4 / 32
1章 ジュリアス界層魔術師事務所
3話 魔術師事務所 総合組合
しおりを挟む魔術師事務所 総合組合。
通称『総組』は各地に出張所を設けている。
彼らは現場ではなく机に向かって無数の資料と日々睨み合い、時には不備だらけの資料を携え魔術師事務所に殴り込み───訂正を求めに向かう。
そんな彼らの主な仕事は魔術師や魔術師事務所へ仕事を回す事。
報酬の支払いや適切な事務所運営が行われているかの調査。
場合によって監査を行う事も彼らの大事な仕事である。
適切な運営が行われていないと当然ながら
「──運営規則5条4項。
依頼人に関する情報文書の管理が行えていませんでした。罰則規定に基づき4000ゼニーの罰金です」
「いや、それは少し忙しくて……ついうっかり……」
「『つい』と『うっかり』で運営出来るほど魔術師事務所の運営は甘くありません。
次回このような事があったら再評価試験ですよ」
彼ら魔術師には守るべき義務がある。
魔術師および魔術師事務所に課せられる三大義務。
1、社会への奉仕
魔術師事務所および魔術師の業務は社会への奉仕活動である。
いついかなる時も奉仕の心を忘れてはいけない。
2、公平な対応、公平な調査、公平な報酬
魔術師事務所および魔術師は常に公平な立場でいなくてはならない。
いかなる時も対応、調査、報酬に差をつけてはならない。
3、平和的解決
魔術師事務所および魔術師は常に平和的解決を目的として行動しなくてはならない。
個人からの依頼はもとより国からの依頼を受け、三大義務を遵守し、解決が困難な厄介事を片付け時には仲裁する。
これらを守っていないと────このように総組本部へ呼び出さこっぴどく叱られる。
程度によっては魔術師の再評価試験。
魔術師の階級は大きく分けて三つだ。
新卒の魔術師が多い組合魔術師。
経験を積み試験を受け合格した公認魔術師。
そして───魔術師の極みたる界層魔術師。
その階級の魔術師として相応しいかどうかの試験を受けなくてはいけなくなる。
ちなみにこの再評価試験を受けて合格する魔術師は殆どいない。
そんな感じで半ばお役所仕事的な立場で物事を動かしているのだが、彼ら組合にも魔術師事務所と同じく決まり事。
つまり義務がある。
『魔術師への正確な情報提供』だ。
単純なことだがこれがとても大事なことで
例え腕の立つ魔術師でも正確な情報無しに
行動計画は立てられない。
正確な情報無しには
予算や貴重な人員を割けないからだ。
仕事を選ぶ界層魔術師事務所は尚更だ。
だからこそ魔術師は情報にうるさい。物凄く。
「ごめんあそばせ。
本部長はいらっしゃいますか?」
「はい?どちら様────!?」
────なので情報に誤りがあった場合。
こうして王都の総組本部に
事務所の関係者が乗り込んでくるのも至極当然のことである。
オマケにその事務所関係者が魔女で。
「ジュリアス界層魔術師事務所のユキノ·フローズと申します」
界層魔術師事務所の冠名魔女で。
魔女らしい帽子に魔女らしいタイトなシルエットの正礼装を着て現れれば、それは組合にとって只事では無い。
そんな姿の魔女に窓口で声を掛けられれば
眉間にシワを寄せて事務作業をしていた引っ詰め髪の女性担当者も「少々お待ち下さい!」と、このように慌てて事務所の奥に駆け込んで行く。
もちろん総組本部に相談に来ている者達にとっても大変な出来事な訳で。
「氷華の魔女様だ……」
氷華の魔女。
ユキノ·フローズはいわゆる綺麗な顔立ちのタイプの女性である。
そのスタイルもかなり良く身長も比較的高い。
身につけている礼装は露出こそ───太もも辺りまでスリットは入っているが────少ないものの体のラインはバッチリ主張している為。
豊かな胸元やヒップラインなどはかなり目立つ。
容姿だけでも目立つその人が氷華の魔女ともなれば。もちろん周りの視線は彼女に釘付けとなる。
「大騒ぎになってますけど」
「見られるのも仕事」
事務所でダレていたあの腑抜けた表情と声はどこへやら。
コウェルに耳打ちされたユキノは実に上品な笑顔と声でそれに答えると、こちらを見ている魔術師達に小さく手を振った。
(事務所に居る時と全然違うんだよな……)
毎度の事ではあるが
先程までのユキノの姿と今の姿は正反対だ。
事務所のソファーで猫の如く転がっていたり
部屋のクッションの上でナマケモノのように
だらしなく伸びているあの姿に反し。
今は妖しく艶やか。
魔女らしいミステリアスな雰囲気と
何を考えているのか分からない得体の知れなさがある。
それよりも。
(本部長、苦手なんだよなあ………)
ユキノのカリスマモードよりも、これから確実に顔を合わせる事になる総組本部長の方が問題だ。
トール·フェゴール魔術師事務所 総合組合本部長。
長ったらしい肩書だが
彼は魔術師を束ね実力と信用ごとに仕事を振り分ける総組の本部長。
立場故か元々なのか
その性格は傲慢で尊大。
決して見習えるような人柄では無いが
魔術師の中で唯一騎士の称号を持つ凄腕の公認魔術師だ。
積み重ねてきた実績や統率力と高等魔法を連発出来る程の実力は本物。
しかしながら気に入らない者に対しては口を開けば嫌味か罵詈雑言。
良く言えば組合の法律であり秩序。
悪く言えば独裁者。
この手の人間が得意という者はほとんどいないが、実力のある魔術師であり経験豊富な魔術師である事も事実。
界層魔術師として認められてもおかしくない人物であり、彼を弾劾する者や逆らう事が出来る者もいないのが事実だ。
出来るとすれば現在唯一の界層魔術師であるコウェルか魔女や魔導師だけ。
しかしながらコウェルは本部長が苦手だ。
弾劾なんてする気にもならない。。
ユキノもその事をよく知っている。
だからこそ、こういう時は
「コウェル?
知ってると思うけど本部長は陰険で口も悪いし顔も悪いし可愛くないオッサンだしキモいし言葉の圧も強い。
でも今の貴方は界層魔術師事務所の所長。
ホノカが認めた界層魔術師。
だから相手が誰でも言うべきことは言わなきゃダメ。それに魔術師としての格なら貴方の方が上なんだからアイツの顔色伺う必要無いからね」
「────はい、ユキノ様」
こうやって叱咤しつつ背中を押してくれる。
一言二言三言多いのは御愛嬌だ。
「お、お待たせいたしました!!氷華の魔女様!氷の魔術師様!!こ、ここここちらへどうぞ!あ!いえ!失礼しました!ご案内します!!」
そう思っていると先程の担当者がバタバタと戻ってきた。
よほど急いだのだろう。
メガネが思い切りズレている。
だが本人はそんな事まで気が回っていない様子だ。
「行きましょうかコウェル」
師は微笑む。
しかしその内に「めんどくさいから早く片付けよう」というモノが見える。
周りには女神の如き微笑みに見えているだろうが、この笑顔は本当に早く帰りたい時の笑顔だ。
ちなみにそれはコウェルも一緒である。
報酬の為とはいえさっさと帰りたい事には変わり無い。
そんなユキノにコウェルは「はい」と頷き
担当者の案内のもと総組本部の奥へ歩を進めるのだった。
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜
秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。
そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。
クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。
こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。
そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。
そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。
レベルは低いままだったが、あげればいい。
そう思っていたのに……。
一向に上がらない!?
それどころか、見た目はどう見ても女の子?
果たして、この世界で生きていけるのだろうか?
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
【完結】異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~
かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。
望んで召喚などしたわけでもない。
ただ、落ちただけ。
異世界から落ちて来た落ち人。
それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。
望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。
だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど……
中に男が混じっている!?
帰りたいと、それだけを望む者も居る。
護衛騎士という名の監視もつけられて……
でも、私はもう大切な人は作らない。
どうせ、無くしてしまうのだから。
異世界に落ちた五人。
五人が五人共、色々な思わくもあり……
だけれど、私はただ流れに流され……
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる