【完結】碧よりも蒼く

多田莉都

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第10章

confession

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*
 昨日は、顧問の高森先生に外出許可をもらって、小野寺と横浜で夜ごはんを一緒に食べてきた。
 それからホテルに戻ってシャワーを浴びたら、急激な眠気に襲われて、僕はベッドに倒れ込んだまま眠ってしまった。

 何時間でも眠っていられそうだったが、新幹線の時間が決まっていたので、僕は帰る準備を始めた。
 何通も来ているLINEに返信する時間もままならなかった。そういえばなぜか水上からはすごい数のLINEが届いていた。「すごいっす」「すごすぎるっす」とか同じような感嘆の言葉ばっかりだったけど。

 新横浜から僕と先生は新幹線に乗った。
 
 昨日の夜は、結構な時間を寝たはずだったが、それでもまだ眠くて、身体は重かった。
 右太腿の裏はやっぱり痛いままだった。帰ったらまた木根先生に診てもらおう。

 流れていく景色はあまりに早くて、僕はインターハイの余韻に浸ることもできなかった。なんとなく窓の向こうを見ていたら、僕は眠くなってきた。
 ノートパソコンで何かの仕事をしているらしい高森先生に、

「すいません。眠すぎるんで、寝ててもいいですか?」

 と言った。学校の先生に「寝てもいいか」なんて聞いたのは初めてだ。

「別に構わないけどな、あと1時間もすれば名古屋だぞ」
「1時間でも寝たいっす」

 僕は目を閉じる。
 あっという間の神奈川だったなぁ、と僕は眠気に誘われながら思う。
 そういえば、誰かが「高校生活なんてあっという間に終わる」と言っていた気がする。もう戻れないときに「あのときもっと頑張っておけばよかった」と気づくとか。あれは誰が言ってたんだっけか。

 たしかにもっと練習を積む時間はあったのかもしれない。
 高校一年から練習しておけばよかったのかもしれない。
 相当な遠回りをしてしまったのかもしれない。


 「かもしれない」ばっかりだで、もう戻すことのできないことばかりだ。

 でも、いまの僕は「あのときもっと頑張っておけばよかった」とは思っていない。

 たぶん、この遠回りがなければ、今日の僕に辿り着くことはできない。
 思えば、一年の体育大会のとき、クラス対抗リレーで走ったときから、何かが変わりはじめていたのかもしれない。僕の過去に何かがあると気づいた伊藤に、中学時代のことを話してから、僕たちは本当の友達になれたような気がする。

 いや、伊藤だけじゃなくて、いろんな人と繋がっていくことができたのは、僕が僕らしくいられる走ることを通してだったのかもしれない。

 遠回りしたけれど、みんなが僕に気づいてくれたおかげで、前に進むことができた。

 何も後悔することなんてない。

 そんなことを考えていたとき、ふと思い出した。

 愛知に来て、東谷高校に入って、誰も知らないはずの本当の僕の姿に、最初に気づいてくれた人のことを。


 急に目が覚めたような気分になり、僕は早く新幹線が名古屋につかないかなと思った。
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