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35.バレてしまった烏の行水
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夜になって、急に風雨が強まってきた。
源蔵はリロードの防災対策を何とか終えることが出来たが、店の外は既に大粒の雨が激しく降り注いでおり、凄まじい暴風音が店内にまで轟々と聞こえてくる程の荒れ模様だ。
闇に包まれた店舗内で、源蔵はスマートフォンに台風関連の情報を次々と映し出してゆく。
ピークはこれから三時間後だということだが、もう現時点で外を歩くのは危険な状態となっていた。
かといって、このまま居座る訳にはいかない。
如何にオーナーとはいえ、未婚の美女とひとつ屋根の下で一夜を明かすというのは、色々と問題が多過ぎると考えていた。
美智瑠や晶にいわせれば、源蔵は何かと重過ぎるという話だったが、これが源蔵の人生観なのだから今更変えることなど出来ない。
(レインコートと長靴だけ借りて、何とか帰るか)
源蔵は店舗奥の倉庫を覗き、掃除道具やら諸々の機材等を押し退けながら、暗がりの中でごそごそと探し始めた。
と、そこへ上下ともグレーのスウェットに着替えた操が階段を降りてきた。
彼女はポニーテールに纏めたラベンダーベージュのロングレイヤーカットを揺らしつつ、一体何事かといった様子で倉庫内に顔を出してきた。
「何をお探しですか?」
「レインコートと長靴って、ここに仕舞ってませんでしたっけ?」
この時、操は目的の物が見つからず、すっかり困り果てた顔を返した源蔵に、驚きの声を漏らした。
「え……まさか、今からお帰りになるつもりだったんですか?」
「いや、まさかも何も、最初っからそのつもりでしたけど」
すると何を思ったのか、操は物凄い勢いで源蔵の背中に飛びついてきた。
「もう! 駄目ですってば! こんな荒れてる中で帰るのは危ないです! 今日は、ここに泊まっていって下さい!」
予想外に強い力で倉庫外へと引きずり出された源蔵は、スマートフォンのバックライトだけが光源となっている薄闇の中で、渋い表情を返した。
「神崎さんもエラい簡単にいうてくれはりますね……」
「当たり前じゃないですか! そんな危ないこと、させられる訳ないでしょ!」
操の燃える様な怒りに、源蔵は仕方なく一旦諦める姿勢を見せた。
そんな源蔵の手を引いて、操は二階への階段へと歩を進めてゆく。
「いや、僕はここでエエんですけど……」
「駄目です。何かあった時、離れ離れだとお互いすぐに動けないじゃないですか。こーゆー時は、一緒に居るのがベストなんです」
結局源蔵は操に引き摺られる格好で、二階の住居スペースへと足を運んだ。のみならず、彼は普段操が生活している一室へと連れ込まれてしまった。
流石にこれは拙かろうと源蔵が退出しようとすると、操は更に強引に源蔵の腕を引いてベッドの端に座らせてしまった。
「もう、ホントに気にしないで下さい。わたしみたいなアラサーのオバさんにどんな噂が立とうが、全然構いませんから。それよりも楠灘さんに何かあった時の方がよっぽど大変です。今日はもう、ここで大人しくしておいて下さい。イイですね?」
源蔵は何ともいえぬ表情で、そうですかと頭を掻いた。
こんなにも強引な操の姿は初めてだった為、つい気圧されてしまった。
しばらくふたりは、台風情報を延々と流し続ける国営放送にテレビのチャンネルを合わせたまま、何とは無しに時間を潰し続けた。
源蔵はスマートフォンを弄って諸々の連絡先にメッセージを送り、操は操でノートPCを起動してオンラインゲームに興じている。
そうして小一時間程が経った頃、操が源蔵に入浴を勧めてきた。
「今の内に入っちゃいましょう。わたしが最後に後片付けするので、先に入って頂いて良いですか?」
「あー、ほな遠慮無く……」
源蔵は神妙な面持ちで二階の廊下突き当りにあるバスルームへと足を向けた。
(何や、落ち着かへんなぁ)
非血縁者の成人女性とふたりきりで一夜を過ごすなどは生まれて初めての経験だったから、勝手が全く分からない。
逆に操は過去に恋人と同棲していたこともあるというから、それなりに時間の過ごし方というものを心得ているのかも知れない。
(こーゆー時に経験の差が出てまうなぁ)
などと下らないことを考えつつ、源蔵はほとんど烏の行水に近い速度でさっさと入浴を済ませた。
脱衣場に用意されていたメンズのスウェット上下は、過去に源蔵が寝泊まり用にと準備していたものだったのだが、まさかこんな形で使用することになろうとは思ってもみなかった。
ともあれ、いわれた通りに入浴は澄ませた。所要時間は10分とかかっていない。
その余りに早い風呂上がりに、操が本当に入浴したのかと疑う有様だった。
「いや、ちゃんと入りましたって」
「そうなんですね……男のひとって、お風呂早いひとは本当に早いって聞いてはいましたけど……」
などとぶつぶついいながら、今度は入れ替わりに操がバスルームへと去っていった。
逆に操は、結構ゆったりと入浴を楽しんでいる様子だった。
彼女がバスルームから出てきた頃には、少なくとも30分以上が経過していた。
「これでも結構、急いだ方ですよ?」
部屋に戻ってきてドライヤーを当てている操は、随分長風呂でしたねと驚いた源蔵に対し、さらにその斜め上を行く応えを返してきた。
(風呂ん中で、何をそんなにやることがあるんやろ)
源蔵はオンラインゲームで遊びながら同時にドライヤーを当てるという器用な真似をしている操に、まじまじと不思議がる視線を投げかけた。
美容面できっと色々あるのだろうとは思うのだが、いまいちよく分からない。
そんなことを考えていると、ドライヤーを当て終えた操がノートPCの蓋を閉じ、改めて源蔵に向かって座り直した。
その美貌には、真剣な表情が張り付いている。
「楠灘さん……健一のことについて、お答え致します」
操の真っ直ぐな瞳に、源蔵も背筋を伸ばして居住まいを正した。
源蔵はリロードの防災対策を何とか終えることが出来たが、店の外は既に大粒の雨が激しく降り注いでおり、凄まじい暴風音が店内にまで轟々と聞こえてくる程の荒れ模様だ。
闇に包まれた店舗内で、源蔵はスマートフォンに台風関連の情報を次々と映し出してゆく。
ピークはこれから三時間後だということだが、もう現時点で外を歩くのは危険な状態となっていた。
かといって、このまま居座る訳にはいかない。
如何にオーナーとはいえ、未婚の美女とひとつ屋根の下で一夜を明かすというのは、色々と問題が多過ぎると考えていた。
美智瑠や晶にいわせれば、源蔵は何かと重過ぎるという話だったが、これが源蔵の人生観なのだから今更変えることなど出来ない。
(レインコートと長靴だけ借りて、何とか帰るか)
源蔵は店舗奥の倉庫を覗き、掃除道具やら諸々の機材等を押し退けながら、暗がりの中でごそごそと探し始めた。
と、そこへ上下ともグレーのスウェットに着替えた操が階段を降りてきた。
彼女はポニーテールに纏めたラベンダーベージュのロングレイヤーカットを揺らしつつ、一体何事かといった様子で倉庫内に顔を出してきた。
「何をお探しですか?」
「レインコートと長靴って、ここに仕舞ってませんでしたっけ?」
この時、操は目的の物が見つからず、すっかり困り果てた顔を返した源蔵に、驚きの声を漏らした。
「え……まさか、今からお帰りになるつもりだったんですか?」
「いや、まさかも何も、最初っからそのつもりでしたけど」
すると何を思ったのか、操は物凄い勢いで源蔵の背中に飛びついてきた。
「もう! 駄目ですってば! こんな荒れてる中で帰るのは危ないです! 今日は、ここに泊まっていって下さい!」
予想外に強い力で倉庫外へと引きずり出された源蔵は、スマートフォンのバックライトだけが光源となっている薄闇の中で、渋い表情を返した。
「神崎さんもエラい簡単にいうてくれはりますね……」
「当たり前じゃないですか! そんな危ないこと、させられる訳ないでしょ!」
操の燃える様な怒りに、源蔵は仕方なく一旦諦める姿勢を見せた。
そんな源蔵の手を引いて、操は二階への階段へと歩を進めてゆく。
「いや、僕はここでエエんですけど……」
「駄目です。何かあった時、離れ離れだとお互いすぐに動けないじゃないですか。こーゆー時は、一緒に居るのがベストなんです」
結局源蔵は操に引き摺られる格好で、二階の住居スペースへと足を運んだ。のみならず、彼は普段操が生活している一室へと連れ込まれてしまった。
流石にこれは拙かろうと源蔵が退出しようとすると、操は更に強引に源蔵の腕を引いてベッドの端に座らせてしまった。
「もう、ホントに気にしないで下さい。わたしみたいなアラサーのオバさんにどんな噂が立とうが、全然構いませんから。それよりも楠灘さんに何かあった時の方がよっぽど大変です。今日はもう、ここで大人しくしておいて下さい。イイですね?」
源蔵は何ともいえぬ表情で、そうですかと頭を掻いた。
こんなにも強引な操の姿は初めてだった為、つい気圧されてしまった。
しばらくふたりは、台風情報を延々と流し続ける国営放送にテレビのチャンネルを合わせたまま、何とは無しに時間を潰し続けた。
源蔵はスマートフォンを弄って諸々の連絡先にメッセージを送り、操は操でノートPCを起動してオンラインゲームに興じている。
そうして小一時間程が経った頃、操が源蔵に入浴を勧めてきた。
「今の内に入っちゃいましょう。わたしが最後に後片付けするので、先に入って頂いて良いですか?」
「あー、ほな遠慮無く……」
源蔵は神妙な面持ちで二階の廊下突き当りにあるバスルームへと足を向けた。
(何や、落ち着かへんなぁ)
非血縁者の成人女性とふたりきりで一夜を過ごすなどは生まれて初めての経験だったから、勝手が全く分からない。
逆に操は過去に恋人と同棲していたこともあるというから、それなりに時間の過ごし方というものを心得ているのかも知れない。
(こーゆー時に経験の差が出てまうなぁ)
などと下らないことを考えつつ、源蔵はほとんど烏の行水に近い速度でさっさと入浴を済ませた。
脱衣場に用意されていたメンズのスウェット上下は、過去に源蔵が寝泊まり用にと準備していたものだったのだが、まさかこんな形で使用することになろうとは思ってもみなかった。
ともあれ、いわれた通りに入浴は澄ませた。所要時間は10分とかかっていない。
その余りに早い風呂上がりに、操が本当に入浴したのかと疑う有様だった。
「いや、ちゃんと入りましたって」
「そうなんですね……男のひとって、お風呂早いひとは本当に早いって聞いてはいましたけど……」
などとぶつぶついいながら、今度は入れ替わりに操がバスルームへと去っていった。
逆に操は、結構ゆったりと入浴を楽しんでいる様子だった。
彼女がバスルームから出てきた頃には、少なくとも30分以上が経過していた。
「これでも結構、急いだ方ですよ?」
部屋に戻ってきてドライヤーを当てている操は、随分長風呂でしたねと驚いた源蔵に対し、さらにその斜め上を行く応えを返してきた。
(風呂ん中で、何をそんなにやることがあるんやろ)
源蔵はオンラインゲームで遊びながら同時にドライヤーを当てるという器用な真似をしている操に、まじまじと不思議がる視線を投げかけた。
美容面できっと色々あるのだろうとは思うのだが、いまいちよく分からない。
そんなことを考えていると、ドライヤーを当て終えた操がノートPCの蓋を閉じ、改めて源蔵に向かって座り直した。
その美貌には、真剣な表情が張り付いている。
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