ネイルの残像

有森崎あたる

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2. その人にとって、甘い言葉

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金曜日当日。

ピコン!

デスクのパソコンの画面を睨みながら、カタカタカタカタッとキーボードを打ち込んでいる健人は、不意のメール音に手を止めると、メールの受信ボックスに届いた1件のメールに気付いた。

(近藤さんからだ)

届いたメールを開いて見ると、

《メッセージ要確認》

の文字。

健人は慌てて、デスクの端の方で裏返していたスマホの画面を返してみると、近藤からのメッセージが1件入っていた。

画面を軽く指でタップし、中身を確認する。

《今日、絶対定時に仕事終了!速攻着替えてライブ会場向かうべし!!!》

と、ガッツポーズの絵文字付き。

健人は、パソコンのデスクトップ越しから、近藤のいる方へ視線を送ると、よろしく!と言わんばかりにこちらを見ていた。

(こりゃ、残業どころじゃねーな)

と、健人も答えるかのように、ピッとピースサインで返した。

「何かいいことでもあったんですか?」

近藤とのやり取りを見ていたのか?この前コピーを手伝ってくれた香が声をかけてきた。

「あ、…近藤さんと、この後一緒に帰る……」

咄嗟に健人は、この後のライブのことは言わず、曖昧に返事した。

「飲み会ですかぁ~?それなら、私も混ぜてくださいよぉ~」

相変わらず、甘ったるい声で話しかけてくる香に、健人は思わずズズッと後ずさりしてしまうと、この後一緒についてくるかもしれないと思い、それはまずい!と判断したのか、

「いや…実はこの後、ライブ行くんですよ」

と、本当のことを話した。

「え?そうなんですか?いいなぁ~ライブかぁ~私も最近行ってないなぁ~」

一層興味津々で話す香。

(まだ、仕事残ってるんだけどなぁ…)

健人は、チラッとパソコンのデスクトップの端に表示されている時計を確認すると、なかなかその場を立ち去らない香に、苛立ち始めたのか、

「ごめん!急いでやらなきゃいけない案件あるんだ!悪いけど、仕事続けていい?」

と、やんわり笑顔で香を制した。

「あ!私の方こそ!忙しいのにごめんなさい!」

素直に謝る香に健人は、

「ううん、ほんと、ごめんね!」

と、再度、微笑みかけると、香はグッと健人に顔を近づけ、耳元近くで、

「長谷さん!何かあったら、すぐ言ってくださいね!お手伝いするんで!」

と、言い残し、くるりと背を向けると、自分のデスクの方に戻って言った。

(ふぅ…世話好きなんだか?お節介なんだか?)

歩いている香の後ろ姿をぼんやり見ながら、ふと、近藤の言葉が脳裏によぎる。

―その人にとって、甘い言葉だったりする―

(勘違いさせたか?いや、友達の範囲内…か?とにかく気を付けないと…)

と、ブルブルッと頭を振ると、やっと、仕事に集中できると思い、ひと呼吸整えると、健人は姿勢を正し、再びパソコンに向かう。すると、脇に置いていたスマホに、すぐに近藤からのメッセージが入った。

《気をつけろよ!》

健人と香のことを見ていたのか、向こうの方でニヤニヤにやけている近藤。

《仕事してください!!!》

と、健人は切り返し、一瞥すると、やるぞー!と言わんばかりにシャツの袖をめくり上げ、ダダダっとキーボードを激しく打ち鳴らし始めた。
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