KEEP OUT

嘉久見 嶺志

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ある日の午後、授業終了のチャイムが鳴り、椅子を引く音が教室内に飛び交う。

それをかき消すかのように、アナウンスが流れてきた。

『生徒会からのお知らせです。
生徒会役員は、放課後、生徒会室に集合してください』

「げッ、マジかよ…」

玄がしかめっ面で肩を落とし、同様に未来も眉間にしわを寄せる。

「大変そうだね、生徒会」

その様子に、ケータが不安げに声をかける。

「いや、この時期は、特に気にする行事みたいなものはなかったハズ。なァ?」

「 そうだね、ってことは、考えられるのは一つ…」

未来の意味深発言に、二人は、さらに気が重くなってしまった。

「ケータァ、代わりに出てくれよ。
ガチで面倒くせェ」

「えッ、何? 何なの?」

机に伏せながら嫌がる玄に、ケータは、戸惑ってばかりだった。 

「玄ちゃん、悪いけど先行ってて」

すると、未来は立ち上がり、バックを手にする。

「先生に頼まれてた書類を提出しに行ってくるから」

「おう、行ってらァ」

そう言い残し、ケータ達に背中を向ける。

志保も教材をまとめながら、 彼が教室を去っていく姿を見送った。



━━そう、未来君は、この学校の副生徒会長の肩書きを持つ人です。

特設帰宅部があるのは、彼のおかげと言ってもいい。

この学校をほとんど動かしているのは、未来君だと言っても過言じゃありません。

なぜなら、この部ができた理由が…。

「静かに集中できる場所が欲しいんだけど」

「オッケー! なっくんの頼みなら何でも聞くよッ!」

たったそれだけの会話で、部屋を一つ提供してくれただけでなく、部長専用の机と椅子までつけていただいたわけで…。

ある意味、すごい人です。



━━道中、向かっている先のことを考えるだけで、足取りが重くなる。

未来は、裏ポケットから 口臭タブレットを取り出し、 手のひらに二粒のせては口へと運ぶ。

噛み砕くとミントの香りが鼻まで透き通って行き、軽く深呼吸する。

さて、と…。

目的地に着き、気を引き締めてとに手を伸ばした。

「今来たよ━━」

「何なの!? この書類!!」
 
挨拶で怒号が返ってきた。

開けて早々、修羅場な生徒会室に一瞬で萎えてしまう。

「…どうしたの、今回は・・・

とりあえず事情を尋ねると、少女が眉間にしわを寄せ、大げさに書類を振り回してみせる。 

「裕之が出した球技大会の書類がでたらめなのッ!!」

長テーブルの向かい側にいるサラサラヘアーの書記  竪川タテカワ 裕之ヒロユキに怒りをぶつける。

「そんなに怒鳴ること無ェだろうがよ!?
もっかい作り直せばいいんだろ!!」

「アンタそう言って2日も期限過ぎてんのよ!!
時間厳守って分かんねェのか!!」

裕之の隣に座っている生徒会長 森道 玄は、顔を伏せて貧乏ゆすりをしており、ついに我慢の限界を迎える。

「あ~、ッたく! オイ莉奈!!
まさかお前の文句を聞くために、わざわざ全員呼び出したんじゃねェだろうな!?」

会計 伊達ダテ 莉奈リナに舌打ちをされ、玄は、さらに苛立つ。

「明日までに完璧にしてこなかったら殺すからね!!」

「わかったで!!」

裕之は、不服だが感情無理矢理を抑えて着席し、未来も彼の隣に座ると、莉奈が咳払いをした途端、キッと眼光が未来に向けられた。

「今回、皆を集めたのは、未来、アンタの最近の行動についてです」

それを聞いて、未来の眉がピクッと反応した。

「アンタ、知らない間におかしな部活を作ったそうじゃない。
特設帰宅部だったっけ?
噂によると、漫画やフィギュアとか置いて部室を私物化し、生徒の溜まり場になってるらしいじゃない」 

「マジで!?」

「テメェは黙ってろ!!」

裕之は、初耳で思わず未来の方を向くと、莉奈に強制的に遮断されてしまった。

「部活動申請するには、“私達”生徒会に話を通すのが筋でしょ?
アンタ、いつからそんな立場になったんだっけ?」

鼻で嘲笑い、冷たい口調の中に黒い気が感じられるが、未来は、一切動じることなく静かに耳を傾けている。

「もしかして副会長とはいえ、学校思い通りになるとでも思ってんの?
先生や生徒は黙認しているようだけど、“私達”まで認めると思うなよッ!!」 

“私達”ってか、お前が未来の行動に対して気に食わないってだけだろ…。

怒りの形相で、向かいの席に指を差す。

そんな彼女に、玄は不満を募らせていた。 

そもそも、なぜ俺と未来が生徒会長と副会長をやることになったのか、それは、このバカに仕切らせたら、この学校は終わってしまうからだ。

伊達 里奈。

教師たちの前では猫を被っているが、裏の顔は非常識、虚言癖、被害妄想、癇癪持ち等々、挙げたらキリがないほどの問題だらけのクズである。

最近だと他人から借りたジャージを他校の不良に貸し出し、何ヶ月も帰ってこなかったため、そのまま借りパクしようと目論んだとか。

この高校には、不良に憧れている不良になりきれていない不良もどき・・・・・も多く存在するが、こいつの場合、それに該当する痛い奴なのである。

そんな人間性が足りなさすぎるこいつに、会長など任せてしまえば独裁政権が始まってしまう。

 それだけは、なんとしてでも断固阻止しなくてはならない。

よって、成績優秀でイケメンである俺、森道 玄と、頭脳明晰で教師にも評判がいい友瀬 未来が立ち上がったって訳だ。

すると、ついに未来がアクションを起こした。

「はァ…、もしかして、こんなどうでもいいことを・・・・・・・・・聞かせるためだけに・・・・・・・・・わざわざ招集したんですか?」

ため息をつく彼の態度に、莉奈は机に再度怒りをぶつけた。

「どうでもいいとは、どういう事よッ!!」

「どういうことも何も、そういうことです」

未来は動じることなく話を続ける。

「僕が作った部活動、あれは、この学校のイメージを変えるために作った僕なりの案です」

「イメージを、変える?」

「そう、この学校は、不良生徒や自己中心的な輩が非常に多い。
そして、町の住民からも悪い点でしか見られていません。
これでは、本校の評判は悪くなる一方です」

冷静に説明していく未来の姿を一同が注目する。

「そこで、僕は特設帰宅部を作ったのです。
活動内容は、ゴミ拾いや募金集め、ボランティアと変わりはありませんが、部活の存在によって、町の人々の意識が少しずつ変わりつつあるのです」 

「そんなの、学校行事でやってるでしょ!!
わざわざ部活動でやる必要なんてないッ!!」

「年に一度しかやらない活動など、無意味に等しい。
継続することによって世間に印象が残りやすいというものでしょう?」

涼しく淡々と喋る未来に憤りが増していく。 

「それと、部室の私物化でしたっけ?
部員にイラストが描ける人がいるので、我が校の宣伝ポスター制作のための大事な資料として僕が許可したものです」

「ポスターッ!?
そんなもの美術部に任せればいいじゃない!!」

「美術部は、コンテストや展示会に向けて創作真っ最中、真剣に作品と向き合っている生徒達にそんなこと頼むわけにはいきませんよ」

「だッ、だからといって、勝手に部活動を創設するなんてッ━━」

「“勝手”にではないですよ。
先ほど黙認と言っていましたが、ちゃんと会長や先生達にも話は通してあります」

「はァ!? “私は”何も聞いてないんですけどッ!?」

「会計に話すことのほどでもなかったからですよ」

一瞬、莉奈が鋭い目つきで玄をにらみつけるが、ヘイトをこちらへ向けるよう話を続ける。

「それ程信頼されているということです。
お前みたいにそこまでの権限もなく、過剰すぎる判断でみんなを巻き込み、大した情報もつかめずに行動するやつとはわけが違います」

「なんだとォ!?」

頭に血が上った莉奈は、机に拳で叩きつけては、勢い良く立ち上がった。

しかし、そんな威圧的な態度に、未来は一切臆することなく、メガネの汚れを拭き取り、かけなおす余裕を見せた。

「僕は常に学校のことを考えて行動しているつもりです。
それをサポートするのが、お前や裕之の役目でしょう?」

「それはッ…」 

未来の言葉に誤りがなく、莉奈は言葉を失ってしまい、完全にこの場を制した。

スゲェ、あの莉奈が黙ってんぜ。

裕之は、穏やかに過ごしている未来に、つい感動してしまう。

さッすが、俺の右腕ッ!

そんな未来に対し、小さく親指を立てる威厳のない生徒会長であった。

「はいッ、もう議論はないようので、これでお開きにしますか」

「ちッ、ちょっとッ!! まだ━━」

そう言って未来だけ鞄を持ち、席を立つと、莉奈がなんとか制止させようと、苦し紛れに声を絞り出す。

「こんなくだらないことで呼び出しやがって。
今度から立場をわきまえて発言しろよ」

落ち着いた口調とは裏腹に、瞼からわずかに重圧混じりの眼光を放っていた。

莉奈も負けじと目線を逸らさないが、悔恨が滲み出ているのがわかる。 

その様子に、未来はそれ以上何も言うことはなく、静かに生徒会室を去っていった。 



━━「ふい~」

腹に溜め込んでいた黒いもやを吐き出し、部室の戸を開けると、ポツンと直樹だけ席に座っていた。

「あッ、おかえり」

直樹は、A4サイズの紙と36色のコピックセットを机に広げ、女子キャラクターのイラストを手がけているところだった。

「あれ、なっくん。皆は?」

「皆、用事があって帰ったよ」

「そっかァ」

未来は、口臭タブレットを取り出しては、口に放り、椅子を引き出す。

席に着き、机に腕を伸ばしてぐったりと伏せると、直樹が彼の背後に立っては肩を揉み始めた。 

「おッ、おお?」

直樹の意外な行動に、つい戸惑ってしまう。

「…いつも、ありがとね」

ボソッと聞こえてきたお礼に、未来は、思わず笑みがこぼれた。




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