気配消し令嬢の失敗

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成ろうが、成るまいが知識は人の為になる


翌月からユリアの公爵令嬢教育王妃教育が始まった。時間が掛かったのは、教師の選定から開始したためだった。婚約者筆頭と呼ばれ始めた頃、ユリアは10歳になっていた。

シルヴィアはユリアの公爵令嬢教育を口出しせず見守った。
ユリアは自分に似て気が強く、弱音を吐いたら負けと考えるタイプだった。
頑固で嫌となったらとことん曲げない。だからこそ上手く載せれば、努力は惜しまないし実力を積み重ねることができる。
(王妃になろうと、なるまいと覚えた知識は最終的にはユリアの糧になるだろう。)ほくそ笑む笑顔を見て、イスツィアは溜息をついた。

イスツィアは公爵家の嫡男にしてユーフミナ家の跡継ぎであり、ユリアより5つ年上の15歳だ。穏やかで天使のように優しかった妹のエーリア、お転婆で気が強く明るい妹ユリア、歳の割に落ち着いて穏やかだが時に鋭い意見を言う弟のセルシオ。4兄妹として育ったが、母に似たユリアが王妃に?と思うと胃が痛くなりそうだ。大人しく王妃として国を治めるなんて、無理じゃないか?奇跡的に第1王子であるエディオン王子に恋でもしない限りは・・・。(無いな、いや無い無い)ユリアが王子に恋する姿が思い浮かばない。王子は齢11歳にして国1番の美少年とか、神童と誉高いがユリアはそういうのには関心がない。無頓着といった方がいいかもしれない。きっとそういう所も母に似ている。母は穏やかで平凡な容姿、没個性の父に愛情のほぼ全てを傾けていると言っていい。

シルヴィアは、銀髪に蒼く澄んだ美しい瞳をした美女だ。父一筋でなければ傾国の美女と呼ばれたかもしれない。外見だけであれば、母に1番よく似たのがエーリアであり、次に弟のセルシオだ。ユリアは両親両方によく似ていて、父にそっくりなのがイスツィアだ。父が大好きなシルヴィアは特にイスツィアを可愛がってくれていると思う。
〘母上も、あの性格でなければなぁ。 〙
父が絡むと過激になる母を思った。イスツィアは母に似た妹の気性からユリアが王妃になることは反対だった。いつか助言を求められたら嫌がるユリアの意志を尊重するようにして、反対しよう。密かな決意を固めたイスツィアだった。

ユリアは中々お母様シルヴィアの魔力を上回ることが出来ず焦っていた。
王子に会うお茶会から逃れる為の脱走や、仮病も言い訳に使うのは限界に来ている。お母様のわる~い顔はもう見たくない。うーんどうしたらいいんだ!
何かヒントが見つからないか、書庫をゴソゴソ探し回り本をひっくり返して見た。
魔力をグーンと上げるような都合いい本など見つかるはずがなかった。
「あ~もう!」本棚を力任せにドンとどつくと、本がほぼなくなっていた本棚はドドんと反対側に倒れた。連鎖するように次々ぶつかった本棚が倒れてしまう。ヤバい!と思った時には遅かった。
「うわぁー。どうしよう~。」
書庫には半分傾いた本棚が10架あまり・・・。魔法が使えるなら自分で片付けられるが、今の自分には無理だ。元来面倒くさがり屋のユリアは考えるのを放棄した。ちょっと片付けようとした振りだけでもしようと、身近に落ちていた本を拾い上げた時に"それ"を見つけた。

「うん?なんだろうコレっ?」
古ぼけた青い背表紙のそれは昔の日記のようだった。タイトルに〈特定魔法を限界突破する方法! 〉と幼い子供が書いたような字で書かれている。なんだろうとパラパラと捲ると、あるページで釘付けになった。ふんふん。ふんふんふん。ふんふんふーん!読み進めるうちに興奮し過ぎて鼻血が出そうになった。慌てて鼻の付け根を抑える。(そうか!別に全ての魔法でお母様を超える必要はないんだわ。私に必要なのは〈その他の魔法 〉なのだもの。お母様にバレないように〈その他の魔法 〉を極めれば良い!できる。できるわ!)ユリアは無意識だったが、ニタリと笑ったわるーい顔はシルヴィアそっくりだった。

ーーーーーーーーーーー
ユリアが手に取ったのは、現国王の祖母にあたる、賢妃と名高かった故キャサリンの幼い頃の日記だった。(シルヴィアに取っては大伯母にあたる)ユリアが興奮しながら見ていたのは、魔封じの腕輪も含めた罰を受けた時にどう対応して切り抜けたかといった、今のユリアにとっては指導書みたいなものだった。
ユリアよりも、とんでもないことを色々やらかしていたキャサリンだったが、幸い前々国王と恋に落ちて賢妃と呼ばれることになった。ユーフミナ公爵家の血を受けた者は恋に盲目一途になることが多かった。
ーーーーーーーーーー
閑話休題それは置いといて

ユリアは、書庫の惨状をシルヴィアに知られ、拳でコメカミグリグリの罰をまた受けて涙目になった。(書庫の本棚はシルヴィアの魔法で元の状態に直ぐに戻った)

自室でこっそり日記を取り出す。
ふむふむ、ふんふんふーん!
興奮してきたユリアは、知らずに独り言を言っていたのに気づかなかった。
呼ばれたかと勘違いしたメイドが、声をかけた上で部屋を訪れたが全く気づくこともなく・・・メイドはそっと扉を閉めた。

それから2ヶ月後、ユリアは限界突破の奇跡を起こすことに成功したのだった。
公爵家では叱られるので魔法は使わないが、外出先ではバレないように使うことができる!

お茶会でもパーティーでもドンと来いよ!

ユリアは得意気に小さい胸を張った。
誰にも打ち明けられない秘密だったので、誰も褒めてはくれなかったが。

こうして居るのか居ないなのかわからない気配消し令嬢が誕生したのだった。

あら?あの方居たかしら?参加されていた?あの方、影が薄いわよね。顔が思い出せないわ。

そんな周りの評価を聞く度に密かにユリアは喜んだ。
「ユーフミナ公爵家の地味で影が薄い令嬢。」ユリアはいつしかそう呼ばれるようになっていた。
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