4 / 27
4. 人波に流されて
しおりを挟む
ムッとむせ返るような熱気が充満したホール。白く丸く光る天井からのライトが会場内を照らす。まるで雲の切れ間から差し込むような光は、降り注ぐシャワーのようで、その光の中で無数の埃が真冬のダイヤモンドダストの如くキラキラと反射しながら輝いている。
時折、響くマイクのチェックの音。正面のステージには、ライブのための機材を調整しているスタッフが忙しなく動いている。2階の左右の壁側に設置された照明には、それへとつながる通路が伸び、そこに何人かのスタッフが身振り手振りで階下のスタッフとやりとりし、スポットライトの角度を確認している。もうすぐ始まろうとしているライブの緊張感が垣間見える。
座席がないオールスタンディングのそのホールには、最前列を固め、前で応援したいファンや、後ろの壁際を陣取る人々、スマホを覗き込みながらバンドのPVを楽しんでるファンたちがところ狭しと立っていた。近藤と健人は少しでも前方で演奏が見えるようにと、小さな隙間を見つけては、その体を前へ前へと詰め寄せた。
ライブが始まるまでの少しの時間がとてつもなく長く感じるのか?ソワソワし出した健人に、サッとガムを差し出す近藤。
「サンキューです!」
受け取ったガムを包み紙から取り出し、無造作に口に放り込む。
「健人、俺が貸したCDちゃんと聞いたか?」
「もちろん!バッチリですよ!」
クシャクシャの笑顔で返事する健人に、近藤も、釣られて嬉しそうにはしゃぐ。
「最新アルバムのツアーだからさ、俺、昨日からずっとリピートしっぱなしでさぁ…」
その言葉を打ち消すかのように、場内を照らしていたライトが、バシッ、バシッと音を立てて少しずつ消えていく。
だんだんとホールが暗くなっていくと、あれだけ忙しく動いていたスタッフの姿が、いつの間にか消えていた。
やがて、全ての照明が消され、漆黒のような暗闇がその狭いホールに舞い降りるように覆うと、束の間、会場がシーンと静まり返る。誰一人として、声を上げず、前方のステージに見つめていた。
キュィィィーーーン!!!
暗闇の中でギターの激しい音が鳴り響くっ!!!
と同時に、一斉にステージ背面のライトが頭を持ち上げるように上がると、眩いくらいの光が前方を見つめるファンの目に突き刺さる。その光の束の中から、まるで輝くオーラを放つように、ステージ檀上にメンバー4人の黒い影が映し出された。
ワァァァァーーーーー!!!!!
叫びにも似た歓声が一斉に湧き上がる!!!
大反響の中、キャー!!!と叫ぶ者、メンバーの名前を連呼する者!手を振り上げて体で揺さぶる者!!!
会場内は、まるでビリビリと電気が走ったかと見紛うほど、割れんばかりの声が渦巻くように鳴り響く。
次の瞬間、上下左右とレーザー光線が乱れ飛び、ドラムの音を合図に、正面から一斉にライトに照らし出されたメンバーが現れた。ベースの押し込むような重低音、頭上を突き抜けるように鳴り響くギターのサウンドと力強いドラムのリズム、演奏が始まったかと思うと、メインボーカルの男が赤い髪を振り乱しながら、叫ぶように声を上げ、歌い始めた。その歌声は、心臓の鼓動のようにビンビンと震えるスピーカーから爆音が飛び出すように溢れ出る。
会場のボルテージが一気に上がり、ファンたちの熱気が沸き上がる。鳴り響き、叩き出されるように体中に反響する音楽と歌声に、次第にファンたちの体が前のめりになって、立っている足場が段々と狭くなる。
健人たちも、周りのファンの興奮に触発され、熱狂に身を任せながら、いつのまにか声を張り上げ、振り上げた腕を突き上げていた!
ギターのメンバーがステージ最前まで躍り出ると、ピックを持った手を頭上高く上げ、会場内の観客を煽ると、その手を大きく振り下ろしギターの弦を力強く弾く!
「おっ!新曲だよ!!!」
近藤が瞳を大きく輝かせ、嬉しそうに叫ぶと、始まり出した新曲の音に、周りのボルテージもさらに上がり、
ワァァァーーー!!!!!
と、高まる歓声が痺れるように共鳴する。
会場の盛り上がりが最高潮に達しようとしている。健人は興奮の渦に飲まれるように、ズンズンとステージよりに引き寄せられていく。また後ろのファンも同じように高まる興奮を抑え切れないでいたのか、ジリジリと前へ歩み寄ってきて、健人もさらに前へ前へと押しやられてゆく。
「あっ…!」
興奮したファンたちが押し寄せてきたかと思うと、健人はダダダッと人の波に押し流され、隣にいた近藤と離れてしまった。立ち並ぶ会場内の人々の頭の隙間から微かに見える近藤の横顔は、目の前のステージに夢中になり、周りの状況にまったく気付いていない。
(ちょっと離れたな…まあ、いいか、後で合流できるし…)
と、ステージに視線を戻した瞬間、
「えっ…」
健人は短い声を発すると、瞳を見開いたまま、言葉を詰まらせた。
首筋にフワッと生暖かい息を感じたかと思うと、すぐに健人は、その場からは想像もしない違和感を体に覚えた。
「…ぅぐっっ」
咄嗟に出た声に、頬を紅潮させながら、手の平で口を塞ぐ。
(誰…誰?)
それまでライブの曲に合わせてリズムをとっていた健人は、体中を駆け巡る緊張に体が強張り、動けないでいた。
(な、な…に?何?これは?)
時折、響くマイクのチェックの音。正面のステージには、ライブのための機材を調整しているスタッフが忙しなく動いている。2階の左右の壁側に設置された照明には、それへとつながる通路が伸び、そこに何人かのスタッフが身振り手振りで階下のスタッフとやりとりし、スポットライトの角度を確認している。もうすぐ始まろうとしているライブの緊張感が垣間見える。
座席がないオールスタンディングのそのホールには、最前列を固め、前で応援したいファンや、後ろの壁際を陣取る人々、スマホを覗き込みながらバンドのPVを楽しんでるファンたちがところ狭しと立っていた。近藤と健人は少しでも前方で演奏が見えるようにと、小さな隙間を見つけては、その体を前へ前へと詰め寄せた。
ライブが始まるまでの少しの時間がとてつもなく長く感じるのか?ソワソワし出した健人に、サッとガムを差し出す近藤。
「サンキューです!」
受け取ったガムを包み紙から取り出し、無造作に口に放り込む。
「健人、俺が貸したCDちゃんと聞いたか?」
「もちろん!バッチリですよ!」
クシャクシャの笑顔で返事する健人に、近藤も、釣られて嬉しそうにはしゃぐ。
「最新アルバムのツアーだからさ、俺、昨日からずっとリピートしっぱなしでさぁ…」
その言葉を打ち消すかのように、場内を照らしていたライトが、バシッ、バシッと音を立てて少しずつ消えていく。
だんだんとホールが暗くなっていくと、あれだけ忙しく動いていたスタッフの姿が、いつの間にか消えていた。
やがて、全ての照明が消され、漆黒のような暗闇がその狭いホールに舞い降りるように覆うと、束の間、会場がシーンと静まり返る。誰一人として、声を上げず、前方のステージに見つめていた。
キュィィィーーーン!!!
暗闇の中でギターの激しい音が鳴り響くっ!!!
と同時に、一斉にステージ背面のライトが頭を持ち上げるように上がると、眩いくらいの光が前方を見つめるファンの目に突き刺さる。その光の束の中から、まるで輝くオーラを放つように、ステージ檀上にメンバー4人の黒い影が映し出された。
ワァァァァーーーーー!!!!!
叫びにも似た歓声が一斉に湧き上がる!!!
大反響の中、キャー!!!と叫ぶ者、メンバーの名前を連呼する者!手を振り上げて体で揺さぶる者!!!
会場内は、まるでビリビリと電気が走ったかと見紛うほど、割れんばかりの声が渦巻くように鳴り響く。
次の瞬間、上下左右とレーザー光線が乱れ飛び、ドラムの音を合図に、正面から一斉にライトに照らし出されたメンバーが現れた。ベースの押し込むような重低音、頭上を突き抜けるように鳴り響くギターのサウンドと力強いドラムのリズム、演奏が始まったかと思うと、メインボーカルの男が赤い髪を振り乱しながら、叫ぶように声を上げ、歌い始めた。その歌声は、心臓の鼓動のようにビンビンと震えるスピーカーから爆音が飛び出すように溢れ出る。
会場のボルテージが一気に上がり、ファンたちの熱気が沸き上がる。鳴り響き、叩き出されるように体中に反響する音楽と歌声に、次第にファンたちの体が前のめりになって、立っている足場が段々と狭くなる。
健人たちも、周りのファンの興奮に触発され、熱狂に身を任せながら、いつのまにか声を張り上げ、振り上げた腕を突き上げていた!
ギターのメンバーがステージ最前まで躍り出ると、ピックを持った手を頭上高く上げ、会場内の観客を煽ると、その手を大きく振り下ろしギターの弦を力強く弾く!
「おっ!新曲だよ!!!」
近藤が瞳を大きく輝かせ、嬉しそうに叫ぶと、始まり出した新曲の音に、周りのボルテージもさらに上がり、
ワァァァーーー!!!!!
と、高まる歓声が痺れるように共鳴する。
会場の盛り上がりが最高潮に達しようとしている。健人は興奮の渦に飲まれるように、ズンズンとステージよりに引き寄せられていく。また後ろのファンも同じように高まる興奮を抑え切れないでいたのか、ジリジリと前へ歩み寄ってきて、健人もさらに前へ前へと押しやられてゆく。
「あっ…!」
興奮したファンたちが押し寄せてきたかと思うと、健人はダダダッと人の波に押し流され、隣にいた近藤と離れてしまった。立ち並ぶ会場内の人々の頭の隙間から微かに見える近藤の横顔は、目の前のステージに夢中になり、周りの状況にまったく気付いていない。
(ちょっと離れたな…まあ、いいか、後で合流できるし…)
と、ステージに視線を戻した瞬間、
「えっ…」
健人は短い声を発すると、瞳を見開いたまま、言葉を詰まらせた。
首筋にフワッと生暖かい息を感じたかと思うと、すぐに健人は、その場からは想像もしない違和感を体に覚えた。
「…ぅぐっっ」
咄嗟に出た声に、頬を紅潮させながら、手の平で口を塞ぐ。
(誰…誰?)
それまでライブの曲に合わせてリズムをとっていた健人は、体中を駆け巡る緊張に体が強張り、動けないでいた。
(な、な…に?何?これは?)
0
あなたにおすすめの小説
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる