ネイルの残像

有森崎あたる

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5. また会ったね

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尚も激しいライブの爆音と周りの歓声が、ホール中に響き渡る。
健人は、体に走る違和感が、自身の下半身からだと気付き、顔を赤らめ、動揺する。
周りの興奮した観客の背中や腕が間近で窮屈になりつつも、その違和感を確かめようと、健人はゆっくり恐る恐る視線を下に落とすと、そこには誰かの手が伸びていた。

(だ、誰?え?ちょ待って…え?痴漢?じゃなくて痴女???)

熱狂に包まれたその箱の中、密接したファンたちは興奮の坩堝と化し、その狭間で、健人は容易に後ろを確認出来ない。

健人の真後ろにいるであろうその人物の手はゆっくりと健人の股間を撫で回す。

(え、マジで?マジ…)

いつもなら、お気に入りのジーンズを愛用している健人だか、ライブのためか、身動きのとりやすい薄手の綿のズボンを履いてきたのが仇になった。健人の股間を舐めるように愛撫するその手の感触が、ズボンの布を通して下半身を刺激する。

「…ぅう…」

ググッと膨らみを持ち出した股間に、健人は思わず腰を曲げ、少し前かがみになってしまう。

さらに、その手は大胆を増し、健人のズボンのジッパーをジーッとゆっくりゆっくり下ろし、ズボンの中へと指を滑り込ませてきた。

「…ッヒィ…」

悲鳴にも似た健人の叫び声は、会場の爆音に揉み消され、熱狂したファンたちの耳には届かない。

滑り込んだ指は、下着の上から健人の膨らんだ下半身を包み込むように触ると、ゆっくりと上下に擦り始めた。

火照り出す健人の額には、むせ返るような周りの熱気も相まって、じわりと汗が吹き出し始める。

擦り続ける指の動きに、ムクムクと健人の下半身は大きく硬くなり始め、やがて、その指は、下着の中に入り込み、直に健人のペニスに手をかけた。

「…っつぅ…っん…ちょ!…」

ビクッと体が反応する。さすがの健人も、直に触り出した手に必死にもがき、抵抗しようとするも、人と人の密集と、誰かに見られる恥ずかしさからか、大きく抵抗できずに、ゴソゴソする程度。

目の前のアーティストの演奏を魅入る周りの観客は、今されるがままの健人に誰一人気付かない。

熱狂するファンの興奮に連動するかのように、やがてその指は、弄る動きを早め、健人のペニスを激しく擦り出す。健人は堪らず、ハァ…と息を漏らし、頬を赤らめると恍惚した顔を見せ、同時にペニスがさらに硬くなり、ジワッと生暖かいものが下着を湿らす。

美しく短く刈り上げられた健人の襟足に、フゥ…と、時折熱い吐息が吹きかかる。

ズンズンと腹に響くドラムの音や、鳴り響くギターの音、最高潮のボーカルのシャウト。

耳に反響し、なだれ込む音と、尚も激しくペニスを弄られる刺激に、健人は遠のきそうな意識の中、包み込み纏わりつくような熱気、体の奥底から込み上げてくる興奮と体を駆け巡る快感に、ビクビクと小刻みに震え出した。

ついには、もう片方の指が健人のズボンの中に入ってきたかと思うと、今度は健人の玉を握りしめ、弄り出す。

「…ンん…グっ…」

紅潮した健人の顔にスポットライトが当たると、滲んだ汗がキラリと光る。

ペニスと玉の両方を攻められ、されるがままに興奮に酔い痺れ、クライマックスへと向かう音楽の波に合わせ、激しく動く指、突き上げてくる快楽に抗えず、渦巻く歓声が遠くに聞こえたかと思うと、

「…ぅうっっ…」

ワァーという歓声に交わるように、健人は小さく呻き、肩をビクっと震わせると、ズボンの中で果てた。

ぐったりと首を下に傾けると、股間からスルリとその指が離れる。ねっとりと精液が絡み付いた指が、健人の視界に飛び込んでくると、思わず息をのんで驚いた。

(えっ?)

白濁した精液を指で擦るその指先には、ワインレッドのネイルが光っていた。

ハッとした健人は、たまらず今度は思いっきり体を捻り、後ろを振り返ると、真後ろにはロビーで出会った人物が立っていた。

指先からトロリと滑り落ちる精液をペロリと舌で舐めとると、

「また、会ったね」

と、ニヤッと笑みを浮かべた。

「き、君は…」

狼狽える健人を横目に、

「じゃあね」

くるりと背を向け、瞬く間に人波に紛れるようにその場を離れた。

健人は、薄暗い会場の中、淡く消え入るように去っていく白いシャツの背中を目で追い、しばし、後方を見つめていたが、ヌルっと精液で濡れた下着の気持ち悪さにハッと我にかえり、ズレ落ちそうなズボンを慌てて整えた。

その時には、1人ステージとは逆の後ろを向く健人に、周りが何だ?何してるんだ?と言わんばかりに、健人を怪訝そうに見つめる。

が、鳴り続ける演奏の音に、すぐ目の前のステージに夢中になり、また誰1人関心を示さなくなる。

火照る体の熱がまだ冷めない健人は、その人物の後を追いかけるように、すぐにホールの外に出たが、そこに人影はなく、コンクリートの無機質なロビーからは冷たい空気が漂い、汗が滴る健人の頬を撫でるようにかすめる。

やがて、クライマックスを迎えたライブ演奏に、後ろの分厚いドアが振動し、ロビー中に響く歓声が健人の背中で聞こえた。

余韻を引くような鳴りやまない手拍子と歓声に、健人は、ガランとしたホールに立ち尽くすだけだった。
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