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1. ライブのお誘い
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キラキラと光る、いくつものビーズを繋ぎ止めた瑠璃色の髪飾りが、目の前を横切る。
ガーガーとリズムよく何十枚と用紙が出てくるコピー機の横で、手持ち無沙汰に印刷を待っている長谷健人は、その髪飾りを目で追った。
「綺麗な髪飾りだね」
ふいに声をかけられ、振り返るのは、同期の高橋香。長い髪を束ねた根元の瑠璃色のヘアアクセサリーは、天井のライトで瞬くように反射的に蒼く光ってみせる。香は健人に見せつけるように頭を傾げて、
「えー、わかっちゃったぁ?」
と、大袈裟に驚いた風に言うと、続け様に、
「昨日買ったばっかのおニューなんだぁ~」
甘えたっぽくしゃべる口調からは、品位のかけらもなく、頭が悪そうに見える印象の香は、新しいアクセサリーに気付いてもらえたのが嬉しいのか、えへへと笑いながら、上機嫌に健人の側に近寄ってくる。
「高橋さんの明るい髪に似合ってるね」
「そう?」
嬉しそうに、手をうなじの方へあげ、ヘアアクセサリーを指で摘んでみせるその指先にもキラキラとラインストーンで飾られたネイルが光った。
「そのネイルも綺麗だね」
すかさず見逃さず、褒める健人に、香は満面の笑みを浮かべ、ジィーーーと切れ長の瞳に整った顔立ちの健人を見つめると、
「長谷くん、コピー?」
「うん、次の会議で使う資料でさ、今大量に印刷してるとこ」
「そうなんだぁ…あたしさ、少し時間空くから、コピー見ててあげるよ、出来上がったら机に置いといてあげようか?」
嬉々として上機嫌の香は、頼みもしない仕事を引き受け出した。
「えー…と、ほんとにいいの?じゃぁ…お願いしようかな…」
よろしくと言い残すと、香は、はぁーいと猫なで声で手を振った。
健人は自分のデスクに戻り、パソコンの画面を睨みながら、マウスを握りしめると、飛んできているメールを確認し出した。
「うまくこといいながら、手伝わせてるじゃん、健人」
いつのまにか、健人の隣には、紺色のスーツをビシッと決めた2年先輩の近藤淳が立っていた。
「そんなことないっすよ」
否定する健人に、近藤はニヤニヤしながら、
「でたね、この人たらし!」
「え?なんっすか?それ?」
「お前?気にいってるの?あの子」
「そんなことある訳ないじゃないですかっ!!!ただの同期っすよ!」
思いもしない話に慌ててすぐに全否定する健人に、ワックスで整えたであろう前髪を指先で気にしながら、近藤は、
「お前さ、気付いてないかもしれないけど、さらっと言う一言が、けっこうその人にとって甘い言葉だったりするわけよ…」
「だから、そんなことないっすって!ただ正直に言ってるだけで…」
(甘いって…思ったことをそのまま口にしてるのがいけないのかな…)
「俺ほどでもないけどさ…」
と、気取ってはカッコつける近藤は、健人の隣で腕組みしながら、
「お前、顔もそこそこイケてるし、気をつけねーと勘違いする奴いるよ」
(え?)
思わず、近藤のツッコミどころに、健人はやり返そうと思ったが、コピー機の方に目線を投げ、健人の資料をせっせと整える香を顎で指し、戯けた様子の近藤に、健人は、無言でパソコンの画面に視線を戻した。
「まあ、悪いことじゃないんけどさ、それが健人のいいところでもあるしな」
と、バシッと健人の背中を叩いた。
「…ぃつ…」
(そんな風に思われてたのか…俺…近藤さんは悪気はない人だし、頼りになる先輩だし、こんな風に言ってくれるのも、俺のこと思ってのことだよな…)
と、健人は、苦い笑いしながら、パソコンの電源を落とすと、デスクの上を片付けだした。そんな健人を引き留めるように、近藤は、
「それよりさ、健人、お前、ロック好き?」
通勤用の黒のバックパックに手をかけて帰り支度をしていた健人は、振り返り、
「え?ロックっすか?」
「そう、今度来日すんだよ」
と、近藤は、手に握りしめたスマホの画面を健人に見せてきた。
そこには、いかにもハードロックらしい4人組の男がカメラ目線ばりにこちらを見ている。
「ま、あんましメジャーじゃねえんだけど、めっちゃめちゃ曲がいいんだよ、特にギターがな、こうハートに響くっちゅーか、痺れるっちゅーか…」
と、近藤は胸に手を当て、瞼を閉じ、宙を見上げて語り出した。
こうなると近藤の話が長くなるのが目に見えてわかるのか?健人は話を遮るように、
「で、近藤さん、もしかして、チケットとか余ってるんすか?」
その声に、近藤は、あっと口の動きが止まり、健人の方に視線を戻すと、
「そうそう!俺の連れが、急に彼女との約束ができていけなくなってさぁー、ひどくね?俺とのライブの方が先約なのにさぁー」
と、スーツの胸ポケットからチケットを2枚ペラッと取り出して見せた。
「どう?今週の金曜だけど、お前空いてる?」
(別に、音楽は何でも聞くし、ライブは好きだし、この先輩と一緒だと楽しいかも…)
と、健人は迷うことなく、
「いいっすよ、俺行きたいです!」
と、差し出されたチケットの1枚を、人差し指と中指で挟みながら抜き取ると、ニッと白い歯を見せて、笑った。
ガーガーとリズムよく何十枚と用紙が出てくるコピー機の横で、手持ち無沙汰に印刷を待っている長谷健人は、その髪飾りを目で追った。
「綺麗な髪飾りだね」
ふいに声をかけられ、振り返るのは、同期の高橋香。長い髪を束ねた根元の瑠璃色のヘアアクセサリーは、天井のライトで瞬くように反射的に蒼く光ってみせる。香は健人に見せつけるように頭を傾げて、
「えー、わかっちゃったぁ?」
と、大袈裟に驚いた風に言うと、続け様に、
「昨日買ったばっかのおニューなんだぁ~」
甘えたっぽくしゃべる口調からは、品位のかけらもなく、頭が悪そうに見える印象の香は、新しいアクセサリーに気付いてもらえたのが嬉しいのか、えへへと笑いながら、上機嫌に健人の側に近寄ってくる。
「高橋さんの明るい髪に似合ってるね」
「そう?」
嬉しそうに、手をうなじの方へあげ、ヘアアクセサリーを指で摘んでみせるその指先にもキラキラとラインストーンで飾られたネイルが光った。
「そのネイルも綺麗だね」
すかさず見逃さず、褒める健人に、香は満面の笑みを浮かべ、ジィーーーと切れ長の瞳に整った顔立ちの健人を見つめると、
「長谷くん、コピー?」
「うん、次の会議で使う資料でさ、今大量に印刷してるとこ」
「そうなんだぁ…あたしさ、少し時間空くから、コピー見ててあげるよ、出来上がったら机に置いといてあげようか?」
嬉々として上機嫌の香は、頼みもしない仕事を引き受け出した。
「えー…と、ほんとにいいの?じゃぁ…お願いしようかな…」
よろしくと言い残すと、香は、はぁーいと猫なで声で手を振った。
健人は自分のデスクに戻り、パソコンの画面を睨みながら、マウスを握りしめると、飛んできているメールを確認し出した。
「うまくこといいながら、手伝わせてるじゃん、健人」
いつのまにか、健人の隣には、紺色のスーツをビシッと決めた2年先輩の近藤淳が立っていた。
「そんなことないっすよ」
否定する健人に、近藤はニヤニヤしながら、
「でたね、この人たらし!」
「え?なんっすか?それ?」
「お前?気にいってるの?あの子」
「そんなことある訳ないじゃないですかっ!!!ただの同期っすよ!」
思いもしない話に慌ててすぐに全否定する健人に、ワックスで整えたであろう前髪を指先で気にしながら、近藤は、
「お前さ、気付いてないかもしれないけど、さらっと言う一言が、けっこうその人にとって甘い言葉だったりするわけよ…」
「だから、そんなことないっすって!ただ正直に言ってるだけで…」
(甘いって…思ったことをそのまま口にしてるのがいけないのかな…)
「俺ほどでもないけどさ…」
と、気取ってはカッコつける近藤は、健人の隣で腕組みしながら、
「お前、顔もそこそこイケてるし、気をつけねーと勘違いする奴いるよ」
(え?)
思わず、近藤のツッコミどころに、健人はやり返そうと思ったが、コピー機の方に目線を投げ、健人の資料をせっせと整える香を顎で指し、戯けた様子の近藤に、健人は、無言でパソコンの画面に視線を戻した。
「まあ、悪いことじゃないんけどさ、それが健人のいいところでもあるしな」
と、バシッと健人の背中を叩いた。
「…ぃつ…」
(そんな風に思われてたのか…俺…近藤さんは悪気はない人だし、頼りになる先輩だし、こんな風に言ってくれるのも、俺のこと思ってのことだよな…)
と、健人は、苦い笑いしながら、パソコンの電源を落とすと、デスクの上を片付けだした。そんな健人を引き留めるように、近藤は、
「それよりさ、健人、お前、ロック好き?」
通勤用の黒のバックパックに手をかけて帰り支度をしていた健人は、振り返り、
「え?ロックっすか?」
「そう、今度来日すんだよ」
と、近藤は、手に握りしめたスマホの画面を健人に見せてきた。
そこには、いかにもハードロックらしい4人組の男がカメラ目線ばりにこちらを見ている。
「ま、あんましメジャーじゃねえんだけど、めっちゃめちゃ曲がいいんだよ、特にギターがな、こうハートに響くっちゅーか、痺れるっちゅーか…」
と、近藤は胸に手を当て、瞼を閉じ、宙を見上げて語り出した。
こうなると近藤の話が長くなるのが目に見えてわかるのか?健人は話を遮るように、
「で、近藤さん、もしかして、チケットとか余ってるんすか?」
その声に、近藤は、あっと口の動きが止まり、健人の方に視線を戻すと、
「そうそう!俺の連れが、急に彼女との約束ができていけなくなってさぁー、ひどくね?俺とのライブの方が先約なのにさぁー」
と、スーツの胸ポケットからチケットを2枚ペラッと取り出して見せた。
「どう?今週の金曜だけど、お前空いてる?」
(別に、音楽は何でも聞くし、ライブは好きだし、この先輩と一緒だと楽しいかも…)
と、健人は迷うことなく、
「いいっすよ、俺行きたいです!」
と、差し出されたチケットの1枚を、人差し指と中指で挟みながら抜き取ると、ニッと白い歯を見せて、笑った。
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