悪役に恋した無能

待井 月

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偽ったもの

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学院に迎え入れられたフレアは、日々必死に学び、働きました。
元貴族としての傲慢さを捨て、ただ一人の罪人として。

だが、ある夜――。

「フレア。」
オリビア様は彼女を呼び止めました。
薄暗い部屋に灯る蝋燭の光の中、聖女はいつもと同じ微笑みを浮かべていました。

「あなた、最近よく頑張っているわね。
 皆もあなたを受け入れ始めている。
 ――でも、それだけでは足りないのよ。」

フレアは息を呑みました。
「足りない……?」

「そう。あなたは私を裏切り、私を貶めた。
 その罪は、ただ謝罪して努力するだけでは消えないの。」

微笑んだまま、オリビア様の瞳がわずかに揺らぎました。
その奥に、慈悲とは異なる――底知れぬ冷たい光。

「だから、フレア。
 あなたは一生、私に仕えなさい。
 私の慈悲を受けたいのなら、私から逃げてはいけない。
 どこまでも、どこまでも……私の掌の中で生きなさい。」

フレアの背筋に冷たいものが走りました。

「お姉様……それは……」

「慈悲とは、罰でもあるのよ。」
オリビア様は優しくフレアの頬に触れました。
「あなたは私に何をしたのか忘れられないでしょう?私もよ。ねぇ、それでも……私の元にいたい?」

フレアの身体は震えました。
その微笑みは、恐怖と同時に安堵をもたらすものでもありました。
――逃げられない。
――けれど、この人の庇護の下ならば。

「……はい。お姉様。」

フレアがそう答えた瞬間、オリビア様の微笑みはさらに深まります。
蝋燭の火が揺れ、その影はまるで狂気に嗤う仮面のようでした。



――慈悲は人を救う。
――だが、慈悲はまた、人を縛る。

人々は「聖女オリビアの優しさ」を称えた。
だが、その優しさの奥に潜む執着と狂気を知る者は、ほんの一握りだった。

それは、かつて“悪役”と呼ばれた彼女の、消えることのない影なのかもしれない。

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