ネイルの残像

有森崎あたる

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6. 朝のカフェテリア

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「よぉ!金曜はお疲れぇっー!」

片手を上げ、陽気に挨拶する近藤。今日は濃紺のスーツにペンシルストライプのワイシャツが映えるスタイル。いつものように整えた前髪を気にしつつ、健人に近づいてくる。

「あ…お疲れっす…」

言葉少なに返事する健人。

週始まりの月曜の朝。
仕事に向かうべく足早に歩くサラリーマン。眠たげにあくびしながら歩く女性や、知り合いを見つけるや駆け寄るスーツ姿の若い男女。オフィス街のいつもの変わりない朝の風景。

高層ビルの1階に店を構えるカフェテリア。その店の軒下には、パリを彷彿させるかのように、路面に面したテーブル席がいくつか並び、朝の穏やかな日差しが降り注ぐ。
その1つに腰掛け、モーニングコーヒーを飲んでいた健人の横に、近藤は腰掛けた。

「なになに?そのうっすい反応ー!気分さがるじゃん!この前のライブそんな楽しくなかった?」

健人の肩に腕をかけ、やたらハイテンションで話しかけてくる。

「近藤さん、テンション高いすっね」

陽気な近藤とは真逆に、湿っぽく顔色が冴えない 健人が答えた。

「当たり前じゃん!すげーお気にのバンドのライブ行ってきたんだからさー、俺今日からまた仕事頑張れるわっ!」

と、健人がテーブルに置いていた紙コップのミネラルウォーターを一口飲んだ。

「ちょー、近藤さん、それ俺のっすよ…」

「なーに固いこと言ってんだよぉー!お前さぁ、何か調子悪くねぇ?さてはライブに興奮しすぎてお疲れちゃんとか?」

「…っぶっ」

健人の脳裏にブワァッと広がる、下半身に伸びた手とペニスを握りしめるワインレッドのネイルの指が鮮明に蘇り、顔を赤らめると同時に、飲んでいたコーヒーを思わず吹き出した。

「うわっ!きったねーな!お前マジ疲れてんの?意外と体力なくねぇ?」

「こっ、近藤さんが朝から変なこと言うからですよ!!!」

真っ赤になりながら、慌てふためいて、バックパックから取り出したティッシュでテーブルにこぼれたコーヒーを拭きながら、健人は動揺を誤魔化そうとする。

「へっ?俺変なこと言った?変なのは、お前の方じゃん、何赤くなってだよ、熱でもあんじゃねぇの?ライブんときも気が付きゃ、途中で抜け出してるし、終わった後も飲みに誘ったのにさっさと帰るしさー!夜にメッセージ送っても返事しねーし」

(…あ…あんな状態で近藤さんと飲みになんかいけねーよ…パンツも汚れて気持ち悪かったし…)

さらに顔を赤らめる健人。

「ほんとに調子悪いんなら、今日は帰っていいぞ。部長には俺から言っといてやるから」

近藤は心配そうに言葉をかけると、健人の肩をポンと軽く叩いた。

「そこまでじゃないっすよ、大丈夫っす」

「そっか、それならいいけどな」

髪をワシャワシャしながら健人の頭を撫でると立ち上がり、カフェテリアの席から路面へ出ようとする近藤は、何かを思い出したかのように立ち止まると振り返った。

「あ、そういや健人、1つ向こうの通りに、新しくカフェできたみたいでさ、ほら、前から噂になってたお店!コーヒー割引券もらったからさ、昼飯の後、一緒に行くか?」

「いいっすねー、行きます行きます!先輩の奢りっっすよね!?」

「こんな時だけ先輩呼ばわりって!なぁーに調子いいこと言ってんだよ!」

振り返らずに、手だけヒラヒラさせながら歩く近藤。
セルフサービスのカップを片付けながら、健人も近藤の後ろを追いかけるようにカフェを後にし、オフィスへと向かった。

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