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39.バレてしまったタワマン住所
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翌日、源蔵は玲央に呼ばれて室長室へと足を運んだ。
「トータルメディア開発部の園崎さんの件について、少し耳に挟んだのですが」
源蔵にソファーを勧めるなり、玲央は早速本題を切り出してきた。
それにしても、何という情報の速さであろう。源蔵は内心で、玲央の地獄耳に苦笑を禁じ得なかった。
「パパ活をなさっていたというのは、事実でしょうか?」
「本人の申告通りなら、事実でしょうね」
小さく肩を竦める源蔵に、玲央は腕を組んだまま何ともいえぬ微妙な表情で頷き返してきた。
彼は決して源蔵を責めている訳ではなさそうだったが、しかし多少不安を抱えているのも事実だろう。
「園崎さんを支援することは、楠灘さん的には問題無いとお考えですか?」
「はい。彼女は今、現在進行形でパパ活をしている訳ではありませんので。勿論世間体的には宜しくないのでしょうが、園崎さんは飽くまでも社内で働く裏方です。顧客と直接相対する営業や、統括管理といった部署のひとではありませんから、全く問題無いと考えています」
源蔵の説明に、玲央も確かにその通りだと二度三度、小さく頷いた。
実際、法的にもグレーな部分だ。
これが明らかに違法と呼べる行為ならまだしも、犯罪と呼べる様な部類には至っていない以上、晶を無用に傷つけるのは企業のコンプライアンスとしても大いに問題がある。
加えて源蔵は、今回の措置は白藤家に対する牽制にもなると付け加えた。
「園崎さんの入社を認めたのは他ならぬ人事部です。白藤家の息がかかったこの部署が、園崎さんの過去をしっかり調べていなかったことにも問題があります。その人事部の失態を私が今回助けてやることで、白藤家にもひとつ大きな貸しを作ることになる訳です」
「あぁ、成程……そこまでは私も頭が廻っていませんでした」
玲央は流石だと、苦笑を滲ませた。
源蔵としては決して知らぬ仲ではない晶を救うと同時に、白藤家にもひとつ大きな楔を打ち込む作用がある今回の措置を、非常に重要視していた。
更に源蔵は、今のトータルメディア開発部内に流れる、仕事や業績以外の部分でライバルを蹴落とそうとする空気にも噛みついた。
「正直、彼らのやり方にも大いに不満があります。エリート部署ならば業績や結果で勝負すべきところを、業務には無関係なプライベート部分を攻めるなど論外です。こんなことばかりを続けていたら、いずれ遠からず、エリート部署としての存在感が落ちていくことでしょう」
「それは私も同感です。あそこは兎に角個人同士が必死過ぎて、会社としてひとつの同じ方向に目線を合わせるという基本的なことが出来ていない」
玲央も渋い表情で源蔵に同意した。
その問題だらけの部署を、同じ白藤の血筋である佑磨が率いているという点についても、彼は大いに懸念を示していた。
トータルメディア開発部が勝手に沈むのは良いとして、その余波が総合開発部にまで響いてくるのは御免蒙りたいというのがふたりの共通した認識だった。
「まぁいずれにせよ、他部署のひとですから、私が手助けすることについては何の問題も軋轢も生じないと考えております」
「良いでしょう。もし私に出来ることがあれば、その時はまた仰って下さい」
玲央の穏やかな笑みに、源蔵は深々と頭を下げた。
◆ ◇ ◆
その日の定時後、源蔵は駅近の大型書店で晶、美智瑠の両名と合流した。
晶は今日から業務に復帰しており、晶と揃って通勤用のフォーマルな衣装に身を固めていた。
今日は源蔵が選定した資格試験対策の参考書や資料を購入するのが目的だったが、美智瑠はその後に軽い酒盛りを期待している様子でもあった。
「最初は簡単なところから攻めていきますんで、そう心配せんでも大丈夫ですよ」
「はい……本当に何から何まで、ありがとうございます」
晶は神妙な面持ちで小さく頭を下げた。
いつもの彼女ならもっと快活に、そして元気一杯の笑顔を見せていただろうが、矢張り状況が状況だけに、浮かれてはならぬという戒めの念が心の中に湧いているのだろう。
「あ、それで楠灘さん。アタシも晶と一緒に、試験受けよっかなぁって思ってるんですけど」
「おや、雪澤さんもですか。そらまた、どーゆー風の吹き回しで?」
源蔵が不思議そうな面持ちを返すと、美智瑠は先日源蔵が見せた資格手当一覧表の金額に目を奪われた、というのである。
「いやー、びっくりしました。あんなに貰えるんですね」
「あー、うちの会社、資格保有者に対する扱いは他所と比べても結構、手厚いですからね」
美智瑠に答えながら、源蔵は情報処理資格試験コーナーへどんどん歩を進めていった。
目的の書棚に近づくにつれて、雰囲気がしかつめらしくなってくる。
そんなところにスキンヘッドの巨漢と若干ギャル系の要素が入っている恋多き美女、更には端正な顔立ちのクールビューティーが揃って足を踏み入れていったものだから、近くに居た来店客らが微妙にぎょっとした表情を浮かべたのも、無理からぬ話であろう。
「あはは……なぁんか、見るからに全然場違いーってカンジ」
苦笑を浮かべながら頭を掻いた美智瑠。どうやら、自覚はあるらしい。
ここで晶と美智瑠は源蔵が推薦する何冊かの参考書や問題集を手に取って、レジへと向かった。
「それで……今後、平日はどこで勉強会を開くんですか?」
購入を終えてレジから戻ってきた晶が問いかけてきた。これに対し源蔵は、平日はリロードの二階の空いている住居スペースを使うと応じた。
「それから休日は、お手数ですけど僕ん家まで御足労願います」
「え……もしかして、噂のメゾネットタワマンですか?」
何故か美智瑠が、物凄く嬉しそうな笑みを浮かべた。どうやら、一度お邪魔したかったということらしい。
「わー、すっごく楽しみ~……モノホンのセレブのおうちなんて、アタシ初めてかもー」
「いや雪澤さん……遊びに来て貰うんとちゃいますからね」
流石に源蔵は渋い表情。
対する晶は、この時も真面目で神妙な面持ちだった。彼女は自身の進退がかかっている為、すこぶる真剣だった。
ここで源蔵は、ふたりのラインに自身の自宅住所を送った。
「ほな早速、今週末から始めますよ」
「いやっほぅ……楠灘さんちデビューだわぁ」
尚も浮かれている美智瑠。
源蔵はやれやれと低い吐息を漏らしてかぶりを振った。
「トータルメディア開発部の園崎さんの件について、少し耳に挟んだのですが」
源蔵にソファーを勧めるなり、玲央は早速本題を切り出してきた。
それにしても、何という情報の速さであろう。源蔵は内心で、玲央の地獄耳に苦笑を禁じ得なかった。
「パパ活をなさっていたというのは、事実でしょうか?」
「本人の申告通りなら、事実でしょうね」
小さく肩を竦める源蔵に、玲央は腕を組んだまま何ともいえぬ微妙な表情で頷き返してきた。
彼は決して源蔵を責めている訳ではなさそうだったが、しかし多少不安を抱えているのも事実だろう。
「園崎さんを支援することは、楠灘さん的には問題無いとお考えですか?」
「はい。彼女は今、現在進行形でパパ活をしている訳ではありませんので。勿論世間体的には宜しくないのでしょうが、園崎さんは飽くまでも社内で働く裏方です。顧客と直接相対する営業や、統括管理といった部署のひとではありませんから、全く問題無いと考えています」
源蔵の説明に、玲央も確かにその通りだと二度三度、小さく頷いた。
実際、法的にもグレーな部分だ。
これが明らかに違法と呼べる行為ならまだしも、犯罪と呼べる様な部類には至っていない以上、晶を無用に傷つけるのは企業のコンプライアンスとしても大いに問題がある。
加えて源蔵は、今回の措置は白藤家に対する牽制にもなると付け加えた。
「園崎さんの入社を認めたのは他ならぬ人事部です。白藤家の息がかかったこの部署が、園崎さんの過去をしっかり調べていなかったことにも問題があります。その人事部の失態を私が今回助けてやることで、白藤家にもひとつ大きな貸しを作ることになる訳です」
「あぁ、成程……そこまでは私も頭が廻っていませんでした」
玲央は流石だと、苦笑を滲ませた。
源蔵としては決して知らぬ仲ではない晶を救うと同時に、白藤家にもひとつ大きな楔を打ち込む作用がある今回の措置を、非常に重要視していた。
更に源蔵は、今のトータルメディア開発部内に流れる、仕事や業績以外の部分でライバルを蹴落とそうとする空気にも噛みついた。
「正直、彼らのやり方にも大いに不満があります。エリート部署ならば業績や結果で勝負すべきところを、業務には無関係なプライベート部分を攻めるなど論外です。こんなことばかりを続けていたら、いずれ遠からず、エリート部署としての存在感が落ちていくことでしょう」
「それは私も同感です。あそこは兎に角個人同士が必死過ぎて、会社としてひとつの同じ方向に目線を合わせるという基本的なことが出来ていない」
玲央も渋い表情で源蔵に同意した。
その問題だらけの部署を、同じ白藤の血筋である佑磨が率いているという点についても、彼は大いに懸念を示していた。
トータルメディア開発部が勝手に沈むのは良いとして、その余波が総合開発部にまで響いてくるのは御免蒙りたいというのがふたりの共通した認識だった。
「まぁいずれにせよ、他部署のひとですから、私が手助けすることについては何の問題も軋轢も生じないと考えております」
「良いでしょう。もし私に出来ることがあれば、その時はまた仰って下さい」
玲央の穏やかな笑みに、源蔵は深々と頭を下げた。
◆ ◇ ◆
その日の定時後、源蔵は駅近の大型書店で晶、美智瑠の両名と合流した。
晶は今日から業務に復帰しており、晶と揃って通勤用のフォーマルな衣装に身を固めていた。
今日は源蔵が選定した資格試験対策の参考書や資料を購入するのが目的だったが、美智瑠はその後に軽い酒盛りを期待している様子でもあった。
「最初は簡単なところから攻めていきますんで、そう心配せんでも大丈夫ですよ」
「はい……本当に何から何まで、ありがとうございます」
晶は神妙な面持ちで小さく頭を下げた。
いつもの彼女ならもっと快活に、そして元気一杯の笑顔を見せていただろうが、矢張り状況が状況だけに、浮かれてはならぬという戒めの念が心の中に湧いているのだろう。
「あ、それで楠灘さん。アタシも晶と一緒に、試験受けよっかなぁって思ってるんですけど」
「おや、雪澤さんもですか。そらまた、どーゆー風の吹き回しで?」
源蔵が不思議そうな面持ちを返すと、美智瑠は先日源蔵が見せた資格手当一覧表の金額に目を奪われた、というのである。
「いやー、びっくりしました。あんなに貰えるんですね」
「あー、うちの会社、資格保有者に対する扱いは他所と比べても結構、手厚いですからね」
美智瑠に答えながら、源蔵は情報処理資格試験コーナーへどんどん歩を進めていった。
目的の書棚に近づくにつれて、雰囲気がしかつめらしくなってくる。
そんなところにスキンヘッドの巨漢と若干ギャル系の要素が入っている恋多き美女、更には端正な顔立ちのクールビューティーが揃って足を踏み入れていったものだから、近くに居た来店客らが微妙にぎょっとした表情を浮かべたのも、無理からぬ話であろう。
「あはは……なぁんか、見るからに全然場違いーってカンジ」
苦笑を浮かべながら頭を掻いた美智瑠。どうやら、自覚はあるらしい。
ここで晶と美智瑠は源蔵が推薦する何冊かの参考書や問題集を手に取って、レジへと向かった。
「それで……今後、平日はどこで勉強会を開くんですか?」
購入を終えてレジから戻ってきた晶が問いかけてきた。これに対し源蔵は、平日はリロードの二階の空いている住居スペースを使うと応じた。
「それから休日は、お手数ですけど僕ん家まで御足労願います」
「え……もしかして、噂のメゾネットタワマンですか?」
何故か美智瑠が、物凄く嬉しそうな笑みを浮かべた。どうやら、一度お邪魔したかったということらしい。
「わー、すっごく楽しみ~……モノホンのセレブのおうちなんて、アタシ初めてかもー」
「いや雪澤さん……遊びに来て貰うんとちゃいますからね」
流石に源蔵は渋い表情。
対する晶は、この時も真面目で神妙な面持ちだった。彼女は自身の進退がかかっている為、すこぶる真剣だった。
ここで源蔵は、ふたりのラインに自身の自宅住所を送った。
「ほな早速、今週末から始めますよ」
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