抱擁レインドロップ

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一話 それは誰の為なのか

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 自分は目の前の青年に求婚されているが、求婚されている理由は話して貰えず、第二候補も存在すると言われる。
 龍神に名前は無く、物腰は丁寧だしこちらのことをとても尊重してくれているのは伝わるが致命的な何かが抜け落ちている気がした。

「大変申し訳ありませんが、現時点で私からお話できるのはこれが限界です。今、無理だとお思いならここで断って頂いても構いません」
「……少し、考える時間をくれませんか? わたしも……混乱しているので」

 そう伝えると、龍神の青年はさらに申し訳なさそうに眉尻を下げる。
 演技ではない素の態度だとは感じるが、どこまで信用したらいいのか解らなかった。
 とにかく、今結論を急いではいけないことだけは判断できる。

「はい、お待ちしています。私は泉さんとお会いできて、お話しもできて、とても嬉しかったです……ということだけは、紛れもなく真実です」

 だからどうしてそうなる?
 若干縋るような目をされても本当に心当たりが無かった。

「では、あの、帰っても……?」
「はい。お時間を頂きありがとうございました」
「……帰る道順が……解らないので……森田さん? ってどこにいらっしゃいます……?」

 めちゃくちゃ恥ずかしいがこればかりはどうしようもない。
 こんな豪邸、しかも似たような廊下ばっかり曲がらされて道順なんて覚えているわけがないだろう。
 そう伝えるとぱっと青年が立ち上がる。

「なら、私にお見送りさせてください。森田さんはこのお部屋の外に控えていてくださっていると思いますが」

 やめてくれ。
 森田さんにお願いしてるんだわたしは。
 恋愛と無縁だっただけに、理由の解らない好意がここまで怖いとは思っていなかった。
 話したこともないクラスメイトどころか龍神から意味不明の感情を寄せられているなんて人生で経験することがあるか? いや、現在進行形で混乱を味わっているけれど。

「……お願いします……」

 断りづらいので、結局送ってもらう。
 しかも本当に森田は部屋のすぐ外で正座して待機していたので、これだったら龍神に切り出さずに部屋を出てから森田はどこか尋ねれば良かったと後悔した。
 ここを曲がります、と丁寧に説明しながら案内してくれ、玄関へと辿り着く。
 森田もそれに付いてきていたが、龍神は屋敷の外へと出られないのか靴を履こうとしたのは森田だけだった。

「いつまでもお待ちしておりますので、前向きなお返事を頂けると嬉しいです。では、ありがとうございました。お気をつけてお帰りください。……森田さん、よろしくお願いしますね」
「はい」
「失礼しました……」

 森田と並んで歩き、さすがに龍神にも聞こえないだろうという距離まで遠ざかったところで尋ねる。
 結局意味不明がもっと意味不明になっただけだからだ。

「……龍神様、名前すら無かったんですか?」
「ええ、あのお方はお亡くなりになられてから神へとなったお方なのと、あくまでここはお寺であり神社ではないので、ご本尊はあのお方ではなく仏様なのです」
「そ、そうですか」

 よく解らん。
 森田のそれが説明になっているのかいないのかすら、今の泉には理解できなかった。
 要するにこれ、キャパシティオーバーだな。
 ならば考えるのはやめて今日は一度忘れて、明日以降考えよう。

 森田が門まで見送ってくれて別れたあたりで、泉はこの件についての記憶を一時的に吹っ飛ばした。
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