この要らない悪縁、誰か切ってもらえますか

のぎく

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巡りの始まり 5

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 十五歳になった。この頃よく女の子に声をかけられる。

「ねえ貴女ユーリ君と双子の……」
「はい、エリスです」

 今日もまた一人の女の子に声をかけられた。顔も名前も知らない子だ。

「お願いなんだけど裏庭にユーリ君を呼び出してもらえないかな」
「良いですよ」
「本当!?ありがとう!!」

 パン!と両手を合わせまるで拝むようにしてお願いされては断れない。今から食堂に行くところだったし、食堂に行くにはユーリのいるクラスの前を通るから別に断る理由もない。

 私が了承の返事を返せば彼女は眩しいほどの笑顔を浮かべて「それじゃあ先に行ってるから!」と走り去ってしまった。

 元気なのは良いが、廊下を走ってはいけない。案の定彼女は近くにいた先生に注意されていた。なのにその子ときたらえへへ、とだらしなく顔を緩めている。あれは注意されている時にする顔じゃない。なにがそんなに彼女の顔を緩めさせているのか。

 最近登校するたびに何故かよくユーリを呼び出すよう頼まれる。別に呼び出すのは構わないのだが、なんでみんな自分で呼び出しにいかないのか不思議。いちいち私を通すほうが面倒じゃない?

「エリスお待たせー、行こっか」
「ごめん、ちょっと急用」
「あらまた?」

 お手洗いから出てきたセレストにそう言えばその後ろから出てきたフェリーテシが呆れた顔をしていた。

「引き受けすぎるのもどうかと思うわね」
「でもものはついでっていうし」
「私も一緒に行くわよ。セレストもそれでいい?」

 結局三人で行くことになった。

 廊下を三人広がって歩くわけにはいかない。彼女の二の舞を演じるのはごめんだ。なので私は並んで歩く二人の後ろを歩いた。

「自分で呼びに行けばいいのに情けないわね。ねえエリス」
「うん。だいたいなんで私を介すんだろう」
「エリスを介してでないと断られるからよ」
「なんで大切な用事かもしれないのにユーリは断るの?」
「え……あんた本気で言ってる?」
「え?」

 見つめ合う。
 本気で言ってるってなに。どういう事?

 首をかしげる私に二人は可哀想なものを見る目で溜息をつく。ちょっと。人の顔見て溜息つくとか失礼だぞ。

「ん?」

 突然後ろからへんな視線を感じた。
 けど、振り返った時には消えていた。

「どうかした?」
「なんかいつもと違う視線を感じた」

 最近セレストとフェリーテシは綺麗になった。いやもとから綺麗だけど。そんな二人と一緒にいるからかその視線の数々がこちらにも飛び火する事があるんだけど、今のはそういった類の視線じゃなかった。どう違うか、って言われてもよく分からない。
 でも今のはなんていうか虎視眈々と獲物の隙を狙うかのような……。

「気のせいか」

 気にしないことにした。

 私はノックもなく一組の教室のドアを開けた。今はお昼休みなのでユーリが教室を出ている可能性は大だったからどうか入れ違いになりませんように、と祈りながら。

 私達の教室と大して変わらない作りの室内。その後方の席にユーリは座っていた。ちょうど話していたところだったのかその横にはキラキラ金髪の殿下の姿が。

 私はズカズカと他クラスに入る。他クラスへの立ち入りは特に禁止されていないため遠慮なく。

「ユーリー」
「………またか」

 名前を呼んで近寄っただけなのにうんざりした様な顔で出迎えられる。おいおい随分な出迎えだな。なんだよその顔は。

「言っただろう、断ってくれって」

 私が来た理由はお見通しらしい。

「断る理由がない」
「ユーリ君、この子君がどうして呼び出されてるのか分かってない」
「……まじか」
「まじよ」

 何故かフェリーテシの言葉に頭を抱えるユーリ。私の右横ではセレストがうんうん頷いて、殿下は先程セレスト達二人が向けてきたような目で私を見ている。

 ………どういう意味なのかは分からないがみんなが呆れているのは分かった。

 こうしてユーリの元を訪れる度にセレストとフェリーテシは付いてきてくれるので二人はユーリとよく一緒にいる殿下とも仲良くなっていた。この王子様は平民だろうが貴族だろうが態度を変えないでくれるので接しやすい。身分関係なく誰にでも平等だから偉そうにしている他の貴族達より好感がもてる、とはセレストの言。
 確かにどこかの誰かさんと違って暴言や失礼なことを言わないし断然親しみやすいよね。どこぞの誰かさんと違って。
 一度『殿下呼びでなくともいい』と言われたが『ギュスターグ』より『殿下』の方が短いし言いやすいので遠慮させてもらった。もっともセレストとフェリーテシは流石に恐れ多い、と断固拒否を示したが。

 だけど……仲良くなるのはいいのだけれど、最近殿下の私を見る目が二人と似てきたのはいただけない。絶対二人に感化されてるよね。だって前は私をそんな目で見なかったもん。

 シゼルは同じクラスということから二人も交流は持っている。でも、一緒には行動しない。空き時間を見つけては図書室に行ってしまうから、一緒に行動するもなにもない。出来ない、が正しいかも。

「しかしエリスが断ったら女子達の非難の的になりそうな気もするな」
「なんで?」
「あー、そうか。こいつなら気にしなさそうだけど……」
「ねえなにが?」
「絶対気にしないわね」
「というか気付かなそう」

 なんでみんな私を無視するの?私にも分かるように話してほしいんだが……。

「視線には敏感なくせに」
「変なところで鈍感」
「わー辛辣ー。で、なんの話なの?」

 私の疑問には答えずユーリは深い溜息を吐くと立ち上がった。しぶしぶ感が半端ない。そして誰もなんの話だったのか教えてくれる気はないらしい。

 ユーリに用件を伝え終わったいま、私達がここにいる意味もないので連れ立って教室を出る。
 と、ドアの近くの席で女の子に囲まれている誰かさんと目が合った。

 なんであんなにたくさんの女の子に囲まれてて私と目が合うんだ。うへぇ。

 私はこの内心を奴に伝えるべく、そう、ゴミでも見るような目で睨みつけてやった。「こらやめなさい」……ユーリに怒られた。

「エリっちゃーん!」

 周りの迷惑になるだろうドアの前でそんな事をしていたら廊下からジルバールが私めがけて腕を広げ、走り寄ってきた。

 私はさっとユーリと立ち位置を入れ替える。
 それに反応できなかったジルバールは、ユーリの胸の中に飛び込む形になった。

「……あらら、残念。」
「離れろ気持ち悪い。」
「なんか用?」

 抱きついたままのジルバールにユーリの横から問いかければ奴は「そうそう」と大仰に頷く。
 ユーリはというと、ジルバールの頭を押さえつけ遠ざけようと試みているが奴は一向に離れる気配がない。こいつは細身で腕もひょろっとしているのに、その腕のどこにそんな力があるのか。

「一緒に昼食でもどうだい?」
「それは構わないけど……早く離れたほうがいいよ」

 そろそろ機嫌の悪い君の抱きついている相手の目が据わってきたから、下手すると八つ当たりの対象になるぞ。


 私達は教室を出てユーリと別れると、当初の目的通り食堂へと向かう。………はずだったが。

「ラロ、ちょっといいかな」

 廊下の角を曲がってすぐ、見知らぬ男の子に引き止められた。今度はなんだ。

 ん?あれ、この人なんか見覚えが……。

「三人共ちょっとラロ借りていい?」
「いいですよ、じゃあエリス、先に行ってるわねー」

 フェリーテシはひらひらと手を振りながらジルバールの首根っこを引っ掴むと、ズルズルという効果音を立てて引きずりながらさっさと行ってしまった。

 ああー、私のお昼ぅー。

「悪い、すぐ終わるから」

 思わず怨みがましい目で睨めつければ相手の男は慌てて謝ってきた。
 まったく、本当に最近はこういうのが多いな。

 彼は一階と二階を繋ぐ階段の踊り場に私を引っ張っていくとその空色の目で辺りを見回してからこそっと私に問いかけてくる。慎重だね。

「ボワデルフトって好きな人とかいるのかな」

 ボワデルフト?ああ、セレストのことか。

 先程妙な視線を感じたと思ったがどうやら声をかける瞬間を狙っていたこの人のものだったらしい。

「好きな人……」

 セレストは好きな人がころころ変わる。激しい時は一週間前はこの人が好きなの!って言って、しかし翌週には違う人をこの人が好きなの!って言ってたりする。逐一報告はされるけどあまりにも変わりまくるので今でははいはい、と聞き流している。

 多分いるんだろうな、とは思うが今本当にいるのかどうかまでは……。

「あ!」

 思わず目の前の男を指差して大声をあげてしまう。
 相手はびっくりした、という顔で固まってしまったが、私は気にせずじろじろと不躾にその顔を見つめる。

 そうだ。見覚えがあって当然なんだ。この人は二ヶ月くらい前からセレストが好きだ、って言ってた人。
 珍しくセレストの興味が長続きするから私も気になっていた。えっと確か一つ上の学年の……。

「ズアナ先輩!」
「そうだけど」

 今度は相手がこちらを不躾な目で見てくる。なんで知っているんだ、と。そりゃセレストの想い人だから。
 そっかそっか。ズアナ先輩はセレストが好きなのか。そっかあ、セレストにもついに彼氏が……。

 やばいな。どうしよう。今日もセレストがこの人を好きだって確証はない。今日はまだこの話は出てないから。

「で、どうなんだ?」
「分かりません」

 えー、と言いたげな顔をされる。いやだって分からないものは分からないし。変に期待を持たせるよりもいいかと思って。

「というか。そんなに気になるなら自分できいてよ。いちいち私に聞いてくるとかまどろっこしい。度胸がない奴は嫌われるよ?」
「そ、それはそうだが……」
「はい、そうと決まれば放課後に裏庭ね。セレスト連れて行くから」
「は!?」

 だってうやむやにして毎週のようにこうして聞きに来られても困るし。そんな事になったら私は毎週空腹を抱えてこいつの話を聞かなければならなくなるし。そんなの嫌だ。めんどうくさい。

「告白はしないにしても聞くだけタダだよ」
「それは告白するも同然なんじゃ」
「細かい事気にしてたらモテないよ」

 あの女男とか殿下には負けるけどこの人もそれなりに整った顔立ちしてるんだから。あー、あの二人と比べるのはいくらなんでも可哀想か。

「ぱっと言ってすっと楽になろう。フラれたらまあしょうがないってことで。」
「他人事だな」
「他人事じゃん」

 この人、ちょっと面白いな。ヘタレだけど。
 背をバシバシ叩いて俯かせていた顔を覗き込む。顔はいいんだから自信持てって。ヘタレちゃんの告白がどうなるかは分からないけど。

「うん、まあ頑張ってみるよ」

 そうだ頑張れヘタレ。

 ちょっと自信をつけたヘタレは放課後の時間を決めてから去っていった。あー、これでやっとご飯にありつける。

 お腹もぐうう、と盛大な音を鳴らして喜んでいた。

「もう少し恥じらう事を覚えてはどうです?」

 顔を上げれば、いつのまにか階段の上に女男がいた。その隣には私達と共に教室を出なかった殿下の姿もある。

 そういえばここは私達の教室がある二階と食堂のある一階を繋ぐ階段の踊り場だった。

「お腹が鳴ることの何が恥ずかしいの」

 減るものでもないしいいじゃないか。健康な証だぞ。

 すると奴から可哀想なものを見る目で見られる。……なんで今日はこの目で見られることが多いんだ。

 私はいー、と口の端を両手指で引っ張って奴に挑発してからその顔を見ることなく階段を駆け下りた。
 奴に構っていたらお昼を食べ逃してしまう。

 その様子が負け犬の如く相手の目に映っていた、なんて空腹の私は気づきもしなかった。


 その後。セレストに今もズアナ先輩が好きなのかとそれとなく聞いてみたら「それはもういいの。今は違う人が好きなんだ!」と新しい想い人について語ってくれた。

 フラれるかもしれない、とは言っておいたがそれでもなんか、ねえ。ちょっぴり罪悪感が残るというか。

 私は放課後玉砕するであろうズアナ先輩に心の中で合掌した。

 焚きつける様な真似してごめんなさい。

 
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