純白の落日 ―魔法少女リリア―

aaa

文字の大きさ
1 / 1

1. 魔法少女・リリア

しおりを挟む
日常の喧騒は、断末魔のような悲鳴によって一瞬で塗り替えられた。

つい数分前まで、夕飯の献立を語らう主婦や、談笑する学生たちで賑わっていた平和な商店街。今やそこには、無残に打ち捨てられた買い物袋や、逃げ惑う人々の足音だけが虚しく響いている。

「クハハハハ! 逃げ惑え、矮小な人間どもよ!」

阿鼻叫喚の渦中、その化け物は愉悦に浸っていた。

人の形を歪に引き伸ばしたような異形の巨躯。全身の至る所から生え出した無数の触手が、湿った音を立ててのたうつ。化け物は、逃げ遅れた者たちの背中に向けられる恐怖の視線を、極上の酒でも味わうかのように享受していた。

「さて……どの『果実』から啜ってやろうか」

じろりと、粘着質な舌で唇をなぞる。ズシン、と一歩踏み出すたびに、アスファルトに重苦しい亀裂が走った。

ガタッ。

不意に響いた小さな音に、化け物の眼球がぎらりと向けられる。
路地裏のゴミ箱の陰、そこには二人の少女が身を寄せ合い、震えていた。

「おやぁ……? こんなところに、可愛らしい迷子がいるじゃないか」

化け物が、獲物を追い詰める捕食者の足取りでゆっくりと歩み寄る。
少女たちは、互いのセーラー服の袖を白くなるまで握りしめ、ただガチガチと歯を鳴らすことしかできない。涙で濡れた瞳に映るのは、迫りくる死の影。その絶望に満ちた反応は、怪人の嗜虐心をこれ以上ないほどに煽り立てた。

「気に入ったよ。お前たちは特別だ……二人まとめて、私の玩具にしてやろう」

下卑た笑みを浮かべ、汚泥のような質感を帯びた手が少女たちへ伸ばされた、その時――。

「マジカル・シャイニング・インパクト――!」

鼓膜を震わせる轟音。
次の瞬間、少女たちの視界を埋め尽くしていた絶望の怪人は、天から降り注いだ純白の光の奔流によって、跡形もなく押し流されていた。

「二人とも、怪我はない?」

凛としていながらも、鈴の音のように透き通った優しい声。
光の粒子が舞い散る中、そこに一人の少女が舞い降りた。
陽光を反射して輝く純白のドレス、そして強い意志を宿した瞳。

「「魔法少女……リリアさんっ!」」

つい先ほどまで死の淵にいた少女たちの声が、今度は希望に震えて響き渡る。

「よかった……無事ね」

リリアはふわりと着地すると、怪人を吹き飛ばした爆心地を見据えたまま、手に携えたステッキを一切の油断なく構えた。

「ここは危ないわ。今のうちに、できるだけ遠くへ逃げて」
「っ、はい!」「リリアさんも、気をつけて……!」

少女たちは何度も振り返りながら、脱兎のごとく駆け去っていく。

この街の守護者、魔法少女リリア。

数年前、突如として人間社会に牙を剥き始めた「怪人」という脅威に対し、彼女はその圧倒的な力で幾度も絶望を打ち砕いてきた。

彼女の背中を見つめる者の中に、彼女の敗北を想像する者など、この世界には一人として存在しなかった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...