだんと顔も勝手に俯いていってしまった。
ぱたぱたと羽音がして、シエルが膝の上で握りしめられたクラリスの手の上に降り立った。
「ちゅんちゅん」
まるで「大丈夫だよ」とでもいうようにクラリスの手の上でぴょんぴょんと跳ねた。
「わたしもね、クラリスが大好きですよ」
「私のほうが大好きですよ」
まるで夜明けを報せるような言葉に顔を上げると、なぜかアランとモニカはにらみ合っていた。
「あなた、どうしてそう余計な一言を……!」
「事実だからですよ!」
「でしたら言いますけど、わたしのほうがクラリスを大好きですからね!」
「何をいいますか、私のほうが大好きに決まっているでしょう!」
予想の斜め上をいく喧嘩の内容に、クラリスはぽかんと口を開けたまま二人を交互に見た。モニカとアランは、自分のほうがクラリスが大好きだ、と言って両者ともに譲らない。
喧嘩だから止めなければと思うのに、ぽんぽんと飛び出す「大好き」という言葉にクラリスは思わずにこにこしてしまう。
するとロナルドの紫色の瞳と目が合った。
「よかったな」
彼が笑いながら言った言葉に、クラリスは「はい」と笑顔で頷いた。
だが、両隣の喧嘩が一向に終わらない。
今は「わたし・私が経験した、クラリスの可愛いところ」をどっちが知っているかという争いになっている。寝起きのぽやぽやしたところ、とか、好物を食べた時にふにゃんとした顔で頬を押さえているところ、とか、ちょっとクラリスも聞くのが恥ずかしくなってきて、ぱたぱたと手で顔を仰いだ。
ロナルドが止めてくれないかと彼に視線を向けると、なぜかとても真剣な顔で二人の喧嘩を聞いていて、助けてくれそうにはなかった。
「シエル、どうしたらいいかしら」
膝の上のシエルに相談すると、シエルは「ちゅんちゅちゅん」と軽やかに囀った。
「そうね、それがいいかもしれないわ」
クラリスは、ふふっと笑って頷き、深呼吸を一つしてから、息を吸い軽やかに歌いだす。
クラリスが歌い始めるとモニカとアランは、ぴたりと口を閉じ、ロナルドは目を閉じてクラリスの歌に聞き入ってくれているようだった。
この胸にあふれる喜びが伝わりますように、と願いながら、とびきり楽しくて、軽やかな船乗りの歌を歌った。
長い船旅を終えて、ようやく祖国に戻り、家族に会える喜びを称えた歌だ。
ここへ来られてよかった。あなたたちに出会えてよかった。ここに帰って来られる喜びが、どうかどうか伝わりますように、と想いを込めてクラリスは歌った。
歌い終えて、ふうと息を吐く。
「やっぱりクラリスの歌は上手ですね」
「ええ、ええ。本当に」
にこにこと笑うアランとモニカにクラリスは「ありがとうございます」と笑みを返す。
「魔力過多症云々を抜きにしても、やっぱり君の歌は心地よい。聞かせてくれてありがとう」
ロナルドが拍手とともに賛辞を送ってくれて、モニカとアランも彼に倣って拍手をしてくれた。シエルが「ちゅんちゅーん!」と楽しそうに鳴く。
「クラリス、わたしの好きな『愛の願い』を歌ってくれるかしら」
「はい!」
モニカからのリクエストに元気よく頷いて、クラリスは再び喉を震わせる。
再び歌を与えてくれた彼らが、どうか幸せでありますようにと願いながら、クラリスは歌うのだった。
夜の風がふわりと窓から入り込んできて、乾かしたばかりのクラリスの髪をふわりと揺らした。
「ちゅんちゅん」
モニカがくれたいらないボウルをシエルの浴槽にしているので、そこで水浴びを済ませたシエルも夜風に心地よさそうに体を揺らす。
クラリスはモニカが服を譲ってくれた時に一緒にくれた深い蒼色のショールを羽織り、窓辺へと足を向け、窓を閉める前に外へと顔を出す。
夜空には無数の星が輝き、柔らかに吹く夜風が庭の木々の葉をたわむれに撫でていく。
するとシエルが小さな翼を広げて飛び立つ。庭の巣箱に帰るのかと思ったがそのまま彼は斜め下へ下りて行き、シエルを追いかけた視線の先にロナルドがいた。
「やあ、シエル。夜の散歩か?」
ロナルドが差し出した指にシエルが降り立った。シエルはちゅんちゅんとご機嫌に鳴いて、翼を広げ、再び飛び立ち、今度はクラリスの下へと戻って来る。
するとロナルドがクラリスに気づいて、小さく手を挙げた。クラリスもショールを片手でおさえ、もう片方の手で小さく手を振り返した。
「クラリス、そちらへ行ってもいいだろうか?」
「はい」
クラリスは頷き、夜は必ず鍵をかけること、とアランに言われているのでドアにかけた鍵を外さなければと気づく。
だが、ロナルドはその場で欄干に足をかけて、飛び跳ね、屋根を掴むと腕の力でひょいと屋根の上に上り、こちらにやって来た。
まさかの方法にクラリスは目を丸くする。
「クラリス、屋根に上ったことは?」
クラリスは首を横に振った。
すると「おいで。俺の手を両手で掴んで」と大きな手が差し出されて、言われた通りにその手を両手で掴めばいとも簡単に引っ張り上げられ、ロナルドに支えられながら屋根の上に座る。
「上、見てごらん」
「……っ!」
言われるがまま、夜空を見上げて息を呑む。
何も隔てるものがない夜空を見たのは初めてだった。空はいつも見上げるばかりのもので、ここから飛び降りるときだって、飛べないクラリスは着地するための地面を見ていて、上を向く余裕はなかった。
隔てるものがない世界は、あまりに広くて、自分がとても小さい存在のように思えた。
「シエルは、こんな広いところを飛んでいるんですね」
「ああ」
「ちゅんちゅーん!」
ロナルドとシエルが同時に頷いて、シエルが飛び立つ。月の灯りのおかげで、シエルがどこを飛んでいるかは見える。
「なあ、クラリス。何か歌ってくれないか?」
「どこかお加減が?」
そのお願いにロナルドを振り返る。ロナルドは慌てて首を横に振る。
「違うよ、元気だ。……ただ、君の歌が聞きたいんだ。だめかな?」
「もちろん、大丈夫ですよ。何かリクエストはありますか?」
クラリスが安堵に微笑むとロナルドも笑みを返してくれた。
「歌はあまり知らないんだ。でも、そうだな、何かこの夜に似合う歌がいいな」
「この夜に似合う歌……でしたら、これがいいかもしれません」
クラリスは夜空を見上げて、息を吸う。
ひとりぼっちだった女の子が月のお姫様に出会って、友達になり、夜空を旅する童謡。
キラキラ輝く一番星に、かけっこが大好きな流れ星、おしゃべりが大好きな星たちに、星の子どもたちが眠る星色の雲。
夜の空はどこまでも広くて、星たちはそれぞれが美しく輝く、素晴らしい世界。
そこで女の子は気づくのだ。ひとりぼっちだと思っていた夜の世界に、こんなにもたくさんの星がいて、暗闇に飲み込まれないように輝く月が寄り添ってくれていること。
優しく軽やかで、けれど、少し切ないメロディーにクラリスは歌声を乗せる。
ここへ来る前は、この歌の意味なんて分からなくて、けれど、同じひとりぼっちの女の子が月のお姫様と旅をするのが羨ましかった。
だってクラリスは、ひとりぼっちだったから。
でも、今はひとりじゃない。クラリスを大切にしてくれる人が三人もいて、可愛い小鳥まで一緒だ。
たったひとりの寂しい夜、母の部屋のクローゼットの中、膝を抱えていた小さな小さなクラリスを抱きしめるように歌う。
もう大丈夫。寂しくないから、愛をくれる人がいるから。
だからもう泣かないでとクラリスは、心の中で語り掛ける。
「あなたが寂しい夜はわたしがそばにいて あなたの幸せを願うわ……」
歌い終えて、クラリスはふうと息を吐く。
「……やっぱり君の歌は素晴らしい」
ぱちぱちと拍手とともにロナルドが贈ってくれた賛辞にクラリスは振り返り、会釈を返す。
「ありがとう、ございます」
気恥ずかしさに少し詰まってしまったが、ロナルドは気にした様子もなく「本当に素晴らしいよ」と褒めてくれた。
「なあ、クラリス。お願いがあるんだが」
もう一曲リクエストかしらと首を傾げながら「なんですか?」と先を促す。
「俺が家に帰ってきた日だけでいいんだが、こうして夜、話しをしたり、歌を聞かせてもらったりする時間が欲しいんだ。ここで」
「ここで、ですか?」
話しや歌はともかくとして、指定された場所にクラリスは驚く。
「密室で話していると、未婚の男女がってモニカとアランが怒るだろう?」
確かに年嵩のマナーの家庭教師がシェリーや、侍女として同じ部屋に控えていたクラリスたちに絶対に男性と密室で二人きりになってはいけませんと口を酸っぱくして言っていた。密室でたとえ何もなくても、証言する人がいなければ、何かあったと判断されて、お互いの瑕になりかねないからだと耳にタコができるほどだった。
それに十五歳でシンディが社交界にデビューしてからは、ミランダがそれこそシンディに口うるさく注意していた。
「でも、ここは確実に密室ではない」
悪戯を思いついた子どものような顔でロナルドがぴんと人差し指を立てる。
「ふふっ、そうですね。屋根の上ですもの」
「だんだん暖かくなっていく季節だし、俺は魔法は得意だから今も実は魔法を使っているんだ。寒くないだろう?」
言われて初めてクラリスは、ちっとも寒くないことに気が付いた。そう言えば風さえも感じない。
驚くクラリスにロナルドが喉を鳴らして笑った。
「空間魔法の一つで、俺と君を覆うように風の壁のようなものがあるんだ。風だから目に見えないけど、その壁の中なら心地よい温度にできるし、夜風も感じなくなる。それにいくら大声で話していても、外には聞こえないんだ」
「すごいです。そんな魔法があるのですね!」
今度はクラリスが拍手を贈るとロナルドは照れくさそうに頬を指で掻いた。
「ありがとう。……それで、どうだろう、了承してくれるかい?」
「はい。私でよければ」
クラリスの返事にロナルドがほっとしたように表情を緩めた。
そして、おもむろにズボンのポケットに手を入れると何かを握った拳がクラリスに差し出された。
「手を」
そう言われてクラリスが両手を差し出すと、ぽとんと何かが落ちてきた。
暗くて良く見えず首を傾げるとロナルドが呪文を唱えて光の玉を出してくれた。
「髪飾り、ですか?」
手のひらに落とされたのは、バレッタだった。
銀色の雲を背に小さな青い小鳥が翼を広げている綺麗なバレッタだ。
「今日、あの雑貨屋で買ったんだ。本当はラッピングしてもらえればよかったんだが、時間がなくて、そのままで済まない。君が我が家に来てくれたお祝いだ」
「で、ですが……」
「気に入らなかったかい? 女性への贈り物はモニカを除くと初めてで……」
「いえ、シエルみたいで可愛いです!」
しょぼんとしてしまったロナルドにクラリスは慌てて首を横に振った。
「良かった」
するとロナルドがあまりにも嬉しそうに笑うので、クラリスは受け取れないなんて言えなくなってしまう。
クラリスは改めてバレッタに視線を落とす。小鳥が本当にシエルにそっくりで、銀色の雲が浮かぶ空を飛んでいるかのようだ。
「ちゅん、ちゅーん」
空を飛び回っていたシエルがクラリスの手のひらに降り立ち、不思議そうにバレッタをのぞき込む。
「……あまり難しく考えないでいいんだよ、与えられるものを受け取ったって、誰にも怒られないから」
優しいその言葉にクラリスは、そっとバレッタを握りしめて顔を上げる。
「……でしたら、とてもとても嬉しいので、お礼にもう一曲、いかがですか?」
「それは嬉しいな、ぜひ」
本当に楽しみだと言わんばかりに頷いたロナルドにクラリスは、バレッタを早速、髪につけた。シエルがロナルドの頭の上に移動する。
「うん、良く似合う」
伸びてきた大きな手がクラリスの頬にかかった髪を耳にかけてくれた。その時、わずかに触れた彼の指先の熱を感じ取って、なんだか落ち着かない気持ちになる。
「お、お礼の歌、何がいいですか?」
ざわめく心を誤魔化すように問いかける。
「じゃあ、もう一度、先ほどの歌を。とても気に入った」
「はい!」
クラリスは元気よく頷いて、息を吸い、再び歌声を夜空に響かせた。
ロナルドは隣に寝ころび頭の後ろで手を組んで目を閉じている。穏やかな表情を浮かべていて、クラリスの歌に聞き入ってくれているのが伝わって来る。
さきほどは母の部屋のクローゼットの中にいた小さなクラリスに向けて歌った。
だから今度は、たくさん辛い思いをしながらも、優しく真っすぐなままあってくれるロナルドのために、母親の言葉に傷ついて、モニカを傷つけてしまったことに恐怖し、誰かを傷つけてしまうこと怯える優しい彼を想って、クラリスは歌ったのだった。
19時に最終話を更新予定です。
「おかえりなさい、ロナルド様、クラリス」
「おかえりなさい。楽しかったですか?」
屋敷に到着するとモニカとアランがクラリスたちを笑顔で出迎えてくれた。
「あら、シエルも一緒に行っていたの?」
モニカがクラリスの肩の上にいるシエルに気づいて首を傾げた。
「追いかけてきてくれたんです」
「まあまあ、シエルはクラリスが大好きなのね」
モニカの言葉にシエルが「ちゅん!」と誇らしげに鳴いた。
玄関で立ち話ではもったいないし、夕食にも時間があるので談話室で話をしましょうと誘われて移動する。
クラリスはいつも通り、モニカとアランの間に座り、ロナルドは向かいのソファに腰かけ、シエルはロナルドの膝の上に降り立った。
「シエル、だめよ、こっちに……」
「君が良ければこのままで。シエルは可愛いからな」
ロナルドがそう言うので、クラリスは呼び戻すのを止めた。もともとロナルドには懐いていたが、今日一日でシエルはより一層懐いたようだ。
「クラリス、お出かけはどうだった?」
「とても楽しかったです。動く銅像がいたんですよ」
「大道芸の方ね?」
「はい。ロナルド様が教えてくださって、いきなり動いてとても驚きました」
「ふふっ、何かのお祭りが近くなったら一緒に行きましょう? もっとたくさんの大道芸人の方々がいるのよ」
「はい、楽しみです」
ロナルドに自分の出生のことを話すこともできて、その上で「必要な人」と肯定してもらえて、クラリスは自分でも驚くほど心が軽くなったのを感じていた。
でも、だからこそきちんとしなければ、とクラリスは顔を上げた。
「モニカさん、アランさん」
突然、強張ったクラリスの声に二人が「どうしたの」と顔をこちらに向けてくれた。
「お、お二人にもきちんとお話をしておきたくて……私の、こと」
毅然と言い切るつもりだったのに語尾が震えてしまった。
それでもモニカとアランの目を順番に見つめてクラリスは先を続けた。ロナルドが心配そうにこちらを見ている。
「……母は身分ある方の愛人でした。私は、望まれて生まれてきたのかも分かりません。でも、誰かを傷つけて生まれてきたことは事実です。私は不義の子で……いらない子でした」
母にも伯爵夫人にも真意を尋ねたことは一度だってない。でも、伯爵夫人は――ミランダは、間違いなくクラリスの存在に、母の存在に傷ついていた。
「み、身勝手なのは、分かっているんです。私みたいな人間が、本当は望んではいけないということも分かっています。……でも、私は、モニカさんとアランさんが好きです。……だから、だから……ここに、いても……いい、でしょうか……っ」
みっともなく震えて、弱弱しく小さくなっていく声にだんだんと顔も勝手に俯いていってしまった。
ぱたぱたと羽音がして、シエルが膝の上で握りしめられたクラリスの手の上に降り立った。
「ちゅんちゅん」
まるで「大丈夫だよ」とでもいうようにクラリスの手の上でぴょんぴょんと跳ねた。
「わたしもね、クラリスが大好きですよ」
「私のほうが大好きですよ」
まるで夜明けを報せるような言葉に顔を上げると、なぜかアランとモニカはにらみ合っていた。
「あなた、どうしてそう余計な一言を……!」
「事実だからですよ!」
「でしたら言いますけど、わたしのほうがクラリスを大好きですからね!」
「何をいいますか、私のほうが大好きに決まっているでしょう!」
予想の斜め上をいく喧嘩の内容に、クラリスはぽかんと口を開けたまま二人を交互に見た。モニカとアランは、自分のほうがクラリスが大好きだ、と言って両者ともに譲らない。
喧嘩だから止めなければと思うのに、ぽんぽんと飛び出す「大好き」という言葉にクラリスは思わずにこにこしてしまう。
するとロナルドの紫色の瞳と目が合った。
「よかったな」
彼が笑いながら言った言葉に、クラリスは「はい」と笑顔で頷いた。
だが、両隣の喧嘩が一向に終わらない。
今は「わたし・私が経験した、クラリスの可愛いところ」をどっちが知っているかという争いになっている。寝起きのぽやぽやしたところ、とか、好物を食べた時にふにゃんとした顔で頬を押さえているところ、とか、ちょっとクラリスも聞くのが恥ずかしくなってきて、ぱたぱたと手で顔を仰いだ。
ロナルドが止めてくれないかと彼に視線を向けると、なぜかとても真剣な顔で二人の喧嘩を聞いていて、助けてくれそうにはなかった。
「シエル、どうしたらいいかしら」
膝の上のシエルに相談すると、シエルは「ちゅんちゅちゅん」と軽やかに囀った。
「そうね、それがいいかもしれないわ」
クラリスは、ふふっと笑って頷き、深呼吸を一つしてから、息を吸い軽やかに歌いだす。
クラリスが歌い始めるとモニカとアランは、ぴたりと口を閉じ、ロナルドは目を閉じてクラリスの歌に聞き入ってくれているようだった。
この胸にあふれる喜びが伝わりますように、と願いながら、とびきり楽しくて、軽やかな船乗りの歌を歌った。
長い船旅を終えて、ようやく祖国に戻り、家族に会える喜びを称えた歌だ。
ここへ来られてよかった。あなたたちに出会えてよかった。ここに帰って来られる喜びが、どうかどうか伝わりますように、と想いを込めてクラリスは歌った。
歌い終えて、ふうと息を吐く。
「やっぱりクラリスの歌は上手ですね」
「ええ、ええ。本当に」
にこにこと笑うアランとモニカにクラリスは「ありがとうございます」と笑みを返す。
「魔力過多症云々を抜きにしても、やっぱり君の歌は心地よい。聞かせてくれてありがとう」
ロナルドが拍手とともに賛辞を送ってくれて、モニカとアランも彼に倣って拍手をしてくれた。シエルが「ちゅんちゅーん!」と楽しそうに鳴く。
「クラリス、わたしの好きな『愛の願い』を歌ってくれるかしら」
「はい!」
モニカからのリクエストに元気よく頷いて、クラリスは再び喉を震わせる。
再び歌を与えてくれた彼らが、どうか幸せでありますようにと願いながら、クラリスは歌うのだった。
夜の風がふわりと窓から入り込んできて、乾かしたばかりのクラリスの髪をふわりと揺らした。
「ちゅんちゅん」
モニカがくれたいらないボウルをシエルの浴槽にしているので、そこで水浴びを済ませたシエルも夜風に心地よさそうに体を揺らす。
クラリスはモニカが服を譲ってくれた時に一緒にくれた深い蒼色のショールを羽織り、窓辺へと足を向け、窓を閉める前に外へと顔を出す。
夜空には無数の星が輝き、柔らかに吹く夜風が庭の木々の葉をたわむれに撫でていく。
するとシエルが小さな翼を広げて飛び立つ。庭の巣箱に帰るのかと思ったがそのまま彼は斜め下へ下りて行き、シエルを追いかけた視線の先にロナルドがいた。
「やあ、シエル。夜の散歩か?」
ロナルドが差し出した指にシエルが降り立った。シエルはちゅんちゅんとご機嫌に鳴いて、翼を広げ、再び飛び立ち、今度はクラリスの下へと戻って来る。
するとロナルドがクラリスに気づいて、小さく手を挙げた。クラリスもショールを片手でおさえ、もう片方の手で小さく手を振り返した。
「クラリス、そちらへ行ってもいいだろうか?」
「はい」
クラリスは頷き、夜は必ず鍵をかけること、とアランに言われているのでドアにかけた鍵を外さなければと気づく。
だが、ロナルドはその場で欄干に足をかけて、飛び跳ね、屋根を掴むと腕の力でひょいと屋根の上に上り、こちらにやって来た。
まさかの方法にクラリスは目を丸くする。
「クラリス、屋根に上ったことは?」
クラリスは首を横に振った。
すると「おいで。俺の手を両手で掴んで」と大きな手が差し出されて、言われた通りにその手を両手で掴めばいとも簡単に引っ張り上げられ、ロナルドに支えられながら屋根の上に座る。
「上、見てごらん」
「……っ!」
言われるがまま、夜空を見上げて息を呑む。
何も隔てるものがない夜空を見たのは初めてだった。空はいつも見上げるばかりのもので、ここから飛び降りるときだって、飛べないクラリスは着地するための地面を見ていて、上を向く余裕はなかった。
隔てるものがない世界は、あまりに広くて、自分がとても小さい存在のように思えた。
「シエルは、こんな広いところを飛んでいるんですね」
「ああ」
「ちゅんちゅーん!」
ロナルドとシエルが同時に頷いて、シエルが飛び立つ。月の灯りのおかげで、シエルがどこを飛んでいるかは見える。
「なあ、クラリス。何か歌ってくれないか?」
「どこかお加減が?」
そのお願いにロナルドを振り返る。ロナルドは慌てて首を横に振る。
「違うよ、元気だ。……ただ、君の歌が聞きたいんだ。だめかな?」
「もちろん、大丈夫ですよ。何かリクエストはありますか?」
クラリスが安堵に微笑むとロナルドも笑みを返してくれた。
「歌はあまり知らないんだ。でも、そうだな、何かこの夜に似合う歌がいいな」
「この夜に似合う歌……でしたら、これがいいかもしれません」
クラリスは夜空を見上げて、息を吸う。
ひとりぼっちだった女の子が月のお姫様に出会って、友達になり、夜空を旅する童謡。
キラキラ輝く一番星に、かけっこが大好きな流れ星、おしゃべりが大好きな星たちに、星の子どもたちが眠る星色の雲。
夜の空はどこまでも広くて、星たちはそれぞれが美しく輝く、素晴らしい世界。
そこで女の子は気づくのだ。ひとりぼっちだと思っていた夜の世界に、こんなにもたくさんの星がいて、暗闇に飲み込まれないように輝く月が寄り添ってくれていること。
優しく軽やかで、けれど、少し切ないメロディーにクラリスは歌声を乗せる。
ここへ来る前は、この歌の意味なんて分からなくて、けれど、同じひとりぼっちの女の子が月のお姫様と旅をするのが羨ましかった。
だってクラリスは、ひとりぼっちだったから。
でも、今はひとりじゃない。クラリスを大切にしてくれる人が三人もいて、可愛い小鳥まで一緒だ。
たったひとりの寂しい夜、母の部屋のクローゼットの中、膝を抱えていた小さな小さなクラリスを抱きしめるように歌う。
もう大丈夫。寂しくないから、愛をくれる人がいるから。
だからもう泣かないでとクラリスは、心の中で語り掛ける。
「あなたが寂しい夜はわたしがそばにいて あなたの幸せを願うわ……」
歌い終えて、クラリスはふうと息を吐く。
「……やっぱり君の歌は素晴らしい」
ぱちぱちと拍手とともにロナルドが贈ってくれた賛辞にクラリスは振り返り、会釈を返す。
「ありがとう、ございます」
気恥ずかしさに少し詰まってしまったが、ロナルドは気にした様子もなく「本当に素晴らしいよ」と褒めてくれた。
「なあ、クラリス。お願いがあるんだが」
もう一曲リクエストかしらと首を傾げながら「なんですか?」と先を促す。
「俺が家に帰ってきた日だけでいいんだが、こうして夜、話しをしたり、歌を聞かせてもらったりする時間が欲しいんだ。ここで」
「ここで、ですか?」
話しや歌はともかくとして、指定された場所にクラリスは驚く。
「密室で話していると、未婚の男女がってモニカとアランが怒るだろう?」
確かに年嵩のマナーの家庭教師がシェリーや、侍女として同じ部屋に控えていたクラリスたちに絶対に男性と密室で二人きりになってはいけませんと口を酸っぱくして言っていた。密室でたとえ何もなくても、証言する人がいなければ、何かあったと判断されて、お互いの瑕になりかねないからだと耳にタコができるほどだった。
それに十五歳でシンディが社交界にデビューしてからは、ミランダがそれこそシンディに口うるさく注意していた。
「でも、ここは確実に密室ではない」
悪戯を思いついた子どものような顔でロナルドがぴんと人差し指を立てる。
「ふふっ、そうですね。屋根の上ですもの」
「だんだん暖かくなっていく季節だし、俺は魔法は得意だから今も実は魔法を使っているんだ。寒くないだろう?」
言われて初めてクラリスは、ちっとも寒くないことに気が付いた。そう言えば風さえも感じない。
驚くクラリスにロナルドが喉を鳴らして笑った。
「空間魔法の一つで、俺と君を覆うように風の壁のようなものがあるんだ。風だから目に見えないけど、その壁の中なら心地よい温度にできるし、夜風も感じなくなる。それにいくら大声で話していても、外には聞こえないんだ」
「すごいです。そんな魔法があるのですね!」
今度はクラリスが拍手を贈るとロナルドは照れくさそうに頬を指で掻いた。
「ありがとう。……それで、どうだろう、了承してくれるかい?」
「はい。私でよければ」
クラリスの返事にロナルドがほっとしたように表情を緩めた。
そして、おもむろにズボンのポケットに手を入れると何かを握った拳がクラリスに差し出された。
「手を」
そう言われてクラリスが両手を差し出すと、ぽとんと何かが落ちてきた。
暗くて良く見えず首を傾げるとロナルドが呪文を唱えて光の玉を出してくれた。
「髪飾り、ですか?」
手のひらに落とされたのは、バレッタだった。
銀色の雲を背に小さな青い小鳥が翼を広げている綺麗なバレッタだ。
「今日、あの雑貨屋で買ったんだ。本当はラッピングしてもらえればよかったんだが、時間がなくて、そのままで済まない。君が我が家に来てくれたお祝いだ」
「で、ですが……」
「気に入らなかったかい? 女性への贈り物はモニカを除くと初めてで……」
「いえ、シエルみたいで可愛いです!」
しょぼんとしてしまったロナルドにクラリスは慌てて首を横に振った。
「良かった」
するとロナルドがあまりにも嬉しそうに笑うので、クラリスは受け取れないなんて言えなくなってしまう。
クラリスは改めてバレッタに視線を落とす。小鳥が本当にシエルにそっくりで、銀色の雲が浮かぶ空を飛んでいるかのようだ。
「ちゅん、ちゅーん」
空を飛び回っていたシエルがクラリスの手のひらに降り立ち、不思議そうにバレッタをのぞき込む。
「……あまり難しく考えないでいいんだよ、与えられるものを受け取ったって、誰にも怒られないから」
優しいその言葉にクラリスは、そっとバレッタを握りしめて顔を上げる。
「……でしたら、とてもとても嬉しいので、お礼にもう一曲、いかがですか?」
「それは嬉しいな、ぜひ」
本当に楽しみだと言わんばかりに頷いたロナルドにクラリスは、バレッタを早速、髪につけた。シエルがロナルドの頭の上に移動する。
「うん、良く似合う」
伸びてきた大きな手がクラリスの頬にかかった髪を耳にかけてくれた。その時、わずかに触れた彼の指先の熱を感じ取って、なんだか落ち着かない気持ちになる。
「お、お礼の歌、何がいいですか?」
ざわめく心を誤魔化すように問いかける。
「じゃあ、もう一度、先ほどの歌を。とても気に入った」
「はい!」
クラリスは元気よく頷いて、息を吸い、再び歌声を夜空に響かせた。
ロナルドは隣に寝ころび頭の後ろで手を組んで目を閉じている。穏やかな表情を浮かべていて、クラリスの歌に聞き入ってくれているのが伝わって来る。
さきほどは母の部屋のクローゼットの中にいた小さなクラリスに向けて歌った。
だから今度は、たくさん辛い思いをしながらも、優しく真っすぐなままあってくれるロナルドのために、母親の言葉に傷ついて、モニカを傷つけてしまったことに恐怖し、誰かを傷つけてしまうこと怯える優しい彼を想って、クラリスは歌ったのだった。
87
あなたにおすすめの小説
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
『義妹に婚約者を譲ったら、貧乏鉄面皮伯爵に溺愛されました』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「お姉さまの婚約者が、欲しくなっちゃって」
そう言って、義妹は私から婚約者を奪っていった。
代わりに与えられたのは、“貧乏で無口な鉄面皮伯爵”。
世間は笑った。けれど、私は知っている。
――この人こそが、誰よりも強く、優しく、私を守る人、
ざまぁ逆転から始まる、最強の令嬢ごはん婚!
鉄面皮伯爵様の溺愛は、もう止まらない……!
【完結】初恋の人に嫁ぐお姫様は毎日が幸せです。
くまい
恋愛
王国の姫であるヴェロニカには忘れられない初恋の人がいた。その人は王族に使える騎士の団長で、幼少期に兄たちに剣術を教えていたのを目撃したヴェロニカはその姿に一目惚れをしてしまった。
だが一国の姫の結婚は、国の政治の道具として見知らぬ国の王子に嫁がされるのが当たり前だった。だからヴェロニカは好きな人の元に嫁ぐことは夢物語だと諦めていた。
そしてヴェロニカが成人を迎えた年、王妃である母にこの中から結婚相手を探しなさいと釣書を渡された。あぁ、ついにこの日が来たのだと覚悟を決めて相手を見定めていると、最後の釣書には初恋の人の名前が。
これは最後のチャンスかもしれない。ヴェロニカは息を大きく吸い込んで叫ぶ。
「私、ヴェロニカ・エッフェンベルガーはアーデルヘルム・シュタインベックに婚約を申し込みます!」
(小説家になろう、カクヨミでも掲載中)
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?
咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。
※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。
※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。
※騎士の上位が聖騎士という設定です。
※下品かも知れません。
※甘々(当社比)
※ご都合展開あり。
この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。
サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜
ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。
しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。
生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。
それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。
幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。
そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。
これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。
これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。
☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる