転魔教師~異世界転移した魔王、元の世界に戻るため召喚者の家庭教師になる~

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第1章 アルべリオン大陸編

77限目「《竜宮》への招待」

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 大盛況だった祝勝パーティから2日後。俺の元へ1通の招待状が届けられた。

「『公王が目覚められた。グレン、シェステ、カーラ3名に対し褒賞の件を含め、直接の会話を所望されているため、明日午前9時に謁見の間までお越し頂きたい』だそうだ」招待状の内容を読み上げると、やはりカーラが緊張しているようであった。
 カーラはどうも身分の高い人達とのやり取りは苦手なようである。

「カーラ、話す相手は十中八九俺だから心配ない。いつも通り傍で頷いてればいいさ」シェステは俺の言葉に頷いていた。こちらは心配する必要はなさそうだ。


 そして翌日。3人で登城するために再び行政区画へやってきたわけだが、門番さんももうすっかり顔なじみだ。笑顔で応対してくれる。
「グレン殿、おはようございます。話は伺っておりますので、どうぞお進みください」やがて城まで辿り着くと、今度はパトリックが出迎えてくれた。

「おはようグレン君、謁見の間までご一緒しよう」
「おはようございます。ルドルフとはその後いかがですか?」
「あはは、いつも通りさ。だが美味い料理のおかげであいつもさすがに上機嫌だったぞ?」

「それはようございました。口争いしながらも、それはそれはとても仲が良さそうに見えると評判でしたよ」笑いながら伝えると、彼も豪快に笑う。
「いやはや、これは恥ずかしいな。あいつもなかなか素直じゃないからな。どうしても❝喧嘩❞という形をとらないと、心を開けんのさ。困ったものだ」

「《バルーカファミリー》の処遇は決まったのですか?」
「あぁ、クヴァルの望んだ通り解体された。不正に蓄財されていた財産は没収。構成員はルドルフ達ての願いで全員引き取られることになった。
 ルドルフの下で、以降社会貢献の仕事を通じて更生させるってわけだ」

「そうですか。それはよかった。
 ですが、それだと今度はルドルフの負担が大きくなるんじゃないですか?」

「それなんだが、正式に孤児院に対して国から助成金が出ることが決まってな。その金を使って、ギルドと提携して共同で社会貢献事業を立ち上げるそうだ。人員も補充されるらしいから心配はいらんだろう」

「更生させるのは根気が要ります。ですが、自分が社会から必要とされているという❝やりがい❞を見出せたら、自然と更生は上手くいくでしょう。私はそう思います」人が堕ちていくのは簡単である。人として存在する価値を、意義を奪われれば、人は勝手に堕ちてしまう。
 人を孤独にしない。自分で価値を見出せるだけのきっかけを分け与える者がいるか。更生とはそこが肝なのだ。

「君が言うと説得力がある。君が良ければ是非もなくこの国に迎えたいのだがな」さりげなくスカウトされているようだ。しかし、俺にも立場があるんでそこは謹んでお断りさせてもらいます。ごめんなさい!

「誉め言葉として受け取っておきますよ。私はシェステの今後を全力で見守るという重大な責務で、もういっぱいいっぱいですよ」
「うむ、そうであったな。その責務、無事に全うできることを祈っておるよ」
「ありがとうございます」笑顔でそう答えると、程なくして謁見の間へと到着した。

「おうグレン、よくぞ参った!」今度はアルバート、ロベルト両王子が俺達を出迎える。
「父上への謁見の件だが、目覚められてすでに会話も問題はない。しかし、如何せん体力がまだ戻られていない。なので、本日の謁見は父上の寝室でということになる」神妙な面持ちでそう説明するアルバートに返答しようとしたが。彼が食い気味に話を続ける。

「で、グレン。先日の食事会は大層盛り上がったようだな!我々を誘わんとはどういう了見だ!」今それを言うんですか!
「兄上、あの時は父上の傍を離れるわけには行かない状況で」
「分かっている!分かっているが、なんか……悔しいだろうが!パトリックも参加したってのに!俺もグレンの料理食べたかったぞ!」パトリックの目が泳いでいる。

「兄上、そんな大人気のないことを……」ロベルトが眉間に指を添える。
「いえいえ、お誘いしたかったんですが。ロベルト殿下の言う通り、控えさせてて頂きました。いやー慙愧の念に堪えません。残念なことこの上ない」笑顔でそう答えた。

「全く憎らしいことを言いおって」ほんとに悔しそうな顔をしている。まぁ、このままでは本当にかわいそうだ。だから前もってちゃんと手を打っておいた。
「まぁまぁ、両殿下にも味わってほしいと思い、カーライル侯にレシピを渡しております。料理長に頼んで作ってもらって下さい」両殿下が顔を見合わせ笑顔になる。

「そうか、そういうことなら仕方あるまい。今夜あたり堪能させてもらおう」機嫌が直ったようだ。
「では、陛下への謁見へ向かおう。パトリックはすまんがここで待っていてくれ」
「はっ!」

 両殿下と共に陛下の寝室へ向かう。到着すると、アルバートがコンコンコンと軽く3回ノックする。
「陛下、グレン殿以下3名お連れいたしました」

「うむ、入ってもらいなさい」陛下の声だろうか。少しかすれているようだが、中低音で気品を感じる声。中へ入ると、王はすでに身体を起こし私たちを待ってくれていたようだ。眠りに落ちる前は壮健であったとのことだし、以前の姿を取り戻すにもそう時間はかからないだろう。

「このような姿で失礼する。私はライゼル=ド=アンバール、この国の王をしている。この度はそなたらの働きで国難を排すことができた。まずは心よりの感謝を」王は身体を前に倒し感謝の意を告げる。

「いえ、陛下。我々だけの力では決してございません。両殿下、そしてあなたが抱える多くの臣下方の助けがあったからこその結果でございます。
 まさにあなたが育てた国が自らを助けたのです。どうか頭をお上げください」これまで出会った数々の人達。この国を想い、この国を愛し、他者への思いやりを欠かさぬその姿に、生き様を感じずにはいられなかった。

 国の上に立つ者の矜持が民に伝わっているのだろう。良い国だと俺は素直にそう思った。

「ふふふ、これではお互いを褒め合ってしまうようだ。これぐらいにしておこう。
 さて、グレン、シェステ、カーラ殿。そなたらに来てもらったのは、此度の件に関する褒賞もそうなのだが、一番の所望であろう❝情報❞。
 それに関して、先に緑翠竜との約定を果たさなくてはならぬ」❝情報❞か。いよいよ竜のお目見えってことになるわけだ。

 全てとはいくまいが、事の全容が垣間見えれば万々歳だ。
「ではこれから、緑翠竜に会えるということですか?」
「うむ、これから緑翠竜の住まう《竜宮》への門(ゲート)を召喚する。なのでシェステ殿。《竜の巫女》たるそなたが、門の鍵である竜鱗鉱を掲げるのだ。さすれば、門を開くことができよう」

「《竜鱗鉱》は竜と会うためのまさにキーアイテムだったっていうわけですね」
「ははは、本人を差し置いていうのも気が引けるが、竜鱗鉱はその名の通り、❝竜鱗❞、竜の鱗なのだ。自身の一部だからこそ、鍵となりえるということだな」

「そうでしたか。存在感が強すぎるなとは思っていましたよ」苦笑いする俺に対して、王も苦笑いで返す。
「私も実際に使うところを見るのは初めてだからな。あまり実感はわいていないのが実際のところだ」

「では、門の召喚をする。しばし待たれよ」王が両手を組み、祈るように詠唱を始める。
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