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第7章
高校生活で一番楽しい時期 6
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二学期が始まった。
僕のハムストリングスの怪我の経過は木根先生から横山先生へと伝わっていた。
まだ治ったばかりということで僕の全力疾走を防ぐため、九月に入ってすぐ行われた体育大会では、「まだ来年があるから」とクラス選抜リレーを走らせてもらうことができなかった。その気になれば走ることができそうだったが、横山先生に「禁止だ」と言われてしまった。
クラス全員で走るクラス対抗リレーは二年からは実施されず、僕は団席から一年生たちが走るクラス対抗リレーを見ていた。
僕が追い上げて、伊藤が逆転したあのリレーからもう一年が過ぎたのか。
あのときは、滑るグラウンドに気をつけながら走ったこともあり、全力と比べて少し抑えて走った部分もあった。もし最初から全力全開だったら、やっぱり肉離れしちゃったんだろうか。
なんだか煮え切らないまま体育大会は終わってしまった。
片付けには参加して、テントを畳んだり、椅子を片付けたりし、無事に解散となった。僕が教室に向かっていると、正面から濱田さんが歩いてきた。もう作業は終わっていたのか、既に制服に着替えていた。
いま特に話すべきこともなかったのですれ違っていこうとしたときだった。
「あっ、相沢くん」
背後から声をかけられて僕は振り返った。
「なに?」
「相沢くんに聞いてみようと思っていたことがあって」
「オレに聞いてみること?」
「うん、富山の相沢碧斗の話」
「え……? あ、ああ」
一瞬、なんのことかと思ったが、あっちの相沢碧斗のことを言っているのだとわかった。
いまも富山にいるあっちの相沢碧斗こそが全中で優勝した奴で、いま愛知にいるこの僕とは別人である、と濱田さんに教えたことがあった。
「うん、あっちの相沢碧斗がなに?」
「最近さぁ、陸上の大会に出なくなったね?」
「は?」
どういう意味なのかわからず、思わず変な声を出してしまった。
「大会に出なくなった?」
「記録に名前が載ってないんだよね」
「大会の結果とかに名前がないってこと? それより濱田さん、あっちの相沢碧斗の記録なんてチェックしてるの?」
「そう。私、なんか自分で調べたせいもあるのかもだけど、いまでも富山の相沢碧斗がその後、どうなったのかをちょこちょこ調べてるんだよね」
特に隠すことなく濱田さんは頷き、手に持っていたスマホの画面を見ながら「名前、出てこなくなったんだよねぇ」と呟いた。
「なんでそんなの調べてんだ……」
「いや、なんか気になる……ぐらいだけど。天才少年がその後ってどうなるのかなって」
その後どうなったかは、いま目の前に立っている奴だよ、とは言わなかった。第一、天才ではない。
「それで……相沢碧斗の名前がないと?」
「6月のインハイの県予選までは毎回出てきたのに、いまはいないんだよね」
「へぇ……」
僕は濱田さんのスマホを覗き込む。濱田さんは顔をちょっと後ろに引いた。もしかしたら汗臭かったとかあったかもしれない。
画面に表示されている結果は細かすぎて、本当に相沢碧斗が出ていないのかはわからない。
「青城南高校は、100mは違う男子が3人出てくるんだけどね」
そういう探し方までしているのか。青城南陸上部もまさか愛知の高校で陸上部もない女子に結果を検索されているとは思ってないことだろう。
彼女はスマホの画面を僕に向けながら「青城南」というキーワードで検索を始めた。
たしかに二年生が二人、一年生が一人、100mに出場している。一番速い二年生が11秒12で走っていた。あとの二人は11秒台中盤といったところだった。
200mは、二年生二人は同じだったが、一年生が別の一年生に変わっている。二年生が一人、県大会の決勝に進んでいるらしい。
その他の種目も含めて、『相沢碧斗』はどこにもいなかった。
高校生活が一番楽しいとされるこの時期に、あっちの相沢碧斗はどうしているのだろうか。
まさか辞めてしまったのだろうか? そう思うと胸の奥がちょっと苦しい気がしてきた。
僕のハムストリングスの怪我の経過は木根先生から横山先生へと伝わっていた。
まだ治ったばかりということで僕の全力疾走を防ぐため、九月に入ってすぐ行われた体育大会では、「まだ来年があるから」とクラス選抜リレーを走らせてもらうことができなかった。その気になれば走ることができそうだったが、横山先生に「禁止だ」と言われてしまった。
クラス全員で走るクラス対抗リレーは二年からは実施されず、僕は団席から一年生たちが走るクラス対抗リレーを見ていた。
僕が追い上げて、伊藤が逆転したあのリレーからもう一年が過ぎたのか。
あのときは、滑るグラウンドに気をつけながら走ったこともあり、全力と比べて少し抑えて走った部分もあった。もし最初から全力全開だったら、やっぱり肉離れしちゃったんだろうか。
なんだか煮え切らないまま体育大会は終わってしまった。
片付けには参加して、テントを畳んだり、椅子を片付けたりし、無事に解散となった。僕が教室に向かっていると、正面から濱田さんが歩いてきた。もう作業は終わっていたのか、既に制服に着替えていた。
いま特に話すべきこともなかったのですれ違っていこうとしたときだった。
「あっ、相沢くん」
背後から声をかけられて僕は振り返った。
「なに?」
「相沢くんに聞いてみようと思っていたことがあって」
「オレに聞いてみること?」
「うん、富山の相沢碧斗の話」
「え……? あ、ああ」
一瞬、なんのことかと思ったが、あっちの相沢碧斗のことを言っているのだとわかった。
いまも富山にいるあっちの相沢碧斗こそが全中で優勝した奴で、いま愛知にいるこの僕とは別人である、と濱田さんに教えたことがあった。
「うん、あっちの相沢碧斗がなに?」
「最近さぁ、陸上の大会に出なくなったね?」
「は?」
どういう意味なのかわからず、思わず変な声を出してしまった。
「大会に出なくなった?」
「記録に名前が載ってないんだよね」
「大会の結果とかに名前がないってこと? それより濱田さん、あっちの相沢碧斗の記録なんてチェックしてるの?」
「そう。私、なんか自分で調べたせいもあるのかもだけど、いまでも富山の相沢碧斗がその後、どうなったのかをちょこちょこ調べてるんだよね」
特に隠すことなく濱田さんは頷き、手に持っていたスマホの画面を見ながら「名前、出てこなくなったんだよねぇ」と呟いた。
「なんでそんなの調べてんだ……」
「いや、なんか気になる……ぐらいだけど。天才少年がその後ってどうなるのかなって」
その後どうなったかは、いま目の前に立っている奴だよ、とは言わなかった。第一、天才ではない。
「それで……相沢碧斗の名前がないと?」
「6月のインハイの県予選までは毎回出てきたのに、いまはいないんだよね」
「へぇ……」
僕は濱田さんのスマホを覗き込む。濱田さんは顔をちょっと後ろに引いた。もしかしたら汗臭かったとかあったかもしれない。
画面に表示されている結果は細かすぎて、本当に相沢碧斗が出ていないのかはわからない。
「青城南高校は、100mは違う男子が3人出てくるんだけどね」
そういう探し方までしているのか。青城南陸上部もまさか愛知の高校で陸上部もない女子に結果を検索されているとは思ってないことだろう。
彼女はスマホの画面を僕に向けながら「青城南」というキーワードで検索を始めた。
たしかに二年生が二人、一年生が一人、100mに出場している。一番速い二年生が11秒12で走っていた。あとの二人は11秒台中盤といったところだった。
200mは、二年生二人は同じだったが、一年生が別の一年生に変わっている。二年生が一人、県大会の決勝に進んでいるらしい。
その他の種目も含めて、『相沢碧斗』はどこにもいなかった。
高校生活が一番楽しいとされるこの時期に、あっちの相沢碧斗はどうしているのだろうか。
まさか辞めてしまったのだろうか? そう思うと胸の奥がちょっと苦しい気がしてきた。
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