禿げブサメン、その正体が超優良物件だったという話

革酎

文字の大きさ
12 / 65

12.バレてしまった高スペック

しおりを挟む
 白富士インテリジェンス株式会社では、部署ごとにレクリエーション支援金が払い出されている。
 源蔵が所属する総合開発部も例外ではなく、年に二回程、部課員総出でのバーベキューやパーティーなどが開催されている。
 そして若干の暑さを感じさせる陽射しの強い或る土曜日、総合開発部は企画課、営業課、第一及び第二のシステム課の所属員を対象としたバーベキュー大会を実施した。
 本来なら源蔵は欠席する腹積もりだったが、操が土日限定のランチは任せて貰って大丈夫だと笑顔を見せ、冴愛もいつも以上に頑張るから心置きなく行って来いと腕まくりして、源蔵の背中を押してくれた。

(まぁ、そこまでいうてくれるんなら……)

 多少申し訳無いとは思いつつ、源蔵はふたりの好意に甘えて会社の行事に顔を出すことにした。
 とはいえ、矢張りここでも職業病を発揮してしまった源蔵。彼は食べるよりも、食材を焼く方にどうしても意識が向いてしまった。
 他の課員らはビールや好きなドリンク片手に、源蔵が焼き上げる美味そうな肉や野菜などを、好みのタイミングで皿に乗せて去ってゆく。
 源蔵も時折つまみ食いして腹の足しにしながら、ひたすら焼くことに専念していた。
 そうやってひたすら調理に徹していると、美智瑠が幾らか頬を赤く染めて機嫌良さそうに歩を寄せてきた。どうやら少し酔っているらしい。

「楠灘さん、もうそろそろ、イイんじゃないですかぁ? ちょっと働き過ぎですよぉ?」
「いやー、土日に料理してないってのが、どうにも調子が狂ってしまって」

 なので今日も、食うより焼いている方が気が楽だ、と自嘲気味に笑った源蔵。

「じゃあアタシもお手伝いしますから、少しはゆっくりして下さいよ」
「いやいや、流石に酔うてるひとに全部は任せられませんて。何ぼ何でも、危な過ぎます」

 トングを手に取る美智瑠に苦笑を返しながら、源蔵は全く手を休めることなく食材を焼き続けた。
 すると今度は當間課長が近づいてきて、ずっと焼き作業に携わっている源蔵に呆れた顔を向けてきた。

「何だ楠灘君……まだ焼き担当続けてたのか。まるで君ひとりが働いてばっかりで、これじゃあレクリエーションになってないじゃないか」

 ひとりの課員にだけ仕事をさせるのはコンプライアンス上、大いに問題があるなどといい出した當間課長は、それまでほとんど飲み食いするばかりで何の仕事もしていない他の課員を呼びつけた。

「君達も少しは楠灘君を手伝いなさい。いつまで彼ひとりに、おんぶに抱っこのつもりで居るんだ?」

 流石に當間課長の言葉となると課員らも逆らえないらしく、彼らは御免ごめんと謝りながら焼き担当を替わってくれた。
 源蔵は少し申し訳無い気分でトングを彼らに譲りつつ、自身はノンアルコールビールを手に取って日陰へと足を運んだ。

「あれぇ? 楠灘さん飲まないんですか?」
「僕は運転要員なんで、今日はやめときます」

 ベンチに座って軽く喉を潤しつつ、源蔵は美智瑠に笑顔を返した。
 と、そこへ早菜と晶も近づいてきた。ふたりは、焼き立ての肉や野菜を山盛りにした皿を携えている

「楠灘さん、お疲れ様でーす。さぁ食べましょ食べましょ」

 早菜が差し出す皿と箸を受け取った源蔵。その盛りつけ方に、ふと視線が行った。

「これ、うちで出してるプレート意識してます?」
「あ、分かりました? 楠灘さんから見たら全然でしょうけど、本日のバーベキューセットでございまーす」

 幾分酔っているのか、早菜がテンション高めでけらけら笑った。
 その傍らで晶が、妙に周囲を警戒する様な視線を左右に走らせている。一体何事かと源蔵が訊くと、

「他の女子を牽制してるんです」

 などと意味不明なことをいい出した。
 そしてそんな晶に符合するかの如く、美智瑠が源蔵の左横に腰を据え、早菜は早菜でアウトドアチェアを手近に引き寄せて源蔵のほぼ正面に陣取った。
 晶は、源蔵の右隣。これで左右と正面を顔見知りの女性社員三人で占めた格好だった。

「……何か、エラい圧を感じるんですが」
「あー、楠灘さんは全然気にしないで良いですよ。ほらほら、どんどん食べましょ」

 美智瑠が箸先に摘まんだ肉を源蔵の口元へと運ぶ。流石に源蔵は居心地の悪さを感じたが、無下に拒絶するのも悪いので、一応ひと口は美智瑠の接待を受けることにした。

「けど何でまた、こないなこと……」
「楠灘さん、最近会社でもマッチングアプリ弄ってるでしょ。皆、その話題で持ち切りですよ」

 晶がこれまたおかしな話を持ち出してきた。それとこの変な防衛線に何の関係があるのだろうか。
 源蔵が尚も不思議そうな面持ちで周囲を固める三人に視線を流すと、美智瑠は幾分驚いた様子でその美貌を間近に寄せてきた。

「あれ、ホントに御存知ないんですか? 今、社内の一部の女子は楠灘さんが本格的にカノジョ探し始めたって噂で結構ザワついてるんですよ?」

 美智瑠の説明を受けても、矢張りよく分からない。自分がマッチングアプリを使っているからといって、どうして女性社員らが気にする必要があるのか。

「実は結構、楠灘さん人気なんですよ? それ、御存知無かったです?」
「いや、全然……っていうか、それ何の冗談ですか?」

 晶の説明を受けても、源蔵は全く実感が湧かなかった。実際これまでも、ここに居る三人以外から声をかけられたことなど、ほとんど皆無に等しいのだが。

「やっぱり、リロードのオーナーってことが段々知られる様になってきて、セレブな凄腕料理人で、しかも会社の仕事もエース級だってところが、ジワってるんだと思いますよ?」

 早菜の言葉で、何となく理解出来た。
 要は女性からのモーションを何から何まで疑わず、素直に受け入れろ、ということをいいたいのだろうか。

「楠灘さんが高スペックだってこと、もうバレちゃってますからね」
「えー……そんなこと、急にいわれましてもねぇ」

 源蔵は本気で困ってしまった。
 今まで、不細工であることだけが理由で散々、女性から侮蔑の目で見られてきた。それがここへきて、いきなり正反対の反応である。
 どこまで信じて良いのか、正直よく分からない。

「でもねー……今まで何の接点も無かった赤の他人が、いきなり楠灘さんにちょっかい出すのも、あたし達としちゃあ面白くないって訳で。だからこうして牽制しまくってるんです」

 あっけらかんと笑う晶。
 逆に源蔵は、気味が悪かった。
 普通の男ならモテ期到来かと喜ぶところなのだろうが、今までの女性からの扱いが扱いだっただけに、俄かには信じられなかった。

(変なことにならんかったらエエけど……)

 自分はただの禿げブサメン、しかも漫画やアニメ、ラノベなどを愛するオタクでもある。
 そんな奴の為に、社内の女性らが競うなんてあり得ない話だ。

(あかん……やっぱマッチングアプリで、趣味合いそうなひとを探す方が気ぃ楽や……)

 源蔵の危機感を知ってか知らずか、美智瑠、早菜、晶の三人は尚もにこにこと源蔵の為に甲斐甲斐しく色々やってくれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...