幸せが終わるとき。(完結)

紫苑

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二人の結末。

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駄目だよ、そんなこと言っちゃ。
俺を誘わないで。君が好きなはずなのに、俺の心には、もう他の誰かが棲んでるのかもしれない。

強がりで優しい、泣きそうな女性が。

俺、いつからか、ティアナのこと…

お姫様として視てた。

王子様なんかになれないから、

ただの魔法使いの俺は、ティアナに振り向いて貰える魔法を掛けたんだ。

―だから、気の迷いじゃないか?

俺は、

いや、ティアナは、

どちらも自分に自信のない、

似た者同士の異性の親友。

渇いたキスを重ねながら、段々深くなる口づけに、欲望が疼かない。嫌いじゃない、ただ少しカサついた俺の唇が彼女の唇で潤うだけの行為。

でも、―愛して居ない。あんなに抱きたかったのに?

何故?

この罪悪感を、

そして思い出すのは―…
抱きしめた手を離して、口づけを辞める。椅子に凭れながら、ティアナを見つめる。
「メシア…?」
トロンとした熱視線。少し前の俺だったら、止められない欲情に身を委ねて、身体を重ねながら、愛の言葉を囁いただろうな。

冷静になり、視線を逸らさず、泣きそうなティアナを真っ直ぐ見てから言葉を発する。

「好きだ…

いや、好きだった。

それでも、

口に出して、確認しなければ分からない気持ちは、

恋じゃない。」

「メシアには好きな人が居るんだね。」
「ごめん…俺、シアンが好きなんだ。気づかなかったけど、心の奥にずっと側にいたんだ。ティアナの事本気だった。でも…。」
ティアナは一瞬壊れてしまいそうな傷ついた顔をしてから、精一杯の笑顔を浮かべて、
「そっかぁ!やっぱりね!
私メシア君のこと、大好きだった!
私がメシア君を振ったの!!
メシア君には、他の女の子と幸せになってほしいもの。」

胸がジクリと傷む。
どこまでイイコなんだと思いながら、

「でも、今だけギュッとして貰ってもいい?
…次に会った時は…笑顔で…な、泣かない…から…。」

ギュッと力を込められ、裾を掴んだ手をそのまま前に広げた。腕に飛び込むティアナ。君を裏切ってごめんね。俺の心に棲んでる女の子は昔からずっと昔から、ひょっとしたら居たのかもしれない。

『メシア、しっかりしなさいよ!』

しっかりものの彼女なら、そう言って笑うだろう。

背中にそっと手を回し、ギュッと抱き締めると
漏れる嗚咽と胸に染みる涙が、俺達が終わってしまったことを、悲しく教えてくれた。

胸に抱いて、繊細な宝物だった存在を、

妹みたいに、愛おしく思うのだった。

震える身体中を抱き締めながら、

「ありがとう」

柔らかな笑顔を自分でもしてるのが分かったら、最初から素直にこんな風に格好付けずに、俺達は抱き合いながら愛を囁けば良かったんだ。と、

シアンが言ってる気がしたんだ。
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