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しおりを挟む朝。
窓から差し込む柔らかな光に、遙は目を覚ました。
隣にいるはずの悠真の存在を思い出し、慌てて身体を起こそうとする――が、動けなかった。
しっかりと腕の中に抱き込まれているからだ。
「……っ!」
遙は顔を赤くして固まる。
体温も、心臓の鼓動も、全部が近すぎる。
(……いまだに夢を見てるようだ。)
昨夜のことを思い出し、胸が熱くなる。
自分から言った言葉も、震える手で掴んだ服の感触も、全部が恥ずかしくて仕方ない。
「ん……おはよ、遙。」
低く掠れた声が耳元で響く。
「っ……!」
遙は反射的に布団を頭まで被った。
「おい、隠れんなよ。」
悠真は笑いながら布団を少し引っ張り、隙間から覗き込む。
「……可愛い顔、見せてくれよ。」
「……バカ。」
小さな声で呟きながらも、遙は布団を少し下ろした。
すると悠真が頬に軽くキスを落とす。
「ほんと、可愛いね。」
「……バカじゃねぇの。」
赤面しながらも、嬉しさは隠せなかった。
その後、ぎこちなく朝食を作る遙と、にやけ顔で手伝う悠真。
普段と同じような朝なのに、どこか違う。
昨日までよりもずっと近くて、当たり前のように隣にいる。
ある休日。
遙と悠真は街に買い物へ出かけていた。
「これ似合うんじゃね?」
悠真が差し出した服を見て、遙は眉をひそめる。
「派手すぎるだろ。……俺には無理。」
そんなやり取りをしていると、不意に声をかけられた。
「悠真? 久しぶり!」
振り向けば、悠真の職場の先輩らしき人物が立っていた。
悠真が笑顔で挨拶する横で、遙は思わず一歩下がる。
(やば……俺ら、どう見えてる? 怪しまれないか?)
ぎこちなく距離を取ろうとする遙。
だが悠真はそんな遙の手を、自然に握ったままだった。
「……!」
一瞬、息が詰まる。
「こっちは遙。俺の大事な人。」
悠真が迷いなくそう紹介した。
遙の耳が一気に熱くなる。
その瞬間先輩の笑顔が引き攣り「そ、そうなんだ、よろしく!」と軽く流し、そのまま去っていった。
その後。
ベンチに座り込んだ遙は、思わず悠真を睨む。
「……っ、なんで言ったんだよ!」
「言うって、“大事な人”ってこと?」
「当たり前だろ! ……職場の人だろ?どうすんだよ……」
悠真は少しだけ表情を和らげ、遙の頭を撫でた。
「大丈夫だって。別に俺はどう思われてもいいしなぁ。あ、遙は嫌だった?隠す方が俺にはきついけど。」
遙は返す言葉に詰まった。
けれどその手の温もりに、胸の奥がじんわりと熱くなる。
帰り道。
沈黙が続いたあと、遙は小さく呟いた。
「……俺も、隠したくないかもしれない。」
悠真が驚いたように振り向く。
「ほんと?」
「まだ……勇気はねぇけど。
でも、俺……お前と一緒にいるのが、当たり前になってきたから。」
悠真は一瞬だけ目を見開き、次の瞬間、破顔した。
「……遙っては、ほんとずるいよな。
そんなこと言われたら、俺……」
言葉の続きを遮るように、遙はぎこちなくも自分から手を握った。
「……俺も、ずっと離さねぇから。」
夕暮れの街を並んで歩く二人の影が、ゆっくりと重なる。
出会った日のような不安も、嫉妬も、からかい合いも全部ひっくるめて――
彼らはようやく、“恋人”としての道を歩き出したのだった。
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