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第8章
文化祭 当日(Get place to live)
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僕はRPGで、ダンジョンの途中で、突然ボスクラスの敵と戦うことになるイベントが発生したときのことを思い出した。
3年4組の前に、長瀬真衣が突然やってくるとは予想もしていなかった。長瀬真衣の隣には、美咲がいた。察するに、美咲が教室までの道案内をしたということか。
「ママ……」
力なさげに、どこか不安げに彩夏が呟く。
「ご無沙汰してます」
唯音が長瀬真衣に丁寧にお辞儀をした。優凪も会釈をしている。この2人は彩夏の母に会ったことがあるらしい。長瀬真衣はサングラスを外し、「こんにちは」と穏やかな笑みを浮かべて会釈をした。
サングラスを外したのは、ただの礼儀だったと思うが、外したことで正体に気づく奴もいた。
「あれ……もしかして……」
千尋だった。大きな口を開けて驚いている。正体に気づいたような気がする。まずい、こいつが騒ぐと声が大きいから騒ぎになる!
すぐに僕は動こうとしたが、それよりも早く美咲が動いた。
「はい、千尋、ちょっと黙っておこうかー」
千尋の後ろから回り込み、羽交い絞めかのごとく美咲は千尋の口を右手で塞いだ。あのやり方を僕が女子にするわけにもいかなかったので、美咲が動いてくれてよかった。
わけがわからないと暴れたそうな千尋に、
「いまはね、騒ぎ起こすタイミングじゃないの。わかって」
と言った。その美咲の言葉に、千尋は何かを察してくれたらしく、何度も頷いた。美咲は千尋の口から手をはなした。
「ご配慮いただきありがとう」
長瀬真衣が微笑むと、美咲も千尋もその笑顔につられるかの如く微笑んだ。「サングラスで失礼させていただくわね」と長瀬真衣はサングラスを掛けなおした。
この校内でサングラスを掛けて歩いている人なんて少ないので、あれはあれで目立つ気がするが、長瀬真衣だとわかる人も少なくなるのかもしれない。
「ダンス、見させていただいたわ」
と、長瀬真衣は彩夏ではなく、僕のほうを見ながらいった。
「ありがとうございます」
僕は軽く一礼をする。これで会話が終わってしまったら意味がない。
「それで、どうでしたか? ダンスは」
僕が聞くと、みんなが一斉に長瀬真衣を見た。唯音や優凪もだった。サングラスで目元が隠れているので長瀬真衣の表情は読めない。そんなとき、
「彩夏せんせー!!」
子供の声が廊下に響いた。声の方向を見ると、小学生の女の子が何人か走ってくるところだった。あれは、ひまりたちだ。後ろにさくらもついてきていた。
ひまりたちは彩夏に群がるように集まってきた。
「ダンス、かっこよかったです。はい、先生!」
ひまりが寄せ書きか何かが書かれているような色紙を両手で差し出した。
彩夏は若干、戸惑いつつも膝を折って、その色紙を受け取る。
「え、ひまりたちが書いてくれたの? ありがとう」
彩夏は子供たちの頭を笑顔で撫でていた。
「ん? なんかタイミング悪かった……感じ?」
この場の空気がおかしいと感じたらしいさくらが僕たちを見回した。
「そんなことはないです。娘がお世話になったようで、ありがとうございます」
「あ、いや……ウチの妹こそ……って彩夏のお母さん?」
戸惑うさくらに、長瀬真衣は微笑みかける。
「彩夏が妹さんたちにダンスを?」
「は……あ、そうなんですよ。ダンスやったことなかったんですけど彩夏が練習しているのみてやりたいって……それで、今日踊ってた曲の振り付けも彩夏が考えてくれて、みんなにわかりやすく! 楽しく! って感じで」
「楽しく! って感じで―!」
さくらの言葉にひまりたちが手を挙げた。フフッと長瀬真衣の声が漏れた。
「彩夏、あなたは本当にダンスが好きなのね」
その視線の先にいた彩夏はビクッと肩を震わせた。しかし、すぐに目に力が戻る。
「当たり前でしょ。私はダンスで生きるって決めてるから」
「その子たちが踊っているのも見させていただいたわ。貴方が作ったと思わせるもの、そうその子が言った『楽しく』というものが発揮されていたわ」
これは褒められていると解釈していいのだろうか。
「貴方たちのダンスにもそれを感じた。そして貴方たちのダンスは見るものを引き込んでいくものがあるって感じたわ。正直、驚かされたわ。みなさんダンス未経験だっていうから尚更ね」
「それは……」
「ダンスをする環境がない場所にわざわざ転校させたのに、それでも貴方は這い上がってくるのね。そこまでしてやりたいんだってことは十分伝わったわ」
小さく頷きながら長瀬真衣は言った。
「楢崎優凪さん、だったかしら?」
急に優凪のほうを長瀬真衣は見た。かすかに驚いた顔を見せたが優凪は「はい」と頷いた。
「AC-BEでトップチームに入る候補というお噂の貴方から見て、今日の彩夏はどう見えたのかしら。数ヶ月のブランクがあってもAC-BEであの子はやっていけると思う?」
「もちろん」
一瞬にして優凪は応えた。
「いますぐ戻ってきても彩夏はトップチーム候補になれるはずです。それぐらい表現力もキレも素晴らしかったです」
さっきまで口喧嘩をしていたとは思えないほどに、優凪は彩夏を褒めた。「優凪……」と彩夏も少し微笑みながら優凪は言った。
「そう」
長瀬真衣が微笑む。
「だから、彩夏がダンスを続けることを許可してもらいたいです。また切磋琢磨して、自分もレベルアップさせていきたいです」
「私も同じく。彩夏がいれば私も成長できるって思ってます」
唯音も続いた。
「私はダンスではなくて、演技の世界だったけれど、ある程度のレベルにいたと思っているわ。ただうまくセリフを言えるだけじゃ生き残ることはできなくて、見るものを引き込める人だけが長く生きていける……、彩夏はそんなところに辿り着き始めているんだって感じたわ」
「じゃあ、彩夏はダンスを続けてもいいですか?」
美咲が切り込んだ。その言葉はまだ早いんじゃと僕は思ったが、美咲が居ても立っても居られない気持ちも理解できた。僕だって早く結論が欲しい。
長瀬真衣は美咲の問いには答えず、僕の方を見た。
「得意なものへの努力はわかったわ。では、月島くん。もう一つの課題よ。彩夏はこの学年で1位の座を守り続けているのかしら? 二学期の中間テストの結果を踏まえて」
3年4組の前に、長瀬真衣が突然やってくるとは予想もしていなかった。長瀬真衣の隣には、美咲がいた。察するに、美咲が教室までの道案内をしたということか。
「ママ……」
力なさげに、どこか不安げに彩夏が呟く。
「ご無沙汰してます」
唯音が長瀬真衣に丁寧にお辞儀をした。優凪も会釈をしている。この2人は彩夏の母に会ったことがあるらしい。長瀬真衣はサングラスを外し、「こんにちは」と穏やかな笑みを浮かべて会釈をした。
サングラスを外したのは、ただの礼儀だったと思うが、外したことで正体に気づく奴もいた。
「あれ……もしかして……」
千尋だった。大きな口を開けて驚いている。正体に気づいたような気がする。まずい、こいつが騒ぐと声が大きいから騒ぎになる!
すぐに僕は動こうとしたが、それよりも早く美咲が動いた。
「はい、千尋、ちょっと黙っておこうかー」
千尋の後ろから回り込み、羽交い絞めかのごとく美咲は千尋の口を右手で塞いだ。あのやり方を僕が女子にするわけにもいかなかったので、美咲が動いてくれてよかった。
わけがわからないと暴れたそうな千尋に、
「いまはね、騒ぎ起こすタイミングじゃないの。わかって」
と言った。その美咲の言葉に、千尋は何かを察してくれたらしく、何度も頷いた。美咲は千尋の口から手をはなした。
「ご配慮いただきありがとう」
長瀬真衣が微笑むと、美咲も千尋もその笑顔につられるかの如く微笑んだ。「サングラスで失礼させていただくわね」と長瀬真衣はサングラスを掛けなおした。
この校内でサングラスを掛けて歩いている人なんて少ないので、あれはあれで目立つ気がするが、長瀬真衣だとわかる人も少なくなるのかもしれない。
「ダンス、見させていただいたわ」
と、長瀬真衣は彩夏ではなく、僕のほうを見ながらいった。
「ありがとうございます」
僕は軽く一礼をする。これで会話が終わってしまったら意味がない。
「それで、どうでしたか? ダンスは」
僕が聞くと、みんなが一斉に長瀬真衣を見た。唯音や優凪もだった。サングラスで目元が隠れているので長瀬真衣の表情は読めない。そんなとき、
「彩夏せんせー!!」
子供の声が廊下に響いた。声の方向を見ると、小学生の女の子が何人か走ってくるところだった。あれは、ひまりたちだ。後ろにさくらもついてきていた。
ひまりたちは彩夏に群がるように集まってきた。
「ダンス、かっこよかったです。はい、先生!」
ひまりが寄せ書きか何かが書かれているような色紙を両手で差し出した。
彩夏は若干、戸惑いつつも膝を折って、その色紙を受け取る。
「え、ひまりたちが書いてくれたの? ありがとう」
彩夏は子供たちの頭を笑顔で撫でていた。
「ん? なんかタイミング悪かった……感じ?」
この場の空気がおかしいと感じたらしいさくらが僕たちを見回した。
「そんなことはないです。娘がお世話になったようで、ありがとうございます」
「あ、いや……ウチの妹こそ……って彩夏のお母さん?」
戸惑うさくらに、長瀬真衣は微笑みかける。
「彩夏が妹さんたちにダンスを?」
「は……あ、そうなんですよ。ダンスやったことなかったんですけど彩夏が練習しているのみてやりたいって……それで、今日踊ってた曲の振り付けも彩夏が考えてくれて、みんなにわかりやすく! 楽しく! って感じで」
「楽しく! って感じで―!」
さくらの言葉にひまりたちが手を挙げた。フフッと長瀬真衣の声が漏れた。
「彩夏、あなたは本当にダンスが好きなのね」
その視線の先にいた彩夏はビクッと肩を震わせた。しかし、すぐに目に力が戻る。
「当たり前でしょ。私はダンスで生きるって決めてるから」
「その子たちが踊っているのも見させていただいたわ。貴方が作ったと思わせるもの、そうその子が言った『楽しく』というものが発揮されていたわ」
これは褒められていると解釈していいのだろうか。
「貴方たちのダンスにもそれを感じた。そして貴方たちのダンスは見るものを引き込んでいくものがあるって感じたわ。正直、驚かされたわ。みなさんダンス未経験だっていうから尚更ね」
「それは……」
「ダンスをする環境がない場所にわざわざ転校させたのに、それでも貴方は這い上がってくるのね。そこまでしてやりたいんだってことは十分伝わったわ」
小さく頷きながら長瀬真衣は言った。
「楢崎優凪さん、だったかしら?」
急に優凪のほうを長瀬真衣は見た。かすかに驚いた顔を見せたが優凪は「はい」と頷いた。
「AC-BEでトップチームに入る候補というお噂の貴方から見て、今日の彩夏はどう見えたのかしら。数ヶ月のブランクがあってもAC-BEであの子はやっていけると思う?」
「もちろん」
一瞬にして優凪は応えた。
「いますぐ戻ってきても彩夏はトップチーム候補になれるはずです。それぐらい表現力もキレも素晴らしかったです」
さっきまで口喧嘩をしていたとは思えないほどに、優凪は彩夏を褒めた。「優凪……」と彩夏も少し微笑みながら優凪は言った。
「そう」
長瀬真衣が微笑む。
「だから、彩夏がダンスを続けることを許可してもらいたいです。また切磋琢磨して、自分もレベルアップさせていきたいです」
「私も同じく。彩夏がいれば私も成長できるって思ってます」
唯音も続いた。
「私はダンスではなくて、演技の世界だったけれど、ある程度のレベルにいたと思っているわ。ただうまくセリフを言えるだけじゃ生き残ることはできなくて、見るものを引き込める人だけが長く生きていける……、彩夏はそんなところに辿り着き始めているんだって感じたわ」
「じゃあ、彩夏はダンスを続けてもいいですか?」
美咲が切り込んだ。その言葉はまだ早いんじゃと僕は思ったが、美咲が居ても立っても居られない気持ちも理解できた。僕だって早く結論が欲しい。
長瀬真衣は美咲の問いには答えず、僕の方を見た。
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