幸せが終わるとき。(完結)

紫苑

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メシアの浮気?

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言葉のあやと言うやつだ。
頬に手痕があり、じんじんと痛む今日この頃。雨音と大喧嘩した。
俺の部屋に来た雨音に自分からキスして口内をじっくり味わう。
彼女の味を堪能しながら、雨音の感じる声を楽しんでいたら、
雨音が物欲しそうに見ていてドキドキしながらも、何となく意気地が出なく腰に回していた手を離してしまったのだった。

「鈍感!!大っ嫌いよ!!」
「え、ちょっと待てよ…!!」

その瞬間、「意気地なし!!」とぱぁんと平手打ちをされた。
女にはたかれたりは実は多々あったのだが、雨音が叩くと心が痛かった。
不感症のように他の女に叩かれても寧ろ男の勲章と自慢してるわけではないが、全然気にしてなかったのに、雨音にもう飽きられたのではないか、情緒不安定な波に襲われて眠れない。

「何でまた雨音の夢なんだよ…」

仮眠をとった後、たまに見る夢は雨音だらけだった。
自分でも悶々としている。

俺は雨音を抱きたいのだろうか?

その答えが出なかったのは、

以前メシアから指摘されたように俺がガキだからかもしれない。

寝不足の日が続く。仕事の合間の仮眠中、雨音の夢ばかり見て身も心も切ない気分で満たされる。
俺は、何でこんなに雨音の事ばかり考えてるのだろう。ご飯を食べるとき、雨音は何が好きだったのか。

ハンバーグが好きだった。給食のハンバーグをソースを絡めて綺麗に食べる仕草がとても綺麗で…

今思えば見惚れていたのだと、シアンに指摘されるまでもなく、

最近、雨音に自分は過去惚れていたのだと気が付いてしまった。

ラブレターもそうだ。彼女に充てたラブレターの数々に死ぬほど嫉妬していた自分に気が付く。
それと同時に笑顔ではにかみ、放課後手紙を読んで喜ぶ可愛い笑顔を誰にも見られたくないと酷く懇願していた。

「ティエ、最近寝てないみたいだけど大丈夫なの?」
「うるせぇ」
「うるさくて結構!アマネさんととっとと仲直りしちゃいなさいよ」
「…どうしたら出来るのか分からん」

久々にシアンに呼び出されると、栄養剤と温めて食べるスープの缶詰などを心配して持ってきたらしく、甲斐甲斐しく心配と言うのをしているらしい。実は最近メシアと喧嘩したのはシアンもで、実家に帰ってきたと言う。

「仲直りしなさいよと言うわりに私も仲直り出来てないわ」
「コミュ障なのはお前もか!!何かいい秘策が聞けると思ったのに…」

お互いに個室の居酒屋でしまったと言う顔をした。
狙いは互いに仲直りする方法を模索したいが為に呼び出したのだと気が付いたらがくと項垂れてやけになってビールの大ジョッキを頼むのだった。

「…なぁ、何でお前らは喧嘩したんだ?」
「それは…色々あったのよ…」
「付き合ってると幸せな事ばかりに思えてくるよ」

それはふと思い出すティアナとの事、幸せすぎて儚い切なくなるような思いはもうないことに気が付くと、雨音の事ばかり考えてティアナの事は口に出すまで考えてなかった事にも気が付いてしまう。

「…メシアが何故か大学卒業後に結婚する話を延期したからよ」
突然思い思いにふけっていると、現実にぴしゃりと冷水を浴びせるように戻って驚いてしまう。
シアンに気が付かれず、その発言に驚愕したのかと思われてしまった。
それでも。

「インターンが長いから暫くは結婚する気がないんじゃないか?」

ビールのジョッキを見てしゅわしゅわと音を立てて縮んでいく泡を傍観していると、シアンがきっと睨んで、「でもね」と言葉を添えるのを見ているとすごく怒ってるのか声色が低かった。

「最近知らない女と仲睦まじく部屋に上がってる姿を見たって…!」
「…噂だろ?」
「…ところがどっこい、結構若い可愛い女の子なのよ!!」
「…見たのか」

ん?あいつのその女ってーと心の中で唱えて、口に出そうとすると突然甘えるような声色で「ねぇ」そしてこう頼んできた。

「浮気現場を押さえる手伝いを頼みたいの!!」

ぱぁんと両手を顔の前で合わせて、個室の部屋中に声が響き、一瞬注文オーダーかと思った店員が思わず「ご注文でしょうか?」と着てしまい「いえいえ、彼女酔ってるので、お冷ください」冷静にお冷を注文してとりあえず彼女にギンギンに冷えたお冷で目を覚ましてもらうことにした。

「…気にすることないじゃないか」

そう言うと首をぎゅうっと絞められてしまう。
その彼女ってーと言いかけるが今の鬼の目をしたシアンには何を言っても無駄そうだ。
本命はお前だろと思いつつも、仕方なく俺はメシアの浮気現場を押さえる要求を呑まずにはいられなかった。
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