ネイルの残像

有森崎あたる

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8. 再会

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白く輝くほどに真新しいカフェの看板が下からのライトに照らされ、遠くの通りからでも、そこがお目当てのお店だと一眼でわかる。
いくつかのフラワースタンドが軒下に並び、お店に華々しさを添える。

健人と近藤は、会社の地下にあるラーメン屋でお昼を済ませた後、このオープンしたばかりのカフェへとやってきた。

ガラス張りの自動ドアが開くと、木目の家具の新しい匂いとともに、コーヒーのほろ苦い香りが鼻をつく。

淡い肌色の木の温もりを感じさせる床に足を踏み入れると、吹き抜けの高い天井からは、丸いガラス玉の照明がいくつも垂れ下がっている。
カウンターやテーブルも同じ木目で統一されているのに対し、壁と天井は濃紺に彩られ、丸い照明が夜空に光る惑星を思わせる。
そこは、まるで異次元ような空間を醸し出していた。

入ってすぐのカウンターで注文するのか、何人かの客が列を為している。
カウンターの少し離れた壁に『Return』と書かれた表示があり、どうやら、セルフサービスのカフェというのが読み取れた。

レジカウンターに2人並んだところで、健人はカフェラテを、近藤はドリップコーヒーをオーダーした。
サービスチケットを出し、会計を済ませてから、カウンターの端でオーダーしたドリンクを受け取ると、2人は店内に目を向ける。
オフィス街のランチタイム時。
ましてや、オープンしたばかりのこの店には、目新しさを求めてやってきた人々で混み合っていた。

偶然にも、中央の大きなダイニングテーブルの真ん中に2つ席が空いたのを近藤が見つけ、素早く腰を下ろした。

「なかなか流行ってますね」

「オープンしたばかりだし、サービスチケットだって持ってる人も多いしな」

白く滑らかな陶器のカップを手に、香りが立ち込めるコーヒーを2人共、啜りながら、お互い片手にスマホを握り、画面をいじりだした。

「今日は忙しい?」

変わらず、スマホに目をやりながら、尋ねる近藤。

「いや、今週からは落ち着きそう…です」

と、スマホをテーブルに置き、ラテを啜る健人が何気に顔を上げた。

その時、

「あっっっ!」

と声を上げると、

カシャン!!!

と、大きな音とともに持っていたカップをソーサーに無造作に置いた。

その音に驚いた近藤は、思わず健人のほうに視線を送ると、テーブルの淵に手をつき、立ち上がった健人は驚いた表情で一点を見つめていた。

「あのときのっ…」

小声で呟いたかと思うと、健人は席から駆け出していた。

数メートル足早に歩くと、カフェの店内にいた黒いシャツの人物の腕を掴み、

「ちょっと!!!」

と、声を張り上げた。

黒いシャツの人物は、掴まれた腕に驚き、大きく瞳を見開いたまま振り返ると、ハッとした表情で、

「あのときの…」

ゆっくりとした声を発した。

健人は、その人物の腕をギュッと捕まえたまま、ぐいっと引き上げた。

お互いの目の前に突きつけられるように上げられたその人物の指には、濡れたようにワインレッドのネイルが光っていた。

そのネイルを再度確認するように見つめると、健人は、

「ずっと気になっていたんだ、君のこと」

持ち上げられた指先の向こうで、その人物は微笑むと同時に目を細めた。

「また、会ったね」

「君に少し聞きたいことがある」

「いいけど、手を離してくれない、痛いんだけど」

腕を握りしめていた手にいつの間にか力が入っていたのか、健人はパッとその手を離した。

ふぅーと掴まれていた手を摩りながら、その人物は、

「ここじゃあ、アレなんで、どこか?他に移動する?」

その言葉に、あっ…となった健人が周りを見渡す。
近くの席のお客が、じっと2人を見ていたり、わざと気にしないフリをしながらも聞き耳をたてていたり、そして、近藤が心配そうにこちらを伺っていた。

「い、いや、時間が…昼休みだから…」

と、腕にはめていた時計を確認すると、鈍く光るシルバーの時計の針は、45分を示す9の文字を指していた。

「じゃあさ、夜にまたここに来てよ」

「え?」

「僕さ、ここのお店で働いてて、夕方の6時半からいるから、いつでもいいから来てよ」

そう言い残すと、カフェのドアへ向かい、外へ出て行った。

カフェの出入り口の人混みに、その黒いシャツの背中が紛れると、瞬く間にすぅと消えていった。

(また、あの時と同じ…)

その消え入るような黒いシャツの背中が、ライブの時の、かき消されるような白いシャツの残像と折り重なり、健人はその方向をしばらく見つめ、呟いた。

「…僕?…男…なのか?!…」

健人は目を細め、しばらくその場に立ち尽くした。
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