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3章 働く魔術師、サボりたい冠名魔女
12話 南砦
しおりを挟む『南砦崩落事件』
獅子皇騎士団。
団長グレン·ヴェゼル。
副団長トール·フェゴール。
他3名および一般兵複数名。
魔術師総合組合三役。
ゴードン·フィッター本部長。
ユリウス·ドーベル監査役員。
ミア·ルカン会計参与。
他魔術師総合組合 魔術師複数名。
以上による南砦への視察を行った際に起きた崩落事故。
視察中に砦の防壁および正門が突如崩落。
崩落に巻き込まれた獅子皇騎士団 団長グレン·ヴェゼルが重傷。
副団長トール·フェゴールが負傷。
崩落に巻き込まれた一般兵数十名が死亡。
魔術師総合組合三役および護衛の魔術師達および彼らを案内していた兵士は北門の視察中により奇跡的に無傷。
ウィンブルガーにおける重大事故のうちの一つとして一般的にも知られている事件である。この後、ウィンブルガーでは砦および一般住宅など建造物の安全基準が一新された。
「────掻い摘んで説明するとこんなものでしょうかねぇ。しかしこれはあくまでも表向きに公表されている事。そう、表向きには」
意味深な言葉運びでそう語りノワールは宙に浮かせているチョークを一回転させる。
そう、南砦崩落事件には続きがある。
「この南砦崩落事件。調査後にトール·フェゴールの陰謀なのでは無いかという声が総組三役からあがりましてねぇ。
ええ、獅子皇騎士団の団長の座を狙った暗殺未遂なのではと────ソフィアさん、その短刀はしまって頂けると嬉しいのですが」
ノワールが無言で短刀を手にしたソフィアを見て苦笑いすると彼女は静かに溜息をついて鞘に収めた。
トール·フェゴール。
現魔術師総合組合本部長が当時の騎士団長であるグレン·ヴェゼルの暗殺を目論んだのでは無いか。という疑惑が当時の総組三役から持ち上がったのだ。
しかしその疑惑は─────
「お父様がグレン様の命を狙う理由は無かった。暗殺を目論む理由もありません」
「それで総組のバカ共は雲隠れしやがったんだろうが。忘れてんのかテメェ」
すぐ否定された。
そもそもトール·フェゴールがグレン·ヴェゼルの命を狙う理由はどこにも無かった。
当時の騎士達もことごとくトール·フェゴールを擁護し、証拠という証拠も無かったからだ。
そうなると逆に疑われたのは総組の三役だが。ジェノが言う通り彼らは、この事件後から姿を眩ませている。
「たった20年ほど前の事。当然覚えていますとも。先ほども申し上げましたが、私が彼の無罪を言い渡しましたからね。
ですが、疑いが掛けられてしまったのは変わりようのない事実です。
ええ、総組三役が無実の者を訝しんだ事も」
言ってノワールはクスッと笑う。
当然ながら大した証拠もない疑惑を最初に口に出した総組三役はトール·フェゴールよりも強い疑いが掛けられてしまった。
しかし調停機関が動き出すより早く彼らは姿を消した。よって、一時的に総組三役は不在となってしまったのだが。
「そう。いずれも変わりない事実です。砦の崩落もまた事実。
それが事故として処理されているのもトール·フェゴールが副団長の座を辞し、新たな総組本部長になったのも。
グレン君が騎士団を去ったのも。全てが紛れもない事実です。
────では何故砦は崩れ、何故事故では無く暗殺未遂という言葉が湧いてきたのでしょうね。不思議だ。謎ですねえ」
「なぜって言われても………。
結局事故として処理されたんだったら、ねえ?」
サクラがジェノとソフィアの顔色を伺いつつ答える。
その答えにノワールは「おやおや」と不敵に笑む。
そして誰が見てもわかるような大袈裟な身振りと手振りで「そうですねぇ」とわざとらしい困り顔をした。
彼という魔導師を知らなければ「狂ったか?」とでも思うだろうが、これがノワールという魔導師だ。
「そうですねぇ……老朽化、設計の問題。色々ありますからねえ………」
当時の現場検証でら南砦の崩落現場に細工を施したような跡も見つからなかった。
何より証拠として成立する物も見つからず理由も無かった。故にこの件も事故として処理された。
しかし。
「あの場に居たのはグレン君。
そしてトール·フェゴールと兵士達。そして砦の崩落に巻き込まれたのは全員『騎士団』の人間。
総組の関係者は不思議と『誰一人』巻き込まれなかった。偶然?そうじゃない。
事故?ナンセンス。
狙いすましてたんですよ。『犯人達』は」
言ってノワールはカゴに入っている魔術鉱石を手に取り笑う。
爆発性のある魔術鉱石を。
「そういえば今の総組の三役は誰でしたかねぇ?」
「監査はフェリシアさん、会計参与は私ですが」
「では、何故今の三役はゴードン、ユリウス、ミアでは無いのでしょう?」
「それは三人が行方不明で─────」
そこまで言ってサクラはジェノを見た。
「まさか協力者って!!」
「あり得ない話じゃねえな」
─────総組三役による謀略。
「物は使いよう。ですか……なるほど……」
水を落とす量を調整すれば魔術鉱石の爆発タイミングは自由自在。
爆発音は轟くかも知れないが、小さな魔術鉱石による爆発は手を叩いた時と同じくらいの音しかしない。
個数は必要だが順番に感覚を空けて爆発させてやれば音にはほとんど気が付かないだろう。例えば拍手なんか起きるタイミングだったら。
魔術鉱石の破片の問題はあるが、それはポータルで処理できる。
証拠隠滅だけならポータルを湖やら海にでも繋げて捨ててしまえばいいんだから。
「魔術鉱石。ポータル。
共に使いようによっては便利なモノですから。
証拠隠滅、捏造、なんでも出来てしまいます。さてさて、では、何故彼らは────」
「バカでも分かる理由だ。目的は騎士団の全権掌握だろ。奴らはクソみてぇな老害どもだったらしいからな」
「おやおや。話が早いですねぇ。
ですが、私が皆様にお聞きしようとしたのはコウェル君が狙われた理由ですよ」
「ここからコウェル所長に繋がる要素は無いと思いますが」
「いいえ、繋がるんですよ。
コウェル君は─────グレン君の息子、ですから」
その一言に辺りは静寂に包まれた。
そしてノワールは再び静かに不敵に笑うのだった。
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