禿げブサメン、その正体が超優良物件だったという話

革酎

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41.バレてしまった昔の知人

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 月曜の朝、源蔵の目の前で30名を超える課員らが、自席の前に立ってこちらを向いている。
 この日、源蔵率いる総合開発部統括管理課が発足した。
 その最初の業務に当たる前に源蔵はひと言だけ挨拶をと考え、室長兼部長の玲央を傍らに呼んで、真新しく改装されたばかりのフロアで朗々と声を響かせていた。

「この総合開発部に於いては、私は皆さんを最強の精鋭だと自負しています。ですが変に気負わず、皆さんがご自身のやりたいように、自らの思うところに従って全力を尽くして頂ければと考えています」

 そこで一旦言葉を区切り、傍らの玲央にちらりと視線を流す。

「仮に何かやらかしてしまったとしても、ご安心下さい。私がきっちり皆さんのケツ拭きます。私で駄目なら、こちらの白藤室長が何とかしてくれます」

 この時、課内のそこかしこで控えめな笑い声が漏れた。
 源蔵自身もスキンヘッドの眉無しという強面ながら、機嫌良くにこにこと笑っている。
 どうやら最初の課内コンタクトは、そこそこ上手くいったと見て良い。どの課員の面にも多少の緊張感は漂っているものの、過度に強張ったり、妙な失望感を匂わせている者は皆無だった。
 所謂リーダー像には幾つかのタイプがあるが、源蔵は己を調整型と自認している。
 日頃は部下達のやり易い環境を整えることに腐心し、自身が前に出ることは滅多にしない。これは第二システム課の係長時代からのやり方だ。
 勿論、他部署や顧客とのトップ同士のやり取りは源蔵自身の仕事となるが、それ以外は極力部下らに任せる方針だった。

(主役は飽くまでも皆さん。僕は後ろから、皆さんが動き易い様に支えてあげるのが仕事やからね)

 それが源蔵の基本スタンスだった。
 実際、統括管理課に呼び集めた課員は全員、源蔵が自ら面談を行い、彼らの中に確固たる自負と矜持が在ることをしっかりその目、その耳で確認している。
 彼らに任せておけば大丈夫だ――その信頼感を全面的に押し出し、自らはバックアップに徹する様にと心がけている。
 その方針でもしも何らかの問題が起これば、その都度修正をかけていけば良い。
 兎に角今は、彼らのやりたい様に任せようとだけ考えていた。
 とはいえ、課としての方針やビジョンを定めるのか課長たる源蔵の役目だった。

「中長期的な計画と予定は既に連絡した通りです。後は各個人、各チームにそれぞれ通達した個別の業務内容を確認の上、作業に当たって下さい。それでは、解散します。今後ともどうぞ、宜しくお願いします」

 源蔵が頭を下げると、課員らも一斉に頭を下げた。
 こうして挨拶の課会を終えて全員が着席し、それぞれがそれぞれの業務に着手し始めた。

「良い挨拶でした。期待していますよ」
「恐れ入ります」

 満足げな笑みを湛えて室長室へと引き返してゆく玲央に対しても、源蔵は一礼を送った。
 この後謙蔵は早速幾つかの会議や打ち合わせの予定がびっしり詰まっているのだが、それよりも早く詩穂が小走りに課長席へと近付いてきて、何枚もの稟議書を未決箱へと放り込んでゆく。

「坂村さん、仕事早いですねぇ」
「へへへ……実は朝一からもうやり始めてました」

 嬉しそうに笑う詩穂。その可愛らしい面には自信に満ちた笑みが浮かんでいる。
 矢張り彼女は、源蔵が睨んだ通りの逸材だ。総務部から引き抜いた己の人物眼には間違いが無かったと、内心で改めて強く頷いた。

「では課長、参りましょうか」

 と、そこへ営業課から引き抜いた康介が分厚い資料を小脇に抱えて近づいてきた。
 彼は源蔵の秘書という訳ではないが、その豊富な顧客知識と情報は、源蔵にとっては最大の武器であり、切り札となる。特に対顧客絡みの会合や打ち合わせの場では、絶対に康介を手放すことが出来ない。

「先行ってて貰えますか。僕もすぐに追いかけますんで」
「はい、では第二会議室で……」

 そういって康介は足早に通路へと飛び出してゆく。その背中には、どこか自信に溢れた気力が漲っている様にも思えた。
 以前、営業課で何度か顔を合わせた時には少しばかり控えめで、余り自信が無さそうに見えた康介だったが、今は違う。源蔵に認められたことで、彼の中で何かが変わったのか、或いはひと皮剥けたのか。
 いずれにしても、かつての様な営業課のお荷物的な空気感は一掃されている。
 何とも頼もしい限りであった。

(僕も負けてられへんな……)

 源蔵はノートPCと幾つかの資料を小脇に抱えて、腰を浮かせた。

◆ ◇ ◆

 統括管理課の課長としての初日をそろそろ終えようかという頃合い、源蔵は休憩エリアから自席に戻ろうとしたところで不意に呼び止められた。
 かつての上司である第二システム課の當間課長だった。

「ちょっと良いかな?」
「はい、大丈夫ですよ」

 足を止めた源蔵に、當間課長は折り入って相談があるのだがと、小声で何事かを囁きかけてきた。
 曰く、第二システム課にこの程キャリア入社で新たに加わった中途採用社員が居るのだが、彼の為に歓迎会を実施したいらしい。
 ところが、今まで第二システム課での飲み会の店や宴会場は大体源蔵が選定していた。
 普通、この手の宴会関連は二年目辺りの若手が担当するものなのだが、美味い店を数多く知っている源蔵がなし崩し的にずっと続けていた為、彼が急に抜けたことで宴会場の選定に苦慮しているのだという。

「年齢はお幾つぐらいですか?」
「実は君と同じ、32なんだよ。だから余り若者向け過ぎても良くないし、かといって変に年寄り臭い店もどうかなぁと頭を悩ませてて……」

 この時、當間課長はたまたま通路の向こう側を歩いているひとりの男性社員に視線を向けた。

「あ、彼だよ」

 軽く指差した先に源蔵も面を巡らせ、そして思わず喉の奥であっと声を漏らした。
 その人物に、源蔵は見覚えがあった。
 かつて源蔵は三人の女性に告白し、そのいずれにもフラれた。
 その三人の内の最後のひとりは大学時代の同じゼミに属していた女子大生だったのだが、彼女は源蔵からの告白を断った直後、同じゼミの別の男子大学生と付き合い始めた。
 その男子大学生が今まさに、當間課長が指し示しているキャリア入社の中途採用社員だった。

「中々のイケメンだろ?」

 當間課長が幾らか冗談交じりに笑みを湛えるも、しかし源蔵は内心で渋面を忍ばせていた。

(うわぁ……まさかの同じ会社かいな。しかも中途採用で?)

 正直、余り顔を合わせたい相手ではなかったが、しかし立場上、そういう訳にもいかなかった。

「ん? もしかして、知り合い?」

 この時、當間課長は源蔵の顔色に何かを察したらしく、不思議そうな面持ちで覗き込んできた。
 源蔵はいずれバレるだろうからと、敢えてだんまりを決め込むのはやめた。

「えぇまぁ、そうですね。まさかこないなとこで会うことになるとは思うてませんでしたけど」

 乾いた笑みを浮かべる源蔵に、當間課長はそんなこともあるのかと、こちらはただ驚きの表情を浮かべるばかりであった。
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