気配消し令嬢の失敗

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婚約者なんてなりたくない!

ユリアはお弁当を持って裏庭にあるベンチへ急いでいた。人目を避ける為、いつも学食ではなくお弁当を持って1人で食べていた。ユリアのお気に入りの場所は、少し離れた場所にある。一昨日おととい男爵令嬢と、取り巻きたちが占拠してて座れなかったのもあり、急いでいたのだ。
〘7人もいて、ベンチに座りきれないのに・・・なぜ態々わざわざ〙第1王子と男爵令嬢以外は制服が汚れるのにも関わらず、地べたに座っていた。敷物も持っていなかったので、思いつきで来たのだろう。

ユリアは第1王子の婚約者候補筆頭だが、男爵令嬢と王子が一緒にいることについては何とも思っていなかった。王子と婚約者候補達のお茶会に呼ばれても、1番遠い席に座り挨拶くらいしか話はしない。気配を殺して、お茶会が終わるのをただずっと待つだけだった。2人で会ったことも無かった。別に第1王子が嫌いなわけでもなく、王妃になるのが面倒臭いだけだった。そもそも、第1王子の婚約者で王家に嫁ぐのは長女であるエーリアお姉様だったはずだった。

「この人は私の番だ!私の妻とする!」

留学にきた獣人国イルゼアのセルドオ王子が、お姉様を見初めて攫うように隣国に連れて行ってしまったのが発端だ。お姉様は10才、私は9才。お姉様が第1王子の婚約者に選ばれて8ヶ月後の出来事だった。その時の大人の事情はよく分からないが、お父様がだんだん目に見えて疲弊していく様子を見ていた。攫われたお姉様の後を追って、お母様も半年間獣人の国へ行ってお留守だった。お兄様がその間、私と弟を気にかけてくださっていた。
その頃は、攫われたお姉様と追って行ったお母様、疲労困憊になって帰ってくるお父様をただ心配していた。当事者として巻き込まれることも知らずに・・・

「ユリア、よく来たな座りなさい。」
急にお父様の書斎に呼ばれて伺うと、顔色が悪いながら笑顔で迎えてくれた。お父様、顔が引き攣ってますよ。

「エーリアのことなんだが、正式にセルドア殿下の婚約者になった。このまま家には帰らず、来年の春に式を挙げることになった。」
貴族の結婚は政略が多く、年齢が1桁でもままある話だが・・・
「来年・・・、お姉様は来年でもまだ11歳ですよ。大丈夫なんですか?」
「エーリアも最初は泣いてばかりだったが、今ではセルドオ殿下と仲睦まじいそうだ。もう大丈夫だろう。来月、シルヴィアも帰ってこれると連絡があった。」
「そうですか。お姉様が大丈夫ならよかったです。でもこのまま会えないのは寂しいです。お母様が帰ってくるのは嬉しいですが・・・。」
「婚姻式には、我等も呼んでくれるそうだ。1ヶ月前には出立する。それ以後はなかなか会える機会は無いだろう。隣国だからな。」
「分かりました・・・。」
正直言って寂しかったが、来年また会えると聞いて嬉しかった。そんな私にお父様が爆弾発言をしてきたのだ。

「あと、ユリアは第1王子の婚約者になったから。」
「はぁ???」
「この婚約は、王家とユーフミナ公爵家との政治的な婚姻なんだ。エーリアがいない今、ユリアが第1王子の婚約者になったんだよ。」
なったんだよ、じゃねーよ!
「お父様、私に王妃様は無理です。務まりません。絶対、絶対、ぜっーたい嫌です‼」
何も知らなければ、ただ王妃になることを無邪気に喜んだかもしれない。でも、私はお姉様から王妃教育の過酷さを既に聞いていたのだ。お姉様は大丈夫だったかもしれないけど、私は無理・・・だって面倒臭いんだもの‼

絶対いやーっ‼と言って聞かない私にお父様はノブレス・オブリージュについて、かんで含めるように言ってきたが、全力で拒否した。
「では、お父様が王妃様になればいいのです‼私は絶対いやです‼」
がーーーん‼と言う擬音が聞こえそうな顔をして、お父様が黙り込んだ。
 しばらくの沈黙後、今度は弱々しいトーンで聞いてきた。

「何が気に入らないんだ?エーリアの後だからか?王子が嫌いなのか?何故なんだ?」
「何故って、王妃様になりたくないのです。王子様に会った事がないので、好きも嫌いもありません。」
「王妃になりたくない・・・」
うーんと考え込んでしまった。
眉間にシワが増えてしまった。

「私は絶対婚約者にはなりません!」
「おっおいユリア!」
耐えられなくなった私は、書斎を飛び出して部屋に閉じこもった。
何とかしなきゃ‼無理矢理婚約者にされてしまう!
書庫から持ってきていた魔法図鑑を開く。ユリアは高い魔力を持って産まれてきた。簡単な魔法ぐらいなら直ぐに覚えられる。五大魔法をスルーして巻末にあった(その他の魔法)の中を探す。
「有った!有ったわ!」
    ユリアが見つけたのは、〘気配消し:初級〙、〘認識阻害:初級〙の2種類の魔法だ。本来なら魔物狩りなどの時に、敵に見つからないように自分にかける魔法だ。
「やった。直ぐに出来たわ!簡単な魔法だしこれから毎日かければ、誰も私を王妃にしたいなんて思わないでしょう!」
ユリアは知らない。普通は本を見て直ぐに魔法を掛けることが出来ないことを。2種類の魔法を常時かける事もひと握りの人間しか出来ないことを。ユーフミナ公爵家は家系的に魔力が豊富な子供が産まれやすく王家が喉から手が出る程、エーリアを欲しがっていたことを。獣人国との戦闘も辞さないと殺気立った王を宥める為、エーリアとの婚約の代わりにユリアの婚約話となったことを・・・。

その後、毎日ユーフミナ公爵はユリアを説得しようとしたが、説得することが出来なかった。不思議なことに話し中に突然居なくなったり、気配が消えたりする。こともあった。ユリアは密かに父親で魔法を使ったら人がどういう反応をするか実験していたのだ。

慌てたのは父親であるユーフミナ公爵だった。説得しようとしてもユリアを捕捉できず、話が進まなかった。
「ユリア・・・いったいどうしたらいいのだ。」ユリアを説得したら、婚約式について具体的な話を進めるつもりだったのだが・・・なかなか進展しない話に苦悩していた。そんな中、シルヴィアが帰って来たのだった。

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