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2××2.4.10.
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中高一貫校、私立曙女学院。
この学校に通い続けて4度目の春を迎えたアタシは、晴れて高等部一年生となった。
しかし、アタシ自身そこまで気分は上がらなかった。
なぜなら、 中等部からずっと通い続けているため、新鮮さに欠けているからだ。
高等部の教室との境界線を超え、いつもと違う廊下を通り、1年2組に足を踏み入れたが、窓から見える景色が少し変わった程度で、面白みを感じられなかった。
「す~ずッ!」
退屈に過ごしていると、 アタシに声をかけてきた。
スキップしながら席に座り、頬杖をついている私に挨拶をする
「ごッ機嫌よう!」
「ご機嫌よう、彩蘭」
「テンション低いなァ、また同じ学校だっていうのに」
野原 彩蘭。
私の幼馴染で、小学校の頃からの付き合い。
「だからだよ。
小学校から9年間一緒の学校、腐れ縁もいいとこだわ」
視線をそらし、呆れ交じりのため息を吐く。
「何? 私と一緒じゃ嫌なの?」
「そういうわけじゃないけど━━」
「そうだよねェ、私がいないとどこにも行けないもんねェ」
「そッ! ━━ンなことないけど…」
反論しようとしたが、急に自信をなくし、口調が弱くなる。
「高等部の行き方分からないから、下駄箱で待ってたの誰だったっけかな?」
「あの時は、ただ、スマホいじってただけだし…」
痛いところを突かれるが、ボソボソと小声で強がってみせる。
「そっか~、私が来た途端、助かったみたいな顔してたけど、私の勘違いだったのか~」
何も言えなくなったアタシを、フフンと鼻で笑う。
「ただ、さすがに目新しさがほしいって話」
「要するに、私に飽きてるって言ってんじゃん」
軽く傷つき、ふてくされてるサラに、横目で流す。
「“落ち着く”って言ってんの」
アタシは、目を合わせぬまま一言つぶやくと、 サラは目を丸くして、徐々にニヤニヤと笑みを浮かべた。
「ふ~ん」
「何?」
「べッつに~?」
サラがアタシの頬をつついているうちにチャイムが鳴った。
「ほら、自分の教室に戻りな」
「ハイハイ、寂しくなって泣くなよ」
「━━なわけないでしょ」
サラは、捨て台詞を吐いて、その場から去っていくと、すれ違いで担任が教室に入れ、体育館に向かうよう指示され、変わらない入学式を迎えたのだった。
入学式を終え、一学年は、各々自分のクラスへと戻っていく。
担任が教卓につき、生徒一人ずつ自己紹介をすることとなった。
廊下側の列は順調に進み、教卓のすぐ目の前の列に移るが、なぜか、一番前の席が空席だった。
担任は肩をすくめてはため息をつき、次の生徒へと声をかけた次の瞬間━━。
バンッ!!
「ギリギリセーフッ!!」
勢い良く開いた戸の音に、皆の視線は、一人の症状に注目した。
「木村 菊乃ッ、無事遅刻を免れましたァ!!」
テンション高く、息切らしながらネイルした長い爪で敬礼する。
金髪に緩めのカール、まつ毛が長く、左耳たぶにピアス。
シャツの第2ボタンを開け、カーディガンを腰に巻いており、スカートを短くしている。
「アウトに決まってるでしょ。
菊乃、そんなんだから留年するんだよ」
担任が近寄っては、呆れた口調で彼女の頭に軽くチョップをする。
…えッ!? 年上!?
ッてか、留年生!?
初めて見た…。
クラス内がざわついている中、彼女は、笑みを絶やさず、あどけなさを醸し出していた。
━━「ん~、終わったァ」
サラが腕を上げて背伸びをする。
入学式を終え、二人で帰路に着いていた。
私は横でカフェラテを飲みながら、 彼女の歩幅に合わせている。
「どう? 新しいクラスやっていけそう?」
「まだ初日だから分からないよ」
道中コンビニに寄り、ルイボスティーとカフェラテを買っては飲み物のキャップを開けていた。
「てか、堂々と遅刻してきた人がいたし」
「えッ!? 不良じゃん、誰それ!?」
アタシは、教室での出来事を軽く説明した。
「すごいな、留年する人なんてこの世にいるんだね」
サラは、菊乃の存在に関心を抱く。
「よほど成績が悪いか、素行が悪いかのどっちかだね。
気をつけなよ」
「そもそも関わる気はないよ」
「い~やッ、スズは、何気に首突っ込むところがあるからッ。
それで厄介事に毎回巻き込まれてるでしょ」
知ったような口を…。
そう思いながら、カフェラテを口に運ぶ。
「ところで、スズは部活やらないの?」
唐突に話を振られ、口にしていたカフェラテを離した。
「部活はいいかな」
「え~? 去年までバスケやってたんだから、またやればいいじゃん」
「興味がなくなったから」
「スズがバスケやってるの、格好良かったのになァ」
サラが残念そうに肩を落とす。
そう興味がなくなった。
これは、紛れもない本心だ。
アタシは、中等部の時、バスケ部に所属していた。
うちの学校は、強豪の2文字から程遠く、中体連で入賞もせずに終わる実力だった。
毎年、青春を賭けてきた先輩たちの涙を見る度、入賞への壁は、とてつもなく厚く高く感じた。
そして、三年にに上がり、レギュラーとなったアタシは、ついに雪辱を晴らすことができた。
念願の中体連優勝を果たしたのだ。
あの時の興奮は、今でも忘れられない。
あの時の涙は、心から溢れ出た歓喜だった。
あの時の私は、人生で初めて何かを成し遂げた瞬間だったのだ。
だが、その後県北大会は予選敗退し、私の青春はあっけなく終わってしまった。
上には上がいることを思い知らされ、チームのみんなは悔しがり、落ち込む者も多かったが、そんな中アタシだけ違かった。
アタシは、心の底から安堵していたのだ。
決して手を抜いたわけではない。
精一杯プレーしたつもりだ。
しかし、環境の変化に気持ちがついていけなかった
。
中体連入賞を目指し、きつい練習も自主練も真剣にこなしてきたが、目標を達成したその後のことは、何も考えていなかった。
アタシの中では、中体連優勝までがゴールだったのだ。
県北大会出場決定したと知らされたとき、正直、何それ? って思ってしまった。
チームの士気が高まっている中、そんな野暮なことを口に出すわけにもいかず、空気に流されてしまった。
当日を迎え、初めて入る体育館、見慣れない生徒たち、あまりにも新鮮過ぎてきて、来てはいけない世界に足を踏み入れてしまったと感じた。
感情の雰囲気に飲まれ、試合中、本領発揮することができなかった。
怖くなってしまったのだ。
アタシにボールを渡すな、早く時間よ過ぎ去れ、頭の中は恐怖で圧迫していたのだ。
我ながら最低だと思う。
だが、あの時の私は、最高だったとも思う。
想定外のことをこなすには、平常心と空元気がなければ成り立たない。
結果、惨敗したが、わかったこともある。
私には、もうバスケに未練はないということだ。
「━━先輩達から何度もお誘いされてんでしょ?」
「まァね。
その度に勉学に励みます、って断ってるけど」
「下手な嘘ついちゃって…」
「嘘はついてないじゃん。
授業を受けているだけでも、勉学に励んでることになるでしょ。
課題もそう。
家でちゃんと勉強してるんだから、間違ったことは言ってないよ」
そう言ってカフェラテを飲み干し、道端の自販機のそばに設置されてあるゴミ箱に、空のペットボトルを入れる。
「じゃあ、次は何部に入るの?」
「入らないよ」
「えッ!?」
サラは、耳を疑い、つい間抜けな声を出してしまった。
「これからは、興味が湧くものを探すよ」
そう言ってるうちに三叉路に出た。
ここからは、帰り道が別となるため、アタシは軽く挨拶を交わし、サラと別れた。
その時、アタシは、あることに気づき、足を止め、制服の裏ポケットやバックの中を手探りし始める。
「…」
マジか…。
どうやら、スマホを忘れてきてしまったようだ。
この学校に通い続けて4度目の春を迎えたアタシは、晴れて高等部一年生となった。
しかし、アタシ自身そこまで気分は上がらなかった。
なぜなら、 中等部からずっと通い続けているため、新鮮さに欠けているからだ。
高等部の教室との境界線を超え、いつもと違う廊下を通り、1年2組に足を踏み入れたが、窓から見える景色が少し変わった程度で、面白みを感じられなかった。
「す~ずッ!」
退屈に過ごしていると、 アタシに声をかけてきた。
スキップしながら席に座り、頬杖をついている私に挨拶をする
「ごッ機嫌よう!」
「ご機嫌よう、彩蘭」
「テンション低いなァ、また同じ学校だっていうのに」
野原 彩蘭。
私の幼馴染で、小学校の頃からの付き合い。
「だからだよ。
小学校から9年間一緒の学校、腐れ縁もいいとこだわ」
視線をそらし、呆れ交じりのため息を吐く。
「何? 私と一緒じゃ嫌なの?」
「そういうわけじゃないけど━━」
「そうだよねェ、私がいないとどこにも行けないもんねェ」
「そッ! ━━ンなことないけど…」
反論しようとしたが、急に自信をなくし、口調が弱くなる。
「高等部の行き方分からないから、下駄箱で待ってたの誰だったっけかな?」
「あの時は、ただ、スマホいじってただけだし…」
痛いところを突かれるが、ボソボソと小声で強がってみせる。
「そっか~、私が来た途端、助かったみたいな顔してたけど、私の勘違いだったのか~」
何も言えなくなったアタシを、フフンと鼻で笑う。
「ただ、さすがに目新しさがほしいって話」
「要するに、私に飽きてるって言ってんじゃん」
軽く傷つき、ふてくされてるサラに、横目で流す。
「“落ち着く”って言ってんの」
アタシは、目を合わせぬまま一言つぶやくと、 サラは目を丸くして、徐々にニヤニヤと笑みを浮かべた。
「ふ~ん」
「何?」
「べッつに~?」
サラがアタシの頬をつついているうちにチャイムが鳴った。
「ほら、自分の教室に戻りな」
「ハイハイ、寂しくなって泣くなよ」
「━━なわけないでしょ」
サラは、捨て台詞を吐いて、その場から去っていくと、すれ違いで担任が教室に入れ、体育館に向かうよう指示され、変わらない入学式を迎えたのだった。
入学式を終え、一学年は、各々自分のクラスへと戻っていく。
担任が教卓につき、生徒一人ずつ自己紹介をすることとなった。
廊下側の列は順調に進み、教卓のすぐ目の前の列に移るが、なぜか、一番前の席が空席だった。
担任は肩をすくめてはため息をつき、次の生徒へと声をかけた次の瞬間━━。
バンッ!!
「ギリギリセーフッ!!」
勢い良く開いた戸の音に、皆の視線は、一人の症状に注目した。
「木村 菊乃ッ、無事遅刻を免れましたァ!!」
テンション高く、息切らしながらネイルした長い爪で敬礼する。
金髪に緩めのカール、まつ毛が長く、左耳たぶにピアス。
シャツの第2ボタンを開け、カーディガンを腰に巻いており、スカートを短くしている。
「アウトに決まってるでしょ。
菊乃、そんなんだから留年するんだよ」
担任が近寄っては、呆れた口調で彼女の頭に軽くチョップをする。
…えッ!? 年上!?
ッてか、留年生!?
初めて見た…。
クラス内がざわついている中、彼女は、笑みを絶やさず、あどけなさを醸し出していた。
━━「ん~、終わったァ」
サラが腕を上げて背伸びをする。
入学式を終え、二人で帰路に着いていた。
私は横でカフェラテを飲みながら、 彼女の歩幅に合わせている。
「どう? 新しいクラスやっていけそう?」
「まだ初日だから分からないよ」
道中コンビニに寄り、ルイボスティーとカフェラテを買っては飲み物のキャップを開けていた。
「てか、堂々と遅刻してきた人がいたし」
「えッ!? 不良じゃん、誰それ!?」
アタシは、教室での出来事を軽く説明した。
「すごいな、留年する人なんてこの世にいるんだね」
サラは、菊乃の存在に関心を抱く。
「よほど成績が悪いか、素行が悪いかのどっちかだね。
気をつけなよ」
「そもそも関わる気はないよ」
「い~やッ、スズは、何気に首突っ込むところがあるからッ。
それで厄介事に毎回巻き込まれてるでしょ」
知ったような口を…。
そう思いながら、カフェラテを口に運ぶ。
「ところで、スズは部活やらないの?」
唐突に話を振られ、口にしていたカフェラテを離した。
「部活はいいかな」
「え~? 去年までバスケやってたんだから、またやればいいじゃん」
「興味がなくなったから」
「スズがバスケやってるの、格好良かったのになァ」
サラが残念そうに肩を落とす。
そう興味がなくなった。
これは、紛れもない本心だ。
アタシは、中等部の時、バスケ部に所属していた。
うちの学校は、強豪の2文字から程遠く、中体連で入賞もせずに終わる実力だった。
毎年、青春を賭けてきた先輩たちの涙を見る度、入賞への壁は、とてつもなく厚く高く感じた。
そして、三年にに上がり、レギュラーとなったアタシは、ついに雪辱を晴らすことができた。
念願の中体連優勝を果たしたのだ。
あの時の興奮は、今でも忘れられない。
あの時の涙は、心から溢れ出た歓喜だった。
あの時の私は、人生で初めて何かを成し遂げた瞬間だったのだ。
だが、その後県北大会は予選敗退し、私の青春はあっけなく終わってしまった。
上には上がいることを思い知らされ、チームのみんなは悔しがり、落ち込む者も多かったが、そんな中アタシだけ違かった。
アタシは、心の底から安堵していたのだ。
決して手を抜いたわけではない。
精一杯プレーしたつもりだ。
しかし、環境の変化に気持ちがついていけなかった
。
中体連入賞を目指し、きつい練習も自主練も真剣にこなしてきたが、目標を達成したその後のことは、何も考えていなかった。
アタシの中では、中体連優勝までがゴールだったのだ。
県北大会出場決定したと知らされたとき、正直、何それ? って思ってしまった。
チームの士気が高まっている中、そんな野暮なことを口に出すわけにもいかず、空気に流されてしまった。
当日を迎え、初めて入る体育館、見慣れない生徒たち、あまりにも新鮮過ぎてきて、来てはいけない世界に足を踏み入れてしまったと感じた。
感情の雰囲気に飲まれ、試合中、本領発揮することができなかった。
怖くなってしまったのだ。
アタシにボールを渡すな、早く時間よ過ぎ去れ、頭の中は恐怖で圧迫していたのだ。
我ながら最低だと思う。
だが、あの時の私は、最高だったとも思う。
想定外のことをこなすには、平常心と空元気がなければ成り立たない。
結果、惨敗したが、わかったこともある。
私には、もうバスケに未練はないということだ。
「━━先輩達から何度もお誘いされてんでしょ?」
「まァね。
その度に勉学に励みます、って断ってるけど」
「下手な嘘ついちゃって…」
「嘘はついてないじゃん。
授業を受けているだけでも、勉学に励んでることになるでしょ。
課題もそう。
家でちゃんと勉強してるんだから、間違ったことは言ってないよ」
そう言ってカフェラテを飲み干し、道端の自販機のそばに設置されてあるゴミ箱に、空のペットボトルを入れる。
「じゃあ、次は何部に入るの?」
「入らないよ」
「えッ!?」
サラは、耳を疑い、つい間抜けな声を出してしまった。
「これからは、興味が湧くものを探すよ」
そう言ってるうちに三叉路に出た。
ここからは、帰り道が別となるため、アタシは軽く挨拶を交わし、サラと別れた。
その時、アタシは、あることに気づき、足を止め、制服の裏ポケットやバックの中を手探りし始める。
「…」
マジか…。
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