【完結】碧よりも蒼く

多田莉都

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第2章

誰も知らない町で⑤

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 僕が通う東谷高校は、超進学校というわけではなく、超部活が強いというわけでもなかった。すべて平均的というか、悪く言えば何も特筆するものがない高校だった。
 何十年か前に野球部が甲子園に出たことがあるとか、かつては女優がいたとか、昔の栄光みたいなものはあるらしいが、いまはそんなのはなくて、「それなり」という言葉で括られることが周囲の評判らしい。

 それでも成績上位のグループは難関大学に進学するし、部活動によっては県大会に進んで結果を出すこともあるらしい。

 なるべく目立たないように過ごしていきたい僕には合っている高校なんじゃないかなと思う。
 50m走も平凡なタイムだった僕は、体育でも目立つことなく過ごせた。
 中間テストの結果も平均よりやや低めな結果で、まぁ成績が悪すぎるという意味で目立つこともなかった(伊藤は中間テストの結果で280人中50位ぐらいに入っていて成績まで良いらしい)

 まずは順調な滑り出しかな、と思えるぐらいには高校生活が始まったと言えた。

 あっと言う間に時間は過ぎていき、6月になりニュースサイトで「梅雨入り」というワードが踊り始めた。

*
 今日は選択理科の授業があった。
 物理、化学、生物の中から1教科選択して一年間授業を受けることになっていて、僕は化学を取っていた。これといった理由はなくて、その三つの中なら化学が好きかなぁというぐらいのものだった。

 周りの奴らは自分が目指す大学の受験科目などを意識しているらしかった。本当はそうあるべきなのかもしれないが、どこの大学に進むとか考えて生きてきたことはなかったし、いまも考えていない。要するに、僕はこの先どうなっていきたいのか何も決められていなかった。


 実験のまとめを書いた男子、女子それぞれのノートを僕と女子の濱田さんで回収した。回収する担当になったのは、たまたま振り分けられたB班のメンバーだった僕と濱田さんが先生に指名されたという理由だった。
 それを職員室まで運ぶために僕と濱田さんは廊下を歩いていた。
 男子分を僕が、女子分を濱田さんが両手で運んでいた。
 
 詳しいことは知らないが濱田さんは左足に若干の不自由があるらしく、速く歩くことはできないらしい。走るとか飛ぶとかがほとんどできないらしく、体育も見学しているらしい。「らしい」ばっかりだが、全部また聞きなので仕方ない。


 こうして隣を歩いていると、ほんの少しだけだが濱田さんの右足と左足のリズムが揃っていない感じがする。明らかにずれているというわけではなくて、かすかに左足が遅れてくる感じだ。普通ならば気づかないようなかすかなレベルだけど。

 僕は立ち止まった。

 一瞬遅れて濱田さんも立ち止まった。

「なに? どうしたの?」

 濱田さんが僕に尋ねた。

「女子の分もオレが持っていくから、教室に戻っていいよ」


 つとめて笑顔で僕は言ってみた。僕が持っているノートの上に重ねてよいというアピールで僕は少し胸を突き出した。


「……なんで? なんか同情でもされてる?」


 冷ややかに少し目を細めて濱田さんは僕を見た。


「あのさ、相沢くんがどう知っているのか知らないけど」

「ん?」

「私、ただ歩くだけなら問題ないから、同情なんていらないんですけど?」

 意志の強そうな目で彼女は僕を睨んだ。
 足のことを気にされるのはたぶん嫌なんだろう。
 僕はつとめて笑顔を崩さない。

「いやー? 筋トレ的な? 身体がなまっててさ」
「……は?」
「体育でちょっと運動しただけでも疲れちゃうからさー、筋トレでもしようかと」
「部活でもしたらいいんじゃないの?」


 高校に入って2ヶ月が過ぎた。僕はどの部活にも所属しておらず、いわゆる「帰宅部」になっている。伊藤に何度か誘われたバスケ部には見学すら行っていない。

「いやー、運動があまり得意じゃなくて」
「本当に? そうは見えなかったけど」


 
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