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3章 働く魔術師、サボりたい冠名魔女
11話 魔導師は語る
しおりを挟むノワールに案内された場所。そこを見た瞬間に三人は文字通り息を飲んだ。
「え……こんな場所無かったよ……」
自分達が調査した時には絶対に存在しなかった巨大な空洞。
ノワールに続いて中に入ると天井は見えないくらい高く、正面に目を向けても先が見えないくらい真っ暗だ。
足下は斜めになっていて傾斜は緩いが下り坂のようになっている。下り坂の先は当然、真っ暗で何も見えず非常に不気味だ。
「ノワール。テメェ何かやりやがったな?」
空洞の広さに興味津々といった様子のサクラ、そして足下やら岩盤を見つめ何かを調べているソフィアを尻目にジェノの鋭い双眸はノワールを捉える。
面倒くさがりのジェノだとしても、こんな広い空間を見落とす訳が無い。それに透明化《インビジブル》でもこんな巨大空間は隠せない。つまり、この不気味な空間と対照的な笑みを浮かべているノワールが何かやった。それ以外考えられない。
「おや、私ではありませんよ。ああ、でも頼んだのは私でしたねぇ」
笑いながら言って岩盤に手をつく。頼んだというのはどういう事なのか。ジェノとサクラがそれを問おうとしていると、
「おい!!!!」
暗闇の奥。正確には坂の下から声が聞こえた。少年の怒気の籠もった声とバタバタやかましく走っているような足音と共に。
「おやおや、そこに居たんですか我が友。小さすぎて見えませんでしたねぇ」
「うっせぇ!いつまで俺に子守りさせるつもりだペテン師!!おい!ルル子!おっせぇぞ!早く来い!!!!」
苛立った様子で真っ暗闇の中から現れたのは青いローブを纏った水色のツンツン頭の少年と。
「フラッド様~~待ってください~~」
その後ろから、少女が体を左右に揺らしながらゆっくりのんびりトコトコ歩いて来る。
「あ、お師匠様~~~。言われた通り魔術鉱石、た~くさん拾っておきました~~~」
小さな魔術鉱石の入った籠を抱え、言葉運びと同じくらいゆっくりと坂を登るお下げの小柄な少女。
「おや、随分集めましたねぇ。ルル、貴方は相変わらず頑張り屋さんで頼もしい子ですね」
ノワールは坂を登って来るルルの元に歩いて行き、彼女から籠を受け取ると「さすが私の弟子ですね」と少女に優しく微笑みかけ手を差し出す。少女は「えへぇ~」と柔和に笑ってその手を取った。
でもって。
「────ですが、我が友フラッドは相変わらず短気ですねぇ。身長だけでは無く気も短くなったのですか?」
「うるせえってんだよモヤシ男!!いいか?!年だけなら俺のほうが上なんだからな!!!!?」
「おや、私と我が友はたった50歳しか違わないじゃありませんか。同い年みたいなものでしょう」
「50歳と0歳なら結構な年齢差だろうが!!少しは敬え!!」
「困りましたねぇ。残念ながら我が友は敬える程のお人柄では無いですしねぇ……」
「お前マジでいい加減にしろよ!!」
坂を登りきった少年ことフラッドを流れるように煽り「はっはっはっ」と笑うノワール。そしてそのやり取りをポカーンと眺める黒豹騎士団の二人とソフィア。
しかし目の前で子犬のように吠えているのはフラッド·オーシャン。ウィンブルガーの王族が信頼を寄せる水の魔導師である。
「やれやれ。我が友は相変わらず元気ですねぇ」
そしてそんな子犬を軽くいなしつつノワールは天井から滴り落ちる水滴と、その下に出来た水溜りに目をやり「ふむ」と小さく呻く。
「さてさて。魔術鉱石には特殊な性質を持つ物がありましてねぇ。例えば─────水に反応して爆発するようなモノですね」
言ってルルが抱えて持ってきた籠の中から小さな黄色い鉱石をひとつ取り、水溜りに投げこんだ。
すると水滴と接触した魔術鉱石は手を叩いた時のような軽い破裂音と共に弾け、水溜まりから僅かな水飛沫が上がった。
「小さいと派手さに欠けますねぇ。
まあ、早い話がここはこういう類の魔術鉱石が豊富な場所という訳です。では、そんな魔術鉱石が密集している所へ水をかけたら、どうなるでしょうか?」
「ノワール様。まさかとは思いますが」
不敵に笑うノワールをソフィアが鋭く睨みつける。だが案の定、彼は「おやおや」と笑うだけだ。
でもってフラッドを見ると不機嫌そうに地面にあぐらをかいて座っている。
つまり。
「このように大爆発と共に大きな空洞が形成される訳です。まあ今回のコレは私が我が友に頼んだのですが、ああ、でもご安心を、他の坑道には影響はありませんので。それにこの現象は自然界では毎日普通に起きている事ですから」
「へ~~~毎日こんな爆発が起きてるんですね~~」
「コレは自然現象よりも圧倒的にデカイ規模だけどな!ってオイ!ルル子!そんなデケーの投げ込アッーーーーーーー!」
フラッドはノワールの言葉にそっぽを向いたまま付け加え、大きめの魔術鉱石を水溜まりに投げ込もうとしていたルルを慌てて止めようとしたが、先程よりも派手な爆発音と共に水溜まりとフラッドとルルは派手に吹き飛んだ。
「つめたっ!もう!何やってんのバカ!」
「……仲がよろしいようで」
結構な勢いの水飛沫を被ったサクラとソフィア。ずぶ濡れとまではいかないが、なんというか一番嫌な感じの濡れ具合のようでお互い表情を曇らせる。特にそこそこ露出の多いソフィアは肌への被弾面積も多かったようでフラッドとルルにジトーッとした視線を送っている。
「それが協力者がここにポータル繋げた理由って事か」
「理由の『ひとつ』ですよ。強化コボルトを送り込み、坑道入り口に巣を作らせ人払いをする。その間に誰かがここで爆発反応を起こす魔術鉱石を掘り出す。そして何らかの方法で運び出す。
──────さて、ここで、もう一つ疑問が浮かびますねぇ」
「持ち出す理由なんざコウェルを殺る為以外にねえだろ」
「半分正解です。では聖者と協力者は何故コウェル君を殺そうとしたのでしょう?魔狩りの際に邪魔をされたから?個人的な恨み?ああ、そんな単純な事では無いのですよ、ええ、困った事に」
大袈裟な身振りでそう言ってノワールは静かに笑みを潜めた。
「先ほども申し上げましたね。『物は使いよう』なんですよ。便利だと思いませんか?この魔術鉱石達は水をかければ簡単に爆発するんですから。量を変えれば爆発の規模も自由自在、水を落とすタイミングを測れば爆破までの時間も調整可能。
火薬よりも使いやすい。実に効率的だ。建物の解体作業にも使えますかねぇ。
ああ、そうだ例えば─────砦を爆破したり、ねぇ?」
何かを含ませ、静かにジェノ、サクラそしてソフィアに視線を向け宣う。
「何が仰りたいのですかノワール様。お父様は何も関係ないでしょう」
砦という言葉にソフィアの声色が変わる。
無表情に近かった彼女の顔には怒りに満ちたモノが張り付き、襲いかからんとばかりにノワールを睨みつける。
「落ち着けソフィア。ノワール、親父を疑ってんなら─────」
ジェノは彼女の手を掴み止める。しかし彼の淀んだ黒い瞳も彼女と同じような怒りが満ちている。どちらかと言えば彼のほうが激昂しているようにも感じられるが、剣を手にしていない彼のほうがまだ冷静だ。
「疑ってなどいませんよ。もう解決した話ですから。それに調停魔導師の名の元にトール·フェゴールの無罪を言い渡したのは私です。今更手の平返しなんてナンセンスな事は致しません。セレスティア様に叱られてしまいますからね。その辺はご安心ください」
言葉は変わらず柔和だが掴めない笑みを讃えていた調停魔導師の顔からは笑みが消えている。
「────ですが、今ここで私が砦の話を持ち出した事には意味があるのですよソフィアさん。南砦崩落事件。あの事件が今、この件に繋がるとても重要な証拠になり得るのです。おっと、そう言えばルル、貴方は知らないお話ですねぇ。では少々お勉強の時間と致しましょうか」
泥だらけで呆けているルルを見て笑顔を取り戻したノワールはそう宣うと彼女にタオルを手渡し、そのまま宙に簡単な術式を指でサッと書き込んで黒板を取り出した。
取り出された黒板は宙に浮き、ルルやジェノ達が見える位置に移動する。
そして同じく宙に浮いた白色のチョークが物凄い速さで黒板に文字を記していく。
その内容は────件の南砦崩落事件の簡単な詳細だ。
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