禿げブサメン、その正体が超優良物件だったという話

革酎

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36.バレてしまったジェラシー

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 最初に操は、考えが纏まるまで少し時間がかかってしまったことを詫びた。
 が、源蔵としても特にタイムリミットは設けていなかった為、その点については気にするなと応じた。

「では、結論から申し上げます……わたしは、健一とよりを戻す気はありません。健一は飽くまでも元カレであって、今は無関係の他人です」

 そこまでひと息にいい切ってから、操はふぅと小さな吐息を漏らした。
 余程に緊張していたのか、彼女は胸元をそっと抑えながら僅かにはにかんだ笑みを浮かべた。

「それなら良かったです。僕が見た感じ、神崎さんは悩んではるんかなと思うてましたんで」
「あ……そんな風に見えちゃってました?」

 操は苦笑を浮かべながら頭を掻いた。
 どうやら彼女自身、その様に見られたことに対して思い当たる節があった様だ。

「その、実は……楠灘さんにいわれた、ダメンズメーカーの気質があるってことが凄く頭の中で引っかかってしまってて、それをずぅっと考えていたんです」

 曰く、彼女はこれまでに三人の男性と付き合って来た。そのうちのひとりが健一だったらしいが、更に別のふたりについても、どうやらヒモか、或いはそれに近しい状況に陥った過去があるのだという。

「何っていうんでしょうか……そのぅ、わたしが支えてあげなきゃ、わたしが守ってあげなきゃっていう気持ちがいつもあって、それで気付いたら色々お世話し過ぎてたり、お小遣いとかも一杯あげちゃってたり……」
「男ってのは、甘やかされたら何ぼでも調子に乗るケースが少なくないですからねぇ」

 源蔵は乾いた笑いを漏らした。
 恐らく自分も、仮にカノジョが居たとして、徹底的に甘やかされたりでもしたら、相当図に乗るタイプだろうと考えていた。
 しかし操の場合は、更に男運が悪かったというのもあるだろう。完璧な程にヒモと化すオトコに三人も引っかかってしまうなど、相当に巡り合わせが悪いとしか思えない。
 こればかりは縁というしかないのだろうが、それにしても彼女の男運の無さは、傍から見ていても気の毒な程であった。

「でも色々とお気づきになられて、それで僕の期待する結論に至ってくれたのは良かったですよ。あれでもし、やっぱり岸田さん取りますなんていわれたら……」
「もしそうなってたら……楠灘さん、どうなさってました?」

 操がやや食い気味に問いを重ねてきた。
 何故そこで操が源蔵の顔を注視してくるのか、その意図がよく分からなかったものの、しかし源蔵は更に言葉を繋いだ。

「まぁリロード経営っちゅうビジネス面でも痛かったですけど、藤浪さんも気の毒やなぁって思うところでしたわ」
「え……どうして、そこで隆輔が出てくるんですか?」

 怪訝な顔つきで訊き返してきた操だが、しかしすぐに何か思い当たることがあったのか、彼女は慌てて両手を左右に振った。

「あ、その、隆輔とは本当に、何も無いんです! いえ、あったことはあったんですけど、もう、結論は出ちゃってるんで……」

 どうやら隆輔は、結婚を前提とした交際を操に申し入れてきたらしいが、彼女はそれを断ったのだという。
 今度は、源蔵が声を裏返して立ち上がる番だった。

「え……何でそんな勿体無いことしてしもたんですか? 神崎さんと藤浪さん、お似合いやないですか。彼エリートやし将来性あるしイケメンやし、どこにそんな断らなあかん理由があるんです?」

 ところがここで操は、腕を組んで不機嫌そうな色を浮かべた。
 対する源蔵は、未だ驚きから立ち直れずに愕然としたままだった。

「……楠灘さん、わたしと隆輔がくっついた方が、良かったんですか?」
「いや、良い悪いは別にして、普通あんな良さげなひとから迫られたらOKするもんでしょうに」

 と、ここで操は源蔵の顔をじぃっと覗き込んできた。
 その真っ直ぐな瞳に幾分気圧される格好で、源蔵は僅かに上体を引いた。

「じゃあ、もし……もしもですよ? もしわたしが隆輔と付き合うってなったら、楠灘さんはどう思ったんですか?」
「どない思うかいわれたら、そらぁ面白うはないですよ。折角一緒に頑張ってきたのに、何ぼ元カレの恋のライバルやからいうて、後から出てきてトンビが油揚げ掻っ攫う様に持ってかれたら、んなもんイラっと来るに決まってますがな」

 その時、予想外のことが起きた。
 それまでPC作業用チェアに腰かけていた操がいきなり立ち上がり、真正面から源蔵に抱き着いてきたのである。そうしてそのまま、源蔵はベッドに押し倒される格好となってしまった。
 流石の源蔵もこの奇襲には全く反応が取れず、全体重を浴びせかけてきた操には為すすべも無かった。

「……神崎さん、いきなりどないしたんですか」

 源蔵の首に両腕を廻したまま強く抱き締めてくる操に、源蔵は困惑した。
 そんな源蔵に対し、操は、

「すみません……あの……顔、見られたくないので……もう少し、このままでいて、良いですか?」

 と耳元で囁きかけてきた。
 どういう訳か、若干声が震えている様にも思えた。
 しかし源蔵は操に抱き着かれた格好のまま、渋い表情で僅かにかぶりを振った。

「……いや、どうもそんな悠長なこと、いうてられへんと思いますよ」

 その直後、家屋全体が鈍い震動に覆われ始めた。
 と同時に、シーリングライトがいきなり明滅し始めた。台風上陸による停電の前兆だった。
 源蔵は強引に上体を起こし、操の柔らかな体躯をぐいっと押し退けた。

「神崎さん、懐中電灯、それからモバイルバッテリー!」
「あ……は、はいっ!」

 この後、ふたりは慌てて室内を駆け廻り、停電に備えて諸々の準備に取り掛かった。
 それから数分後には、屋内は完全な闇に包まれた。

「楠灘さん、懐中電灯ありました!」

 操が光源を手に入れた一方で、源蔵はスマートフォンのラジオアプリを起動して台風情報の受信チャネルにチューニングを合わせる。
 矢張り今回の台風は中々手強い相手らしい。

「んもぅ……折角イイ雰囲気だったのに……」
「何かいいました?」

 ぶつぶつとぼやく操の隣で、源蔵はひたすらラジオアプリから流れてくる台風情報に耳を傾けていた。
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