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代わり(現代オメガバース)
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αはΩと幸せになる。
そのために番を作って、愛を育む。
番--それは法で縛る婚姻なんかよりもずっと強い拘束力を持ち、強制力を持つ。
だから、俺はあの人と幸せになることが出来ないことは初めから決まっていたこと。それでも、せめて彼が番を見つけるまでは一緒にいたいと願った。
ならば、彼が番を見つけようとしている今この時、身を引かなくてどうする。思っているのに背中には機材を詰め込んだリュックサックを背負っているかのように重い。ここから去りたくないって、彼の腕の中にもう一度身をゆだねることが出来たならって思ってしまう。
無理なのに。
だって俺はβだから。αの彼とは幸せになんかなれやしない。
ならば都合のよかった相手で満足すべきだ。もうとうにアルコールの回り切った頭に思い込ませ、一歩を踏み出す。
ふらついてちょうど手元にあったテーブルに手をつく。そんな俺にカウンターの中から心配そうな顔でマスターは視線をくれる。そんなマスターに大丈夫だという意味をこめて手を左右に振れば、彼は寂し気な視線を俺に送ってから他の客にいつものポーカーフェイスを向けた。
迷惑なんてかけるつもりじゃなかったのにな……。バーの大きな扉を開けて外に出る。アルコールによって中から温まった身体は夜風に当たっても冷めることはない。いっそ冷めてくれればいいのに。俺の感情もそうすれば少しは落ち着いてくれるのだろうか。こんなに熱かったら思い出してしまう。彼と過ごした日々を。
彼とは今出てきたばかりのバーで出会った。
彼と出会った時、ちょうど一か月前のことだった。俺はいつものように振られてやけ酒をしていた。
あの時だっていつか捨てられるのは分かっていて恋をした。相手は奥さんだって子供だっていて。倦怠期に入ったらしい相手は少しの間だけの都合のいい相手を求めていた。それに俺は自ら名乗りを上げて。期限が来たからはいさようならって。始まる前から分かりきっていたことでも、やっぱり俺はいつも傷ついてここに来る。初めて振られた日からここに通い続け、今ではすっかり常連となった俺をマスターはいつも受け入れてくれた。
なかなかカウンターから退こうとしない俺にマスターはいっぱいのカクテルを差し出した。
「……終わりにすればいいのに」
「終わりに……したい、けど……」
「恋ってうまくいかないものだね」
「…………はい」
ちょうど一口分のカクテルを一気に飲み干し、カウンターに肘をつく。隣のカップルをうらやもうと隣を向けば、もうそこには先ほどまで酒の知識をひけらかしていた男とそんな男の隣でお酒なんか一滴も飲もうとはしない女はいなかった。代わりにいたのが彼だった。
「ねぇ、君……暇かい?」
「……ああ」
つい答えてしまったのは彼が俺の好みのど真ん中の顔だったから。
きっと彼も……。わかっていても俺の気持ちがとどまることはなくて。彼の誘いに乗ってバーを後にした。
マスターが何か言いたそうな顔で彼の背中を見ていたけれど、そんなことはお構いなしに彼は初めて会ったばかりの俺をホテルに連れ込んだ。
手慣れている俺と同じくらい慣れている彼。
パリッとした汚れも知らなさそうな白いホテルのシーツが汚れてしまったころ、彼は言った。
「α、なんだ」と。
もうこんなことにも慣れてしまっている俺はそれがどういう意味かなんて分かりきっていて。
「それでもいい」
と答えた。マスターが知ったらきっとあの綺麗な顔をゆがめるのだと知っていて、終わりが来たらまた泣きつこうと決めた。
「あーあ。また、ダメだったなあ……」
誰も居ない路地で、誰に言うわけでもなくつぶやく。口から出る一つの真っ白い息は俺が孤独であることを告げていた。
誰かと一緒にいたい。
そう思っても、いつも惹かれるのはαばかり。もう誰かのもので、いつかは他の誰かのものになってしまう。そんな相手だ。
何で俺、Ωじゃないんだろう。そう悩んだのだって、後天性のオメガになるための薬に手を出そうとしたのだって一度や二度のことじゃない。でも、無理だった。優しいマスターの顔が、あの綺麗な顔が俺のせいで崩れてしまうのは申し訳ないような気がした。
「はー」
息を吐きだし、もう動いてはいない駅に向かって歩く。途中で見つけた夜な夜な働き続ける自動販売機で冷たいミルクティーを買う。
ミルクティーは俺のお気に入り。甘い甘いミルクティーはきっと俺の汚い気持ちさえもこの甘さで包み込んでくれるんじゃないかなんて思ってもみるけど、やっぱりいつも俺の中に残ってしまう。
「あの!」
音一つなかった空間に低い聞きなれた声が響く。
「マスター?」
「やっぱり休んでいきませんか?」
どうやらマスターは俺を心配して追いかけてきたようだった。苦しそうに顔をゆがませて、息を切らして白い息を吐き続ける。
そんな彼を綺麗だと思った。
「私の家、近くなんです。だから……」
そんなマスターを、綺麗な彼を汚してしまいたくはなかった。
ずっと彼が好きだった。
αの、目の前の彼が。
この人の目に入りたくて、拒絶されたくなくて、俺は似た男で代わりを作ってはこのぽっかりと開いてしまった大きな穴を満たそうとした。
それでも、どんなに彼に似た相手でも俺の心を満たすことはなかった。『汚い』とそう俺に向かって言い放った彼と同じように、他の相手も俺の心を見透かしていたのかもしれない。
誰かの代わりにして、それでも心が満たされないのだと知って離れていく。自分を置いて、幸せになっていく彼らを恨んで、羨んで。そしてマスターの元へ行く。
やけ酒をするのは、代わりなんて見つからないんだと思い知らされてしまうことが嫌だったから。
いつかは彼らと同じように番を作ってしまうマスターを、俺の唯一だって認めたくはなかったから。
いずれ俺を置いて行ってしまう彼を代わりの彼らと同じように手放せる自信がなかった。
先月来たときはなかった首から下げられる、αとΩが互いに相手がいることを示す小さな指輪。それが教えてくれた。――彼は番を見つけたのだ、と。
なのに……なのに、彼は俺に手を差し伸べる。
「あの……手、回してください」
マスターは女の子のように軽くはない、俺の身体を細い腕でなんてことなく持ち上げる。
「……すみません」
「いえ、いいんです……。謝るのは私のほうです」
「え?」
「嘘なんです」
「……嘘?」
「……私の家、ここから近くなんてないんですよ」
「え?」
マスターの言葉に俺は間抜けな言葉しか返せないでいると、俺の意識はいつの間にか俺の意思とは関係なく遠ざかっていった。
「起きましたか?」
聞きなれた声が頭の中で響く。二日酔いの頭に誰かの声なんて気持ち悪くなるだけだったのに、なぜか今は心地よく感じる。
「……ん」
「ああ、起き上がらなくてもいいんですよ」
起き上がろうとしても力が入らない俺の身体をマスターはゆっくりと押しのけた。
そして、やっと違和感に気付いた。動かない手足はロープのようなもので固定されていて、布団に隠れて見えないがおそらくは腰のあたりも何かによって固定されているのだろう。
――目の前のマスターによって。
「マスター」
「はい、何ですか? 海藤君」
「なんで……俺の名前」
一度だって俺の名前を彼に告げたことなどなかった。バーで相手に名乗る時だって、偽名で……。マスターの冷たい手が、バーのカウンターに座る俺の前で、グラスの表面をなでるみたいに俺の頬をなぞった。
「君のことなら何でも知っていますよ。海藤聡くん。北西大学の3年生で歳は21歳。数年前からうちの店に通ってくださっていますけど、お酒を頼み始めたのは去年のお誕生日から。家族構成はお父様に、お母様、2年前に高校の同級生と結婚なさったお姉様。それに4つ下の……」
「待って」
「何ですか? 私は君が付き合った人物の名前だって言えますよ?」
「なんで……」
「なんでって君が好きだからに決まってるじゃないですか」
「好き?」
俺が今までの、代わりの人たちにベッドの中で何度も口にした言葉を、あの時の俺と同じようにマスターは簡単に言う。そのことが信じられなかった。
「ええ。愛している……のほうが正しいですかね? 私は君を手に入れたい」
「マスター……」
「……もう君は私のことを名前では呼んでくれないんですね」
「え?」
マスターの名前を俺は知らない。
だから俺はマスターを呼ぶときも、心の中で彼を思うときも、自分を慰めるときも決まって『マスター』と言った。マスターが俺のことを『君』と呼ぶのと同じように。
「もうここには私と君しかいないんです。……君を連れて行く男はいないんです」
マスターはさっきバーから去る俺を見た時と同じように悲しそうな顔をした。さっきと同じはずなのに、それは俺に向けているわけではない。
それはきっと『マスター』のことをそれ以外の、目の前の彼を、俺の知らない名前で呼ぶ相手に向けた顔。
俺はその代わりに過ぎない。
「ねぇ、聡君。私とイケないこと……しましょうか」
俺の手をベッドに結ぶロープ以外をほどいたのと同じマスターの長い指が、そこに入るのが当たり前とばかりに俺の身体に入っていく。
俺の身体にマスターが入っていくことは初めてなのに。俺の身体もマスターを知っているかのように抵抗せずに受け入れる。
それをマスターは嬉しそうな顔で眺めてから俺の耳に口を当て、そして軽く跡が残らないように噛んだ。
「……もう、いい……ですかね」
マスターは指を俺の身体から引き抜き、代わりに俺の求めていたものを入れた。
動くたびに熱を発する俺の身体はこの熱で溶けてしまいそうになる。
「ますたぁ」
「ああ、君はいけない子だ」
他の誰かをマスターの代わりにしてはを抱かれて、マスターには他の誰かの代わりとして抱かれる。
それで満足してしまう俺はいけない子。
「……君」
マスターが果てる前、誰の名前を呼んだのか汚い俺は知らない。
そのために番を作って、愛を育む。
番--それは法で縛る婚姻なんかよりもずっと強い拘束力を持ち、強制力を持つ。
だから、俺はあの人と幸せになることが出来ないことは初めから決まっていたこと。それでも、せめて彼が番を見つけるまでは一緒にいたいと願った。
ならば、彼が番を見つけようとしている今この時、身を引かなくてどうする。思っているのに背中には機材を詰め込んだリュックサックを背負っているかのように重い。ここから去りたくないって、彼の腕の中にもう一度身をゆだねることが出来たならって思ってしまう。
無理なのに。
だって俺はβだから。αの彼とは幸せになんかなれやしない。
ならば都合のよかった相手で満足すべきだ。もうとうにアルコールの回り切った頭に思い込ませ、一歩を踏み出す。
ふらついてちょうど手元にあったテーブルに手をつく。そんな俺にカウンターの中から心配そうな顔でマスターは視線をくれる。そんなマスターに大丈夫だという意味をこめて手を左右に振れば、彼は寂し気な視線を俺に送ってから他の客にいつものポーカーフェイスを向けた。
迷惑なんてかけるつもりじゃなかったのにな……。バーの大きな扉を開けて外に出る。アルコールによって中から温まった身体は夜風に当たっても冷めることはない。いっそ冷めてくれればいいのに。俺の感情もそうすれば少しは落ち着いてくれるのだろうか。こんなに熱かったら思い出してしまう。彼と過ごした日々を。
彼とは今出てきたばかりのバーで出会った。
彼と出会った時、ちょうど一か月前のことだった。俺はいつものように振られてやけ酒をしていた。
あの時だっていつか捨てられるのは分かっていて恋をした。相手は奥さんだって子供だっていて。倦怠期に入ったらしい相手は少しの間だけの都合のいい相手を求めていた。それに俺は自ら名乗りを上げて。期限が来たからはいさようならって。始まる前から分かりきっていたことでも、やっぱり俺はいつも傷ついてここに来る。初めて振られた日からここに通い続け、今ではすっかり常連となった俺をマスターはいつも受け入れてくれた。
なかなかカウンターから退こうとしない俺にマスターはいっぱいのカクテルを差し出した。
「……終わりにすればいいのに」
「終わりに……したい、けど……」
「恋ってうまくいかないものだね」
「…………はい」
ちょうど一口分のカクテルを一気に飲み干し、カウンターに肘をつく。隣のカップルをうらやもうと隣を向けば、もうそこには先ほどまで酒の知識をひけらかしていた男とそんな男の隣でお酒なんか一滴も飲もうとはしない女はいなかった。代わりにいたのが彼だった。
「ねぇ、君……暇かい?」
「……ああ」
つい答えてしまったのは彼が俺の好みのど真ん中の顔だったから。
きっと彼も……。わかっていても俺の気持ちがとどまることはなくて。彼の誘いに乗ってバーを後にした。
マスターが何か言いたそうな顔で彼の背中を見ていたけれど、そんなことはお構いなしに彼は初めて会ったばかりの俺をホテルに連れ込んだ。
手慣れている俺と同じくらい慣れている彼。
パリッとした汚れも知らなさそうな白いホテルのシーツが汚れてしまったころ、彼は言った。
「α、なんだ」と。
もうこんなことにも慣れてしまっている俺はそれがどういう意味かなんて分かりきっていて。
「それでもいい」
と答えた。マスターが知ったらきっとあの綺麗な顔をゆがめるのだと知っていて、終わりが来たらまた泣きつこうと決めた。
「あーあ。また、ダメだったなあ……」
誰も居ない路地で、誰に言うわけでもなくつぶやく。口から出る一つの真っ白い息は俺が孤独であることを告げていた。
誰かと一緒にいたい。
そう思っても、いつも惹かれるのはαばかり。もう誰かのもので、いつかは他の誰かのものになってしまう。そんな相手だ。
何で俺、Ωじゃないんだろう。そう悩んだのだって、後天性のオメガになるための薬に手を出そうとしたのだって一度や二度のことじゃない。でも、無理だった。優しいマスターの顔が、あの綺麗な顔が俺のせいで崩れてしまうのは申し訳ないような気がした。
「はー」
息を吐きだし、もう動いてはいない駅に向かって歩く。途中で見つけた夜な夜な働き続ける自動販売機で冷たいミルクティーを買う。
ミルクティーは俺のお気に入り。甘い甘いミルクティーはきっと俺の汚い気持ちさえもこの甘さで包み込んでくれるんじゃないかなんて思ってもみるけど、やっぱりいつも俺の中に残ってしまう。
「あの!」
音一つなかった空間に低い聞きなれた声が響く。
「マスター?」
「やっぱり休んでいきませんか?」
どうやらマスターは俺を心配して追いかけてきたようだった。苦しそうに顔をゆがませて、息を切らして白い息を吐き続ける。
そんな彼を綺麗だと思った。
「私の家、近くなんです。だから……」
そんなマスターを、綺麗な彼を汚してしまいたくはなかった。
ずっと彼が好きだった。
αの、目の前の彼が。
この人の目に入りたくて、拒絶されたくなくて、俺は似た男で代わりを作ってはこのぽっかりと開いてしまった大きな穴を満たそうとした。
それでも、どんなに彼に似た相手でも俺の心を満たすことはなかった。『汚い』とそう俺に向かって言い放った彼と同じように、他の相手も俺の心を見透かしていたのかもしれない。
誰かの代わりにして、それでも心が満たされないのだと知って離れていく。自分を置いて、幸せになっていく彼らを恨んで、羨んで。そしてマスターの元へ行く。
やけ酒をするのは、代わりなんて見つからないんだと思い知らされてしまうことが嫌だったから。
いつかは彼らと同じように番を作ってしまうマスターを、俺の唯一だって認めたくはなかったから。
いずれ俺を置いて行ってしまう彼を代わりの彼らと同じように手放せる自信がなかった。
先月来たときはなかった首から下げられる、αとΩが互いに相手がいることを示す小さな指輪。それが教えてくれた。――彼は番を見つけたのだ、と。
なのに……なのに、彼は俺に手を差し伸べる。
「あの……手、回してください」
マスターは女の子のように軽くはない、俺の身体を細い腕でなんてことなく持ち上げる。
「……すみません」
「いえ、いいんです……。謝るのは私のほうです」
「え?」
「嘘なんです」
「……嘘?」
「……私の家、ここから近くなんてないんですよ」
「え?」
マスターの言葉に俺は間抜けな言葉しか返せないでいると、俺の意識はいつの間にか俺の意思とは関係なく遠ざかっていった。
「起きましたか?」
聞きなれた声が頭の中で響く。二日酔いの頭に誰かの声なんて気持ち悪くなるだけだったのに、なぜか今は心地よく感じる。
「……ん」
「ああ、起き上がらなくてもいいんですよ」
起き上がろうとしても力が入らない俺の身体をマスターはゆっくりと押しのけた。
そして、やっと違和感に気付いた。動かない手足はロープのようなもので固定されていて、布団に隠れて見えないがおそらくは腰のあたりも何かによって固定されているのだろう。
――目の前のマスターによって。
「マスター」
「はい、何ですか? 海藤君」
「なんで……俺の名前」
一度だって俺の名前を彼に告げたことなどなかった。バーで相手に名乗る時だって、偽名で……。マスターの冷たい手が、バーのカウンターに座る俺の前で、グラスの表面をなでるみたいに俺の頬をなぞった。
「君のことなら何でも知っていますよ。海藤聡くん。北西大学の3年生で歳は21歳。数年前からうちの店に通ってくださっていますけど、お酒を頼み始めたのは去年のお誕生日から。家族構成はお父様に、お母様、2年前に高校の同級生と結婚なさったお姉様。それに4つ下の……」
「待って」
「何ですか? 私は君が付き合った人物の名前だって言えますよ?」
「なんで……」
「なんでって君が好きだからに決まってるじゃないですか」
「好き?」
俺が今までの、代わりの人たちにベッドの中で何度も口にした言葉を、あの時の俺と同じようにマスターは簡単に言う。そのことが信じられなかった。
「ええ。愛している……のほうが正しいですかね? 私は君を手に入れたい」
「マスター……」
「……もう君は私のことを名前では呼んでくれないんですね」
「え?」
マスターの名前を俺は知らない。
だから俺はマスターを呼ぶときも、心の中で彼を思うときも、自分を慰めるときも決まって『マスター』と言った。マスターが俺のことを『君』と呼ぶのと同じように。
「もうここには私と君しかいないんです。……君を連れて行く男はいないんです」
マスターはさっきバーから去る俺を見た時と同じように悲しそうな顔をした。さっきと同じはずなのに、それは俺に向けているわけではない。
それはきっと『マスター』のことをそれ以外の、目の前の彼を、俺の知らない名前で呼ぶ相手に向けた顔。
俺はその代わりに過ぎない。
「ねぇ、聡君。私とイケないこと……しましょうか」
俺の手をベッドに結ぶロープ以外をほどいたのと同じマスターの長い指が、そこに入るのが当たり前とばかりに俺の身体に入っていく。
俺の身体にマスターが入っていくことは初めてなのに。俺の身体もマスターを知っているかのように抵抗せずに受け入れる。
それをマスターは嬉しそうな顔で眺めてから俺の耳に口を当て、そして軽く跡が残らないように噛んだ。
「……もう、いい……ですかね」
マスターは指を俺の身体から引き抜き、代わりに俺の求めていたものを入れた。
動くたびに熱を発する俺の身体はこの熱で溶けてしまいそうになる。
「ますたぁ」
「ああ、君はいけない子だ」
他の誰かをマスターの代わりにしてはを抱かれて、マスターには他の誰かの代わりとして抱かれる。
それで満足してしまう俺はいけない子。
「……君」
マスターが果てる前、誰の名前を呼んだのか汚い俺は知らない。
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