KEEP OUT

嘉久見 嶺志

文字の大きさ
13 / 59
2××3.4.18.

: 4p.

しおりを挟む
授業が一段落し、休み時間へと移る。

皆が自由に談笑を交わす中、廊下側の席を男子が取り囲み、良からぬ空気を醸し出していた。

「玄ちゃん、これ…」

ケータが、恐る恐る声を出す。

玄は不気味な笑みを浮かべ、輪の中心には、バックが置いてあった。

「そうだぜ、ケータ。
これが━━」

チャックを全開にし、中身がよくわかるよう鞄の口を大きく開ける。

「俺達、男の幸せだッ!!」

それは、大きな箱型のパッケージだった。

主に紫に染められ、得体の知れない何かが何人もの女子の服を溶かし、絡みついてるイラストが描かれている。

世間的にエロゲーと呼ばれるものが、そこにはあったのだ。 

「「おお~ッ!!」」

ナベショーと未来は、興奮のあまり歓喜する。 

「さッすが玄ちゃんッ!!
しかも触手のエロゲーって最高じゃんッ!!」

「だろ!だろ! もうエロすぎて半端ねェんだって!!」

大はしゃぎしている中、一人だけ加わらない者がいた。

「どした、ケータ?」

「いや、その…、触手ものは、ちょっと…」

ケータはバックから顔を出している禁忌に赤面し、視線を逸らしながら引いていた。

「何言ってんだァ!! これはなあ、他のエロゲーよりめっちゃエロいんだからなァ!!」

玄は恥を知らぬのか、声を大にしてエロゲー所持を公表する。

「そもそも、このご時世にどうやって…」

「そりゃ変装するに決まってんだろ!?
髭生やして店員にタメ口かましゃ楽勝よ!」

ドヤ顔でガッツポーズを決める玄。

「あそこでしょ!? あの深夜までやってる━━」

「そうそう! そこの古本屋!!」

「オイ!? 生徒会!!」

 高校代表するツートップが、あってはならない話題で盛り上がっていた。

その光景を、少女達は、遠くから蔑んだ目で眺めていた。

「発情期かよ…」

鈴音の口からボソッと漏れ出る。 

「てか、何でこんなもの高校に持ってきてんだよ」

根本的問題点をケータが指摘すると、玄が彼の肩を組み、 ニヤけながら囁く。

「お前のためを思ってに決まってんだろォ?
これで女子をもっと学べッ!」

「こんなんで学びたかねェよ!!」

「玄ちゃん玄ちゃん」

 そこへナベショーが玄を制止させ、険しい表情で首を振る。 

「ケータに触手モノは、刺激が強すぎる」

「けどよ、ナベショー…」

「だから、まずは━━」

ナベショーは、スマホを取り出し、ある画面を見せる。 

三次元AVから慣らしていくべ」

「何勧めてんだよ!?」

女性の裸を見せられ、更にケータは動揺してしまう。

「いつまでもムッツリは嫌だべ?
素直になッぺよ」

「いや、だからムッツリじゃねえって━━!!」

なぜか悲哀の眼差しで説得され、戸惑うケータ。

「無料で見れッとこ、教えてやッから」

「えッ!? あッ!! いやッ、そんなん別に━━」

誘惑に心を揺れ動かされ、つい躊躇ってしまう。

一応彼らは声を抑えているようだが、周囲にだだ漏れだった。

その光景を少女たちは、遠くから冷めきった目で眺めていた。

「思春期かよ…」

再度、鈴音の口からボソッと漏れ出る。 

すると、廊下側の窓にある人が通りがかった。

「おう! 直樹!!」

玄が直樹の姿を捉え、窓を開けて呼び止める。

「うん?」

直樹は足を止め、素直に玄の元へ近寄る。

「これッ、見てみろよッ!」

わざと小声で話しかけ、例の品を見せるが、彼の重そうな瞼は、ピクリとも動くことはなかった。

「ん?」

しばらく凝視し、しまいには、反応することなくその場から離れる。

「えッ? ちょっと、直樹!?」

直樹の口からは何も発されず、玄は、徐々に不安が募っていく。

「ねェ!? 直樹!? 何か言ってよ!!」

去っていく後ろ姿に、玄は、動揺のあまり窓から身を乗り出した。

「俺を見捨てないでェェェェェ!!」 

直樹の方へ手を伸ばすが、玄の願いは届かず。

それどころかバランスを崩し、派手に廊下へ転倒してしまった。

「がッ!!」

痛々しい結末をケータ達は見届け、その様子を少女達は呆れた目で眺めていた。

「何この茶番…」

 またしても鈴音の口からボソッと漏れ出た。

「さっきの人も志保と同じ部活でしょ?」

鈴音の問いに軽く頷いてみせる。

『門村 直樹君。
みんなからは“なっくん”て呼ばれてて、部長なんだよ』

「えッ!? あの人部長なのッ!?」

外見からして、そこまでしっかりしてる印象がなかったため、意外に感じてしまった。 

『なっくんは口数少ないし、いつも眠そうにしてるから、何考えてるのか分からない人なの』

「まァ、そんな気はしてたけど…、ふあ…」

その時、不意に眠気が襲い、ついあくびをしてしまった。

『寝てないの?』

「うん、まあ、そんな感じ…」

余韻に浸りながら、涙を指で拭き取る。 

『ちゃんと寝ないとだめだよ』

「あ~、そうだね」

忠告する志保に対し、軽く流す。 

できたら苦労してないんだよ…。

とてもじゃないが、不安げな彼女にそんなこと言えたものではなかった。



━━学校が終わり、電車で帰路につく。 

あ~、今日はいつにも増して頭が痛い。

ミスドにでも行って、糖分を補給した方がいいか?

 睡眠不足による頭痛に悩んでいるうちに、終点のアナウンスが流れる。 

ホームに降りると、先頭車両から見覚えのある人物が視界に入った。

あッ、門村…。

猫背でマスク姿の彼が、改札口へと進んでいく。

鈴音も定期で通過すると、直樹がエスパルの中へと入っていくのが見えた。 

本屋にでも寄んのか? 

なぜか気になってしまい、自然と足がそちらへ向いた。

エスカレーターで上に登っていったため、鈴音も少し離れて後を追う。

登っていくうちに本屋の階に出たが、直樹は、さらに上を目指していった。 

この先って、確か…。

思い当たる店が頭に浮かび、答え合わせのためついて行く。

そして鈴音の予想は的中した。

直樹は、アニメイトの狭き門をくぐって行ったのだった。

オタクだったのね。

まあ、そんな感じはしてたけど…。

「…ミスド行こ」 

看板ゴールを見上げ、納得したのか、下りのエスカレーターへと歩いていく。

すると、アニメイトの入り口から、ひょこッと直樹が顔を出した。

「同士かと思ったのに…」

直樹は、鈴音の背中を見ては落胆したのだった。



━━翌日、登校してきたケータが席にバッグを下ろしていると、廊下側の窓が開いた。

「やッ、ケータ君」

「あれ? なおちゃん?」

直樹が軽く挙手して挨拶してきた。

「珍しいね、なおちゃんがウチに用なんて。
しかも朝イチ」 

「ケータ君に渡したいものがあってね」

「オレに?」

ケータが近寄ると、直樹は何やらバックの中を漁り出し、彼にあるものを差し出した。

それは、透明のカバーフィルムに包まれた片手サイズの本。

表紙には、派手なドレスを着たツリ目の女子のイラストが描かれており、 タイトルが、“ツンな態度のお嬢様がデレる瞬間、俺の政権は執行される!”と、記されていた。

「…何コレ」

ケータは、一瞬思考が停止し、 体が硬直してしまった。 

「ケータ君、オレはね、妄想って大事だと思うんだ」

「うん!? そう、だね!?」

唐突な話に、一旦、相槌を打つ。

「ケータ君も文学を嗜む者ならば、小説から女子の深層心理を多く学び、妄想力を無限大にまで高め上げるに越したことはないでしょ」

昨日の話を出しているのだろうか。

珍しく力強く流暢に語り出す直樹に、ケータは、ただただ唖然としていた。 

いやまぁ、確かにオレは小説も読むけど…。

手渡された官能小説を凝視し、次第に震えだした。

昨日といい、今日といい、ツッコミどころ満載だけど、とりあえずこれだけは声を大にして言いたい。

「何で皆R18ボーダーライン超えられんのッ!?」

朝から体力を消耗したケータであった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...