事態は更にややこしくなりました

のぎく

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勝負の行方 そのさん。

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「あれ、アタリー?こんな早くからどうしたの」

 まだ昼までには随分と時間がある朝早く。

 部屋を出て玄関へと向かう途中、背後からそう声をかけられ振り向けば、そこには疲れを滲ませた父様の姿が。父様は今し方帰ってきたばかりのようで、仕立てのいい服はよれ、目の下にはクマができ、脇には大量の書類を抱えている。

「おはようございます父様。珍しいですね、朝帰りですか」
「誤解を招くような言い方しないでほしいなあ。勘違いされちゃ困るでしょ?」
「私は別に困りませんよ」

 困ったように頭を掻き、次いで抱えた書類を取り落としそうになってあたふたと一人で茶番劇を繰り広げながら会話を交わす父様に自然視線が生暖かくなる。

 ええ、何も困りませんとも。
 だって、父様にそういう「朝帰り」する度胸も頭もあるとは思えませんからね。それは母娘共通の認識ですから。
 阿呆だけど阿呆みたいに真面目な父様が浮気するなんて絶対ありえない。断言できる。そもそもの話、顔だけはいい父様に言い寄る女性はいれど、父様の頭の中に『浮気』の二文字が過ぎることはないだろう。仮にそんな器用なことができたとして、それを隠せるほど嘘が得意でもないのだし。
 なんせ阿呆みたいに生真面目だからね。阿呆みたいに。……いや、別に他意はありませんとも。

 結局取り落としてしまった書類を一緒に拾ってやって、どちらからともなく肩を並べて歩き出す。
 ちなみに危なっかしいので半ば強引に書類は私がもぎ取った。何回も落とされていては、私も書類もたまったもんじゃない。

「仕事、まだ終わらないのですか?今日も徹夜だったんでしょう」
「いやぁ困ったよねえ。未決済の書類があんなに溜まりに溜まってたなんて。もうぜんっぜん終わる気配がしなくてさー、また戻らないとだよ。――ほんと、いつ終わるかなー……」

 最近あまり帰ってこないと思っていたら、そういう事情だったのか。
 再度その顔に目を向ければ、短く切り整えた焦茶色の髪は乱れ、どこか遠くを見る同色の瞳の下にはとてつもなく濃いクマができている。顔色も悪いし、たった数日でげっそりと痩せこけてしまったかのようだ。心なし声にも力がない。

 私は大きなため息を吐き出した。

「……その様子なら、養子縁組ほか諸々の手続きは私がしておきますね。数日以内にまとめて書斎の机の上に置いておきます」

 諸々の手続きとは、もちろん私の代わりに次期女公爵となる従姉妹を家に迎えるためのもの。元々後継ぎがいるのに他の子を迎えるのだ。王宮に提出せねばならない書類以外にも必要なものは多々ある。
 こういったものは早めに用意しておくに限るのだ。
 この調子ではいつ書類が完成するか分からない。ならばできる範囲を私が済ませ、あとは父様が必要な判を押したら完成する形にしておくのが最善だ。

 両手が塞がっているので、頭の中で何が必要かと数えていればいつの間にか立ち止まった父様が目を丸くしてこちらを覗き込むようにして屈みこむ。その顔の近さに三歩後ずさった。

「え、え、いや、父様が言うのもなんだけどさ、いいの?」
「いいの、とは」
「だっていきなり自分の将来が揺らいだんだよ?あのままいけばアタリーは女公爵になれたのに、それを父様が無理矢理奪ったんだよ?そりゃ決定権は俺が持ってるからアタリーが簡単に覆せるわけじゃないけど、そんなふうに、普通のことみたいに受け止められるものなの?」

 今度は私が目を丸くする番だ。

 え、無理矢理した自覚あったのにしたの?と。

 ――まあ、確かに理由も分からないのにいきなり次期女公爵の権利を剥奪されて困惑しなかったわけじゃない。思うところがないわけでもない。けど。

「それが当主の判断なら私は従うまでです。それに、私の代わりが信用できる従姉妹なのも素直に従った理由の一つですね。他の親戚たちだったら断固として拒否してましたが」

 そこだけは父様にしてはよく彼女を選んだ、と手放しで賞賛できる。父様にしては意外と見る目あるのかも、なんて思ってみたり。

 私の顔を覗き込んでいた父様はその言葉に体を起こし、でへへ、とだらしなく頰をゆるめて掻く。大方、言外に見る目があると言われたことが嬉しかったのだろう。
 一気に機嫌が良くなった父様は今度は足取りも軽く歩き出す。

「そういえばアタリー、その格好、どこかでかける予定?」

 片手に外套と大きな荷物を提げた私の姿を指差し、首を傾げる。ひょい、と荷物の中身を窺うように身を乗り出され、内心慌てて、けれど決してそれを悟られぬように外套で荷物を覆ってしまう。

 それにキョトン、と口を開ける父様に繕うように笑顔を向け、

「ええ、まあ。リリーと約束があって」
「リリー……ああ、スワルモ嬢のことだね。仲がいいのは何よりだねえ」

 なんとなしに嬉しそうにしみじみと頷くと、あ、そうそう、となにかを思い出したかのように呟いて、

「シャルル君とはうまくいってる?」

 と付け足した。
 それに苦い顔をしなかった私を誰か褒めて欲しい。

 ――うまくいく、わけがない。いってほしくもない。
 それに、さらにこれからうまくいかないように手を打ちに行くのだし。

 微妙に反応に困る物言いに口を閉ざしたままでいるも、父様は一人話を進めてゆく。

「そろそろ顔を合わせてから二週間くらい経つでしょ?どう、うまくやっていけそう?」

 いいえ、全然。やっていく気もないし。

「いやぁ、彼すごい綺麗な顔してるよねー。アタリーも知ってるだろうけど彼すごい人気者でしょ?あんな子が恋人だったらもう自慢ものだよねー」

 むしろ女性陣からの報復が恐ろしいんですが。

「何回か話したことあるけど、性格もいいよね。頭もいいし、魔法の腕もいいし。きっと話が合うと思うよ。それにほら、アタリーは昔から魔法に憧れてたとこあるでしょ?彼、国でも一、ニを争う腕なんだから」

 魔法の腕は知らないが、性格が悪いことだけは知ってますけどね。

 饒舌に話す父様の後ろを付いて歩きながら思わず塞がった両手で頰を叩き、意識を入れ替えたくなる。

 いけないいけない。奴の話題を聞いていると、だんだん私まで性格が悪くなっていく気がするわ。せっかくの清々しい気分も沈んでいく気がする。

 あー、やだやだ。

「いやあ、俺、二人は絶対うまくやっていけると思ってたんだよねー。だからこそ縁談の話を進めたんだし」
「……え?」
「ほら、アタリーって浮いた噂の一つもないでしょ?いくら恋愛結婚推奨とはいえ適齢期もあるし、いつまでも恋人の一人もいなかったらそれはそれで悪い噂の的でしょ?どうしたもんかなー、と思ってたらちょうど良く、超優良なシャルル君がいたんだよ。もうこれは話に乗るしかないでしょ」
「……まさか、そんな理由で彼との縁談が……?」
「そんな理由、って言い方は酷いなあ。娘の今後を思ってのことなんだよ?言ったろ」
「…………一番の決め手は?」

 唖然とし、思わず訊ね返せば父様はいつものようにへにゃっと笑い、あっけらかんと言った。

「アタリーと相性がいいだろうなあ……っていう勘。――あれ、どうしたのそんなところで立ち止まって。早くおいで」

 ――『父様にしては意外と見る目あるのかも』?

 ……前言撤回。
 やっぱり父様には見る目はない。ない。全然ない。全くない。これーっぽっちもない。

 相性がいい?悪いの間違いだろう。合わないって意味なら相性がいいと言えるのかもしれないけども。

 またすぐに仕事場に戻るためだろう、待たせていた馬車の前で私から書類を受け取りつつ、父様の口は止まらない。

「実は息子も欲しかったんだよね。いやあ、念願叶いそうでよかったよかっ――」
「父様」
「うん?」
「勘違いしないでくださいね、父様に見る目はこれっぽっちもありませんので。仮にそんな阿呆みたいな勘違いしているんだったら、今すぐにでもやめてください。阿呆みたいに映りますから、阿呆みたいに」
「……阿呆?」
「はい、阿呆みたいに」

 あと、私が奴とそんな関係になることは絶対にないので、阿呆みたいに早とちりするのはやめてほしい。阿呆みたいに。
 ……いえ、別に他意はありませんとも。





 *************




「いっくら治安がいいとはいえ侍従も護衛もなしに一人で出歩かせるなんて、ある意味すごいわよね」

 とはリリーの挨拶がわりの一言だ。

 父様を見送ってから馬車に揺られること四半刻。大通りで下ろしてもらい四日前と同じ道を足早に通り抜けてやって来たリリーの店で、私は依頼の品と代金を交換していた。

「家が他の貴族たちと違うのは、とうに理解してるつもりよ」

 じゃなきゃリリーの言うように一人で出歩くなんて出来るわけがない。その他にも色々と、自分の家が周りと比べて異質なのは理解している。もちろんそれを表に出しはしないけど。

 外套を脱ぎ、片手に持っていた袋をリリーに差し出す。何これ、と目で問いかけながらもまずは受け取る彼女に一言「賄賂」と短く返し、反対の手に提げていた袋を目の前に掲げる。

「ほかに思いつかなかったから。着替える場所を提供してほしいな、と思って」
「そういうこと」

 仕方ないわねえ、と言いたげに肩をすくめるとそのまま顎をくいっ、と右奥へ向け、

「奥、散らかってるけどそれでもいいならどうぞ」
「ありがとう」

 何も事情を聞かずにいてくれるのも含めて礼を言う。
 もしかしたら聞かずとも察しているのか、それとも聞こうとも思っていないのか。……多分前者だろう。
 お言葉に甘えて奥へと進む。今日は閉まっていた扉を開けて中を覗きこみ――まあ、散らかりようは言わずもがな。足の踏み場があるだけまだマシかもしれない。
 簡単に脱げる服を着といてよかった……。

 手早く着ていた服を脱ぎ、二週間前と同じ、動きやすく周囲に馴染みやすい服に着替える。

 一応今日着てきた服も簡素だが、それでも貴族が着る服。ぬかるむあの森の中で歩きやすいとはお世辞にもいえない。それに、汚したりしたらどこへ行っていたの、と問い詰められること請け合いだ。面倒ごとは避けて通るに尽きる。

 また扉を開けてリリーの元へ戻ると、さっそく賄賂を開けた彼女は中身のお菓子に目を輝かせていた。前から気になる、と言っていたものの体型を気にして手をだぜずにいた限定品。自分からは勇気がなくて買えないけど、他人から貰ってしまったのだし仕方ない、という建前が彼女の頭の中で思い浮かんでいるのだろう。
 喜んでもらえて何より。

「あら、もう行くの?」

 包装を開けさっそく食べ始めるリリーは、そそくさと外套を羽織る私に不思議そうに問いかける。それに頷きながら懐中時計を示し、

「もうちょっとで乗り合いの馬車が出ちゃうしね」
「そう、気をつけてね。できれば経過報告を寄越してくれると嬉しいわ」
「もちろんよ、楽しみにしておいて」

 楽しみにしてるわ~との笑い声を背に店を出てから、手にした袋の中身に目を向ける。そこには今受け取ったばかりの小瓶が一つ。大きさに比べて値段はそれなりに張ったが、その効能を考えれば出し惜しみなどできるはずもない。むしろ安いくらいだ。

 お金で自分の未来が晴れやかになるのなら、喜んでお小遣いを注ぎ込んでやろう。

 ――そう、たとえそれで貯金箱がすっからかんになろうとも。




 *************


 大通りを進んだ先、観光名所の花畑は二週間前はまだまばらに咲いていた花々も全て散ってしまい、今は青々とした芝生が広がっている。それを横目に大きく迂回し、街の奥へと進む。しばらく歩き見えてくる花畑と街の境を区切る柵のはしからさらに進んで、可愛らしい青色の屋根が特徴的な小物屋の裏へと回った。
 そこには店の表からは見えなかった森の入り口があるだけのはずだが、誰かを待つように佇む人物を見つけ、反射的に眉を顰める。

 腕を組み悠然と木に寄りかかる背の高い人物は私の足音に顔を上げ、背を起こす。

「やあ、随分と早く来てくれて助かったよ」
「……もっと遅くに来ればよかったわ」

 シャルル・アデルはその言葉に不適に笑う。
 ご丁寧にもその瞳の色は黒色で、それがここでの「お兄さん」との出会いを想起させるから実際の彼との違いに複雑な思いを抱かずにはいられない。

 要はイラッとくる。
 騙された感が拭えないから。

「で。待ち合わせは森の中だったと思ったけど、なんでここに?わざわざ迎えに来たの?」

 自分で言っておきながら、いやそれはないだろ、とつっこむ。
 確かに評判では親切で紳士的らしいが、それを私にまで向ける意味はない。だって、すでに私に対して化けの皮を自分から剥いでくれてるんだから。今さら外面を作る必要のない相手にまで猫を被って接するほど、こいつは心優しくない。

 全然親しくないから人となりを細かく知ってるわけではない。が、そんなのは労力の無駄、とバッサリ切り捨てるであろう男だとは予想できている。

 嫌味っぽく放った言葉も奴は意に介さず、ああ、と目を細めて笑うと、

「君が一人で中に入っても待ち合わせの場所には辿り着けないだろうと思ってね。道案内するために待っていたんだよ」
「……は?」

 当たり前のようにそういった。

 ――なに、こいつ馬鹿にしてるの?

 確かに中に続く道は特に整備もされておらず、幅も人が二人並んで通れるか通れないかくらいに狭い。前回通った時は暗さも合わさって迷ってしまいそう、と思うこともあった。
 だけど、目的地まではほぼ一本道。茂みに突っ込んでいったりせず道なりに沿って歩いて行けば、ちゃんと辿り着ける場所。
 それを辿り着けない?

 ――どう考えても私のこと馬鹿にしてるだろう。

「……あのさ、そんなに私をおちょくってて楽しい?」

 声を荒げないよう努めて冷静にそう訊ねるも、奴は意味がわからないとばかりにキョトン、と目を見開き、瞬く。
 その態度に胸が段々ムカムカしてきて、ますます苛立ちが募っていく。

「どう考えても馬鹿にしてるとしか思えないでしょ!なんでこんなほぼほぼ一本道を歩いてくだけなのに迷わなきゃ行けないのよっ、アホかっ。どんだけ私のこと子供だと思ってんの!?これでも十八!」
「――あ。ああ、ごめん、知らなかった……いや、教えてなかったね。うん、君がちゃんとしてて頭がいいのは知ってるよ。噂でだけだけど。だから落ち着いてくれないかな」

 衝動のままに詰め寄ると、何かに気づいたように奴は声を上げ、どうどう、と私の肩に手をかける。それを睨みつけると、彼が腰をおり、目線が同じになった。

 そこで気づく。

 ほんとうに困ったように眉を寄せたその表情。その顔が「お兄さん」で、う、と私は意図せずに声が詰まった。

 だめだ。調子が狂う。たったこれだけのことで……「お兄さん」の顔をされるだけで、たったそれだけのことなのに、どうしてか途端に弱ってしまう。

 お兄さんの顔って、こいつがそもそもその「お兄さん」なのに。

 ――ほんの少し、表情が変わるだけなのに。

 こっちの複雑な心情も知らず、シャルル・アデルはそのまま口元に笑みを浮かべる。
 それはまた「お兄さん」の顔。
「シャルル・アデル」がする意地の悪そうな、性格の悪さが滲み出た笑い方じゃなくて、優しくて、少し困ったような見守るような雰囲気の、薄らと口が弧を描く笑い方。

 目が逸らせない私に目の前の彼は小首を傾げ、背に流されていた長髪がさらりと肩から滑り落ちた。

「今のは私が悪かった、ごめんね。けど、そういうつもりで言ったんじゃないんだ」
「……じゃあ、私一人だと辿り着けないってどういうこと」

 苦笑する彼から目線を外し、その顔を見ないように疑問を問う。目の前にあった顔が上がるのが横目に入った。彼は多分そのまま森の奥へと目を向けて、

「あそこへ行くまでの途中の道が認識し辛くなってるんだ。まるで目くらましのようにね。だから普通に行ったんじゃ辿り着けないって意味だよ」

 その言葉の意味を理解できず、眉を顰める。

 だってそうだろう、私があそこへ行った理由は。

「待って、じゃあなんでここの人たちは簡単にそこへ出入りできるの?まさかこの土地に住んでる人たちはその認識できない道を認識できる、とか言わないよね」
「もちろんそんなことを言うつもりはないよ。……この間君が教えてもらったっていうのは多分、違う場所にある広場のことだ。ならなんであの日君があそこへ辿り着けたのかと聞かれると、偶然としか言いようはないんだけどね」
「…………」

 あそこがそんな不思議な場所だったなど、にわかには信じがたい。――けど、今ここで彼が私を騙す理由も、ない。

「せっかくだし、どうぞ?自分で確かめた方が早い。幸いその広場もすぐそこだしね」

「お兄さん」の顔ではなくなった彼はそう言って、私に道を譲るように横に退けた。
 彼が私を騙す理由がないとはいえ、どこか信じきれずにいた私はその言葉に素直に従う。

 道はこの間と変わらない。背の高い木々に囲まれた、暗く日がささないせいでぬかるんで歩きづらい曲がりくねった一本道。

 まっすぐに、道なりに。

 後ろにアデルが付いてくるのを感じながら、転ばないように注意して。

 そうして歩くことたったの数分。前回この森を歩いた時より遥かに短い時間で目の前は開け――――眼前には日当たりのいい広場が広がっていた。

「うそ……」

 そこはもちろんあそこではない。二週間前、彼と出逢った広場よりももっと広々としていて、子供用の遊具もいくつか設置されている。なんなら脇には柵付きの小さな池まである。

 私の知ってるところは周りに木や茂みが生え、入り口らしきものは見当たらずひっそりと隠されるようにしてあったのに対し、こちらは当然のように人が通ることを想定された入り口が作られ、もちろん茂みを掻き分けて中へ進む必要はない。

 呆気に取られていれば、私の隣に並ぶようにしてアデルが立ち止まった。

「こっちが君が教えられてた場所。――信じてくれた?」

 信じるもなにも、信じるしかないだろう。まさかこの二週間の間に広場をさらに広げて池を掘り、遊具を配置し入口を作ったわけでもないのだし。

 慌てて来た道を戻り他に奥へ続く道はないかと目を凝すも、周りには背の高く幹の太い木々が密集し、足元には背の高い茂みがわんさか茂っていて他の道らしきものはおろか、容易に前へ進むことすら難しい。
 その光景にはあの場所がほんとうに存在したのかという根本的な疑問が頭をよぎるほど。

「まあそういうわけで、私は慣れてしまったからどうということはないけれど、君一人ではさすがに辿り着けないからね。そのための道案内というわけさ」

 まさに道なき道を探す私にそう言葉をかけ、彼は笑った。

 ニッコリと、「お兄さん」のではない笑みで。






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