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Scene 2
2-6
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三者面談の次の週、亮介は助けてくれたお礼にと食事にでかけた。ただし、元々、食事を提案した美月だけではなく、ほかの社員も数人いた。
ほどなく食事が終わり、亮介がメンバーに感謝の言葉を告げて解散となった後だった。
駅の方向へと歩く亮介の後ろから、
「藤井さん」
と美月が駆け寄ってきた。ほかの社員は違う方向なのかもう周りには誰もいなかった。
「おーお疲れ」
亮介が言うと、少し不満げに大きな目を少し細めて「お疲れっす」と美月も言った。
「今日は私と亮介さんの1対1のお食事を期待したのになぁ」
わざとらしく美月は言った。亮介は苦笑する。
「それはいろいろと周りに誤解を招くかなと思ってさ。それに……最近はセクハラとかパワハラとかうるさい時代だしね」
「私は亮介さんをセクハラだパワハラだって訴えないですけど?」
「それはどうも。まぁみんなにも手伝ってもらったしね。あ、橘が一番活躍したのはわかってるよ。デプロイエラーが出たのにあっという間に解決したらしいな」
「大したことじゃないですよ。亮介さんならこうやって調べるんじゃないかな……っていうのを試したらうまくいっただけです。亮介さんのおかげです」
「でも、オレがいなくても実践できたなら、それは橘の実力だよ」
亮介が微笑むと、美月も微笑んだ。
「新卒で入ってきたときは、いかにもJDって感じで大丈夫かなーって思ってたけど、いまは最大戦力だよ」
「ご指導ご鞭撻のおかげです」
「改めて、感謝するよ、ありがとう」
「……感謝されなくてもいいから、二人でゴハンとかがよかったなぁ」
「だから、そういうことすると周りの目も……」
「まぁ、あれですよね」
美月が亮介の言葉を遮った。
「少なくとも私を異性として意識してもらえてるから、意図的に1対1になる場面は避けられてるってことですよね」
不敵に美月は笑みを浮かべた。
この様子を見ていた雪音から見ても、美月は異性としての魅力がある子なんだろうと思えた。見た目もかわいらしく、仕事もできて、自分に好意を持ってくれる、何もマイナス材料が見当たらない。
「ですよね?」
「そうだな」
念押しのように確認をした美月に亮介は肯定の返事をした。
「でも……、私とつきあってくれる気はないんですか?」
「そうだな」
「答え、早っ!」
美月の思わせぶりな上目づかいの言葉に亮介は即答した。あまりの一瞬の回答に美月も苦笑せざるをえなかった。
美月の声に、雪音はこの間、戸籍課で綺羅に同じようなことを言われたことを思い出し、思わず画面を見ながら声を上げて笑ってしまった。
「少しくらいは考える素振りがあってもいいじゃないですか。ちょっとは傷つくなぁ……」
「悪い。でも、オレは既婚者だよ」
「いや……でも亮介さんの奥様はもう随分前に……って聞いてますよ?」
美月は、亮介の妻である雪音が他界していることを知っていると示唆した。
亮介はひとつ頷く。
「うん、妻はたしかにもう亡くなってる」
「でも……いえ、だからこそ私とはつきあえないと?」
「うん」
「でも、この先も亮介さんはずっとお独りで過ごされるんですか?」
「娘がいるって知ってるだろ? 娘を大人にするまで育てることはオレが妻と約束したことだよ」
「いま中学生でしたっけ。女の子はいつか旅立っていくものですよ」
「へぇ……橘も旅立ってきたのか? 金沢が実家だっけ?」
「そうです。どうしても東京に来たくって、大学受験で親に内緒で地方受験で東京の大学を片っ端から……って私のことはいいんですよ!」
美月の一人突っ込みに亮介は笑った。
「娘がいつかは旅立っていくんだっていうこと、それはオレもわかってるよ」
亮介が言った。
「そうあるべきだし、それができたときオレの子育ては一区切りつくんだろうなって思う」
「その後は……亮介さんはどうするんですか?」
「さぁ。考えたことがないな。その先のことなんて」
「じゃあ、もし……私がそこまで待ってたらどうしますか?」
その言葉を聞いて亮介は一瞬、目を見開いた。
「そんなあてのない未来を期待させて待たせることはよくない。いまを大切にすべきだよ。オレを待つなんて何の意味もない。橘だったらもっと出会いがたくさんあるだろ。オレなんかよりいい奴はいっぱいいるよ」
それは美月に向けて言った言葉のはずだった。実際に美月は俯いていた。
しかし、雪音もまた俯いてしまっていた。
雪音にもグサリとナイフを胸に刺されたような嫌な感覚があった。まるで自分に向けて放たれた言葉に思えたからだった。
「私に望みがないんだってことはよくわかりましたよ」
「申し訳ない」
「謝られることではないです。ただ……」
「ただ?」
「亮介さんの中で奥様の存在は大切なんだってことはわかりました。きっと素敵な奥様だったんですね」
美月の言葉に亮介は微笑みを浮かべる。それを肯定と受け取った美月はひとつ頷いた。
「こう見えても私、切り替え早いほうなん、寝て起きたら切り替えるので、また明日も仕事一緒にしてくださいね」
「それは……こちらこそよろしく頼むよ。橘美月は本当にチームで一番の戦力だよ」
亮介がそう言うと「そーいう発言がよくないんですよねぇ」と美月が笑みを浮かべながら言うと、亮介は苦笑せざるをえなかった。
ほどなく食事が終わり、亮介がメンバーに感謝の言葉を告げて解散となった後だった。
駅の方向へと歩く亮介の後ろから、
「藤井さん」
と美月が駆け寄ってきた。ほかの社員は違う方向なのかもう周りには誰もいなかった。
「おーお疲れ」
亮介が言うと、少し不満げに大きな目を少し細めて「お疲れっす」と美月も言った。
「今日は私と亮介さんの1対1のお食事を期待したのになぁ」
わざとらしく美月は言った。亮介は苦笑する。
「それはいろいろと周りに誤解を招くかなと思ってさ。それに……最近はセクハラとかパワハラとかうるさい時代だしね」
「私は亮介さんをセクハラだパワハラだって訴えないですけど?」
「それはどうも。まぁみんなにも手伝ってもらったしね。あ、橘が一番活躍したのはわかってるよ。デプロイエラーが出たのにあっという間に解決したらしいな」
「大したことじゃないですよ。亮介さんならこうやって調べるんじゃないかな……っていうのを試したらうまくいっただけです。亮介さんのおかげです」
「でも、オレがいなくても実践できたなら、それは橘の実力だよ」
亮介が微笑むと、美月も微笑んだ。
「新卒で入ってきたときは、いかにもJDって感じで大丈夫かなーって思ってたけど、いまは最大戦力だよ」
「ご指導ご鞭撻のおかげです」
「改めて、感謝するよ、ありがとう」
「……感謝されなくてもいいから、二人でゴハンとかがよかったなぁ」
「だから、そういうことすると周りの目も……」
「まぁ、あれですよね」
美月が亮介の言葉を遮った。
「少なくとも私を異性として意識してもらえてるから、意図的に1対1になる場面は避けられてるってことですよね」
不敵に美月は笑みを浮かべた。
この様子を見ていた雪音から見ても、美月は異性としての魅力がある子なんだろうと思えた。見た目もかわいらしく、仕事もできて、自分に好意を持ってくれる、何もマイナス材料が見当たらない。
「ですよね?」
「そうだな」
念押しのように確認をした美月に亮介は肯定の返事をした。
「でも……、私とつきあってくれる気はないんですか?」
「そうだな」
「答え、早っ!」
美月の思わせぶりな上目づかいの言葉に亮介は即答した。あまりの一瞬の回答に美月も苦笑せざるをえなかった。
美月の声に、雪音はこの間、戸籍課で綺羅に同じようなことを言われたことを思い出し、思わず画面を見ながら声を上げて笑ってしまった。
「少しくらいは考える素振りがあってもいいじゃないですか。ちょっとは傷つくなぁ……」
「悪い。でも、オレは既婚者だよ」
「いや……でも亮介さんの奥様はもう随分前に……って聞いてますよ?」
美月は、亮介の妻である雪音が他界していることを知っていると示唆した。
亮介はひとつ頷く。
「うん、妻はたしかにもう亡くなってる」
「でも……いえ、だからこそ私とはつきあえないと?」
「うん」
「でも、この先も亮介さんはずっとお独りで過ごされるんですか?」
「娘がいるって知ってるだろ? 娘を大人にするまで育てることはオレが妻と約束したことだよ」
「いま中学生でしたっけ。女の子はいつか旅立っていくものですよ」
「へぇ……橘も旅立ってきたのか? 金沢が実家だっけ?」
「そうです。どうしても東京に来たくって、大学受験で親に内緒で地方受験で東京の大学を片っ端から……って私のことはいいんですよ!」
美月の一人突っ込みに亮介は笑った。
「娘がいつかは旅立っていくんだっていうこと、それはオレもわかってるよ」
亮介が言った。
「そうあるべきだし、それができたときオレの子育ては一区切りつくんだろうなって思う」
「その後は……亮介さんはどうするんですか?」
「さぁ。考えたことがないな。その先のことなんて」
「じゃあ、もし……私がそこまで待ってたらどうしますか?」
その言葉を聞いて亮介は一瞬、目を見開いた。
「そんなあてのない未来を期待させて待たせることはよくない。いまを大切にすべきだよ。オレを待つなんて何の意味もない。橘だったらもっと出会いがたくさんあるだろ。オレなんかよりいい奴はいっぱいいるよ」
それは美月に向けて言った言葉のはずだった。実際に美月は俯いていた。
しかし、雪音もまた俯いてしまっていた。
雪音にもグサリとナイフを胸に刺されたような嫌な感覚があった。まるで自分に向けて放たれた言葉に思えたからだった。
「私に望みがないんだってことはよくわかりましたよ」
「申し訳ない」
「謝られることではないです。ただ……」
「ただ?」
「亮介さんの中で奥様の存在は大切なんだってことはわかりました。きっと素敵な奥様だったんですね」
美月の言葉に亮介は微笑みを浮かべる。それを肯定と受け取った美月はひとつ頷いた。
「こう見えても私、切り替え早いほうなん、寝て起きたら切り替えるので、また明日も仕事一緒にしてくださいね」
「それは……こちらこそよろしく頼むよ。橘美月は本当にチームで一番の戦力だよ」
亮介がそう言うと「そーいう発言がよくないんですよねぇ」と美月が笑みを浮かべながら言うと、亮介は苦笑せざるをえなかった。
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