14 / 16
五話 冬の香りにあたたかな雨粒
01
外でとおるとあれこれするのは、友人に見られた時の言い訳が思いつかない。
それに、龍神もまだ外には不慣れ。
そもそも互いをよく知るにあたり最も手っ取り早いのは『内側から覗くこと』だ。
既に同じ屋根の下で暮らしている身だというのに、食事の時くらいしか会わなかったのはやはり遠慮からだったらしい。
泉と話したいこと、訊きたいこと、そういった願望は多々あれど言葉にしなかった……なんて一連の裏話を森田から聞いた泉。
やはり私室にこそ人間性が表れるはずだ、と考え、土曜日はとおるの部屋で過ごすことにした。
普通に付き合うカップルだってそのうち部屋に招くものである、たぶん。
順序こそおかしくなってしまったが今からでも遅くない、それを真似てみればいい。
出来るだけ清潔そうなコーディネートを選び、白いセーターとベージュのスキニーを身に纏い、とおるの私室へと。
「……通販した時にも思いましたけど、多いですよね、本。読書が趣味?」
よく整頓された部屋の中で一番大きいのは本棚だ。ぱっと見で存在感があるだけではなく、本特有の紙の匂いが部屋全体に漂っている。
書斎は書斎で別の本があるはずなのに自室にまで持ち込んでいるものはお気に入りだろうか。
小説や歴史の本が目立ったが、週刊誌や俗っぽい雑誌もいくらか収められていた。
それらは全てカテゴリやら作者やらによってきっちり分別されており、生真面目なのか、そのくらい暇なのか。
「そ、そうですね……本を読むのは好きです。よくお解りに……」
「いや、これだけ本があるのに読書が趣味じゃないって言われるほうが妙で……どうしました?」
歯切れの悪い声に振り返ると、龍神はどこかそわそわして落ち着かない様子であった。
先日の様子から一転して、泉のほうをちらりとも見ようとしない。
寒さが本格的になり始めた時節、凛とした蒼い双眸は溶けない氷のようにさえ見えた。
とはいえ、今その氷は所在なさげに向ける先をあちらこちらにうろつかせているのだが。
とおるはこほん、と咳払いをひとつ。
「わ、私が今日までどんな心地だったか、泉さんならお気付きでしょうっ」
「……落ち着きませんでした?」
「……そうです」
顔を赤らめてこくこくと頷いた。
泉はただとおるの『今』の様子に落ち着きがないなと思っただけで、ピンと来ずに首を傾げる。
泉のことを好きだったのは16年前からのことで、それを抑え続けてきたなら今更なにをドギマギしているのやら。
「私もこうした感情をはっきり自覚するのは初めてで扱いには手を焼いているのですが……懸想し続けてきた相手が、私の気持ちを知ったうえで私をもっと知りたいとして目の前にいる。要するに、あの、どこかでスッと冷められないかが怖かったり、緊張した、りで」
かこん、と何かがズレて外れるような感覚を抱いた。
とおるは本当に本気で泉のことを好いている、それは理解できるのだ。
ただ、何故自分に対して、『ひとりの異性として』そこまで好意を抱くのかが不明瞭に思えてしまう。
「わたしの何がそんなに好きなんです?」
「あぇ!?」
素っ頓狂な声をあげて後ずさる龍神。
とりあえず腰を落ち着けて話し合おう……ということでローテーブルに向かい合って座った。
「何が……? と言われましても、う、うぅん、言語化するのは困難……です。ただ、泉さんの持つ素質だけが理由ではなくて、私と向き合おうとしてくださるところや、誠実なところ……とか……」
「えっと……すみません、なんだか無茶振りしちゃって。今までこういうことに無縁だったし考えたことも無かったので、わたしのほうも上手く処理出来てないのかも……」
急にかしこまった空気になるが、一周回って冷静になれそうだ。
お互い恋愛初心者同士、解らないことは解らないと素直に言うに限る。
そう思って発した言葉に、とおるはどこか得心したように頷いた。
「なるほど……では、やはり泉さんの提案した『お互いをもっと知っていく』ことは私たちに必要なことのようですね。認識の齟齬、感覚のズレ、そうしたことも含めて」
分析モードに入った途端、とおるの声色は普段通りものに戻る。
本好きなだけあって、そうして思考を巡らせるのは好き、あるいは得意なのかもしれない。
そこで泉はとあることに気が付いた。
それに、龍神もまだ外には不慣れ。
そもそも互いをよく知るにあたり最も手っ取り早いのは『内側から覗くこと』だ。
既に同じ屋根の下で暮らしている身だというのに、食事の時くらいしか会わなかったのはやはり遠慮からだったらしい。
泉と話したいこと、訊きたいこと、そういった願望は多々あれど言葉にしなかった……なんて一連の裏話を森田から聞いた泉。
やはり私室にこそ人間性が表れるはずだ、と考え、土曜日はとおるの部屋で過ごすことにした。
普通に付き合うカップルだってそのうち部屋に招くものである、たぶん。
順序こそおかしくなってしまったが今からでも遅くない、それを真似てみればいい。
出来るだけ清潔そうなコーディネートを選び、白いセーターとベージュのスキニーを身に纏い、とおるの私室へと。
「……通販した時にも思いましたけど、多いですよね、本。読書が趣味?」
よく整頓された部屋の中で一番大きいのは本棚だ。ぱっと見で存在感があるだけではなく、本特有の紙の匂いが部屋全体に漂っている。
書斎は書斎で別の本があるはずなのに自室にまで持ち込んでいるものはお気に入りだろうか。
小説や歴史の本が目立ったが、週刊誌や俗っぽい雑誌もいくらか収められていた。
それらは全てカテゴリやら作者やらによってきっちり分別されており、生真面目なのか、そのくらい暇なのか。
「そ、そうですね……本を読むのは好きです。よくお解りに……」
「いや、これだけ本があるのに読書が趣味じゃないって言われるほうが妙で……どうしました?」
歯切れの悪い声に振り返ると、龍神はどこかそわそわして落ち着かない様子であった。
先日の様子から一転して、泉のほうをちらりとも見ようとしない。
寒さが本格的になり始めた時節、凛とした蒼い双眸は溶けない氷のようにさえ見えた。
とはいえ、今その氷は所在なさげに向ける先をあちらこちらにうろつかせているのだが。
とおるはこほん、と咳払いをひとつ。
「わ、私が今日までどんな心地だったか、泉さんならお気付きでしょうっ」
「……落ち着きませんでした?」
「……そうです」
顔を赤らめてこくこくと頷いた。
泉はただとおるの『今』の様子に落ち着きがないなと思っただけで、ピンと来ずに首を傾げる。
泉のことを好きだったのは16年前からのことで、それを抑え続けてきたなら今更なにをドギマギしているのやら。
「私もこうした感情をはっきり自覚するのは初めてで扱いには手を焼いているのですが……懸想し続けてきた相手が、私の気持ちを知ったうえで私をもっと知りたいとして目の前にいる。要するに、あの、どこかでスッと冷められないかが怖かったり、緊張した、りで」
かこん、と何かがズレて外れるような感覚を抱いた。
とおるは本当に本気で泉のことを好いている、それは理解できるのだ。
ただ、何故自分に対して、『ひとりの異性として』そこまで好意を抱くのかが不明瞭に思えてしまう。
「わたしの何がそんなに好きなんです?」
「あぇ!?」
素っ頓狂な声をあげて後ずさる龍神。
とりあえず腰を落ち着けて話し合おう……ということでローテーブルに向かい合って座った。
「何が……? と言われましても、う、うぅん、言語化するのは困難……です。ただ、泉さんの持つ素質だけが理由ではなくて、私と向き合おうとしてくださるところや、誠実なところ……とか……」
「えっと……すみません、なんだか無茶振りしちゃって。今までこういうことに無縁だったし考えたことも無かったので、わたしのほうも上手く処理出来てないのかも……」
急にかしこまった空気になるが、一周回って冷静になれそうだ。
お互い恋愛初心者同士、解らないことは解らないと素直に言うに限る。
そう思って発した言葉に、とおるはどこか得心したように頷いた。
「なるほど……では、やはり泉さんの提案した『お互いをもっと知っていく』ことは私たちに必要なことのようですね。認識の齟齬、感覚のズレ、そうしたことも含めて」
分析モードに入った途端、とおるの声色は普段通りものに戻る。
本好きなだけあって、そうして思考を巡らせるのは好き、あるいは得意なのかもしれない。
そこで泉はとあることに気が付いた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。